【完結】冷徹騎士のプロポーズ〜身分の差を実力で捩じ伏せた幼馴染の執着〜

葉桜鹿乃

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1 伯爵令嬢は釣書を見る事にした

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 お父様から渡された立派な革張りの本と呼ぶには薄い冊子。中には金で家紋が箔押しされた物もある。

 姿絵と仔細な事まで、『盛って』書かれた(きっと売れない物書きにでも頼んだに違いない)紙の挟まった冊子が、10は机の上にのっかっている。

 これでもお父様は厳選したと言っていたのだから、果たして落とされた人はどんな内容と姿絵だったのか逆に気になる。

 ジェニック伯爵の娘、ミーシャ。領地に引きこもってばかりの深窓の伯爵令嬢、気弱で控えめで心根が優しくて、その美しさから都会を追い出された、と尾鰭どころか背鰭まで付け足された噂が流れているらしいのが、私。

 小さい頃は泥だらけで領民の子と走り回り、その時のある約束が忘れられずに、私は都会を去った。都では、必ず社交が付きまとう。

 気のない社交をするのは失礼だと思ったし、間違って求愛されても受ける気は無いのだからと、私は社交界デビューだけは済ませて領地に引っ込んだ。

 それからずっと、領地経営の手伝いをしている。今ではすっかりお父様の秘書だ。お父様はサインを書くだけで楽だと言うが、おかげで娘は教養よりも領地運営に詳しくなってしまいましたけど。

 ストロベリーブロンドの長い髪と菫色の瞳、スラリとした体型はスタイルがいいと言われるか、メリハリが無いと言われるか分かれる所だ。

 そんな私も今年20歳になる。成人が16歳で結婚の適齢期は22歳までと言われている世の中だ。さすがにお父様も焦ったのだろう。

 領地と首都を往来するお父様が、あの変な噂を聞きつけて私に教えてきたが、それを餌にこんなに要らない魚を釣ってこなくてもいいのに、と思う。

(潮時かな……、もう、7年も帰ってきていないし)

 私の忘れられない約束の相手は、13歳の時に冒険者になると言って領地を出て行った。両親にも止められていたが、13歳から冒険者登録は出来ることになっている。

 彼の夢がそれならば、私は応援する事しかできない。約束も忘れているかもしれない。私と、彼との間では約束の重みが違かったのだろう。

(でも、まぁ、5歳の約束をいつまでも引きずってる重い女を選ぶよりは、冒険者として身を立てる方が正解だよね)

 出ていく時、約束の事を言おうとしてもできなかった。恥ずかしかったし、そんなもので彼を引き止めても、彼はやがて夢を諦めきれずに居なくなるかもしれない。

 冒険者なんて危険極まりない仕事、やめて欲しいとは思うけど……、伯爵家のお嬢様と、平民の農家の息子ではどの道結婚は難しかっただろう。

 私は誕生日を明後日に控えている。ほぼほぼ20歳だ。

 潮時だろう。もう、諦めて、行き遅れになる前に私も結婚相手を決めて将来のことを考えないと。

 出窓に座って机から距離を置いて本を読んでいた私は、諦めて本を閉じて釣書の山と格闘する事にした。

 中に書かれている盛られた内容から、なるべく真実に近そうな内容を選ぼうとする。

 『社交的で顔が広く、資産も豊富』ギャンブル癖があるか、女性関係にだらしない。

 『何ごとにも真面目に取り組み、一つの事に集中して結果を出す』仕事ばかりで、家庭を顧みない、跡取りが産まれればいいタイプだ。

 『文武両道に秀で、祖父は勲章を貰ったことがある』秀でているなら本人が貰ってるでしょうが!

「あーもー!」

 やる気はなかったのでベッドの上で開いていたが、その邪魔な釣書を床に退けてベッドに顔を埋める。

 こんな嘘っぱちだらけの見合い相手は嫌だ。やっぱり、私の事も見てくれて、当たり前だけどちゃんと優秀で、何なら危ない事の全部から守ってくれる騎士様みたいな……、それで、硬い鎧で私を抱き上げて馬に乗せてくれたりして……、ロマンス小説を読みすぎたかな。

「あぁ! もう、ヴァンツァーのバカ!」

 その全ての妄想が、大人になった約束の相手の妄想姿で思い浮かぶ。

 そんな自分が嫌で、私は叫びながらクッションを抱きしめた。
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