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3 私は神殿で神学を学んでいます、そして、いじめも
家族とヴィル殿下に見送られながら……ヴェロニカは涙まで流して……私は神殿の迎えの馬車を前に振り返る。
あまりの白々しさになんの感情も浮かばない私は、無表情のまま一礼して馬車に乗り込んだ。
神の嫁になるので、全ての私物は置いて、まっさらな私で向かう事になっている。服も昨日と同じ物、これが神へ嫁ぐウエディングドレスだとしたら、確かにふさわしいかもしれない。
私の身体中に刻まれた金色の刺青は、生まれた時からそうあったように身体に馴染み、何の違和感もない。馬車の中で手の甲の綺麗な模様を眺めていたら、それだけで大聖堂へ到着した。
貴族街の中心にある大聖堂。この中の神殿、更に奥まったところにある祈りの塔で私は最終的に暮らす事になる。
まずは大聖堂にて祈りを捧げ、薬湯で沐浴をした後、肌の出ない神官服に着替えた。
私は聖女なので、身分としては大神官様や国王陛下よりも上となる。聖女は人間の枠を外れて神に近いものとされているからだ。
とはいえ、神学は神殿の秘学。祈りの塔へ向かう前に、一月かけて神学を学ぶと説明された。他の神官に混ざっての生活ということで、私は狭いながらも個室と着替えを与えられた。
部屋の中には神官服が数着と下着、薬湯による沐浴は毎日代わる代わる行われ、私は新人なので一番最後に入り浴場を清めて最後に眠る。
そして一番早く起きて大聖堂の100以上はある蝋燭に火を灯すのが最初の仕事らしい。
何の不思議もなくそれを受け入れて、今日は休むようにと言われて狭いベッドに転がった。机と椅子、ペンとインクとノートもある。
屋根裏部屋よりも余程居心地がいい。床にはニスが塗られてささくれもなく、軋まない。布団もちゃんと柔らかいし、私は早くに眠って朝陽が昇る前に起きた。
一人の身支度は手慣れたものだし、ドレスよりずっと脱ぎ着しやすい。化粧も必要無い。髪をまとめて頭巾を被る。
言われた通り誰もいない廊下を歩き、大聖堂の蝋燭に火をつける。
(あら……、よく考えたら、貴族の令嬢って普通は耐えられないんじゃないかしら?)
誰かの手を借りなければ服も着れないのが当たり前、残り湯での入浴も、もしかしたらあの部屋も、普通の令嬢なら耐えられまい。
まして、日が昇る前に起きて仕事をする。私は受け入れてしまったし、できてしまったけど、……これ、侯爵令嬢に対する扱いとしてはかなり不当だ。
私が仕事を終えて部屋に戻ろうとすると、大きな声が聞こえてきた。そっと影からその様子を伺う。私の部屋の前だ。
「ちょっといつまで寝てるつもり? 早く起きて仕事なさいよ」
「そうよ、お嬢様気分で聖女になろうなんて、神様だって嫌に決まってるわ」
「ほら、お着替えを手伝ってあげるわよ? 聖女様!」
神官ともあろう女性たちの言葉と声とは思えない、とても攻撃的な態度で、ノックもなしに人の部屋に入った彼女たち。
もぬけのからの部屋を見て唖然としているところに、後ろから声をかけた。
またか、という気持ちが大きい。
「おはようございます。大聖堂の火を灯してきました。次は何をすればよろしいですか?」
私の底冷えのするような、何もかもを諦め切った声に、彼女たちはゆっくりと振り向いた。
恥をかかせてやろうとしたのに、逆に恥をかいたのは彼女たち。満面に怒りをのせて、私の肩に肩をぶつけて出ていった。
私は何も知らされず、教えられてもいないので部屋でぼうっとしていたら、年嵩の神官が呼びにきた。昨日、私を案内してくれた人だ。
「聖女様、何をなさっているのです? 朝食の時間です。世話係を申し付けた3人はどうしました?」
どこか私を咎めるような声ではあったが、私の無機質な表情を見て彼女も怯んだ。
「時間より遅くきて、私が仕事を終えて戻った時にはノックもなく部屋に押し入り、後の指示も出さずに去っていった彼女たちが世話係ですか? 私は朝食の時間も場所も知らされていません。このままでは立ち行かないのですが」
「……申し訳ございません。必ず叱りつけておきます。食堂に案内するので、こちらへ」
年嵩の神官は弁えているようだった。彼女は高位の神官で、私に神学を教える教師でもあるらしい。彼女とならうまくやれそうだ。私に、申し訳ございません、なんて言う人はそういない。
20人ほどいる食堂の末席に座る。私は一番の新参者だから、当たり前だ。誰も食事に手をつけていないあたりは神官らしい気もするが、食事内容にはうんざりした。
野菜と卵のスープとパン。それは構わない。なぜ、私のスープには卵のかけらも屑野菜も何一つ無く、パンは他の人の5分の1の厚さなのだろうか。聖女なんて飢えて死ねばいいという現れかな?
