俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ

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エルフの集落にて 出会い編

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落ちた先は森だった、なんてどこのラノベの導入だと思うだろう。
だがしかし、現状にこれ以上深く考えることを諦めた俺にとって、唯一確かな事実が残念ながらこれなのだ…。



時は数十分程前にまで遡る。

「一週間ぶりの我が家だー!」

気の抜けた言葉と共にアパートの自室のベットに体を放り出したのが俺、鹿野友成だ。
雑に脱いで廊下に置き去りにした上着や、コンビニで買った弁当を拾いに行く気力はなくこのまま泥のように眠ってしまいたくなる。

けど、いい加減動かなくてはいけない。今日帰ってきたのは風呂と着替えの為だけだから、すぐに会社に戻らなくてはならないのだ。
あぁでも、ほんと動きたくない……てか動けねぇよ何日ぶりのベッドだと思うってんだ!………何日ぶりだっけ。下手したら10日いや、1ヶ月かもしれない。
あぁ会社行きたくないよぅ…。


「俺、何のために働いてるんだ…?」


今の仕事がやりたかったからでは、と聞かれてもあまりそうでもない。生きていくためにはお金が必要で、だからちょっとくらいキツい仕事でもやらないとまともな生活は送れない。
まともな生活……まともな生活ってなんだ?

何日も寝ないでご飯もろくに食べず、普段はゼリー飲料、ましな時でもコンビニの安い売れ残りの弁当。湯船にちゃんと浸かったのはいつだ?
シャワーで髪と体を洗うだけでもうずっと風呂は使ってない。
趣味だったはずの読書はご無沙汰だし、服も最近私服に着替えた記憶がない……これが、まともな生活?違くないか?

まともな生活を送るために、これまでずっと休みもなく仕事を続けていた…なのに、まともどころか、最低限の生活も出来ていない。
会社で仕事して、会社で寝泊まりして、会社で一人寂しくご飯貪って。また仕事仕事仕事仕事仕事の繰り返し。これは、本当に俺がやりたかったことなのか…?

「……会社、行きたくないな…。」

いっそ潔く退職でもしてしまおうか?。でも再就職先を探すのが面倒臭い。


「もう、消えてなくなりたい。」



この世界から消えてしまえば、新しい仕事先を探す必要もなくなるのに…。なんて、寝不足の頭で考えたのが悪かったのだろうか。
消えたいと呟いた次の瞬間、涙と共に枕に溶けていく筈だった言葉は、俺の予想していなかった形で叶えられた。

パカッと俺の体の下、つまりベッドの上に穴が空いて、ベッドで横になっていた俺は当然穴に落ちていった。一瞬すぎて驚く暇もなかったな。
尻に衝撃を感じた時には、俺はもう何処とも知れぬ鬱蒼とした森のなかにいた。

ここで、冒頭の言葉に戻る訳だ。







「…………は?森?………えっ???」

立ち上がって周辺何処を見渡しても森森森森。意味が分からない。むしろこの状況で理解出来るやついるのか?いないだろ??少なくとも俺には無理だ。


「…あっそうか、これ夢か。」


前言撤回、理解出来た。俺天才かもしれない。
おそらくあのままベッドで寝落ちてしまったんだろう。最悪だ、早く起きないと会社に遅れ……。

「別にいいか。」

もうあそこに戻る気はない。なら、今はこの夢を楽しんでもいいじゃないか。夢のなかなら、怒鳴ってくる部長もいないし天国じゃないか。うん、そうだそうだ。



でも、森かぁ…自然の空気は好きだけど、いやでも何故森。夢に何故と問うても無駄なことは分かっているが。

どさり、と草の上に寝転がれば丁度風が優しく吹き始め、何処からか花のいい匂いを運んできてくれる。
夢のなかなのに、眠くなってきた…。夢に見るほど寝たかったのか、俺。ならば眠れるうちに寝てしまおう。
そう思い瞼を下ろそうとした時だった、ぐぅぅぅと力なく自身の腹が鳴き声を上げた。

「そういえば、弁当食いそびれたんだった。」

目を擦りながらのそのそと起き上がり、辺りを見渡す。

「さすがに弁当は落ちてきてないか。」

俺の夢なのに、そこは都合良くいかないのは何故だ。
…夢なんだから、呼べば出てきたりしないかな。
寝不足の働かない頭で思い浮かんだのは、まともな思考が出来ているとは到底思えないものだった。仕方ないだろ寝不足なんだから。


