台本集「愛ゆえに、」

天緒amao

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中(30分/10000文字程度)

厄災の星–世界の果てで、砂浜の夢を見る–

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【キャスト】
◇玉城 由良\女:
  画家を目指すクールな女子中学生。実は意外にも自信家で有名画家を目指している。

◇相澤 満\女:
  由良と由良の絵が大好きな女子中学生。人見知りで、人と話すのが少し苦手。

◇普天間 美空\女:
  沖縄出身の女子中学生。少しだけうちなーぐちが出る。花蓮と特に仲がいい。

◇佐々木 花蓮\女:
  東北出身の女子中学生。親の転勤に一緒について来た。美空と特に仲がいい。

◇夢路 ほまれ\女:
  由良の担任の教師。学生達から良くも悪くもすごく親しまれている。

◇藤野 直也\男:
  公立校に通う男子中学生。父親が3年前から海外で仕事をしている。

◇神(オクトーヴィア)\女:
  海そのもの。くらげと人がくっついたような姿をした美しい女性。

【エキストラ】
◇ナレーター:
◇四島 彰\男:
◇玉城 智紀\男:
◇玉城 優子\女:
◇誰か(数人)
◇生徒達




ナレーター「どれだけの月日が過ぎようとも、人類は進歩の道を真っ直ぐに辿っていた。しかし、ある時、世界は地震により大部分が海に沈んでしまった。そして今、由良達は学校で避難生活を送っていた。」
由良「…。」
満「由良ちゃん!やっぱりここにいたんだね、探したよ…」
由良「なに?」
満「何って、こんなところにいたら危ないじゃん!またいつ大津波が来てもおかしくないんだよ?」
由良「こんなに波が穏やかなのに?」
満「関係ないよ、……学校に戻ろう?みんな待ってるから、」
由良「いい。私、ここで絵を描いてるだけだから。危険なことしてるわけじゃないし、そこまで心配しなくても大丈夫だって。それに私、…実物を見ながらじゃないと書けないの」
満「何を描いてるの?」
由良「……砂浜。もうどこにもないから、…全然上手く書けないけどね…。いつか、人に造られた偽物の砂浜じゃない本物の砂浜を、もう一度見たいから。」
満「…素敵だね。満ももっと大きい夢を持った方がいいのかなあ」
由良「夢に大小なんて関係ないでしょ。」
満「…満も、もう少しここにいてもいい?」
由良「危ないんじゃないの?」
満「うん。だから、日が沈む前には絶対連れて帰る!」
由良「あっはは、なんだそれ。」
満「…満の家ね、この辺りでも特に海抜低くて。大事に取っといたプレゼントとか、お父さんのカメラとか、…全部沈んじゃった。」
由良「…取りに行かないの?」
満「えっ」
由良「取りに行けばいいじゃん。カメラはもう…沈んでから三ヶ月も経ってるし、使えないかもしれないけど」
満「取りに行くって…確かにそこまで深くはないけど、…もう、海の底だよ?」
由良「…家が沈んでる浅い海の底なんて、素敵じゃん。きっと家に帰るだけで楽しいよ」
満「…たしかに、満もそういうの好きだけど…。」
由良「…ちょっと待ってて。」
 ◆由良、スケッチブックに鉛筆を走らせる。
由良「…取りに行けばいいとは思うけど、満にその気がないなら、私が絵にして残してあげる。あ…今はこの絵描いてるから、ラフなスケッチ程度のものだけど。」
満「すごい、素敵…ありがとう、大切にする。額縁に入れて飾ろうかな」
由良「額縁って。そんな落書きみたいなのを。」
満「ううん!形に残るだけですごく嬉しいよ。…家の写真なんて、誰も撮ってないから…。ふふ、サインも書いて!」
由良「サイン?サインなんて…名前でいい?」
満「えぇ、ないの!?じゃあ満が考える!たまきゆら、でしょ…」
満「こんなのどうかな?」
由良「…使っていいの?」
満「うん!」
由良「たまき……ゆら。これでいい?」
満「やったー!未来の有名画家のサイン貰っちゃった!大事にしよー!」
由良「なれるかな、…有名に。」
 ◆緞帳開き始める
満「勿論だよ!」
ほまれ「あ、いた!玉城さん、相澤さん!」
満「あっ、夢路先生!」
ほまれ「二人してこんなところに…危ないでしょう。相澤さん!玉城さんを呼びに行くって言ったから許したんですよ?」
満「ごめんなさい。」
由良「…ごめんなさい。」
ほまれ「…やっぱり、絵を描いていたんですね。素敵ですが、ここは危険ですから。戻りますよ」
 ◆三人、去っていく
花蓮「美空ー」
美空「ぬー?」
花蓮「暇だよねー」
美空「暇やさー…」
 ◆ほまれたちが入ってくる
花蓮「はーぁ…せっかくの夏休みなのに……ほまれちゃーん、なんかやることないんすか」
美空「ほんとになーんもすることねーやっさー…」
ほまれ「佐々木さん、私のことはほまれちゃんではなく夢路先生と呼んでください。」
花蓮「夢路せんせー、なんかやることないんすか」
ほまれ「…折り紙?」
花蓮「昨日も一昨日も折り紙やったじゃないすか…そろそろ飽きてきたよねー」
美空「わーは折り紙好きだけど、毎日毎日折り紙は飽きてくるさー。」
由良「ねえ、美空、美空って昔は沖縄から来たって言ってたよね。」
美空「んー?やっさー。普天間から来たさー。」
由良「沖縄の、美空が好きだった景色を教えて。それの思い出とか、とにかく何でもいいからお気に入りの景色のこと教えて。」
美空「わーが好きだった?そりゃー海さー!沖縄の海はキラキラで綺麗だったさー」
由良「海…砂浜がある海、ってこと?」
美空「やっさー!ゆーらーが描いてくれるのー?」
由良「うん。みんなの思い出を、私が形にして残す。絶対にここで忘れられたりさせない」
花蓮「うちのも描いてよ!私生まれが秋田県なの。冬とかめっちゃ大雪でさ。だからちょっと雪積もった程度で交通網止まる名古屋とか東京とかマジで信じられないんだって!」
由良「時間はかかるけど、絶対描き上げるから待ってて。」
美空「嬉しいさー。もともとちっちゃい沖縄が、津波のせいでもっとちっちゃくなって…なくなっちゃうかと思ってたさー。…誰かに絵にして残してもらえるなんて、しにうれしいさー!」
美空「ゆーらー、ちばりよ!」
由良「ち、ちば?」
満「沖縄の方言で、頑張ってねって意味だよ!」
由良「うん、ちばる。」
美空「ちばるじゃなくて、『ちばいん』!」
花蓮「ちょっと、私のこと置いてかないでよ!」

