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20 婚約破棄の申し入れ〜グレアム様はいいのですがご実家が無理です
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静かに扉を閉めて、一番奥のカーテンの閉まっているベッドに近づく。
今は穏やかに眠っていますが、これが午前中からずっと目覚めないというのは、やはりどう考えても体によろしくない。
保健室に詰めているはずの救護医もいません。症状は「寝てるだけ」ですから、席も外すだろう。
オレンジ色の保健室の中で、グレアム様のベッドの端に座ります。起きてもいいのにな。……起きない。
片手を握り、もう片手でお祖父様のペンダントを握って、彼の解毒をしてください、とお願いすると、温かい光がグレアム様を包みました。
グレアム様の体から、紫色の粒子が抜けていきます。私の目に見えるほどの毒の粒がサラサラと光に触れて消えていく。
よくよく考えたら、グレアム様は神の守りもなく、王族という権力もなく、剣が使えるわけでもなく、魔法が使えるわけでもない。
ミスト侯爵家は事業をやっているから、そういうのは得意かもしれないな。でも、私のことを守る、っていうのには本当に向いてない。
様子がおかしい人が近づいて来たらさり気なく邪魔するとか、そういうのは得意なんだろうけど。
「向いてないことくらい、わかってるでしょ……」
私がいないからと授業中に突然教室を抜け出したらしい。
そこで誰か……ミュカ様なりルークス様なり呼びに行くとか、考え付かなかったんだろうか。
つかなかったんだろうな。
グレアム様はずっと私のことが大好き。私が塩対応をしても、ずっと。1回目の時、私の手からナイフを叩き落とした彼はどんな表情をしていたっけ。
「う……ん、ニア!」
「無事にここにいますよ、グレアム様」
起き抜け1番が私のことだなんて、本当に困った人だ。
とっても怖かったけど、来てくれて嬉しかったですとか、危ないのが分かってるんだから助っ人を呼んでくださいとか、色々と言いたい事はあったけれど。
「ニア……ニア、無事でよかった。すまない、何もできず……ニア……!!」
私の手を両手で握って謝ってくるグレアム様にそんな事は言えなくて。私はただ、はい、とか、いいえ、とか言いながら、落ち着くのを待った。
すっかり暗くなる頃、お互いの顔が外のほの灯りに照らされる中で、私はグレアム様に切り出した。
「グレアム様、婚約は破棄しましょう。私はグレアム様は嫌いじゃないですが、ちいさな子供に劇薬を与えるミスト侯爵家に嫁ぐのは無理です。早いうちに死ぬ気しかしません」
「ニア……、いや、そうだな。俺がここで醜く追い縋っても、君を我が家に嫁がせるというのは……、たしかに危険だ」
自分も危険な薬の餌食になったからか、グレアム様は苦々しく頷きます。
ミスト侯爵家は今後落ち目を辿る事になるはずです。惚れ薬(劇薬)を婚約者に使った家として、貴族の間でうわさされるでしょう。
「ですので、グレアム様が卒業して叙勲された時に、私の気が変わっていなかったら、もう一度婚約を申し込んでくれてもいいですよ」
「叙勲……?」
「詳しくは、明日バズ殿下から聞いてください。さ、遅いですから帰りましょう」
「あぁ。……余計に手間をかけさせてしまって、すまない」
「……今日のグレアム様は、かっこよかったです」
赤い顔で呟いて、私は先にベッドから立ち上がった。
置いていきますよ、と言って急かす。あんまり、できれば、今後は……無茶せず爽やかな顔で笑っていて欲しい。
今は穏やかに眠っていますが、これが午前中からずっと目覚めないというのは、やはりどう考えても体によろしくない。
保健室に詰めているはずの救護医もいません。症状は「寝てるだけ」ですから、席も外すだろう。
オレンジ色の保健室の中で、グレアム様のベッドの端に座ります。起きてもいいのにな。……起きない。
片手を握り、もう片手でお祖父様のペンダントを握って、彼の解毒をしてください、とお願いすると、温かい光がグレアム様を包みました。
グレアム様の体から、紫色の粒子が抜けていきます。私の目に見えるほどの毒の粒がサラサラと光に触れて消えていく。
よくよく考えたら、グレアム様は神の守りもなく、王族という権力もなく、剣が使えるわけでもなく、魔法が使えるわけでもない。
ミスト侯爵家は事業をやっているから、そういうのは得意かもしれないな。でも、私のことを守る、っていうのには本当に向いてない。
様子がおかしい人が近づいて来たらさり気なく邪魔するとか、そういうのは得意なんだろうけど。
「向いてないことくらい、わかってるでしょ……」
私がいないからと授業中に突然教室を抜け出したらしい。
そこで誰か……ミュカ様なりルークス様なり呼びに行くとか、考え付かなかったんだろうか。
つかなかったんだろうな。
グレアム様はずっと私のことが大好き。私が塩対応をしても、ずっと。1回目の時、私の手からナイフを叩き落とした彼はどんな表情をしていたっけ。
「う……ん、ニア!」
「無事にここにいますよ、グレアム様」
起き抜け1番が私のことだなんて、本当に困った人だ。
とっても怖かったけど、来てくれて嬉しかったですとか、危ないのが分かってるんだから助っ人を呼んでくださいとか、色々と言いたい事はあったけれど。
「ニア……ニア、無事でよかった。すまない、何もできず……ニア……!!」
私の手を両手で握って謝ってくるグレアム様にそんな事は言えなくて。私はただ、はい、とか、いいえ、とか言いながら、落ち着くのを待った。
すっかり暗くなる頃、お互いの顔が外のほの灯りに照らされる中で、私はグレアム様に切り出した。
「グレアム様、婚約は破棄しましょう。私はグレアム様は嫌いじゃないですが、ちいさな子供に劇薬を与えるミスト侯爵家に嫁ぐのは無理です。早いうちに死ぬ気しかしません」
「ニア……、いや、そうだな。俺がここで醜く追い縋っても、君を我が家に嫁がせるというのは……、たしかに危険だ」
自分も危険な薬の餌食になったからか、グレアム様は苦々しく頷きます。
ミスト侯爵家は今後落ち目を辿る事になるはずです。惚れ薬(劇薬)を婚約者に使った家として、貴族の間でうわさされるでしょう。
「ですので、グレアム様が卒業して叙勲された時に、私の気が変わっていなかったら、もう一度婚約を申し込んでくれてもいいですよ」
「叙勲……?」
「詳しくは、明日バズ殿下から聞いてください。さ、遅いですから帰りましょう」
「あぁ。……余計に手間をかけさせてしまって、すまない」
「……今日のグレアム様は、かっこよかったです」
赤い顔で呟いて、私は先にベッドから立ち上がった。
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