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謡舞寮、誕生(むかしがたり) その1
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「にぎやかになりましたなぁ」
安長は昼餉時の様子を眺めながら、しみじみと口にした。
「む……そうだな」
実真は潮汁をすすりながら、居並ぶ顔を見比べる。
少し前までは、九馬を含めた男三人の簡素な所帯だった。それが今や静乃、隻眼の景平、そしてホオヅキが同じ時に食事を共にしている。
あれから黒鬼党は壊滅し、鬼童丸は八省の一つである刑部省が管轄する獄舎に繋がれた。
ヒザはいつの間にか姿を消し、手下たちは帝の恩情としてそのほとんどは罪を赦され、雑徭として京周辺の開発や治水などの労役に就いた。
「九馬さん、ほっぺたにご飯粒がついていますよ」
「えっ、あっ、はいっ……すみません」
九馬は顔を真っ赤にして顔を探った。その様子を景平が眼帯をしてない方の目でジッと見ていた。
静乃もまた帝の恩情を受けた。実真が百鬼討伐の褒美と引き換えに、静乃の外出の自由を願い出たところ、もうよい、との一言で無罪放免となったのだ。
帝はまるで人が変わり、大内裏の奥深くに閉じこもってしまった。
そして、セナは――。
「実真様、少し、様子を見てまいります」
昼餉の後、静乃は水を張った手桶を持って、屋敷奥のひと間に向かった。
薄暗い部屋に置かれた畳重ねの寝台でセナは眠っていた。
「セナ……」
静乃はセナの前髪をかき分ける。しかし、セナは目覚めない。
深い眠りについたまま、もう六日が過ぎている。黒い笄の蠱毒はセナの身体を蝕み、その意識をも混沌の闇に引きずり込んだ。薬草を煎じた汁を少しずつ飲ませているが、このままでは長くもたないだろう。
セナの身体を拭き終わった時、実真がやって来た。
「セナはどうだろうか」
静乃は首を横に振る。それでも微笑んで見せた。
「でも、たしかに生きています」
「そうか……そうだな」
「ところで、私に何か御用でも?」
「ああ、謡舞寮への遣いを頼もうと思ってな」
「謡舞寮の……」
「九馬に進物を持たせるので付き添いを頼みたい。そなたの着物は用意してある」
「あっ……ごめんなさい」
静乃は自分のしでかしたことを思い出して顔を赤くした。実真は微笑んで、もう行くように目で促す。静乃は深く頭を垂れ、謝意を示して部屋を出た。
実真はセナのそばに寄った。そこに表情は宿っていない。
「浮世……私は間違っていたのか……」
横たわるセナを前にして、実真は膝を突いて項垂れた。
※
実真は直筆の書状をしたため、上質の白粉や口紅、筆や半紙などの贈り物を持たせて九馬と静乃を遣わした。なぜか景平もついて来た。
「ここが謡舞寮ですか」
九馬はその大きさに圧倒されている。
「……静乃さん?」
「えっ、ああ、すみません。何だかずいぶん久しぶりな気がして」
静乃は笑顔を取り繕ったが、心臓が高鳴って仕方ない。やはり怖がっている自分がいる。先に行こうとする九馬の袖を掴む。
「ちょっと待って。ここは私に行かせてください」
「え、どうして」
戸惑う九馬に景平がぬうっと顔を近づける。
「姫がそうしたいと仰っているんだ。何度も言わせるな」
「景平。九馬さんが怯えています」
静乃がたしなめ、景平は一礼して少し離れた。九馬は青ざめている。
「ど、どうぞ……」
「ありがとうございます」
静乃は意を決して謡舞寮の門をくぐった。
景平は腕を組み、大垣に背を預ける。九馬は緊張した面持ちでこの待ち時間を長く長く感じていた。
おい、と景平から声がかかる。
「は、はいっ」ざわざわと全身の毛が震えた。
「お前、姫の裸を見たらしいな?」
「そそそ、そんなっ、滅相もない!」
「嘘をつくな」
「み……見ました」
それどころか裸の胸に抱かれました、とは口が裂けても九馬は言えなかった。
ちらと景平を見ると、それはそれは恐ろしい目でこちらを射抜いている。
「ひっ」
「じゃあ忘れろ。いいな?」
「は、はい、忘れました!」
「少しでも思い出してみろ――斬るぞ」
「はひっ」
九馬はもう死んでしまいたかった。
その頃、正門を抜けて謡舞寮に入った静乃は、中門の前に立った。
見慣れた場所のはずが、今はとても居づらい。謡舞寮のみんなには、謝っても謝りきれないほどのことをしたと思っている。