  暗転・明転

満「いいの?満がここにいて。気が散ったりしない?」
由良「話しながらやった方が捗るの。だから、居てくれて助かる」
満「えへへ、だったら、よかった。」
直也「誰?」
満「うわぁ!?」
直也「君が描いてんの俺ん家なんだけど」
由良「あ、そうなんだ。勝手に描いてごめんなさい。綺麗だったから。…満、他のところ行こう」
満「そうだね、ごめんなさい!」
直也「…いや、別にいいよ。…色使いが綺麗。この絵完成させて、俺にも見せてよ」
由良「良いの?」
直也「うん。実は、この景色俺も結構気に入ってるから。」
直也「色々沈んじゃったままで不便だけど、窓から魚出てくんのかわいいし。慣れたのか俺が来ても逃げなくなったし。」
由良「なんて言う魚なんだろうね。」
直也「さあ。知らない。…俺、藤野直也。君は?」
由良「玉城由良。よろしくね。」
直也「よろしく。そっちの人は?」
満「あ、満は相澤満です。よろしくおねがいします!」
直也「敬語とかいいよ。そう言うの苦手なんだよね。尊敬語?謙譲語?みたいな。あれ多すぎて覚えられない。」
満「わかります…なんか面倒ですよね。」
直也「だから、タメ口で良いって。」
満「わ、…わかった、頑張るね…」
由良「満、人見知りしてるの?」
満「仕方ないじゃん!小学校も中学校も女子校で男子との喋り方とかわかんないし…」
直也「俺も女子とはあんまり話したことないから、気ぃ遣えなかったらごめん」
由良「大丈夫。満優しいから。」
直也「良かった。」
由良「…………やっぱり、この絵の具だけじゃ出したい感じが出ないな」
直也「絵の具に違いとかあるの?」
由良「うん。安いやつは発色が悪いから、…思ったように色が出ない。あと、私本当は油絵が好きなの」
満「あ…それ、学校にあった安い水彩絵の具だもんね。ちゃんとしたアクリル絵の具とかあったら良かったのに……」
由良「まぁ、そもそも備品を勝手に使うのも良くないんだけどね……あ、白が無くなっちゃった。」
直也「俺が避難してる学校に絵の具があるか探してみようか?あっても安い水彩絵の具だとは思うけど」
由良「ありがとう、助かる。」
直也「あ、あそこ見て」
由良「なに?」
直也「魚の群れ」
満「うわぁ、綺麗……」
由良「あれも描こう。ここってやっぱりすごく素敵。」