祈りの言葉を述べて、全員が手をつけてから私も食事に手をつけた。野菜が浮かんでいないどころか、水で薄められている。殆ど味のしない冷めたスープとパンを綺麗に食べて、私は先の神官と図書室に向かった。
神学の勉強をするために、私は神殿にいる。その間、仕事は朝の蝋燭を灯すことと、浴場の掃除。他の神官はそれぞれ仕事と奉仕があるらしいので、静かなものだ。
勉強は穏やかで楽しかった。知らない事を学ぶのは楽しい。鞭で叩かれることもないし、癒しの力や恵みの力、神への祈りの作法、作法による効果の違い、かなりの詰め込み授業だったが、私にはちょうどいい。余計なことを考えずに済むから。
日々嫌がらせは続いた。入浴後には何故か寝巻きがびしょ濡れになっていたり、私の食事はずっと変わらなかった。誰よりも貧相で、微かな塩気のあるスープ。
痩せ細っていくのを教師の神官も見ていただろうに、何も言わない。叱りつけたと言ったあと、あの3人が世話に来ることもない。
この神学とやらも本来は一年かけて学ぶものらしいと知ったのは、後のこと。私が躓かないのが面白くなくて、どんどん難解にしていっているらしいと、陰口で知った。
私は高位の神官にも嫌われている。
好きで、聖女になったわけではないのに。
あまりの白々しさになんの感情も浮かばない私は、無表情のまま一礼して馬車に乗り込んだ。
神の嫁になるので、全ての私物は置いて、まっさらな私で向かう事になっている。服も昨日と同じ物、これが神へ嫁ぐウエディングドレスだとしたら、確かにふさわしいかもしれない。
私の身体中に刻まれた金色の刺青は、生まれた時からそうあったように身体に馴染み、何の違和感もない。馬車の中で手の甲の綺麗な模様を眺めていたら、それだけで大聖堂へ到着した。
貴族街の中心にある大聖堂。この中の神殿、更に奥まったところにある祈りの塔で私は最終的に暮らす事になる。
まずは大聖堂にて祈りを捧げ、薬湯で沐浴をした後、肌の出ない神官服に着替えた。
私は聖女なので、身分としては大神官様や国王陛下よりも上となる。聖女は人間の枠を外れて神に近いものとされているからだ。
とはいえ、神学は神殿の秘学。祈りの塔へ向かう前に、一月かけて神学を学ぶと説明された。他の神官に混ざっての生活ということで、私は狭いながらも個室と着替えを与えられた。
部屋の中には神官服が数着と下着、薬湯による沐浴は毎日代わる代わる行われ、私は新人なので一番最後に入り浴場を清めて最後に眠る。
そして一番早く起きて大聖堂の100以上はある蝋燭に火を灯すのが最初の仕事らしい。
何の不思議もなくそれを受け入れて、今日は休むようにと言われて狭いベッドに転がった。机と椅子、ペンとインクとノートもある。
屋根裏部屋よりも余程居心地がいい。床にはニスが塗られてささくれもなく、軋まない。布団もちゃんと柔らかいし、私は早くに眠って朝陽が昇る前に起きた。
一人の身支度は手慣れたものだし、ドレスよりずっと脱ぎ着しやすい。化粧も必要無い。髪をまとめて頭巾を被る。
言われた通り誰もいない廊下を歩き、大聖堂の蝋燭に火をつける。
(あら……、よく考えたら、貴族の令嬢って普通は耐えられないんじゃないかしら?)
