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本編
15 陛下の裁定
「離して! 離しなさいよ!」
「これは一体どういう事ですか、父上!」
「私にも分からぬ……! 何故、このような事を、陛下!」
それは深夜の事でした。
マリア、モーガン様、そしてイグレット公爵。彼ら3人は夜中に突然屋敷の中に王宮近衛隊に押し入られ、猿轡を噛まされ、縄に繋がれた状態で謁見室に転がされています。
私はあの告白をした次の日、国王陛下と王妃様に婚約の挨拶をし、家族として受け入れられました。
そして、四人で晩餐を摂るようになり、時折一緒にお茶を嗜みながら政治経済について、時には取り止めのない話を語り合い、私は家族とはこんなに温かいものだったのかと心が暖かくなっていくのを感じました。
いつしか自然に微笑むことができるようになったある日です。深夜に謁見室にくるようにと指示をされ、フィリップ皇太子にエスコートされて私は謁見室に向かいました。
そこに、彼ら3人が連行されてきたのです。
「私の前でそのように見苦しく騒ぐとは、余程身の程を知らぬと見える。私が何故この時間、人目を忍んで貴様らをここに連れてきたのか……それすら温情であるというのに」
陛下の声は重々しく、彼らはその圧に負けてピタリと口を閉じました。
「よい。よく聞け。まずはイグレット公爵、貴様は強姦の罪で裁かれる。他にも余罪がある事は調べがついている。愚かにも人妻であるスカーレット伯爵夫人に懸想をし、密かにスカーレット伯爵領に手を回して高値で備えを買い付けたな。そのせいで飢えた者に支援をした、等と片腹痛い。その対価に伯爵夫人に強姦を働き、さらには娘を貰い受ける? 公爵であれば私が手出しできぬとでも思ったのか、血縁であれど、否、血縁であるからこその重罪と知れ。追って沙汰を出す、それまで地下牢にて残り少ない命を数えるがよい」
私はあまりの事に……全身の血が沸き立つのを感じました。あの飢饉は父の手落ちではなく、友人として振る舞いながらイグレット公爵が手を回した事……。
助けが間に合わす命を落とした領民がいる事も、当たり前ながら知っています。私はその借りを返すために……その命を落とした者やその家族、そして二度とそうならないようにする為に、幼い頃からの厳しい教育に耐えてきました。
それが、お母様に懸想をしたから……?
それが、人の命が失われ、人生が狂った人間を何人も作った理由……。
貴族も何もありません。人として人道にもとる行為です。
なのに、イグレット公爵は普段の穏やかな表情からは想像もつかない、恐ろしい形相で陛下を睨みつけています。そんな資格も無い! と、どれだけ叫びたかったことか。公爵に踏みにじられた数々の命と人生、公爵は結局、それを理解すら出来ない人でした。
悔しくて、悲しくて、怒りを通り越した私の強く握った拳が震えるのを、フィリップ皇太子がそっと握ってくれました。国王陛下の言葉はまだ終わっていません。
「そしてその息子、モーガン・イグレット。貴様は婚約者のある身でありながらその妹に懸想し、証拠のないまま婚約者を責め立て婚約破棄をさせ、その妹との婚約を成立させた。偽証罪である。……親子揃ってよくもまぁ、似たような真似を。モーガンはまだマリアに手を出して居ない事から、偽証罪で済ませる。イグレット公爵家はこれをもって取り潰しとし、全ての財産と権限を取り上げ、モーガンの身分は平民とする。イグレット夫人は実家にて生涯蟄居するように。……それが夫人の為でもあろう」
モーガン様の絶望に歪む顔は、見ていて心が痛みました。仮にも妻になろうとしていた方です、共有した思い出も多く、優しい方ではありました。
ただ、彼は……愚かだった。マリアに恋をしたのは分かります。それならば、下手に私を追い詰めずに父に直談判をすればよかったのです。父がどうするかは分かりませんが……娘が連行されていくのを追ってきた父は、謁見室の入り口近くで、彼ら3人の背中を見ていました。その顔は……悲しみを、絶望を、怒りを、どこにやって良いものか分からずに蒼白になっています。
反対に、マリアはどうでしょう。
黙っているとは言え、あまりの展開に怒りに息は荒く、鬼のような形相をしています。取り押さえられていなければ国王陛下の首に噛み付きかねないような……もはや、私の知る妹ではなくなっていました。
「そして、マリア・スカーレット。貴様にも偽証罪が適用される。スカーレット伯爵家は取り潰しはしないが、スカーレット伯爵領からの追放、及び身分剥奪。平民とする。そして……残酷な真実を告げる」
マリアは黙って聞いていましたが、身分剥奪を宣告された時点で一切の顔色と表情を失いました。
私はこの後告げられる残酷な真実を……お父様には聞かせたくないと思いました。しかし、もうこれは私一人でどうにかなる問題では……無いのです。
もし私とモーガン様が結婚する事になっていれば、歪ではありますが、正しい形に収まっていました。
