1 / 17
本編
1 婚約破棄
「卑劣な女め。実の妹だというのに、ここまで弱らせる程追い詰めるのが姉のする事か!」
「ご、誤解でございますモーガン様……!」
「聞きたくない! ——あぁ、かわいそうなマリア……、今日からは私が君を守るからね」
「モーガン、さま……」
ここ、スカーレット伯爵家の次女マリアの部屋で、長女である私は床に膝を突き、顔面を蒼白にしながら必死に婚約者であるモーガン・イグレット公爵子息に誤解を訴えていた。
ベッドの上で弱々しく、姉である私、ジュリアの婚約者に向かって安堵したように微笑みかけるマリア。
内心、これはなんの茶番だろう、と思いながら。私はそれでも、なんとしても次の言葉を言わせまいと必死になっていた。
この流れは本当にまずい。手指が冷えて震えてくる。このままでは、あってはならない事が起こってしまう。
「君がこんなにも卑劣で冷酷な女だと知っていたら、いくら親の代からの約束であったとしても婚約など承諾しなかった……。ジュリア・スカーレット伯爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう。そして、……マリアと婚約する。これならば何も問題無いだろう。さぁ、早く愛しのマリアの部屋から出て行くがいい!」
言わせてしまった。ここには侍女も執事もいる。膝を突いている私よりも先に、顔を青くした執事が部屋の外に出ていった。スカーレット伯爵……つまり、父に事のあらましを話しに行くのだろう。
どうしてこうなってしまったのだろう。新雪のような銀髪の頭を俯かせ、涙を瞳いっぱいに溜めた私は、恐怖のあまりに震える手足を叱咤して立ち上がると、顔もあげないまま一礼をして部屋を出た。
そのまま自室に向かう。パタン、とドアを閉め、モーガン様が帰られた後に父に呼び出される事は分かっていたので鍵をかける。
机に向かって、日記帳を開いた。今、ここで記しておかなければいけない。この日記帳に挟んでいる母の遺書……偽造のしようがない、今は亡き母の、私だけが知っている遺書。
そこに書かれている悍しくも、絶対的な真実。
私が最も恐れていた事が、今起きたと。
恐ろしさに未だペンを持つ手が震える私は、落ち着くためにもゆっくりと新しい方のページをめくっていた。そう、モーガン様との婚約が正式に決まったのは半年前……その日からの出来事を思い出すかのように。
「ご、誤解でございますモーガン様……!」
「聞きたくない! ——あぁ、かわいそうなマリア……、今日からは私が君を守るからね」
「モーガン、さま……」
ここ、スカーレット伯爵家の次女マリアの部屋で、長女である私は床に膝を突き、顔面を蒼白にしながら必死に婚約者であるモーガン・イグレット公爵子息に誤解を訴えていた。
ベッドの上で弱々しく、姉である私、ジュリアの婚約者に向かって安堵したように微笑みかけるマリア。
内心、これはなんの茶番だろう、と思いながら。私はそれでも、なんとしても次の言葉を言わせまいと必死になっていた。
この流れは本当にまずい。手指が冷えて震えてくる。このままでは、あってはならない事が起こってしまう。
「君がこんなにも卑劣で冷酷な女だと知っていたら、いくら親の代からの約束であったとしても婚約など承諾しなかった……。ジュリア・スカーレット伯爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう。そして、……マリアと婚約する。これならば何も問題無いだろう。さぁ、早く愛しのマリアの部屋から出て行くがいい!」
言わせてしまった。ここには侍女も執事もいる。膝を突いている私よりも先に、顔を青くした執事が部屋の外に出ていった。スカーレット伯爵……つまり、父に事のあらましを話しに行くのだろう。
どうしてこうなってしまったのだろう。新雪のような銀髪の頭を俯かせ、涙を瞳いっぱいに溜めた私は、恐怖のあまりに震える手足を叱咤して立ち上がると、顔もあげないまま一礼をして部屋を出た。
そのまま自室に向かう。パタン、とドアを閉め、モーガン様が帰られた後に父に呼び出される事は分かっていたので鍵をかける。
机に向かって、日記帳を開いた。今、ここで記しておかなければいけない。この日記帳に挟んでいる母の遺書……偽造のしようがない、今は亡き母の、私だけが知っている遺書。
そこに書かれている悍しくも、絶対的な真実。
私が最も恐れていた事が、今起きたと。
恐ろしさに未だペンを持つ手が震える私は、落ち着くためにもゆっくりと新しい方のページをめくっていた。そう、モーガン様との婚約が正式に決まったのは半年前……その日からの出来事を思い出すかのように。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。
でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。
妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。
彼の妹にキレそう。信頼していた彼にも裏切られて婚約破棄を決意。
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢イブリン・キュスティーヌは男爵令息のホーク・ウィンベルドと婚約した。
好きな人と結ばれる喜びに震え幸せの絶頂を感じ、周りの景色も明るく見え笑顔が輝く。
彼には妹のフランソワがいる。兄のホークのことが異常に好き過ぎて婚約したイブリンに嫌がらせをしてくる。
最初はホークもフランソワを説教していたが、この頃は妹の肩を持つようになって彼だけは味方だと思っていたのに助けてくれない。
実はずっと前から二人はできていたことを知り衝撃を受ける。
とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……