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5 エスカレート殿下
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「おはようございます、ユーリカ嬢。鞄を貸してください」
バルティ様は宣言通り、翌朝の校門前で私の家の馬車が来るのを待っていた。
朝から嫌味のない眩しい笑顔を向けられる。うっ、顔がいいんだった……、普通に笑われると眩しい。そして、その裏で何を考えているかは私にだけは如実にわかる。
わざわざ待ってたんだからさっさと馬車を降りて教室までエスコートさせろ、だ。
「ごきげんよう。お待たせしてしまって申し訳ありません、バルティ様。お鞄、お願いいたしますわ」
彼の差し出された手の上に手を置いて、馬車のステップを降りて鞄を預ける。ニッコリと微笑みあって、触れない距離だが隣を歩いて校舎に向かう。
それだけで、周りが少しざわつく。卒業までの我慢だ、何か聞かれたら適当にごまかせばいい。
私たちの間にあるのは互いに利害の一致した取引。ディーノ殿下もこれを見て、諦めてくれたら大成功、諦めなくても私に近寄れないようにしてくれれば万々歳だ。その辺は任せた、バルティ様。
「言っておきますけど、貴女も私に有象無象の女生徒が近付かないようにしてくれなければ、すぐさま取引は無かったことにしますから」
「あらやだ、私の心がわかりましたの?」
「意外と顔に出てますからね、貴女」
にこやかに笑いながら他人に聞かれたら困る内容をさらりと話す。意外と声のトーンなんかで、内容はあまり他人は聞いていないものだ。
こんな光景に割って入る勇気がある者はこの学園にはいない。生徒会の副会長と経理兼書記、学年1を殿下と競う男女が、朝からにこやかに話しながら登校している。
……そう思っていた時が私にもありました!
「おはようユーリカ!」
「殿下……、ごきげんよう。ところで殿下、なぜ、バルディ様をお突き飛ばしに?」
朝陽のように眩しい笑顔と色彩、晴れやかな声で元気な挨拶。5歳児なら、いい子ですね殿下。ただ、バルディ様と私の間に無理矢理体をねじ込みバルディ様を突き飛ばさなければ、の話。
突き飛ばされたところで似た体躯だからかバルディ様も少し後ずさったくらいで転びはしないが、マナーがなってない。王族のこんな姿は非常によろしくない。
「バルディ? あぁ、バルディ、いたのか。おはよう。……それはユーリカの鞄か?」
「ごきげんよう、殿下。えぇ、これはユーリカ嬢と私の鞄です。一緒に登校しておりますので」
ニッコリ、と背筋が凍るような笑顔でバルディ様は殿下に挨拶し、なるべく殿下から遠ざけるように鞄を持ち直します。
「なに?! ならばそれは私が……」
「結構です。もう、すぐそこですので。では、失礼」
多少バルディ様の態度が大きいのは、突き飛ばされたのもあるでしょうね。私も一礼してバルディ様の隣に戻ると、心底困った顔をしていた。
「あれは重症ですね、まさか人目も憚らなくなるとは……」
「はい。……もしかして、私が断った時に、太陽に顔向けできないような愛など……と言ったせいだとしたら」
「あの従兄弟は頭がいいのに情緒面がまだ5歳児なんですよ?! なんて事言ったんですか貴女」
「えっ?!」
バルディ様の言葉に驚いたのは私の方だ。
成績のトップ3を競い合っていて、かつ、今のところバルディ様より1位の数が多いディーノ殿下の、情緒面が、5歳?
いったいどんな教育を施されたら……、と考えている間も顔には微笑みを張り付け、バルディ様は私の教室の前で鞄を返してくれた。
「ランチにでも話しましょう。ではまた、ユーリカ嬢」
「はい、バルディ様」
言って彼は一つ隣のクラスに向かった。
ディーノ殿下の情緒面が5歳……?