しかし、だからこそ向き合わなければならない。怒っているだろう。恨んでもいるだろう。その気持ちを正面から受け止めなければ誠実じゃない。
そう思ったからこそ、九馬の付き添いではなく、一人で門を抜けた。
「静乃か……?」
聞き覚えのある声。りつである。サギリも一緒だった。
二人とも袖と裾の短い紺色の稽古着をまとっている。いつもの姿。日常の光景。静乃はパッと表情を明るくしたものの、すぐに曇らせた。何も言葉が浮かばない。
立ち尽くしていると、りつとサギリは強い歩調で近づいてきた。だんだんと速くなってしまいには駆け足になる。
「静乃!」
りつとサギリは静乃に飛びつき、抱き締めた。
「どうしてここにいるんだよ!? もう帰っていいのか!?」
静乃は呆気に取られてますます言葉を失くす。
「ちょっと、どうしちゃったのよ?」
サギリは静乃の頬を両側からつまんで引っ張った。
静乃は頬を摘ままれながら、涙をぽろぽろ流す。慌てたのはりつとサギリの二人である。困惑しながら慰めの言葉をかけた。
「私……私……うぇぇん」
静乃は幼い少女のように空に向かって大きく泣いた。
りつとサギリは顔を見合わせて微笑む。しばらく三人でひしと抱き合った。
静乃と景平、そして九馬は実真の使者として奥の間に通された。静乃と景平は堂々としたものだったが、九馬は親とはぐれた子ウサギのように怯えている。りつとサギリも同席していた。
「ほう……どれも素晴らしい逸品ぞろい。これを水野様が?」
実真からの進物を吟味しているのは筆頭女官の望月である。静乃たちを出迎えたのも彼女だった。
正式な使者である九馬が答える。
「そ、そうでございます。直々にお選びになってございます」
「まさか、あれほど雷名轟く武門のお方が、このように優れた白粉や紅を目利き出来るとは……心遣い、痛み入ります。後で返書をしたためますゆえ、それをお持ちになってください」
「は、はい」
「ところで静乃――」
望月は淀みなく視線を動かす。静乃は頷く。
「……変わりないか?」
「はい」
「では、謡舞寮が今どのような状況にあるかわかっているか?」
「それは……」
「あれから弓御前様は大内裏に詰めておられる。残された私たちは何日も行く末を話し合った。その時だ。この二人が修練をしたいと申し出たのだ」
望月はりつとサギリを目で示した。
「謡舞寮は――帝のモノであって帝のモノではない。歌舞を志す強い気持ちのある者すべてに与えられた唯一無二の場所である。それゆえ、私たちは謡舞寮の門を開くことにした」
りつとサギリは静乃に頷いて見せた。
「静乃よ――今日ここに来た本当の理由を、水野様はご存知のようだ」
「え……」
望月はさきほど開いた実真の書状に目をやった。
「みなに会いたいか?」
「……はい。会って、みんなに謝りたいと思います」
そして、静乃は謡舞寮の生徒たちと修練の間で再会した。以前なら、同じ方向を向いていた。歌舞を学ぶ者として、師である弓御前に向かって。
それが今は視線を正面でぶつけている。実に、心が痛む。
これならまだ百人の武士と対峙しているほうが心安い。
「あの……」静乃は丹田に力を込めた。「今日は、みんなに謝るつもりでここに来たの。謝って許されることじゃないのはわかってる。でも、今日ここに来なければ私はきっと、この先ずっと、死んでるのと同じ……」
静乃は膝を突いた。額を床につけ、大きな声で謝罪した。
「みんな――ごめんなさい!」
声が修練の間に響き渡った。余韻がゆっくりと沈黙に変わった。
そして、謡舞寮の仲間たちの一人が前に進み出た。
「ねえ、それでいいと思ってるの? 顔上げなよ、静乃」
静乃は心細さで小刻みに震えながら仲間たちの顔を見た。
「あのね、静乃。たしかにあなたはとんでもないことをしでかしたと思う。そのせいで、謡舞寮が大変なことになった。それは事実よ」
だけどね、と別の仲間が前に出た。
「みんなで考えたんだ。静乃は私たちから何か奪ったのかなって。何日も考えて話し合った。そしたらさ、なーんにもないんだよね」
また別の仲間が静乃に近づく。気付けばみんなが静乃を囲んでいた。
「私たちは舞人になるため謡舞寮に来た。誰かを怨むためじゃない」
「アイツのせいで~なんて言ってたら、何だかカッコ悪いでしょ?」
「静乃はこうして謝った。だからもう終わり。明日のことを考えよ!」
最初に前に進み出た仲間が静乃に手を差し伸べる。
