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02:ご主人様とメイド
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――一年前、わたしが高校一年生の夏のこと。
家が破産して、もう一家全員で首を括るしかない……ってときに理事長先生が助けてくれたのがはじまり。
お礼がしたくて「何でもします!」と頼み込んだわたしに、奏斗くんが「じゃあ俺専属のメイドになれよ」と言ってくれた。
最初は渋ってた理事長も、うちの両親が地方で生活を立て直すまでのあいだの保護ってことで受け入れてくれた。
――だから、わたしと奏斗くんの立場は対等じゃない。
「……俺より佐藤の方がお似合い……? ふりすら無理…………?」
さっきまで自信満々だったのに、嘘みたいに声が弱々しい。
女の子たちの言い分を勘違いしちゃったのかな?
女の子たちが言いたかったのは佐藤くんより奏斗くんの方が彼氏価値が高いって言いたかったんだと思う。彼女価値の低いわたしには奏斗くんが似合わなくて、佐藤くんの方がつり合いが取れる、と。
普通に考えて価値が高いと判断された奏斗くんが気にするようなことはないはずなのに、なぜか彼はしょんぼりしてしまっている。
「……あ! あー! 僕、そう言えばさっきの授業で分からないところがあったから先生に聞きに行かないといけないんだったー! だからもう来栖くんの話を聞いてる時間がないなー! ごめんね、残念だけどそのお願いは蓬莱に聞いてもらってよ! じゃあ!」
普段の佐藤くんからは想像できないほどガタガタと粗暴な音を立てて立ち上がり、ほとんど逃げるみたいな勢いで教室から出て行った。
……佐藤くん、どうしたんだろう?
なんか恐怖に駆り立てられたホラー映画の登場人物みたいだったなぁ。
佐藤くんから一方的にわたしの〝おねがい〟を託されることになった奏斗くんは、まだしょんぼりしたままだった。
「マジかよ⁉ ダブルデート⁉」
「こんな〝おねがい〟奏斗くんにするの、すごく恥ずかしいんだけど……」
その日の夜。
メイドの仕事を終えて、自由時間に奏斗くんの部屋を訪れた。
とっても広くて立派な奏斗くんの私室。
そこにわたしと奏斗くんの二人きり。
「あの……嫌だったら断ってくれて……いいよ?」
幼馴染にダブルデートに誘われ、【彼氏どんな人か紹介してよ】とメッセージをもらってしまったのがすべての元凶。わけあって【彼氏なんていない】と返すこともできず、こうして策をめぐらせることになってしまった。
追いつめられているとはいえ、わたしにとって奏斗くんはご主人様。そんな人に嘘のデートをお願いするなんて……本当に申し訳なさすぎるよぉ……。
断られたら再度佐藤くんに頼むことになるんだけど、ダブルデートの約束の日は三週間後。まだまだ時間はある。
でも、そんなわたしの心配は無駄に終わった。
「断るわけねーって」
当たり前みたいな軽さで返事が返って来て、思わず面を食らう。
「ほ、本当にいいの? だって……わたしなんかと恋人同士だと思われちゃうんだよ?」
そう念押しすると、奏斗くんは怖い顔をする。
「あのな、〝なんか〟とか勝手に卑屈なんなよ」
奏斗くんの手がわたしの頭を優しく撫でた。
「俺は自分の恋人にして恥ずかしいやつをメイドになんかしねぇよ」
――キュン。
「…………ハッ!」
いけない!
今、一瞬奏斗くんに本気で見惚れちゃった!
奏斗くんはご主人様であって、彼氏じゃない。
わたしの無茶な〝おねがい〟を聞いてくれる優しいご主人様なだけ!
一生懸命自分に言い聞かせて平常心を保つ。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えるね! そ、そそそそうだ、お茶飲む? 淹れてくるよ! 紅茶でもコーヒーでも緑茶でも抹茶でも!」
もう今日のお仕事は終わってるのに、ついメイド気分で聞いてしまった。
「ハハ。なんだよ、そんなに慌てて。んじゃ、ココア淹れてこいよ」
「う、うん! 分かった! すぐに淹れてくる!」
ココア? 珍しい。奏斗くん、いつもはさっぱりした飲み物を好むのに。
ハテナを浮かべながらも指示通りにココアを淹れてこようと部屋の外に出る――その直前。
「あ、ココアは二人分な」
「え?」
「莉衣の分。一緒に飲もうぜ」
何を言われたのかすぐには理解できなくて、言葉が出て来ない。
一緒……に?
