俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ

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エルフの集落にて 出会い編

勘違いの始まり

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驚いたのか俺のそばから離れた動物たちに遠目で見守られるなか、耳の長い謎の青年と見つめ合うこと数秒。未だ固まったままの青年の後ろに続いて、同じく耳の長い若者二人が茂みを割って出てきた。
二人は肩で息をしており、かなり疲れていることが一目で分かる。

「若様!、単独での行動は我々に申してからとあれほど言いましたよね!?。」
「…若様?、どうなさって…っ何者!。」

いや気づくの遅くない?。俺そんなに存在感ないかな。
それともこの場合は、その若様と呼ばれる青年以外完全に視界になかったという方が正しいか。どれだけ必死に追いかけて来たんだ。

「よい、控えていろ。」
「…はっ。」
「……。」

青年が首を横に振った時、しゃらりとピアスが音を立てて揺れる。
青年の言葉に、青年を守るように前へ出ていた二人は一歩下がり後ろに控えた。片方はまだ鋭い目でこっちを見てるけど…。


羽織っているマントをはためかせて俺に近づいて来た青年は、地面に座ったままの俺に目線を合わせるように片膝をついてしゃがんだ。
さっき若様って呼ばれてたし、高貴な人なんだろうか?、そんな方が俺みたいな一般人にこんな簡単に膝をついていいものなのか…?。

視線を上げて、観察するように青年を見る。

朝露のように透き通った水色の髪は一部編み込まれ、高い位置で結われている。髪の尾が風でしなやかに揺れた。真っ直ぐ俺の目を見てくる青年の瞳は深い緑色で、水滴が落ちて波紋が広がっているような、言葉にするには難しい不思議な目をしている。ずっと見てたら吸い込まれそうだ。


「先程は護衛が失礼した。…よろしければ、あなたの名前を聞かせてほしい。」

こ、声も良いなんてっ…!。
勝負する気は鼻からないけど、男として何か完全敗北した気がした。
それにしても喋り方綺麗だなー。なんか異国の王子様みたいだ。

「か、鹿野です。」
「カノ。素敵な名前だ。」

少し発音が違うけど、まあいいか。

「私の名は、ユリイカ。」
「ゆりぃか?。」

「「っ!?。」」

俺の発音が少しおかしかったせいか、護衛と呼ばれた二人が俺に対し驚いた様に直視してくる。えっそんなに発音酷かったか?。
失礼だったろうか、と不安に思い青年の様子を伺ってみれば、何故かとても幸福と言いたげな顔をしていた。

「少し言い難いか、…なら、ユリィと呼ぶといい。」
「ユリィ、さん。」
「硬い言葉や敬称は必要ないよ。」

青年ことユリィはどこかの、それこそ貴族とかもしくはそれに近い身分の人のような気がするんだけど、本当にそんな親しげな感じで呼んでもいいのか…?。
まあでも本人が良いと許してくれているし、よくありがちな不敬罪とかにはならないだろう。それにあくまでも夢なんだ、そこは都合良く何とかなるのを期待しよ。

「じゃ、じゃあユリィ、聞いてもいいかな?。」
「何だい?。」
「ユリィたちって、もしかしてエルフ…?。」

俺の言葉はユリィにとって多少なりとも予想外だったようで、一瞬目を丸くしたが、すぐに優しげな目になった。

「あぁ、我々は森の民エルフ。それがどうかしたか。」
「えっいや、初めて会ったから確認したかっただけ。」
「そうか、初めてか。」

耳が長く尖っていたから、という単純な理由でエルフかと思ったんだが、どうやら当たったようだ。
初めて、ということに何故か嬉しそうにするユリィに何がそんなに嬉しいのか不思議に思っていると、護衛二人が話の輪を乱すように入ってきた。

「若様、何故真名を名乗ったのです!?。」
「それもこんな何処の種族かも分からぬ相手に!。何かあったらどうするんですか!。」

真名、というのが何かは分からないが、そう簡単に明かしてはいけないものなのだろうことが、二人の反応を見れば分かる。
護衛二人の言葉に目を細めたユリィは、うっとおしいと言うように手を払った。