「大丈夫。私たちの想いは誰にも奪えないよ。静乃がやるべきことは、またみんなと一緒に舞を差すことだと私は思うよ」
「みんな……」
静乃は差し伸べられた手をゆっくり握った。
「おかえり――静乃」
「……ただいま」
静乃の両眼から熱い涙が止めどなくあふれて来た。仲間たちは肩を叩き、背中を撫で、静かに力強く抱き締める。
その光景を、りつは微笑を浮かべて眺める。隣から洟をすする音がする。
「お、なんだよサギリ、泣いてんのかぁ?」
「あ~、うるさい! こっち見んなバカ!」サギリは袖で顔を隠す。
「へっへっへ」
「そりゃ……泣くでしょ、こんなもんっ」
「そうだな……でも、涙はまだ取っておかなきゃ」
「そうね、そうだわ」
りつはその場で静乃を呼んだ。
「静乃。セナの居場所は知ってるか?」
セナ――まるで一つの合言葉のように、セナの名を聞いてみんながそれぞれの目を見合う。
今、謡舞寮に欠けた最後の仲間――。
「みんなに話しておくことがあるの」
静乃は謡舞寮の仲間たちにセナが置かれている現状を話した。むろんセナが鬼ということは伏せて。
仲間たちの動揺は隠せなかった。りつもサギリもその眉間に皺を刻む。
「出会った時から変なヤツだったけど、鬼退治なんてワケわかんねえよ」
「なんでそんなことになってんのよ……もう」
二人の想いはもっともである。静乃は胸を痛めた。
「それなんだけど……セナはきっと……みんなに伝えたいことがあるはず。だから少しだけ待っててくれる? 必ず連れて戻るから」
りつとサギリが静乃の前に立った。二人とも拳を前に突き出す。
「それまで私たちがここを守る。安心して行って来い」
「面倒事は任せるわ……ただ、絶対連れて帰ってよね」
静乃もまた二人と拳を合わせた。すると他の仲間たちも三人の拳に手を重ね始めた。少女たちの数多の手は気持ちと一緒に一つになった。
「みんな……ありがとう」
※
静乃たちが謡舞寮から戻ると、実真の屋敷は静まり返っていた。
実真も安長もいるはずである。来客用の広間に行くと、二人の姿があった。
そして対峙している一人の僧侶――ボロボロの僧衣に、髪が伸びて針山のようになった坊主頭、無精髭も少し長い。
僧侶が静乃たちに気付いて、ずいずいと近寄る。
「おんや? おやっ? おやおやっ! お初にお目にかかる。拙僧の名は寿老上人。とてもえらーい僧侶である。今日は実真殿に――」
いかにも怪しい風体の坊主。景平も九馬もとっさに静乃を庇った。
そこに、実真がよく通る声で割って入る。
「寿老殿、その方々は無関係だ。九馬、お二人を別の部屋に」
九馬が困惑している静乃を促す。が、寿老が止める。
「無関係――ではなかろうよ。この娘さんは高階家の静姫。そして眼帯の御仁は畿内にその人ありと謳われた武士・松野景平」
広間に衝撃が走る。景平は殺気を濃くした。
このような僧侶は会ったことも見たこともない。なぜ、素性を見抜かれている――。
寿老上人は手でうやうやしく同席を勧めた。景平はどっかと腰を下ろす。
「姫様、ここはお招きにあずかりましょう。よろしいかな? 実真殿。でなければ気味が悪くて仕方がない」
静乃も実真に頷いて見せ、景平の隣に座った。九馬は回廊に控え、いつの間にかホオヅキも遠くで聞いていた。
一同が広間で顔を向き合わせ、寿老は不気味な笑みを浮かべた。
「今日、お集まりいただいたのは他でもない」
すると安長が、来たのはそっちであろう、とつぶやく。寿老は気にしない。
「ここに揃いしお歴々に共通するある事柄をご存知か?」
もちろん返事はない。寿老はやはり気にも留めない。
「それぞれの胸に手を当てるまでもない。よーくご存知だ。然様――帝に恨みを抱いておる――ということ」
みな表情を変えずに聞いているが、空気はたしかにピンと張りつめた。
寿老のみが柔和な笑みを浮かべている。
「ここは一つ――手を組まぬか? みなの衆」
「もういいだろう、寿老殿」実真は強い口調で言った。「私に恨みなどない。帝に弓引くつもりなど毛頭ない。何度請われても返事はできぬ」
景平は残った片目を光らせる。実真と寿老は初めてではないらしい。
「待たれよ実真殿。帝への恨みといえば、この景平、無いとは言えぬ」
景平は不安そうにしている静乃に小さく頷いて見せた。
「我が高階家は永現の乱で帝側についた。しかし、姫の父君である高階義明様の功績は認められず、それどころか真祥寺の坊主どものくだらぬ讒訴を真に受けて配流にする始末だ。俺たち武士も主家を割ってまで戦ったのに、しまいには居場所さえ失った。すべては帝の目の曇りによるもんだ」