「返事は?」
「あ……う、うん! 淹れてくる、二人分!」
わたしはメイドで奏斗くんはご主人様。
分かってるのに、なんだか嬉しくてしょうがなかった。
――ダブルデート前夜。
【いよいよ明日!】
【約束は覚えてるよね?】
【明日莉衣が連れてくる彼氏楽しみにしてる】
ピコンッピコンッピコンッ。
立て続けにスマホがメッセージの受信を知らせる。
わたしにダブルデートを持ちかけた友人――瑞希からのものだった。
家が破産して、もう一家全員で首を括るしかない……ってときに理事長先生が助けてくれたのがはじまり。
お礼がしたくて「何でもします!」と頼み込んだわたしに、奏斗くんが「じゃあ俺専属のメイドになれよ」と言ってくれた。
最初は渋ってた理事長も、うちの両親が地方で生活を立て直すまでのあいだの保護ってことで受け入れてくれた。
――だから、わたしと奏斗くんの立場は対等じゃない。
「……俺より佐藤の方がお似合い……? ふりすら無理…………?」
さっきまで自信満々だったのに、嘘みたいに声が弱々しい。
女の子たちの言い分を勘違いしちゃったのかな?
女の子たちが言いたかったのは佐藤くんより奏斗くんの方が彼氏価値が高いって言いたかったんだと思う。彼女価値の低いわたしには奏斗くんが似合わなくて、佐藤くんの方がつり合いが取れる、と。
普通に考えて価値が高いと判断された奏斗くんが気にするようなことはないはずなのに、なぜか彼はしょんぼりしてしまっている。
「……あ! あー! 僕、そう言えばさっきの授業で分からないところがあったから先生に聞きに行かないといけないんだったー! だからもう来栖くんの話を聞いてる時間がないなー! ごめんね、残念だけどそのお願いは蓬莱に聞いてもらってよ! じゃあ!」
普段の佐藤くんからは想像できないほどガタガタと粗暴な音を立てて立ち上がり、ほとんど逃げるみたいな勢いで教室から出て行った。
……佐藤くん、どうしたんだろう?
なんか恐怖に駆り立てられたホラー映画の登場人物みたいだったなぁ。
佐藤くんから一方的にわたしの〝おねがい〟を託されることになった奏斗くんは、まだしょんぼりしたままだった。
「マジかよ⁉ ダブルデート⁉」
「こんな〝おねがい〟奏斗くんにするの、すごく恥ずかしいんだけど……」
その日の夜。
メイドの仕事を終えて、自由時間に奏斗くんの部屋を訪れた。
とっても広くて立派な奏斗くんの私室。
そこにわたしと奏斗くんの二人きり。
「あの……嫌だったら断ってくれて……いいよ?」
幼馴染にダブルデートに誘われ、【彼氏どんな人か紹介してよ】とメッセージをもらってしまったのがすべての元凶。わけあって【彼氏なんていない】と返すこともできず、こうして策をめぐらせることになってしまった。
追いつめられているとはいえ、わたしにとって奏斗くんはご主人様。そんな人に嘘のデートをお願いするなんて……本当に申し訳なさすぎるよぉ……。
断られたら再度佐藤くんに頼むことになるんだけど、ダブルデートの約束の日は三週間後。まだまだ時間はある。
でも、そんなわたしの心配は無駄に終わった。
「断るわけねーって」
当たり前みたいな軽さで返事が返って来て、思わず面を食らう。
「ほ、本当にいいの? だって……わたしなんかと恋人同士だと思われちゃうんだよ?」
そう念押しすると、奏斗くんは怖い顔をする。
「あのな、〝なんか〟とか勝手に卑屈なんなよ」
奏斗くんの手がわたしの頭を優しく撫でた。
「俺は自分の恋人にして恥ずかしいやつをメイドになんかしねぇよ」
――キュン。
「…………ハッ!」
いけない!
今、一瞬奏斗くんに本気で見惚れちゃった!
奏斗くんはご主人様であって、彼氏じゃない。
わたしの無茶な〝おねがい〟を聞いてくれる優しいご主人様なだけ!
一生懸命自分に言い聞かせて平常心を保つ。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えるね! そ、そそそそうだ、お茶飲む? 淹れてくるよ! 紅茶でもコーヒーでも緑茶でも抹茶でも!」
もう今日のお仕事は終わってるのに、ついメイド気分で聞いてしまった。
「ハハ。なんだよ、そんなに慌てて。んじゃ、ココア淹れてこいよ」
「う、うん! 分かった! すぐに淹れてくる!」
ココア? 珍しい。奏斗くん、いつもはさっぱりした飲み物を好むのに。
ハテナを浮かべながらも指示通りにココアを淹れてこようと部屋の外に出る――その直前。
「あ、ココアは二人分な」
「え?」
「莉衣の分。一緒に飲もうぜ」
何を言われたのかすぐには理解できなくて、言葉が出て来ない。
一緒……に?
「返事は?」
「あ……う、うん! 淹れてくる、二人分!」
わたしはメイドで奏斗くんはご主人様。
分かってるのに、なんだか嬉しくてしょうがなかった。
――ダブルデート前夜。
【いよいよ明日!】
【約束は覚えてるよね?】
【明日莉衣が連れてくる彼氏楽しみにしてる】
ピコンッピコンッピコンッ。
立て続けにスマホがメッセージの受信を知らせる。
わたしにダブルデートを持ちかけた友人――瑞希からのものだった。
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