「そんなことは承知の上だ。一々小言を言うな、控えておれ。」
「ですが若様っ!。」
「はぁ、くどいぞ。カノ、騒がしくしてすまない。」
「いや、全然構わないけど、何か俺の方こそごめん。」

俺の言葉に「カノが謝る必要はない。」と慌てるように告げられる。
なお、護衛二人の視線は未だ冷たいままだが。初対面とはいえ警戒されすぎな気がする、でもそれだけユリィのことが大事なんだろう。

「えーと、お二人「アイザだ」「ゾンネ。」アイザさんとゾンネさんの反応は、当然だと思う。素性の知れない相手を警戒するのは護衛じゃなくても普通の事だよ。知ったように言って不快に感じたらごめんだけど、二人はユリィのことが、凄く大切なんだね。」

俺に対する二人の厳しい態度は、言ってしまえばユリィへの心配の裏返しなんだと思う。
ユリィも気がついたようで、長い耳を下げバツが悪そうにアイザさんとゾンネさんに振り返った。

「……二人共、キツく言ってすまなかった。だが、本当に心配はいらぬ。カノからは邪の気配が全く感じられない。お前たちが心配しているような事態はまず起きないだろうよ。」
「若様の言葉は信じましょう、けれどこの者の素性が知れぬのも確かです。」


「素性と言われても、ただの人間なんですけど…。」

「ほう、自ら明かしてくれるなら話が早い。だが貴様が言うそのニンゲンとやらは聞いたことがない。少数の種族なのか?。」

聞いたことがない??。そんな馬鹿な、人間が分からないなんてことあるのか?、エルフは人里離れたところで暮らしていて世のことに疎いのかな。それかこの夢の世界には存在しないとか?、いやどんな世界だよ。さすがに異世界もののラノベにも人間は出てくるでしょ…。あーでも、ゾンネさんの言うようにこの世界ではもしかしたら人間はあまり居ない可能性もある。

「少数かは分からないけど、俺の周りには人間しかいなかったよ?。」
「箱入りか、貴様。」
「社会人ですけど。」
「シャカイジン?。」

うん、ここが俺の想像するような異世界だと仮定するなら、確かに社会人はいないかもしれない。なんて説明すれば分かるか…。

「親元から離れて働いてる人のことを、俺の故郷ではそう言うんだ。」
「そうか、では貴様は成人しているのだな。」
「成人してるよ。歳は23。」

「「「は?」」」
「ん?。どうかした?。」

俺の年齢を聞いた途端三人同時に言葉を発して目を見開き、驚いたような顔をする。
なんだ、見えないって言うのか?。まあ身長は158cmと子供並みに低いから無理もない、驚かれるのには慣れている。夜道で警官に声をかけられた回数はもはや覚えてない。


一人納得して頷いていると、突然ユリィに包まれるように抱きしめられた。
……え?。何で抱きしめられてるの俺??。
俺の理解が追いつかない間に、三人の話が進んでいく。ちょっ、ちょっと待ってほしい。

「お、俺は、こんな赤子に警戒していたのか…。」

顔を青ざめさせ頭を抱えるアイザさん。今赤子って言った?。誰が??。まさか俺とか言わないよな?。

「威圧的な態度をとってすまなかった、怖かっただろう。」

さっきまでの眉間の皺はどこへいったのやら、別人と思うほどの変わりようで慌て出すゾンネさん。別に理由が分かっていたから怖くはなかったし、そんな子供相手みたいに話さなくても…。


「カノ、あなたのような幼き者が何故この様なところに一人でいるのだ。何か不幸な事に巻き込まれでもしたのか?。ゆっくりで構わないから、私に教えて。」

うん、まず聞きたいんだけどユリィは何で俺の頭を撫でながら話すんだ?。
布面積の多い白い民族服のようなものを来ているユリィが俺を抱きしめていると、はたから見たら180度布に包まれているようにしかみえない。

三人揃ってほんと急にどうしたんだ。

「幼いって、俺はとっくに成人してる立派な大人なんだけど…。」

「たったの23で成人する種族が何処にいる。ゾンネ、知っているか?。」

「いやここにいるけど。」

「聞いたことすらない、23歳なんてまだ赤子も同然だろう。」
「だよな。」

「赤子!?。いやいやいや、なら三人は何歳なの?。」

何度も首を横に振り否定するが、全く聞く耳を持ってくれない。俺が赤子なら殆ど俺と見た目の年齢が変わらない三人だって赤子でしょ!?。

「私は300丁度だ。恥ずかしながらまだまだ未熟な若者だよ。」
「俺は320、くらいだね。若様とあまり差は無い。」
「来年で400になるな。」

「………へ?。」

聞き間違いだろうか、桁がおかしくないか?。三人共、皆見た目は20代前半程なのに、300?400?、20歳は全く誤差じゃないだろう。


いつだったか本で読んだことを思い出した。エルフは何百、何千という時を生きる長命種だと。一定の年齢に達すると見た目がそれ以上変わることがなく、見た目は歳をとらないという。あくまでも伝説上のことだが。

…確かに、エルフたち長命種からしたら23歳は赤子だな。


ぐぅぅぅ……。

「あっ。」

そういえば、お腹空いてたんだった。色々なことが一度に起きすぎて完全に忘れていた。

「ふふ、腹が減ったのだな。もう時期日も暮れてくる、カノ、我々の集落においで。話しはまた後でよい、共に晩ご飯を食べよう。」
「えっ、そんな悪いよ…。」
「幼子がその様な遠慮をする必要はない。」

確かにエルフにとっては赤子同然でも、人間からしたら俺は大人だと説明するタイミングを、完全に逃してしまった。
返事をする前に、ユリィに子供のように縦に抱えられてしまう。この細い腕のどこにそんな力があるんだよ!?。

「待って!?、自分で歩けるからっ!。」
「さて行こうか。二人共、先導してくれ。」
「はっ、此方です。…しかし若様、あなた道も分からずにここまで来たのですね?。全く我々がいたから良かったものの、二度とこの様なことはしないで下さい。」
「ふふ、すまぬ。以後気をつけよう。」
「気をつけよう、ではなくお止め下さい!。笑って誤魔化そうとしても無駄ですから!。」

話しをどんどん進めないでほしい、俺の話しを聞いて!!。

「本当にちょっと待って!。そこに積まれてる木の実たちを持っていきたいんだ、量が多いから難しいなら無理にとは言わないけど…。」

せっかく動物たちが集めてくれたんだ、全部は無理でもせめて何個かは持っていきたい。

そうして俺の言葉に、今度こそ立ち止まってくれたユリィたち。

「アイザ…いや、もうジルヴァでもよいな?。ジルヴァ、頼む。」
「はっ、お任せ下さい。」

何故かユリィに違う名で呼ばれたのに、そのことを何も不思議に思ってないアイザさんが、木の実の山の前に立ち手をかざす。
すると突如アイザさんの手は緑色の光に包まれ、次の瞬間には木の実が山ごと宙に浮かび上がった。

「では、集落に向かいましょう。」

……エルフが存在する世界なんだ、さっきの衝撃比べたらどうって事ない。それはそれとして、何だ今の。もしかして魔法?、魔法ってやつか!!?。

俺が謎の光の力に興奮している様子は、酷く分かりやすかったのだろう。
ユリィは何故かムスッと拗ねたような表情をした。


「私にだってあれくらい出来る。」
「いや若様は風の力は使えないでしょ…。ほら嫉妬してないで行きますよ。」
「やってみなければ分からないだろう!。」
「あなたの水の力でどうしたら宙に浮くんですか?。」
「………。」


アイザさんの謎の力を夢中に見ていた俺は、そんな会話が俺を間に挟んで行なわれていることに気がつかないのだった。








異世界の歩き方、そのいち!

森人こと、エルフの成人年齢は300歳。
長生きするものは数千年を生きると言われているよ!。

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