メイドはご主人様に偽装恋人を依頼する

娯遊戯空現

文字の大きさ
1 / 10

01:お願い

しおりを挟む
 お昼ご飯を食べ終わり、何気なく廊下に目をやる。
 そこにはありふれた光景――蓬莱ほうらい奏斗かなとくんが女の子に声を掛けられている姿があった。
 ひとり、ふたり。……あ、もうひとり増えた。

「奏斗くぅん! 昨日はあ・り・が・と。助かっちゃった♡ またよろしくね!」
「奏斗、奏斗! ねぇねぇ、放課後ヒマ? 遊びに行こーよ!」
「奏斗くん、助けて! 午後一の授業で小テストあって大ピンチなのー! 勉強教えてー」

 おお……一瞬で三人もの女の子に取り囲まれてる。都会のショッピングモールで見つかっちゃった芸能人みたい。
 わたしは視線を教室内へと戻し、窓際の席にいる佐藤くんに近づいた。

「佐藤くんっ! ちょーっとお願いがあってさ」
来栖くるすくん? 非常に優秀でどんな問題も自力で解決できる来栖くんがお願い?」

 佐藤くんはメガネのつるに手を掛け、レンズを光らせる。

「いったいどんな無理難題が飛び出してくるのか……。真面目な来栖くんの頼みとあっては聞いてあげたいところだが果たして……続きを話してくれたまえ」

 佐藤くんは体ごとわたしの方を向き、真剣な顔をして耳を傾けてくれる。
 佐藤くんはわたしのことを真面目と言ったけれど、彼のほうがよっぽど真面目。
 わたしがこれからする〝おねがい〟に幻滅しませんように、と祈りながら話す。

「実は……その、言いにくいんだけど」

 うぅ……緊張するなぁ。
 断られちゃうかな? 断られちゃったらどうしよう……。

「わけあって……彼氏のふりをして欲しいの!」
「「彼氏のふり?」」

 なぜか前からと後ろから同じ言葉が聞こえた。
 前から聞こえた声はもちろん佐藤くんのもの。でもって後ろから聞こえた声は……。

「か……蓬莱くん?」

 振り向くと、奏斗くんが真後ろに立っていた。四人の女の子を引き連れて。……さっき見たときより増えてるし。
 え、どうして奏斗くんがここに?

「なんだよ、り……来栖。彼氏欲しいの? 俺じゃダメ?」

 絶句するわたしを置いて、奏斗くんは話を進めた。
 わたしが答える前に、奏斗くんの周りの女の子たちが騒ぐ。

「えー⁉ 来栖さん図々しくない?」
「つり合ってなさすぎー。気まずくなってすぐに別れるっしょ」

 どうしよう。否定も肯定もできずに固まってしまう。
 否定したら、わたしが奏斗くんと付き合いたがってると思われてしまうかもしれない。でもこのまま……奏斗くんの前で馬鹿にされたままにしておくのも嫌だ。
 どうしようか悩んでいたわたしは、またしても一歩出遅れた。

「いったん黙ろうか」
「「「「…………」」」」

 奏斗くんの発した一言で四人は一瞬にして沈黙した。
 奏斗くんは、すっっっっごぉぉぉ~~くモテる。
 ビジュアルが俳優さん並みに整っているだけでなく、うちの学校の理事長先生の息子さんでもある。うん、モテる要素しかない。
 わたしのことを気にかけてくれた奏斗くんには悪いけど、誤解で妬みを買いたくない。

「……えっと冗談、だよね? そうだよね、うん。あのね、わたしがお願いしたいのは彼氏の〝ふり〟をしてくれる人で……。あ、ほら、蓬莱くん忙しそうだし! この話は忘れて!」

 佐藤くんとの会話に戻ろうと顔を戻すと、肩をトンと叩かれた。

「そんなこと言わずにさ。俺にも話を聞かせてよ。もしかしたら俺のほうが力になれるかもしれないだろ」
「来栖くん。僕より蓬莱の方が向いてる話だと思うし、蓬莱にも相談したらどうかな?」

 佐藤くん、空気を読んで。
 見なくても分かる。背中に女の子たちからの憎しみの視線がつきささっている。たぶん奏斗くんと一緒にいた四人だけじゃなくて、奏斗くんを好きなクラスメイトたちの分もある。

「わたしは佐藤くんにお願いしようと……」
「いやいやいや! 僕よりも蓬莱の方が適任なのは間違いないって! ね! ね!」

 にっこり笑顔を浮かべた佐藤くんの圧力に思わずたじろぎそうになる。
 佐藤くんから『引けない』って圧力を感じた。
 ……あ、佐藤くんのこめかみから汗が。……もしかして冷や汗?
 佐藤くんにも何か事情があるのかも。

「えー、来栖くんの彼氏なら佐藤くんの方がお似合いだって!」
「そうそう。だって来栖さんだよー」
「てか来栖さんと奏斗くんが並んでたってカレカノに見えないし」
「たしかにー。つり合い取れてなさすぎてふりすら無理っしょ」

 女の子たちが、奏斗くんに彼氏のふりをさせまいと口を挟んでくる。でも今に限って言えばわたしも彼女たちと同意見だ。
 だって……みんなには内緒だけど、実のところわたしは奏斗くん専属のメイドをしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...