【完結】冷徹騎士のプロポーズ〜身分の差を実力で捩じ伏せた幼馴染の執着〜

葉桜鹿乃

文字の大きさ
14 / 18

14 胸が締め付けられる

しおりを挟む
 パーティーが終わり、寝支度を整えた私はお父様の部屋に向かった。あまり淑女が寝巻きで部屋の外を歩くものではないが、これだけは今日のうちにお父様に話さなければいけない。

 寝室を尋ねたら、執務室にまだいるという。こんな遅い時間に? と思いながら私は執務室を訪ねた。

「お父様、今日はありがとうございました。それで、お話が……」

「聞いている。ヴァンツァーが教えてくれた……今、やらかしそうな者を私も洗っている所だ」

「……ヴァンツァーが?」

 私の訝しげな声にお父様が違った目で見ていた釣書の山から顔を上げる。

 険しい顔をしていた。同時に、悲しい顔でもあった。

「私もお前の噂を独り歩きさせたままにした責任もあるが、ヴァンツァーは本気でそいつを……、どうにかする気だ。俺の領地で起こったことだから全面的に任せてほしい、と言っていた。が、私も可愛い娘のお前が誘拐されかけたと聞いて何もせずにはいられまい」

 私を咎めることもなく、お父様は自分の行いを悔いながら、犯人の洗い出しに励んでいた。

 隣の領から、明日取調べの結果がくるはずだ。そんなに必死になって調べなくても、と思って、だけどなんと声をかけていいのかは分からず、その姿を見つめる。

「……ヴァンツァーが冒険者になると言って出て行く前日、あの子は私に言った。ミーシャを幸せにする男になって帰ってくる、と。必ず、帰ってくると。……ただ、ミーシャには言わないでほしいとも言われた。あの子は、これと決めたら必ずやり遂げる子だった。……だが、お前も知っているだろう? ヴァンツァーは有言実行するが、目的を達した後の事が苦手だ。私は彼が動くなら、それをサポートせねばならん」

 お父様も、子供の頃から私がヴァンツァーが好きで、出て行ってからも好きで、待っていた事を知っていた。

 そして、ヴァンツァーの事もちゃんと見ていた。どんな顔で13歳の子の誓いを聞いたのだろう。そして、私は待つことをお父様に『許されて』いた。

 見合いの釣書は持ってきても、結婚しろとせっつきはしなかった。こんな相手はどうだ? と勧めても、私が首を横に振ることを責めなかった。

 待っていたのは私だけじゃなく、ヴァンツァーは私が待てるようにお父様に誓って出て行ったのだ。

 胸が、締め付けられる。狂おしいほどあの人が愛おしい。

 躊躇いなく人を昏倒させたヴァンツァーの声は氷より冷たかった。とてもじゃないけど、目を開く事も、逆らう事もできない。

 冷徹な騎士となった彼は、肉体の不調で笑えない。そこまで徹底して、己を鍛え、挑み、勝って力をつけて帰ってきた。

 ——私を幸せにするために。

 お父様もお父様だ。今日まで黙っておくなんて。こんなことにならなければ、きっと聞くことの無かった過去。

「お父様、もう休みましょう。明日、報告が来ます。……ヴァンツァーの後始末は、私も一緒に手伝いますから」

「ミーシャ……」

「お願いです。ヴァンツァーと、……頼りないですが、私を信じてください。私はヴァンツァーに守られています、……帰ってきたら、この先一生を、彼と共にするお返事をするつもりです」

 プロポーズの返事は、保留。でも、予約と言って渡された指輪は、あまりに私にピッタリすぎて……、この指輪を予約ではなく婚約指輪として渡したかったに違いない。

「ミーシャ……、決めたのか。ヴァンツァーは、確かに素晴らしい青年だが……」

「決めました。彼が、私以外にどうであっても、一度決めたことは守る人です。私を幸せにすると決めたのなら、絶対にそうしてくれます」

「そうか……。ふぅ、まったく、お前たちは頑固だな」

「約束を守ることくらいは、私だってしますよ。さぁ、寝ましょう。明日は忙しくなります」

 そう。せめて、何もできないミーシャから、一歩ずつ進まなければ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

冷淡姫の恋心

玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。 そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。 我慢すれば済む、それは本当に? 貴族らしくある、そればかりに目を向けていない? 不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。 ※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

佐藤 美奈
恋愛
エリーゼ・ダグラス公爵家の令嬢は、フレックス・グリムベルク王子と婚約していた。二人の結婚は間近に迫り、すべてが順調に進んでいると思われた。しかし、その幸せは突然崩れ去る。妹のユリア・ダグラスが、フレックスの心を奪ってしまったのだ。婚約破棄の知らせが届くとき、エリーゼは絶望に打ちひしがれた。 「なぜ?」心の中で何度も繰り返した問いに、答えは見つからない。妹に取られたという嫉妬と、深い傷を負ったエリーゼが孤独に沈んでいた。そのとき、カイル・グリムベルク王子が現れる。 彼はエリーゼにとって、唯一の支えであり安らぎの源だった。学園で『氷の王子様』と呼ばれ、その冷徹な態度で周囲を震えさせているが、エリーゼには、その冷徹さとは対照的に、昔から変わらぬ温かい心で接してくれていた。 実は、エリーゼはフレックスとの婚約に苦しんでいた。彼は妹のユリアに似た我儘で気まぐれな性格で、内心では別れを望んでいた。しかし、それを言い出せなかった。

婚約者が肉食系女子にロックオンされています

キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19) 彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。 幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。 そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。 最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。 最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。 結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。 一話完結の読み切りです。 従っていつも以上にご都合主義です。 誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

処理中です...