兄と、妹、という。
「これは一体どういう事ですか、父上!」
「私にも分からぬ……! 何故、このような事を、陛下!」
それは深夜の事でした。
マリア、モーガン様、そしてイグレット公爵。彼ら3人は夜中に突然屋敷の中に王宮近衛隊に押し入られ、猿轡を噛まされ、縄に繋がれた状態で謁見室に転がされています。
私はあの告白をした次の日、国王陛下と王妃様に婚約の挨拶をし、家族として受け入れられました。
そして、四人で晩餐を摂るようになり、時折一緒にお茶を嗜みながら政治経済について、時には取り止めのない話を語り合い、私は家族とはこんなに温かいものだったのかと心が暖かくなっていくのを感じました。
いつしか自然に微笑むことができるようになったある日です。深夜に謁見室にくるようにと指示をされ、フィリップ皇太子にエスコートされて私は謁見室に向かいました。
そこに、彼ら3人が連行されてきたのです。
「私の前でそのように見苦しく騒ぐとは、余程身の程を知らぬと見える。私が何故この時間、人目を忍んで貴様らをここに連れてきたのか……それすら温情であるというのに」
陛下の声は重々しく、彼らはその圧に負けてピタリと口を閉じました。
「よい。よく聞け。まずはイグレット公爵、貴様は強姦の罪で裁かれる。他にも余罪がある事は調べがついている。愚かにも人妻であるスカーレット伯爵夫人に懸想をし、密かにスカーレット伯爵領に手を回して高値で備えを買い付けたな。そのせいで飢えた者に支援をした、等と片腹痛い。その対価に伯爵夫人に強姦を働き、さらには娘を貰い受ける? 公爵であれば私が手出しできぬとでも思ったのか、血縁であれど、否、血縁であるからこその重罪と知れ。追って沙汰を出す、それまで地下牢にて残り少ない命を数えるがよい」
私はあまりの事に……全身の血が沸き立つのを感じました。あの飢饉は父の手落ちではなく、友人として振る舞いながらイグレット公爵が手を回した事……。
助けが間に合わす命を落とした領民がいる事も、当たり前ながら知っています。私はその借りを返すために……その命を落とした者やその家族、そして二度とそうならないようにする為に、幼い頃からの厳しい教育に耐えてきました。
それが、お母様に懸想をしたから……?
それが、人の命が失われ、人生が狂った人間を何人も作った理由……。
貴族も何もありません。人として人道にもとる行為です。
なのに、イグレット公爵は普段の穏やかな表情からは想像もつかない、恐ろしい形相で陛下を睨みつけています。そんな資格も無い! と、どれだけ叫びたかったことか。公爵に踏みにじられた数々の命と人生、公爵は結局、それを理解すら出来ない人でした。
悔しくて、悲しくて、怒りを通り越した私の強く握った拳が震えるのを、フィリップ皇太子がそっと握ってくれました。国王陛下の言葉はまだ終わっていません。
「そしてその息子、モーガン・イグレット。貴様は婚約者のある身でありながらその妹に懸想し、証拠のないまま婚約者を責め立て婚約破棄をさせ、その妹との婚約を成立させた。偽証罪である。……親子揃ってよくもまぁ、似たような真似を。モーガンはまだマリアに手を出して居ない事から、偽証罪で済ませる。イグレット公爵家はこれをもって取り潰しとし、全ての財産と権限を取り上げ、モーガンの身分は平民とする。イグレット夫人は実家にて生涯蟄居するように。……それが夫人の為でもあろう」
モーガン様の絶望に歪む顔は、見ていて心が痛みました。仮にも妻になろうとしていた方です、共有した思い出も多く、優しい方ではありました。
ただ、彼は……愚かだった。マリアに恋をしたのは分かります。それならば、下手に私を追い詰めずに父に直談判をすればよかったのです。父がどうするかは分かりませんが……娘が連行されていくのを追ってきた父は、謁見室の入り口近くで、彼ら3人の背中を見ていました。その顔は……悲しみを、絶望を、怒りを、どこにやって良いものか分からずに蒼白になっています。
反対に、マリアはどうでしょう。
黙っているとは言え、あまりの展開に怒りに息は荒く、鬼のような形相をしています。取り押さえられていなければ国王陛下の首に噛み付きかねないような……もはや、私の知る妹ではなくなっていました。
「そして、マリア・スカーレット。貴様にも偽証罪が適用される。スカーレット伯爵家は取り潰しはしないが、スカーレット伯爵領からの追放、及び身分剥奪。平民とする。そして……残酷な真実を告げる」
マリアは黙って聞いていましたが、身分剥奪を宣告された時点で一切の顔色と表情を失いました。
私はこの後告げられる残酷な真実を……お父様には聞かせたくないと思いました。しかし、もうこれは私一人でどうにかなる問題では……無いのです。
もし私とモーガン様が結婚する事になっていれば、歪ではありますが、正しい形に収まっていました。
兄と、妹、という。
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