  暗転・明転

直也「そんでさぁ……」
彰「君たち!学生だよね、なんでこんな所にいるの?」
満「うわっ!?」
由良「あ…」
直也「誰すか。俺の友達びびらすのやめてもらって良いですか」
彰「四島彰。この辺りの見回りをしてるんだ。君、子供がこんな海の近くまで来て、危ないでしょ?親御さんも心配してるよ?」
彰「その制服、君そこの中学の子でしょ、勝手に抜け出して来てるの?」
直也「あんたに教える理由あります?身分証見して貰わないと信用できないんですけど」
彰「そこの女の子達は?君とは違う学校の子?この辺りなら、あそこの私立の子でしょ。君も学校に帰りなさい。またいつ大津波が来るか分からないんだよ。子供って言ったって中学生だよね、帰った方がいいことくらいわかるでしょ?」
彰「…絵なんかどこでも描けるでしょ。さっさと帰るよ。ほら!」
満「違います。実物見て描くのと想像して描くのは違うんです」
彰「はぁ?」
由良「満、大丈夫だよ。」
彰「海の絵ね…そう言うの今の時代にやるのどうなのかな。海が怖い人も、海に大切な人が流されてしまった人もいるんだよ?」
満「だから何なんですか?じゃあ世界に猫が怖い人がいたら猫の絵は描いちゃダメってことですか?」
彰「そう言うことじゃないでしょ。話飛躍させないでよ。と言うか、帰って。これ以上大人の仕事増やさないでもらってもいい?」
満「そう言うことですよね、由良ちゃんが描きたいもの描いて何が悪いんですか?」
由良「満、良いって…どうしたの?私は傷ついたりしてないよ、大丈夫だから」
満「由良ちゃんの絵を馬鹿にしたのが、許せなくて……」
由良「ありがとう、私のために怒ってくれて。でも大丈夫だから、今日はもう戻ろう。直也も、またね。」
直也「待って、ラインだけ交換して」
由良「はい。」
直也「…じゃあね。」
彰「君、親御さんの電話番号教えてくれる?」
由良「なんでですか」
彰「連絡するからだよ。早く」
由良「…。」