誰かの手を借りなければ服も着れないのが当たり前、残り湯での入浴も、もしかしたらあの部屋も、普通の令嬢なら耐えられまい。
まして、日が昇る前に起きて仕事をする。私は受け入れてしまったし、できてしまったけど、……これ、侯爵令嬢に対する扱いとしてはかなり不当だ。
私が仕事を終えて部屋に戻ろうとすると、大きな声が聞こえてきた。そっと影からその様子を伺う。私の部屋の前だ。
「ちょっといつまで寝てるつもり? 早く起きて仕事なさいよ」
「そうよ、お嬢様気分で聖女になろうなんて、神様だって嫌に決まってるわ」
「ほら、お着替えを手伝ってあげるわよ? 聖女様!」
神官ともあろう女性たちの言葉と声とは思えない、とても攻撃的な態度で、ノックもなしに人の部屋に入った彼女たち。
もぬけのからの部屋を見て唖然としているところに、後ろから声をかけた。
またか、という気持ちが大きい。
「おはようございます。大聖堂の火を灯してきました。次は何をすればよろしいですか?」
私の底冷えのするような、何もかもを諦め切った声に、彼女たちはゆっくりと振り向いた。
恥をかかせてやろうとしたのに、逆に恥をかいたのは彼女たち。満面に怒りをのせて、私の肩に肩をぶつけて出ていった。
私は何も知らされず、教えられてもいないので部屋でぼうっとしていたら、年嵩の神官が呼びにきた。昨日、私を案内してくれた人だ。
「聖女様、何をなさっているのです? 朝食の時間です。世話係を申し付けた3人はどうしました?」
どこか私を咎めるような声ではあったが、私の無機質な表情を見て彼女も怯んだ。
「時間より遅くきて、私が仕事を終えて戻った時にはノックもなく部屋に押し入り、後の指示も出さずに去っていった彼女たちが世話係ですか? 私は朝食の時間も場所も知らされていません。このままでは立ち行かないのですが」
「……申し訳ございません。必ず叱りつけておきます。食堂に案内するので、こちらへ」
年嵩の神官は弁えているようだった。彼女は高位の神官で、私に神学を教える教師でもあるらしい。彼女とならうまくやれそうだ。私に、申し訳ございません、なんて言う人はそういない。
20人ほどいる食堂の末席に座る。私は一番の新参者だから、当たり前だ。誰も食事に手をつけていないあたりは神官らしい気もするが、食事内容にはうんざりした。
野菜と卵のスープとパン。それは構わない。なぜ、私のスープには卵のかけらも屑野菜も何一つ無く、パンは他の人の5分の1の厚さなのだろうか。聖女なんて飢えて死ねばいいという現れかな?
祈りの言葉を述べて、全員が手をつけてから私も食事に手をつけた。野菜が浮かんでいないどころか、水で薄められている。殆ど味のしない冷めたスープとパンを綺麗に食べて、私は先の神官と図書室に向かった。
神学の勉強をするために、私は神殿にいる。その間、仕事は朝の蝋燭を灯すことと、浴場の掃除。他の神官はそれぞれ仕事と奉仕があるらしいので、静かなものだ。
勉強は穏やかで楽しかった。知らない事を学ぶのは楽しい。鞭で叩かれることもないし、癒しの力や恵みの力、神への祈りの作法、作法による効果の違い、かなりの詰め込み授業だったが、私にはちょうどいい。余計なことを考えずに済むから。
日々嫌がらせは続いた。入浴後には何故か寝巻きがびしょ濡れになっていたり、私の食事はずっと変わらなかった。誰よりも貧相で、微かな塩気のあるスープ。
痩せ細っていくのを教師の神官も見ていただろうに、何も言わない。叱りつけたと言ったあと、あの3人が世話に来ることもない。
この神学とやらも本来は一年かけて学ぶものらしいと知ったのは、後のこと。私が躓かないのが面白くなくて、どんどん難解にしていっているらしいと、陰口で知った。
私は高位の神官にも嫌われている。
好きで、聖女になったわけではないのに。
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