寿老は満足そうに聞いている。景平は実真に向き直る。
「実真殿……俺はあんたの強さに正直驚いている。敬意すら抱く。同じ武士として一度手合せ願いたいと思うほどだ」
これは武人にとって最高の賛辞である。
「だが、今ひとつわからない。それだけの強さを持ちながら、どうして辛そうにしているんだ? まるで内なる武に臓腑を食い破られているようだ」
実真という男を見る――景平の思惑はそれだった。
武士というものは、少なからず己の武を誇り、より高みへ昇ろうとするものだ。景平はそう思っている。
しかし、実真の武は、誰よりも澄み渡り、鋭く、強靭でありながら、なぜか己を愧じているように見える。悲しみさえ見えるほどに。
「それは、帝への恨みとやらに関係があるのか?」
実真は答えない。庭で鳥がさえずっている。
「拙僧が答えて進ぜよう――」
沈黙を破って寿老が言った。頭陀袋からゴソゴソ何かを取り出す。
それは人間の髑髏だった。寿老は髑髏の正面を実真に向けて置いた。
「これは浮世のしゃれこうべ」
と、寿老が言った瞬間、実真の闘気が一気に膨れ上がった。
景平が背筋の凍えを悟った次の一瞬には、実真が座った状態からひと息で身を起こし、髑髏目がけて手刀を放った。衝撃と風圧で埃が舞い上がる。
「ほ、ほほほ……間一髪」
寿老は飄々とした様子で、頭頂部を鷲掴みにして髑髏をさっと持ち上げ回避していた。実真の手刀は床に触れるわずか手前で寸止めされている。
「九馬、寿老上人がお帰りだ……九馬!」
「は、はい!」
九馬は寿老に起立を促す。寿老はやれやれと言いながら立ち上がった。
「今日のところはお暇しようかね。しかし実真殿、心しておくことだ。いかな武神であろうとも、嵐を止めることは出来ぬ……ということを」
カカカッ――と高らかに笑って寿老上人は屋敷を後にした。
「後を頼む」
実真は安長に言い置いて奥の間にこもった。
緊張から解放されたものの、みなその場を動かない。
「あの僧侶は何者なのですか?」
静乃が問う。安長は膝を崩して胡坐をかき、背中を丸めた。
「さあ……わからぬ。わからぬが、こうして見えるのはこれで三度となる」
「三顧の礼のつもりか。帝に叛旗を掲げよと?」と、景平。
「うむ……」
「それに、あの髑髏は一体……?」
安長は静乃に向き直った。
「所詮は生臭坊主の言うこと。しかし、そなたらには話しておくべきかのう。あの髑髏――いや、浮世の話を」
※
同じころ、左京にある獄舎(左獄または東獄)の最も深いその場所に、御堂晴隆の姿があった。獄吏に先導させ、薄暗い回廊を往く。
獄吏は行き止まりにある牢屋で足を止めた。他の牢は木の格子を使っているにも関わらず、その牢だけが鉄格子である。牢の壁も床もすべて紅色に染まり、まるで地獄の炎の底にいるようである。
「下がっていい」
晴隆は獄吏を下がらせた。鉄格子の前に歩を進める。
「気分はどうだ――鬼童丸よ」
はたして牢の中には首枷、手枷、足枷を嵌められた鬼童丸がいた。
武器を携帯できないよう一糸まとわぬ姿である。
「この牢は緋獄と呼ばれ、永らく使われていなかった。血と炎の赤が罪人を絶えず責め立て、しまいには胸を掻き毟って狂い死ぬ。前の主は我が一族の御堂虎次郎。関東にて覇を称えた大罪人――百年以上も昔の話だがな」
「昔話をしに来たのか?」
鬼童丸は腹の底を震わすような低い声で言った。
「その通りだ、鬼童丸」
「ここは居心地がいい。退屈するのに忙しいんだ、帰れ」
「勘違いをするな。昔話をするのはお前だ」
緋獄の暗がりで鬼童丸の瞳がギラリと輝く。
「お前のことを少し調べさせた。かつての名を来世――流しの旅芸人で、たいそうな笛の名手だったと。そして、お前の笛の音で華麗に舞い踊る舞人が一人――名を浮世。お前の双子の妹だな?」
鬼童丸は無言で手枷を鉄格子にぶつける。凄まじい音が獄舎に響いた。が、晴隆は涼しい顔である。
「私は、緋獄の次の主にふさわしい人物を知っている」
「……あぁ? 何が言いたい」
「だが私はその者がよく理解出来ない。聞かせてくれるだろうか、水野実真という男の物語を――」
鬼童丸は鉄の鎖を鳴らしてその場に腰を下ろす。
「お偉いさんの冗談ってのは雅じゃねえな? いいだろう。ただし、それなりの見返りが必要だ。これは楽しい話じゃないんでね」