  暗転・明転

由良「あの…しじま?って人がいるだろうし…しばらくは行けないね。」
満「うん。…あの、変なこと言ってごめんね…」
由良「良いよ、ありがとね。…そんなに私の絵のことを好きになってもらえて、嬉しいよ。」
ほまれ「玉城さん、申し訳ないんだけど、…あなたも出会ったみたいだけど、外には自治会の見回りの方もいるし、ちょっとしばらくは本当に外に出るのは許可できないわ…ごめんね、本当は私だって、好きに絵を描かせてあげたいし、…玉城さんの絵も素敵だと思うんだけれどね…」
由良「…いいんです、先生に、私の絵を素敵だって思ってもらえてるんだったら、それで十分ですから。」
ほまれ「玉城さんは、優しいのね…」
 ◆由良のスマホに電話がかかってくる
由良「…お父さんだ」
智紀「もしもし、由良か?」
由良「なに?」
智紀「お前…また勝手に学校から抜け出したらしいな、母さんから聞いたぞ!見回りの人に怒られたんだって?お前…お父さんたちを困らせるのも良い加減にしてくれよ!」
由良「生きてるんだからいいじゃん。私そこまで危ないことしないって」
智紀「良くないだろう!お父さんたちがどれだけお前のことを心配してるか…それに先生や満ちゃんだってな、お前を探しに何度も何度も外に出て、…他の子も危険な目に晒すんだぞ!」
智紀「それにお前、海の絵を描いてるらしいな。俺たちの暮らしを壊した海を描くだなんて…不謹慎なんじゃないのか?」
由良「は?どこが不謹慎なの」
智紀「もっと慎ましやかに生きなさい、由良」
 ◆由良が電話を切る
由良「…慎んでたまるかよ。私は私の描きたい物を描く。綺麗なものを綺麗だって言って何が悪い。怒られる筋合いがどこにある。」
満「由良ちゃん?大丈夫?」
由良「大丈夫。…分かり合えない人ってどうしてもいるよね。」
満「うん。……仕方ないことだけど悲しいよね…」
ほまれ「そうだ、…あのね、実は佐々木さんたちが、かくれんぼだー!っていって学校のどこかに行っちゃったの。一緒に探してくれない?」
満「かくれんぼ?懐かしいですね…」
ほまれ「ねぇ。…玉城さんもどう?一緒に校内を歩いてたら、何かあるかもしれないわ」
由良「……そう、…ですね。私もやります」
ほまれ「さぁ!10分以内に二人とも探し出すわよ!」
 ◆花蓮と美空、その他学生服を着たエキストラ達が、バルコニーや舞台上などに顔を出したりする。
 ◆花蓮と美空を連れ、帰ってくる由良達
由良たち「見つけたー!」
花蓮たち「見つかったー!」
 ◆一同、笑い合いながら、暗転

  暗転・明転

由良「……これも没」
満「…由良ちゃん、最近なんだか…変じゃない?」
由良「変?私が?」
満「うん……なんか、前はすっごく楽しそうに絵を描いてたのに、今は…なんか、辛そうだよ」
由良「辛くなんてない、…楽しんでるよ」
直也「満ちゃん、由良ー!見てこれ、アイス………どうしたのこの雰囲気。アイス食べる?」
満「あ、ありがとう」
由良「ありがと。」
由良「………なんか変かな、私」
直也「由良って言うか 二人の雰囲気。いつもはこうなんか…お花ポワポワ~みたいな。でも今日はちょっと違う。なんかあった?」
由良「…私が辛そうに絵を描いてるって、満に言われて。驚いてる」
直也「えっ気づいてなかったの?」
由良「え……直也もそう思ってたの?」
直也「そう思ってるって言うか……前までは、由良が描く海ってもっと自由で、綺麗で、広かったけど………今の由良の絵は、キャンバスに押し込まれてるみたい。…俺今超キモいこと言ったかも」
満「由良ちゃん、…誰かに何か言われたりしたの?」
由良「………そんなことない、私は私が見てる海を描いてるだけだよ」
満「そっか……」
 ◆由良が舞台上で絵を描き続けている
直也「…やっぱりさ、由良最近変じゃない?」
満「……うん…………」
直也「俺たちに何かできないのかな」
満「わからないよ……満だって、由良ちゃんがいつもと違うのはわかるけど、…どうすればいいかなんて分からないの…」
直也「……何ができるかな」
満「話を聞いて励ますとか?」
直也「由良、自分が悩んでるのに気が付いてないよ。……話を聞くって、そもそも話してくれるかな…」
満「どうしたら………」

由良「…うまくいかない、………お父さんにちょっと言われただけなのに……………なんで……」
誰か「不謹慎なんだよ!」
誰か「私たちの暮らしを壊した物の絵を描くなんて!」
誰か「海嫌い。…お母さんのこと連れていっちゃったもん」
誰か「この景色が好きって、頭おかしいんじゃないの?」
誰か「震災で誰かを亡くした人に気持ち分かんないの!?」
誰か「天才って感性がおかしいって聞くけど、ちょっと流石にね…」
由良「………誰かの好きなものを否定する権利なんて、誰にもない…!!」
誰か「あんなのが綺麗だなんて、…気持ち悪」