「あー…いでよ、俺の弁当ー。」


落ちてきた空に向けて両手を伸ばし呟く。
てんてんてんまる。
言葉にするならそんな感じ、何も起きない。当たり前だが。

腕を下ろし、この空腹感をどうにか出来ないかと腹に手を当て考える。辺りの木はその間もずっと風で穏やかに揺れていた。
けれど突然、茂みの一部がガサガサと不自然に音を立て揺れ始める。何だと思い気になって音のするほうに近づこうとした時だった、茂みからリスや狐、鳥や鹿といった森の動物たちが一斉に飛び出して来たのだ。

「動物、が沢山……………可愛い。もふもふ天国か。」

本日何度目になるかもはや分からないが言わせて貰う。寝不足でまともな思考が出来ていない現在の俺は、森の多少開けた場所にいる自身の周りに沢山集まった動物たちを見て、少しも恐れもせずに顔をだらしなく綻ばせていた。
だって俺は大の動物好きなのだ。猫や犬は勿論、鳥類や何なら魚や蛇も好きだ。けど特にもふもふと毛が生えた動物が大好きで、大好きすぎるあまりいつか来るだろう別れが悲しくて、今も昔も飼うことはしてない。
だからいつもはテレビや柵越しに見ることしかなかった。こんなに近くに、それも一度にここまでの数を見るのは初めてだ。

寝不足のせいで(もう何でも寝不足のせいにすればいいと思ってきている)、どこか精神がイカれてしまっている俺には、まさにこの光景は天国でしかなかった。


近くに、何なら隣に腰を下ろした鹿に「はわっ」と変な声を出す。それでも逃げない鹿にいよいよ撫でたい欲が出てきた。

「に、逃げないかな…。」

そっと、刺激しないように優しく鹿の背中に手を滑らせる。さらさらとした毛の手触りが気持ちよく思わず無心で何度も触ってしまう。

「あっ、こ、ごめんな…?今更だけど、触られて嫌じゃない?」

何故動物に普通に話しかけているのかって?
それは現在の俺が寝不足で以下略だからである。

俺が話しかけている間ずっと鹿の丸い瞳が俺を見つめていた。まるで言葉が分かって話を聞いているかのように。

逃げることをせず目を伏せ鼻を軽く鳴らした鹿を見て、俺の言葉に肯定を返してくれたようで何だか感動してしまう。

「チチッ」

「ん?…まさかくれるのか、ありがとう!」

「チチチッ」

鳴き声に振り向けばいつの間にか肩に乗ってきていたリス…いやモモンガ?がいて、小さな手で何かの小さな果実を俺に差し出していた。
あまりにも可愛すぎる行動に笑顔になってお礼言えば、伝わったのか嬉しそうに鳴き声をあげた。


「キュキュ」

「よしよし、もう皆可愛いなぁ。」

声で誰もが察せるだろう。人馴れしてる動物たちにデレデレである。
膝に乗ってきた狐?(よく見れば猫っぽい?おそらく狐)が膝に乗ってきて撫でるよう催促してくる。勿論答えて顎を撫でてあげた。
鳥たちはだんだん増えてるような気がする。それに貢物の如く木の実や果物が積まれており、そろそろ山になりそうだ。

夢って、凄いな…。
可愛い動物たちに囲まれて癒される時間。こんな素敵な夢、離れがたくなるじゃないか……何ならもう二度と目を覚ましたくないんだが。

「あー、ここが現実だったらいいのにな…。」

膝の上の狐を撫でながら現実逃避に走っていると、また茂みがガサガサと音を立て揺れ始めた。さっき動物たちが出てきた方向とは別の茂みだ。



「そこに誰かいるの、か……。」
「えっ。」



これが本当に異世界だったら、第一村人ならぬ第一異世界人発見と言ったところだろう。
あっそうか、夢のなかだから猫っぽい狐や飛ぶリスも存在するのか、謎が解けてすっきりした。

俺を見て何故か固まるように動きを止めた第一異世界人を見て、ふと首を傾げる。


何か、耳長くないか?







25/12月20日 誤字脱字を編集しました。

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