3 / 18
3 見知らぬ騎士の侵入
しおりを挟む
「お嬢様、大変です! 領内に流浪の騎士が現れたと……冒険者証を持っていたので通したらしいのですが、黒いフルアーマーで顔も見えず、お屋敷の方に黒馬で向かっているとの事で、関所の門兵が早馬を飛ばして来ました……!」
「お父様はまだ首都からの帰り道ね……、いいわ、私が応対します。暴れ回っている訳でも無いのだし、そんなに慌てなくても大丈夫よ」
サリーを宥めながらも、私の心中は穏やかでは無かった。
屋敷には私兵もいるし、馬に乗っているとは言え数で勝るこちらが危ない目に遭うことは無いはずだ。それに、襲撃をかけるならわざわざ門を通る必要はない。
屋敷と領内で栄えている街は反対方向だ。真ん中は堂々たる田畑で、馬車で1日の距離がある。
そんなに大きな領ではないけれど、冒険者ギルドもあるし、魔物から田畑や家畜を守ってくれる冒険者は街では歓迎されている。なのに、なんで屋敷に? と、不安になる。
サリーはもっと不安だろう。私が弱気を見せるわけにはいかない。私兵に武装と警護をするように伝えさせて、私は見知らぬ騎士を迎える支度をする。
いち冒険者であるのなら、冒険者家業をやめて我が家の私兵になりたいと言う可能性もある。
怪しいというだけで罪人では無いのだから、と私は深呼吸をして侍女に来客用の装いにしてもらい、きっちり髪も結い上げた。
女の武装は見た目だ。侮られては話にならないのは、お父様の後ろで微笑んで立っている時に嫌という程学んだ。
こちらの顔色を読ませず、簡潔に話を進める。強引にも卑屈にもなってはいけない。女は度胸! と心の中で唱えながら、私は唇に紅を引かれて一階で到着を待った。
屋敷の門、エントランス、庭に、部屋の中にも兵を配置して、来客の体なのでお茶も用意する。
今ここの責任者は私だ。怖がってはいられない。
「お嬢様……、お客様がお見えです」
サリーが青褪めた顔で私に告げる。
そんなに怖いものなのだろうか?
「お通ししてちょうだい」
「そ、それが、長旅で汚れているから中に入るのは遠慮したいとの事で……それも、旦那様ではなくお嬢様に用があるという事なんです」
「……分かったわ。ついて来て」
サリーの疑問と恐怖の入り混じった声の取り次に、私は兵を引き連れてエントランスを出た。
大きな黒い馬の首を撫でながら、黒に金の縁取りの全身鎧の騎士は確かに強そうで、怖い。背も見上げるほど高い。
軽武装の兵士たちも多少怯みつつ、黒騎士の周りを距離を空けて取り囲んでいる。私の後ろにも5名の兵がいる。
(ヴァンツァーの馬鹿……、なんで貴方のことを考えた時に、守りに来てくれないの)
毅然とした態度で庭で黒騎士に向かい合う距離まで近づくと、黒騎士は片膝をついて私に最敬礼した。
「?! 私はジェニック領の現在の責任者です。あ、貴方は何者ですか? 用件は何でしょうか」
驚いて少しどもってしまった。声も上ずる。こんな立派な騎士が流浪の冒険者というのも怪しい。これはサリーも怖がるはずだ。
だが、とても礼儀正しく礼をした彼は、膝をついたままくぐもった笑いを溢した。
「……ジェニック。そうか、まだ、ジェニックでいてくれたのだな」
「はい?!」
「分からないか? あぁ、そうか……兜を被っていては分からないな」
流線型の美しい身体に沿うようなデザインの黒騎士の鎧は、それだけで一財産築けそうな見るからに高価なものだし、馬だってどう見ても名馬だ。力強い脚に、毛艶の良い大きな馬体をしている。金に困って雇われに来たとは思えないし、ますますよく分からない。
黒騎士は顎の辺りを緩めると、兜を取った。
兜に収めるために長い直毛の黒髪を結い、顔に少し痛そうな傷跡があるが、鼻筋が通っていて理知的で切長な黒い瞳の、若い男性だった。
「ミーシャ」
表情も無く、彼は私の名乗っていない名前を呼ぶ。冷たく見据えられている筈なのに、瞳はどこか和らいで見える。
その呼び方には、覚えがある。ちょっとだけ語尾が優しくなる、私の手をいつも引いてくれていた、あの幼馴染。
あの時のように笑いかけてくれている訳でもない。だけど、面影が重なってしまえば、それが誰だかは一瞬で分かった。
「ヴァン、ツァー……?」
「お父様はまだ首都からの帰り道ね……、いいわ、私が応対します。暴れ回っている訳でも無いのだし、そんなに慌てなくても大丈夫よ」
サリーを宥めながらも、私の心中は穏やかでは無かった。
屋敷には私兵もいるし、馬に乗っているとは言え数で勝るこちらが危ない目に遭うことは無いはずだ。それに、襲撃をかけるならわざわざ門を通る必要はない。
屋敷と領内で栄えている街は反対方向だ。真ん中は堂々たる田畑で、馬車で1日の距離がある。
そんなに大きな領ではないけれど、冒険者ギルドもあるし、魔物から田畑や家畜を守ってくれる冒険者は街では歓迎されている。なのに、なんで屋敷に? と、不安になる。
サリーはもっと不安だろう。私が弱気を見せるわけにはいかない。私兵に武装と警護をするように伝えさせて、私は見知らぬ騎士を迎える支度をする。
いち冒険者であるのなら、冒険者家業をやめて我が家の私兵になりたいと言う可能性もある。
怪しいというだけで罪人では無いのだから、と私は深呼吸をして侍女に来客用の装いにしてもらい、きっちり髪も結い上げた。
女の武装は見た目だ。侮られては話にならないのは、お父様の後ろで微笑んで立っている時に嫌という程学んだ。
こちらの顔色を読ませず、簡潔に話を進める。強引にも卑屈にもなってはいけない。女は度胸! と心の中で唱えながら、私は唇に紅を引かれて一階で到着を待った。
屋敷の門、エントランス、庭に、部屋の中にも兵を配置して、来客の体なのでお茶も用意する。
今ここの責任者は私だ。怖がってはいられない。
「お嬢様……、お客様がお見えです」
サリーが青褪めた顔で私に告げる。
そんなに怖いものなのだろうか?