「そのつもりだ」
鬼童丸は晴隆の返事を聞いて、くつくつと笑った。
安長は昼餉時の様子を眺めながら、しみじみと口にした。
「む……そうだな」
実真は潮汁をすすりながら、居並ぶ顔を見比べる。
少し前までは、九馬を含めた男三人の簡素な所帯だった。それが今や静乃、隻眼の景平、そしてホオヅキが同じ時に食事を共にしている。
あれから黒鬼党は壊滅し、鬼童丸は八省の一つである刑部省が管轄する獄舎に繋がれた。
ヒザはいつの間にか姿を消し、手下たちは帝の恩情としてそのほとんどは罪を赦され、雑徭として京周辺の開発や治水などの労役に就いた。
「九馬さん、ほっぺたにご飯粒がついていますよ」
「えっ、あっ、はいっ……すみません」
九馬は顔を真っ赤にして顔を探った。その様子を景平が眼帯をしてない方の目でジッと見ていた。
静乃もまた帝の恩情を受けた。実真が百鬼討伐の褒美と引き換えに、静乃の外出の自由を願い出たところ、もうよい、との一言で無罪放免となったのだ。
帝はまるで人が変わり、大内裏の奥深くに閉じこもってしまった。
そして、セナは――。
「実真様、少し、様子を見てまいります」
昼餉の後、静乃は水を張った手桶を持って、屋敷奥のひと間に向かった。
薄暗い部屋に置かれた畳重ねの寝台でセナは眠っていた。
「セナ……」
静乃はセナの前髪をかき分ける。しかし、セナは目覚めない。
深い眠りについたまま、もう六日が過ぎている。黒い笄の蠱毒はセナの身体を蝕み、その意識をも混沌の闇に引きずり込んだ。薬草を煎じた汁を少しずつ飲ませているが、このままでは長くもたないだろう。
セナの身体を拭き終わった時、実真がやって来た。
「セナはどうだろうか」
静乃は首を横に振る。それでも微笑んで見せた。
「でも、たしかに生きています」
「そうか……そうだな」
「ところで、私に何か御用でも?」
「ああ、謡舞寮への遣いを頼もうと思ってな」
「謡舞寮の……」
「九馬に進物を持たせるので付き添いを頼みたい。そなたの着物は用意してある」
「あっ……ごめんなさい」
静乃は自分のしでかしたことを思い出して顔を赤くした。実真は微笑んで、もう行くように目で促す。静乃は深く頭を垂れ、謝意を示して部屋を出た。
実真はセナのそばに寄った。そこに表情は宿っていない。
「浮世……私は間違っていたのか……」
横たわるセナを前にして、実真は膝を突いて項垂れた。
※
実真は直筆の書状をしたため、上質の白粉や口紅、筆や半紙などの贈り物を持たせて九馬と静乃を遣わした。なぜか景平もついて来た。
「ここが謡舞寮ですか」
九馬はその大きさに圧倒されている。
「……静乃さん?」
「えっ、ああ、すみません。何だかずいぶん久しぶりな気がして」
静乃は笑顔を取り繕ったが、心臓が高鳴って仕方ない。やはり怖がっている自分がいる。先に行こうとする九馬の袖を掴む。
「ちょっと待って。ここは私に行かせてください」
「え、どうして」
戸惑う九馬に景平がぬうっと顔を近づける。
「姫がそうしたいと仰っているんだ。何度も言わせるな」
「景平。九馬さんが怯えています」
静乃がたしなめ、景平は一礼して少し離れた。九馬は青ざめている。
「ど、どうぞ……」
「ありがとうございます」
静乃は意を決して謡舞寮の門をくぐった。
景平は腕を組み、大垣に背を預ける。九馬は緊張した面持ちでこの待ち時間を長く長く感じていた。
おい、と景平から声がかかる。
「は、はいっ」ざわざわと全身の毛が震えた。
「お前、姫の裸を見たらしいな?」
「そそそ、そんなっ、滅相もない!」
「嘘をつくな」
「み……見ました」
それどころか裸の胸に抱かれました、とは口が裂けても九馬は言えなかった。
ちらと景平を見ると、それはそれは恐ろしい目でこちらを射抜いている。
「ひっ」
「じゃあ忘れろ。いいな?」
「は、はい、忘れました!」
「少しでも思い出してみろ――斬るぞ」
「はひっ」
九馬はもう死んでしまいたかった。
その頃、正門を抜けて謡舞寮に入った静乃は、中門の前に立った。
見慣れた場所のはずが、今はとても居づらい。謡舞寮のみんなには、謝っても謝りきれないほどのことをしたと思っている。
しかし、だからこそ向き合わなければならない。怒っているだろう。恨んでもいるだろう。その気持ちを正面から受け止めなければ誠実じゃない。
そう思ったからこそ、九馬の付き添いではなく、一人で門を抜けた。
「静乃か……?」
聞き覚えのある声。りつである。サギリも一緒だった。
二人とも袖と裾の短い紺色の稽古着をまとっている。いつもの姿。日常の光景。静乃はパッと表情を明るくしたものの、すぐに曇らせた。何も言葉が浮かばない。
立ち尽くしていると、りつとサギリは強い歩調で近づいてきた。だんだんと速くなってしまいには駆け足になる。
「静乃!」
りつとサギリは静乃に飛びつき、抱き締めた。
「どうしてここにいるんだよ!? もう帰っていいのか!?」
静乃は呆気に取られてますます言葉を失くす。
「ちょっと、どうしちゃったのよ?」
サギリは静乃の頬を両側からつまんで引っ張った。
静乃は頬を摘ままれながら、涙をぽろぽろ流す。慌てたのはりつとサギリの二人である。困惑しながら慰めの言葉をかけた。
「私……私……うぇぇん」
静乃は幼い少女のように空に向かって大きく泣いた。
りつとサギリは顔を見合わせて微笑む。しばらく三人でひしと抱き合った。
静乃と景平、そして九馬は実真の使者として奥の間に通された。静乃と景平は堂々としたものだったが、九馬は親とはぐれた子ウサギのように怯えている。りつとサギリも同席していた。
「ほう……どれも素晴らしい逸品ぞろい。これを水野様が?」
実真からの進物を吟味しているのは筆頭女官の望月である。静乃たちを出迎えたのも彼女だった。
正式な使者である九馬が答える。
「そ、そうでございます。直々にお選びになってございます」
「まさか、あれほど雷名轟く武門のお方が、このように優れた白粉や紅を目利き出来るとは……心遣い、痛み入ります。後で返書をしたためますゆえ、それをお持ちになってください」
「は、はい」
「ところで静乃――」
望月は淀みなく視線を動かす。静乃は頷く。
「……変わりないか?」
「はい」
「では、謡舞寮が今どのような状況にあるかわかっているか?」
「それは……」
「あれから弓御前様は大内裏に詰めておられる。残された私たちは何日も行く末を話し合った。その時だ。この二人が修練をしたいと申し出たのだ」
望月はりつとサギリを目で示した。
「謡舞寮は――帝のモノであって帝のモノではない。歌舞を志す強い気持ちのある者すべてに与えられた唯一無二の場所である。それゆえ、私たちは謡舞寮の門を開くことにした」
りつとサギリは静乃に頷いて見せた。
「静乃よ――今日ここに来た本当の理由を、水野様はご存知のようだ」
「え……」
望月はさきほど開いた実真の書状に目をやった。
「みなに会いたいか?」
「……はい。会って、みんなに謝りたいと思います」
そして、静乃は謡舞寮の生徒たちと修練の間で再会した。以前なら、同じ方向を向いていた。歌舞を学ぶ者として、師である弓御前に向かって。
それが今は視線を正面でぶつけている。実に、心が痛む。
これならまだ百人の武士と対峙しているほうが心安い。
「あの……」静乃は丹田に力を込めた。「今日は、みんなに謝るつもりでここに来たの。謝って許されることじゃないのはわかってる。でも、今日ここに来なければ私はきっと、この先ずっと、死んでるのと同じ……」
静乃は膝を突いた。額を床につけ、大きな声で謝罪した。
「みんな――ごめんなさい!」
声が修練の間に響き渡った。余韻がゆっくりと沈黙に変わった。
そして、謡舞寮の仲間たちの一人が前に進み出た。
「ねえ、それでいいと思ってるの? 顔上げなよ、静乃」
静乃は心細さで小刻みに震えながら仲間たちの顔を見た。
「あのね、静乃。たしかにあなたはとんでもないことをしでかしたと思う。そのせいで、謡舞寮が大変なことになった。それは事実よ」
だけどね、と別の仲間が前に出た。
「みんなで考えたんだ。静乃は私たちから何か奪ったのかなって。何日も考えて話し合った。そしたらさ、なーんにもないんだよね」
また別の仲間が静乃に近づく。気付けばみんなが静乃を囲んでいた。
「私たちは舞人になるため謡舞寮に来た。誰かを怨むためじゃない」
「アイツのせいで~なんて言ってたら、何だかカッコ悪いでしょ?」
「静乃はこうして謝った。だからもう終わり。明日のことを考えよ!」
最初に前に進み出た仲間が静乃に手を差し伸べる。
「大丈夫。私たちの想いは誰にも奪えないよ。静乃がやるべきことは、またみんなと一緒に舞を差すことだと私は思うよ」
「みんな……」
静乃は差し伸べられた手をゆっくり握った。
「おかえり――静乃」
「……ただいま」
静乃の両眼から熱い涙が止めどなくあふれて来た。仲間たちは肩を叩き、背中を撫で、静かに力強く抱き締める。
その光景を、りつは微笑を浮かべて眺める。隣から洟をすする音がする。
「お、なんだよサギリ、泣いてんのかぁ?」
「あ~、うるさい! こっち見んなバカ!」サギリは袖で顔を隠す。
「へっへっへ」
「そりゃ……泣くでしょ、こんなもんっ」
「そうだな……でも、涙はまだ取っておかなきゃ」
「そうね、そうだわ」
りつはその場で静乃を呼んだ。
「静乃。セナの居場所は知ってるか?」
セナ――まるで一つの合言葉のように、セナの名を聞いてみんながそれぞれの目を見合う。
今、謡舞寮に欠けた最後の仲間――。
「みんなに話しておくことがあるの」
静乃は謡舞寮の仲間たちにセナが置かれている現状を話した。むろんセナが鬼ということは伏せて。
仲間たちの動揺は隠せなかった。りつもサギリもその眉間に皺を刻む。
「出会った時から変なヤツだったけど、鬼退治なんてワケわかんねえよ」
「なんでそんなことになってんのよ……もう」
二人の想いはもっともである。静乃は胸を痛めた。
「それなんだけど……セナはきっと……みんなに伝えたいことがあるはず。だから少しだけ待っててくれる? 必ず連れて戻るから」
りつとサギリが静乃の前に立った。二人とも拳を前に突き出す。
「それまで私たちがここを守る。安心して行って来い」
「面倒事は任せるわ……ただ、絶対連れて帰ってよね」
静乃もまた二人と拳を合わせた。すると他の仲間たちも三人の拳に手を重ね始めた。少女たちの数多の手は気持ちと一緒に一つになった。
「みんな……ありがとう」
※
静乃たちが謡舞寮から戻ると、実真の屋敷は静まり返っていた。
実真も安長もいるはずである。来客用の広間に行くと、二人の姿があった。
そして対峙している一人の僧侶――ボロボロの僧衣に、髪が伸びて針山のようになった坊主頭、無精髭も少し長い。
僧侶が静乃たちに気付いて、ずいずいと近寄る。
「おんや? おやっ? おやおやっ! お初にお目にかかる。拙僧の名は寿老上人。とてもえらーい僧侶である。今日は実真殿に――」
いかにも怪しい風体の坊主。景平も九馬もとっさに静乃を庇った。
そこに、実真がよく通る声で割って入る。
「寿老殿、その方々は無関係だ。九馬、お二人を別の部屋に」
九馬が困惑している静乃を促す。が、寿老が止める。
「無関係――ではなかろうよ。この娘さんは高階家の静姫。そして眼帯の御仁は畿内にその人ありと謳われた武士・松野景平」
広間に衝撃が走る。景平は殺気を濃くした。
このような僧侶は会ったことも見たこともない。なぜ、素性を見抜かれている――。
寿老上人は手でうやうやしく同席を勧めた。景平はどっかと腰を下ろす。
「姫様、ここはお招きにあずかりましょう。よろしいかな? 実真殿。でなければ気味が悪くて仕方がない」
静乃も実真に頷いて見せ、景平の隣に座った。九馬は回廊に控え、いつの間にかホオヅキも遠くで聞いていた。
一同が広間で顔を向き合わせ、寿老は不気味な笑みを浮かべた。
「今日、お集まりいただいたのは他でもない」
すると安長が、来たのはそっちであろう、とつぶやく。寿老は気にしない。
「ここに揃いしお歴々に共通するある事柄をご存知か?」
もちろん返事はない。寿老はやはり気にも留めない。
「それぞれの胸に手を当てるまでもない。よーくご存知だ。然様――帝に恨みを抱いておる――ということ」
みな表情を変えずに聞いているが、空気はたしかにピンと張りつめた。
寿老のみが柔和な笑みを浮かべている。
「ここは一つ――手を組まぬか? みなの衆」
「もういいだろう、寿老殿」実真は強い口調で言った。「私に恨みなどない。帝に弓引くつもりなど毛頭ない。何度請われても返事はできぬ」
景平は残った片目を光らせる。実真と寿老は初めてではないらしい。
「待たれよ実真殿。帝への恨みといえば、この景平、無いとは言えぬ」
景平は不安そうにしている静乃に小さく頷いて見せた。
「我が高階家は永現の乱で帝側についた。しかし、姫の父君である高階義明様の功績は認められず、それどころか真祥寺の坊主どものくだらぬ讒訴を真に受けて配流にする始末だ。俺たち武士も主家を割ってまで戦ったのに、しまいには居場所さえ失った。すべては帝の目の曇りによるもんだ」
寿老は満足そうに聞いている。景平は実真に向き直る。
「実真殿……俺はあんたの強さに正直驚いている。敬意すら抱く。同じ武士として一度手合せ願いたいと思うほどだ」
これは武人にとって最高の賛辞である。
「だが、今ひとつわからない。それだけの強さを持ちながら、どうして辛そうにしているんだ? まるで内なる武に臓腑を食い破られているようだ」
実真という男を見る――景平の思惑はそれだった。
武士というものは、少なからず己の武を誇り、より高みへ昇ろうとするものだ。景平はそう思っている。
しかし、実真の武は、誰よりも澄み渡り、鋭く、強靭でありながら、なぜか己を愧じているように見える。悲しみさえ見えるほどに。
「それは、帝への恨みとやらに関係があるのか?」
実真は答えない。庭で鳥がさえずっている。
「拙僧が答えて進ぜよう――」
沈黙を破って寿老が言った。頭陀袋からゴソゴソ何かを取り出す。
それは人間の髑髏だった。寿老は髑髏の正面を実真に向けて置いた。
「これは浮世のしゃれこうべ」
と、寿老が言った瞬間、実真の闘気が一気に膨れ上がった。
景平が背筋の凍えを悟った次の一瞬には、実真が座った状態からひと息で身を起こし、髑髏目がけて手刀を放った。衝撃と風圧で埃が舞い上がる。
「ほ、ほほほ……間一髪」
寿老は飄々とした様子で、頭頂部を鷲掴みにして髑髏をさっと持ち上げ回避していた。実真の手刀は床に触れるわずか手前で寸止めされている。
「九馬、寿老上人がお帰りだ……九馬!」
「は、はい!」
九馬は寿老に起立を促す。寿老はやれやれと言いながら立ち上がった。
「今日のところはお暇しようかね。しかし実真殿、心しておくことだ。いかな武神であろうとも、嵐を止めることは出来ぬ……ということを」
カカカッ――と高らかに笑って寿老上人は屋敷を後にした。
「後を頼む」
実真は安長に言い置いて奥の間にこもった。
緊張から解放されたものの、みなその場を動かない。
「あの僧侶は何者なのですか?」
静乃が問う。安長は膝を崩して胡坐をかき、背中を丸めた。
「さあ……わからぬ。わからぬが、こうして見えるのはこれで三度となる」
「三顧の礼のつもりか。帝に叛旗を掲げよと?」と、景平。
「うむ……」
「それに、あの髑髏は一体……?」
安長は静乃に向き直った。
「所詮は生臭坊主の言うこと。しかし、そなたらには話しておくべきかのう。あの髑髏――いや、浮世の話を」
※
同じころ、左京にある獄舎(左獄または東獄)の最も深いその場所に、御堂晴隆の姿があった。獄吏に先導させ、薄暗い回廊を往く。
獄吏は行き止まりにある牢屋で足を止めた。他の牢は木の格子を使っているにも関わらず、その牢だけが鉄格子である。牢の壁も床もすべて紅色に染まり、まるで地獄の炎の底にいるようである。
「下がっていい」
晴隆は獄吏を下がらせた。鉄格子の前に歩を進める。
「気分はどうだ――鬼童丸よ」
はたして牢の中には首枷、手枷、足枷を嵌められた鬼童丸がいた。
武器を携帯できないよう一糸まとわぬ姿である。
「この牢は緋獄と呼ばれ、永らく使われていなかった。血と炎の赤が罪人を絶えず責め立て、しまいには胸を掻き毟って狂い死ぬ。前の主は我が一族の御堂虎次郎。関東にて覇を称えた大罪人――百年以上も昔の話だがな」
「昔話をしに来たのか?」
鬼童丸は腹の底を震わすような低い声で言った。
「その通りだ、鬼童丸」
「ここは居心地がいい。退屈するのに忙しいんだ、帰れ」
「勘違いをするな。昔話をするのはお前だ」
緋獄の暗がりで鬼童丸の瞳がギラリと輝く。
「お前のことを少し調べさせた。かつての名を来世――流しの旅芸人で、たいそうな笛の名手だったと。そして、お前の笛の音で華麗に舞い踊る舞人が一人――名を浮世。お前の双子の妹だな?」
鬼童丸は無言で手枷を鉄格子にぶつける。凄まじい音が獄舎に響いた。が、晴隆は涼しい顔である。
「私は、緋獄の次の主にふさわしい人物を知っている」
「……あぁ? 何が言いたい」
「だが私はその者がよく理解出来ない。聞かせてくれるだろうか、水野実真という男の物語を――」
鬼童丸は鉄の鎖を鳴らしてその場に腰を下ろす。
「お偉いさんの冗談ってのは雅じゃねえな? いいだろう。ただし、それなりの見返りが必要だ。これは楽しい話じゃないんでね」
「そのつもりだ」
鬼童丸は晴隆の返事を聞いて、くつくつと笑った。
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