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寝所の姫

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雲一つない晴天、三連休の初日に相応しい絶好のお出掛け日和だ。
なのに・・・。

「今日、楽しみにしてたのに・・。」

思わず漏れた晶の呟き。

生徒会活動を詰めこみで頑張ったのが裏目にでたのか、当日になっていつもの症状を発症。
それはこの三連休を、寝所で過ごす羽目になるのを意味していた。

重度の倦怠感。

変体の弊害による症状だ。
以前よりも発症のでる頻度が減ったとは言え、よりによって今日だなんて。

美和達と共に駅前の流刻堂に行くのを、それはそれは楽しみにしていたのだ。

「宇治抹茶のティラミス・・丹波栗のモンブラ・・日田梨のタルト・・シャインマスカットの季節限定パフェぇぇ・・。」

「・・晶・・呪詛を吐くようにスイーツの名前を唸るな。ケーキ類は・・持ち帰りで美和に頼めばいいだろうが、パフェは無理だな。まぁ、まだ開催期間終了まで日にちがあるんだろ?」

「・・・皆でシェアしながら、ワイワイ
食べたかった・・・。」

「あー・・そうか。すまん。」

まるで幼子をあやす様に、漆黒の尻尾がぽすりぽすりと一定のリズム撫で叩かれる。

倦怠感で動けないだけで、意識はしっかりある晶の横には、巨躯の狼に獣化した夜彦が番犬よろしく添い寝をしていた。

この症状は、変体による体内の魔素の乱れが原因なのだが、獣化した夜彦が側にいればこうして無駄口を叩けるくらいに倦怠感が緩和される。
夜彦の魔素が膨大な為、側にいてもらえれは、幾分か安定するのだ。

だからといって、晶自身が『側にいて』とも一度も言った事もないし、夜彦も『側にいる』とも一度も言った事もない。

晶が寝込めば当然のごとく、獣化してのそりと寝所にやってくるのだ。

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