早速クラスでも私とバルディ様のことは噂になっていたが、気にせず席についてバルディ様の言葉を考えていた。
バルティ様は宣言通り、翌朝の校門前で私の家の馬車が来るのを待っていた。
朝から嫌味のない眩しい笑顔を向けられる。うっ、顔がいいんだった……、普通に笑われると眩しい。そして、その裏で何を考えているかは私にだけは如実にわかる。
わざわざ待ってたんだからさっさと馬車を降りて教室までエスコートさせろ、だ。
「ごきげんよう。お待たせしてしまって申し訳ありません、バルティ様。お鞄、お願いいたしますわ」
彼の差し出された手の上に手を置いて、馬車のステップを降りて鞄を預ける。ニッコリと微笑みあって、触れない距離だが隣を歩いて校舎に向かう。
それだけで、周りが少しざわつく。卒業までの我慢だ、何か聞かれたら適当にごまかせばいい。
私たちの間にあるのは互いに利害の一致した取引。ディーノ殿下もこれを見て、諦めてくれたら大成功、諦めなくても私に近寄れないようにしてくれれば万々歳だ。その辺は任せた、バルティ様。
「言っておきますけど、貴女も私に有象無象の女生徒が近付かないようにしてくれなければ、すぐさま取引は無かったことにしますから」
「あらやだ、私の心がわかりましたの?」
「意外と顔に出てますからね、貴女」
にこやかに笑いながら他人に聞かれたら困る内容をさらりと話す。意外と声のトーンなんかで、内容はあまり他人は聞いていないものだ。
こんな光景に割って入る勇気がある者はこの学園にはいない。生徒会の副会長と経理兼書記、学年1を殿下と競う男女が、朝からにこやかに話しながら登校している。
……そう思っていた時が私にもありました!
「おはようユーリカ!」
「殿下……、ごきげんよう。ところで殿下、なぜ、バルディ様をお突き飛ばしに?」
朝陽のように眩しい笑顔と色彩、晴れやかな声で元気な挨拶。5歳児なら、いい子ですね殿下。ただ、バルディ様と私の間に無理矢理体をねじ込みバルディ様を突き飛ばさなければ、の話。
突き飛ばされたところで似た体躯だからかバルディ様も少し後ずさったくらいで転びはしないが、マナーがなってない。王族のこんな姿は非常によろしくない。
「バルディ? あぁ、バルディ、いたのか。おはよう。……それはユーリカの鞄か?」
「ごきげんよう、殿下。えぇ、これはユーリカ嬢と私の鞄です。一緒に登校しておりますので」
ニッコリ、と背筋が凍るような笑顔でバルディ様は殿下に挨拶し、なるべく殿下から遠ざけるように鞄を持ち直します。
「なに?! ならばそれは私が……」
「結構です。もう、すぐそこですので。では、失礼」
多少バルディ様の態度が大きいのは、突き飛ばされたのもあるでしょうね。私も一礼してバルディ様の隣に戻ると、心底困った顔をしていた。
「あれは重症ですね、まさか人目も憚らなくなるとは……」
「はい。……もしかして、私が断った時に、太陽に顔向けできないような愛など……と言ったせいだとしたら」
「あの従兄弟は頭がいいのに情緒面がまだ5歳児なんですよ?! なんて事言ったんですか貴女」
「えっ?!」
バルディ様の言葉に驚いたのは私の方だ。
成績のトップ3を競い合っていて、かつ、今のところバルディ様より1位の数が多いディーノ殿下の、情緒面が、5歳?
いったいどんな教育を施されたら……、と考えている間も顔には微笑みを張り付け、バルディ様は私の教室の前で鞄を返してくれた。
「ランチにでも話しましょう。ではまた、ユーリカ嬢」
「はい、バルディ様」
言って彼は一つ隣のクラスに向かった。
ディーノ殿下の情緒面が5歳……?
早速クラスでも私とバルディ様のことは噂になっていたが、気にせず席についてバルディ様の言葉を考えていた。
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