  暗転・明転

 ◆由良の周りに紙が散らばっている
満「由良ちゃん…美術室にいるなんて、珍しいね。いつもは外にいるのに」
由良「………。」
満「直也君の家のとこ、…もう行かないの?」
由良「………。」
満「……あ、辛いなら、一度絵を描くのを辞めてみる……とか…ううん、ごめん、これは失礼かも」
由良「………。」
満「あ、…スマホ、ついてるよ。………え、…なに、この批判コメント」
由良「………。」
満「こんなの気にする必要ないよ!由良ちゃんが描きたいものを由良ちゃんが描いてるんだから、誰も止める資格なんて…」
由良「もう描きたくない。」
満「……由良ちゃん、あの…」
由良「遮って)もう描きたくない!!」
由良「………描けなくなっちゃった…海も、家も、魚も、人も、…誰かに見せたい絵が、かけない…」
満「…じゃあ、誰に見せるためでもない、自分だけのための絵を描いたらいいんじゃないかな!」
由良「……自分だけの、…ための?」
満「描きたい物を、描きたい時に、描きたい筆で、描きたいふうに。自由で良いんだよ!私にだって。辛いなら見せなくても良いよ。」
由良「…描きたい物を、描きたい時に、描きたい筆で、描きたいふうに………」
満「うん。…由良ちゃんには、それが似合ってる!」
由良「…ありがとう、満。ちょっと楽になった。…………やっぱり、取りに行こうかな。」
満「………何を?」

  暗転・明転

ほまれ「相澤さん、玉城さんを見なかった?」
満「えっ、由良ちゃんですか?」
ほまれ「さっきからどこを探してもいなくて…保護者さんに連絡とかもしてみたんだけど。」
満「見てないです…私も外とか探してみます。」
ほまれ「くれぐれも、危険なことはしないでね。」

花蓮「由良またどっか行ったって本当?」
満「先生から聞いた。私も見てないんだよね…」
美空「心配やっさー、ゆーらーはすぐどっか行っちゃうからさー…」
満「うーん…」
 ◆満に電話がかかってくる
満「…あ、電話。」
満「もしもし。はい、相澤満です」
優子「玉城由良の母親の、玉城優子です。」
満「あ、由良ちゃんのことですか?」
優子「そうなのー、いきなりごめんね。またどこかに行っちゃったって聞いたわ。由良ちゃんのことだし、またすぐ帰ってくるとは思ってるんだけどねー…信用はしてるけど心配になっちゃうのよ」
満「私もちょっと探してみます、見つかったらまた電話した方がいいですか?」
優子「ごめんねぇ、ほんとにいつもありがとう。」
満「いえ、友達なので!」
優子「そうやって言ってくれて嬉しいわ。またね。」
満「はい。」
 ◆満、電話を切る。
満「…どこにいったんだろう……あ、直也くんのところかな?」

  暗転・明転

満「直也くーん!」
直也「満ちゃん…あれ、由良は?」
満「えっ、ここにいると思ってたんだけど…由良ちゃん、いないの?」
直也「見てないけど…一緒に来ると思ってた」
満「じゃあ、一体どこに……」
直也「由良が行きそうなところ、か……」
満「…………あ、もしかして…直也くん、来て!」
直也「どこに?」
満「由良ちゃんの家!」

満「由良ちゃーーーーーんッ!!」
直也「な、何してんの?」
由良「家に帰る。絵の具を取りに行くの」
満「えぇっ!?」
由良「絶対戻るから、誰にも言わないで。」
満「で、でも……」
由良「お願い、満。直也。」
直也「俺はいいけど……」
満「約束してね、絶対帰ってきてね!」
由良「うん。勿論だよ。」
満「すぐ帰ってきて、帰ってこなかったら満起こるからね!?」
由良「分かってる。」
由良「…実はさ、私修学旅行の時のために、資格取ってたんだよね」
満「資格?何の?」
由良「…スキューバダイビング」
 ◆由良、海に飛び込む
満「由良ちゃん!!」
直也「満ちゃん落ち着いて、絶対戻ってくるって言われたでしょ」
満「でも……」
直也「だって、由良が息切れして戻ってこれないところなんて想像できる?」
満「……できない…」
直也「ここで待つかぁ」
満「…だね。」

  暗転・明転

由良「絵の具…………」
神「誰!」
由良「え………そっちこそ誰?ここ私の家なんだけど」
神「あら、そうだったのね、ごめんなさい。深くて落ち着く場所だったから」
由良「私、玉城由良。あなた誰?」
神「あなた由良?本当に?」
由良「え、うん」
神「あらまぁ…いつも絵を見せてくれてありがとう、私すっごく楽しみにしてるのよ」
由良「え、ありがとう…?」
神「でも、お友達以外にはその絵を見せないのね。素敵なのに。最近の子だから、SNSとかに上げるんだと思っていたけれど」
由良「…不謹慎だから。沈んだ家の絵なんて、誰に何言われるかわからないじゃん。」
神「そんなこと気にしないの!芸術は、海のようにおおらかに、大地のように力強く、空のように高らかに。そうあるべきよ」
神「海のように?」
由良「…おおらかに?」
神「そう!大地のように!」
由良「…力強く…」
神「空のように!」
由良「…高らかに。」
神「そうよ。あなたの好きに描いていいの」
由良「…大災害を引き起こして、何人も殺した海を、…綺麗に描いていいの?」
神「当たり前じゃない!だって日本人は昔から、何度も噴火してきた山々や、津波を起こしてきた海を、美しく描いていたじゃない。恐ろしくも美しい海と共に生きるあなたは素敵よ、由良。」
神「みんな、あなたが絵を描いてくれるのを楽しみにしているわ!」
由良「…みんな?」
神「…みんなよ。人間より海の生き物の方がいっぱいいるんだから。もしも多くの人間があなたの絵を望まないなら、その分私たちがあなたの絵を愛してあげるわ」
 ◆神の合図で、波や魚達が舞い踊る。
神「…さあ、絵の具、だったわね。早く探して戻って。そしてまた、私達に絵を見せにきて」
由良「あの、あなたに絵を見せるって、どうすれば。」
神「海に見せて。私は海そのものだから」
由良「は、はあ…」
神「ふふふ、よく分からない?私もよ。」
 ◆神、はけようとする
由良「待って。」
神「なに…」
 ◆神が振り向くところを写真に収める由良
由良「あ、映る。…あなたの絵をいつか描きあげる。完成したら一緒に喜んでくれる?」
神「勿論よ!人に私の姿を描いてもらうのは初めてだわ!百年でも千年でも待ってあげる」
由良「ありがとう。」

  暗転・明転

満「…由良ちゃん、大丈夫かなぁ…」
直也「満ちゃんは心配しすぎだって。」
由良「…ただいま、二人とも」
満「由良ちゃん!!」
 ◆満が由良に抱きつく
由良「ちょっ、私、濡れてるんだけど」
満「…良かった……」
由良「帰ってきただけじゃん…そこまで言うこと?」
満「ううん、顔が前より明るくなった。」
由良「……そっか。あたし、そうなんだ。」
直也「…これからも絵描き続けてよ。俺は引っ越すけど、何年経っても由良の名前がネットに出てこなかったら許さないから」
由良「え、あんた引っ越すの?」
直也「うん。どこだっけ…アメリカ?わかんないけど」
満「聞いてないよ!なんでもっと…早くに、言ってくれなかったの…!?」
直也「いや、由良が悩んでんのにこれ以上満に負担かけるわけに行かないじゃん」
満「そんな…」
由良「じゃあ、約束しよう。22歳くらいになったらさ、また集まろう。」
直也「どこで?」
由良「直也の家のとこ。」
直也「俺ん家かよ」
由良「家そのものがなくなってたら海の上集合ね。船で来て。」
満「えぇっ!?船なんて買えませんし、運転も…」
由良「大丈夫、その時は天才画家様が船を買ってあげるから。」
直也「ふっ、はははは!良いじゃんそれ。デカい船買ってくれよ」
由良「小舟にしてよ。モーターボートで十分でしょ」
 ◆三人、笑い合う
由良「……私は絵を描くのをやめないから。誰が私を否定しても、私はこの海と生きていく」
満「由良ちゃんらしいね!」
直也「そうだね。」
由良「…じゃあ、今日はもう帰ろうか。」
直也「うん。また会おう」
由良「7年後に、またここで!」

  暗転・明転

ナレーター「こうして、三人は、別々の暮らしに戻っていきました。」
ナレーター「その後 再開した満と直也が結婚したのはまた別のお話。」

  カーテンコール
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