「お通ししてちょうだい」
「そ、それが、長旅で汚れているから中に入るのは遠慮したいとの事で……それも、旦那様ではなくお嬢様に用があるという事なんです」
「……分かったわ。ついて来て」
サリーの疑問と恐怖の入り混じった声の取り次に、私は兵を引き連れてエントランスを出た。
大きな黒い馬の首を撫でながら、黒に金の縁取りの全身鎧の騎士は確かに強そうで、怖い。背も見上げるほど高い。
軽武装の兵士たちも多少怯みつつ、黒騎士の周りを距離を空けて取り囲んでいる。私の後ろにも5名の兵がいる。
(ヴァンツァーの馬鹿……、なんで貴方のことを考えた時に、守りに来てくれないの)
毅然とした態度で庭で黒騎士に向かい合う距離まで近づくと、黒騎士は片膝をついて私に最敬礼した。
「?! 私はジェニック領の現在の責任者です。あ、貴方は何者ですか? 用件は何でしょうか」
驚いて少しどもってしまった。声も上ずる。こんな立派な騎士が流浪の冒険者というのも怪しい。これはサリーも怖がるはずだ。
だが、とても礼儀正しく礼をした彼は、膝をついたままくぐもった笑いを溢した。
「……ジェニック。そうか、まだ、ジェニックでいてくれたのだな」
「はい?!」
「分からないか? あぁ、そうか……兜を被っていては分からないな」
流線型の美しい身体に沿うようなデザインの黒騎士の鎧は、それだけで一財産築けそうな見るからに高価なものだし、馬だってどう見ても名馬だ。力強い脚に、毛艶の良い大きな馬体をしている。金に困って雇われに来たとは思えないし、ますますよく分からない。
黒騎士は顎の辺りを緩めると、兜を取った。
兜に収めるために長い直毛の黒髪を結い、顔に少し痛そうな傷跡があるが、鼻筋が通っていて理知的で切長な黒い瞳の、若い男性だった。
「ミーシャ」
表情も無く、彼は私の名乗っていない名前を呼ぶ。冷たく見据えられている筈なのに、瞳はどこか和らいで見える。
その呼び方には、覚えがある。ちょっとだけ語尾が優しくなる、私の手をいつも引いてくれていた、あの幼馴染。
あの時のように笑いかけてくれている訳でもない。だけど、面影が重なってしまえば、それが誰だかは一瞬で分かった。
「ヴァン、ツァー……?」
20
あなたにおすすめの小説
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
冷淡姫の恋心
玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。
そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。
我慢すれば済む、それは本当に?
貴族らしくある、そればかりに目を向けていない?
不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。
※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々
佐藤 美奈
恋愛
エリーゼ・ダグラス公爵家の令嬢は、フレックス・グリムベルク王子と婚約していた。二人の結婚は間近に迫り、すべてが順調に進んでいると思われた。しかし、その幸せは突然崩れ去る。妹のユリア・ダグラスが、フレックスの心を奪ってしまったのだ。婚約破棄の知らせが届くとき、エリーゼは絶望に打ちひしがれた。
「なぜ?」心の中で何度も繰り返した問いに、答えは見つからない。妹に取られたという嫉妬と、深い傷を負ったエリーゼが孤独に沈んでいた。そのとき、カイル・グリムベルク王子が現れる。
彼はエリーゼにとって、唯一の支えであり安らぎの源だった。学園で『氷の王子様』と呼ばれ、その冷徹な態度で周囲を震えさせているが、エリーゼには、その冷徹さとは対照的に、昔から変わらぬ温かい心で接してくれていた。
実は、エリーゼはフレックスとの婚約に苦しんでいた。彼は妹のユリアに似た我儘で気まぐれな性格で、内心では別れを望んでいた。しかし、それを言い出せなかった。
婚約者が肉食系女子にロックオンされています
キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19)
彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。
幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。
そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。
最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。
最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。
結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。
一話完結の読み切りです。
従っていつも以上にご都合主義です。
誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。
佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。
そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。
バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。
逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる