42 / 50
40.【Side:アエルバート】惑い
しおりを挟む
決闘中、僕は見た。
レイピアの先がオスリック兄さまの眼帯を切り裂くと、そこに現れたのは独特な青の瞳。それは僕の母方の実家であるアロロガシー家に由来する毒の証だった。
青い目が語る、オスリック兄さまはアロロガシー家の毒を盛られたことがあるという事実。ならばいつ? そんなの決まっている。兄さまが姿を消した十年前だ。
決闘の最中だというのに、その真実は僕を動揺させるには十分だった。
オスリック兄さまが姿を消したのは毒のせい? 誰が毒を盛った?
そこまで考えたとき、自分の持っていたレイピアが弾き飛ばされた。あっという間の出来事だった。
勢いに押されて地面に倒れ込んだと同時に、青空を背景にしたオスリック兄さまの姿を見上げる。
やっぱり青い。はちみつ色のはずのオスリック兄さまの左目は、空よりも濃い青い色をしていた。
決闘は僕の敗北で終わった。これで僕が王太子になる話はなかったことになり、オスリック兄さまはセラフィンとの結婚を進めることになる。
でも今は、そんなことよりもオスリック兄さまに聞きたいことがある。誰に毒を盛られたのか、毒からどうやって生き延びたのか、十年間どこにいたのか……僕は『兄さまのことを何も知らない』と知った。
決闘を終えて控室へ戻ると、ブレアナが出迎えてくれた。そこにはセラフィンもいて、またブレアナが酷いことをされていないか心配になったけれど、ブレアナの様子は元気そうだったから無用な心配だったらしい。
「その……婚約のことですが、いったん保留にしていただけないでしょうか?」
セラフィンが発した言葉に、頭が沸騰しそうになった。
兄さまも僕も自分も誇りを賭けて戦ったというのに、その結果をセラフィンは無効にしようと言うのだ。
やはりろくでもない女だ。こんな女と結婚しようという兄さまの気が知れない。
そう憤りながらも、心の中では迷いが生まれた。
幼い頃から優秀だったオスリック兄さま。そんな兄さまが、今後后となる女性を選ぶのにこんなに分かりやすい間違いを犯すはずがない。僕は何かを見誤っているのだろうか……。
オスリック兄さまと話がしたい。セラフィンのことも、左目のことも、兄さまの口から説明して欲しい。
そしたらきっと、前に進める気がする。
オスリック兄さまの部屋を訪ねると、そこには兄さまだけでなくアキムの姿もあった。
「話がしたいと聞いている。アキムも一緒だが構わないな」
兄さまの言葉は疑問形ではなく、頷くしかなかった。けれど自分の今までの態度を考えると、決闘に敗北した僕が兄さまに対して武力行使に出ると疑われても不思議ではない。
椅子をすすめられて腰掛けると、世間話も挟まずに直球で聞きたいことを尋ねた。
「兄さまの左目を見ました。兄さまは……僕の母の生家であるアロロガシー家が使う毒を受けましたね」
レイピアの先がオスリック兄さまの眼帯を切り裂くと、そこに現れたのは独特な青の瞳。それは僕の母方の実家であるアロロガシー家に由来する毒の証だった。
青い目が語る、オスリック兄さまはアロロガシー家の毒を盛られたことがあるという事実。ならばいつ? そんなの決まっている。兄さまが姿を消した十年前だ。
決闘の最中だというのに、その真実は僕を動揺させるには十分だった。
オスリック兄さまが姿を消したのは毒のせい? 誰が毒を盛った?
そこまで考えたとき、自分の持っていたレイピアが弾き飛ばされた。あっという間の出来事だった。
勢いに押されて地面に倒れ込んだと同時に、青空を背景にしたオスリック兄さまの姿を見上げる。
やっぱり青い。はちみつ色のはずのオスリック兄さまの左目は、空よりも濃い青い色をしていた。
決闘は僕の敗北で終わった。これで僕が王太子になる話はなかったことになり、オスリック兄さまはセラフィンとの結婚を進めることになる。
でも今は、そんなことよりもオスリック兄さまに聞きたいことがある。誰に毒を盛られたのか、毒からどうやって生き延びたのか、十年間どこにいたのか……僕は『兄さまのことを何も知らない』と知った。
決闘を終えて控室へ戻ると、ブレアナが出迎えてくれた。そこにはセラフィンもいて、またブレアナが酷いことをされていないか心配になったけれど、ブレアナの様子は元気そうだったから無用な心配だったらしい。
「その……婚約のことですが、いったん保留にしていただけないでしょうか?」
セラフィンが発した言葉に、頭が沸騰しそうになった。
兄さまも僕も自分も誇りを賭けて戦ったというのに、その結果をセラフィンは無効にしようと言うのだ。
やはりろくでもない女だ。こんな女と結婚しようという兄さまの気が知れない。
そう憤りながらも、心の中では迷いが生まれた。
幼い頃から優秀だったオスリック兄さま。そんな兄さまが、今後后となる女性を選ぶのにこんなに分かりやすい間違いを犯すはずがない。僕は何かを見誤っているのだろうか……。
オスリック兄さまと話がしたい。セラフィンのことも、左目のことも、兄さまの口から説明して欲しい。
そしたらきっと、前に進める気がする。
オスリック兄さまの部屋を訪ねると、そこには兄さまだけでなくアキムの姿もあった。
「話がしたいと聞いている。アキムも一緒だが構わないな」
兄さまの言葉は疑問形ではなく、頷くしかなかった。けれど自分の今までの態度を考えると、決闘に敗北した僕が兄さまに対して武力行使に出ると疑われても不思議ではない。
椅子をすすめられて腰掛けると、世間話も挟まずに直球で聞きたいことを尋ねた。
「兄さまの左目を見ました。兄さまは……僕の母の生家であるアロロガシー家が使う毒を受けましたね」
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星井ゆの花
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
悪役とは誰が決めるのか。
SHIN
恋愛
ある小さな国の物語。
ちょっとした偶然で出会った平民の少女と公爵子息の恋物語。
二人には悪役令嬢と呼ばれる壁が立ちふさがります。
って、ちょっと待ってよ。
悪役令嬢だなんて呼ばないでよ。確かに公爵子息とは婚約関係だけど、全く興味は無いのよね。むしろ熨斗付けてあげるわよ。
それより私は、昔思い出した前世の記憶を使って色々商売がしたいの。
そもそも悪役って何なのか説明してくださらない?
※婚約破棄物です。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる