上 下
15 / 50

環・拷問事件!

しおりを挟む
「っ、ぎゃぁああああああああああああっ!」

学園中に響渡るほどの野太い絶叫だった。しかもその恐怖は、周囲の生徒にも飛び火した。
突如目の前に現れた、現実としか思えないほど鮮明な拷問シーン。
あまりの鮮明さに、「ぎゃあああああっ!」「ひいっ!」「うわぁああああ!」、口々に悲鳴をあげながら、ばたばた倒れていく生徒たちに、学園中大パニックになったらしい。

倒れた生徒たちの中心にぽつんと佇む環の姿は、ホラー映画の主人公さながらだったそうで、後にこの出来事は『環・拷問事件』と呼ばれて、全生徒の知るところになった。

まるで環ちゃんが拷問したみたいネーミングだ。いや、あながち間違いとは・・・。

「ほんと怖かったよー。しかも、ごろごろ転がった死体も、首も全部、操先輩の顔だったんだから。しばらく夢にまで出てきた。」

「そうそう、いつものクールビューティーな表情でね、めっちゃ怖かった。事件というか、もう伝説だね、伝説―。」

うぅ、頭の中の事とはいえ、人様を拷問にかけてない事だけがせめてもの救いか。
体育会系の気持いい食べっぷりの二人を眺めながら、私の箸は途中からすでに止まっている。

「・・・ずびばぜん・・。いや、なんといっていいやら。」

この先私の行く先々で、『あの操の・・』が、冠がつくことを覚悟しよう・・。

「だから事故だってば。藤木さんが謝らなくていーよぉ。ね、食事時の話じゃなかったでしょ。まったく、さとりなんてなるもんじゃないよ。子供の頃もね遊び半分で使ったら、ひっどいめにあったし。使う必要がなければ、それに越したことはないね。」
 
そもそも、“さとり ”のご先祖様は、人里離れた場所で、生活していた妖怪だ。
聞こえてくるのは、自然のせせらぎと、本能に素直な動物たちの濁りのない声ばかりで、なんの刺激もない単調な日々。
だから、たまに山に分け入る人の『声』の反応がおもしろくてからかう。
そんな娯楽の為に使うに、たわいもない事に使う、力だったのだ。
が、見渡す限り人だらけの現代社会、チャンネルをひらいたとたん、千夏の中に、膨大な量の『声』が一気に押し寄せたそうだ。

「とたんに頭ん中がショートしちゃってバタンキュー。知恵熱で寝込むはめになったし、もーこりごり。、なのに、部活で疲れて帰っても、今でも力の練習しなきゃいけなくて。どんだけ特訓好きだっての、ねー。」

しおりを挟む

処理中です...