12 / 22
12 あの女には心底イライラする(※バルティ視点)
しおりを挟む
昔っからファリア嬢が嫌いだった。
見た目は理想的なお姫様そのものの癖に、やたら目敏く、それでいて分を弁えている。
自分が他人からどう見られているかを知っていながら、白鳥のように水面下の努力を見せず、自分なら正面から言うしかないような事をあらゆる手段で穏便に本人に気付かせる。
そう、あれはまだ10歳になった頃。王宮で頻繁に開かれるお茶会には、毎回自分も招かれていた。その中に、子供ながらに男装をした見覚えのない令嬢がいた。
マナーは完璧、立居振る舞いも綺麗で、私はその子に目が釘付けになった。
「話しかけませんの?」
「……誰にです」
「まぁ、ふふ。はたから見てたら丸分かりですよ。あの男装のご令嬢が気になるのでしょう?」
「……」
本当に目敏い。こういう所が私は嫌だ。ディーノのようにはこの女……ファリア嬢とは付き合えない。
それはファリア嬢もわかっていて、ディーノに隠している面でもあるのだろうが。
「お名前はユーリカ様ですわ。辺境伯のご令嬢で、領地から王都に初めて移ったそうです。……あの格好ですもの、かといって男の子にも混ざれないし、女の子にも混ざれない。心細いんじゃないかしら?」
「……私は君の、そういう所がどうしても好きになれません」
心細いんじゃないかと分かっているなら、自分が声を掛ければいいだろうに。
「だって、心細い女の子に必要なのは王子様ですもの。学園に入れば女友達などすぐできます。さぁ、ほら、一人で所在なさげにしてるじゃありませんか」
言って、彼女は花壇から摘んできた花を一輪、私に押し付けた。紫の花弁の可愛らしい花だ。男装の女の子……ユーリカ嬢の瞳と同じ色の。
「何にでもきっかけは必要です。さ、いってらっしゃいませ」
それだけ言って、ファリア嬢はディーノの方へと戻っていった。
私は手の中の花を見て、少し迷い、自分には真っ直ぐにしか物が言えない事に諦めを覚えて、一人浮いているユーリカ嬢の所にむかった。
「失礼、レディ。私はバルティ、貴女のお名前を伺っても?」
「……ユーリカです、バルティ様」
「貴女の瞳はとても綺麗ですね。よければ私とお話ししませんか?」
そう言って花を差し出すと、彼女は少女らしく驚き、紫の目をやわらげて花を受け取った。
「ありがとうございます、バルティ様」
「さぁ、あちらにベンチが。何か食べますか?」
……こんな事もあったな。ユーリカ嬢は忘れている。この時は私は眼鏡はしていなかったし、今の私は女性に自ら話しかけたりしない。
それを、3人で集まった時に、あえて例え話に使うファリア嬢ときたら。それで思い出さないユーリカ嬢もユーリカ嬢だ。
見透かされている。ずっと、ユーリカ嬢に想いを寄せていることを。社交界に出たら気持ちを伝えるつもりだったのに、ディーノが暴走したせいで、取引などと言って。……私はだいぶ、捻くれてしまった。
今も、嫌い、と言って泣いてみせる。ディーノがそれがどれほどショックなのか……分かっている癖に。
ディーノはファリアを妹のように思っていたのは本当だろう。決して失われることのない、ディーノの綺麗なものと実用的なもので出来た世界のパーツ。
彼女は綺麗で実用的で、それでいてお前を想っているぞ、ディーノ。誰かに愛の告白をしても、婚約破棄とまで言われても、それでもお前がいい加減その理想の檻から出てくるのを一生懸命促している。
ファリア嬢は、お前の理想そのものです。いつまで砂糖菓子の夢を見てるつもりですか。もっと彼女を見てあげなさい。
何度も言った言葉を心の中で繰り返す。
そして、ユーリカがきっぱりと、ディーノの理想という名の愛を望まないと言った。
さぁ、ディーノ。いい加減、子供の殻から出てこい。
イライラするが、今お前が目の前で泣かせている女こそが、お前を本当に想って助けてくれる相手だ。
見た目は理想的なお姫様そのものの癖に、やたら目敏く、それでいて分を弁えている。
自分が他人からどう見られているかを知っていながら、白鳥のように水面下の努力を見せず、自分なら正面から言うしかないような事をあらゆる手段で穏便に本人に気付かせる。
そう、あれはまだ10歳になった頃。王宮で頻繁に開かれるお茶会には、毎回自分も招かれていた。その中に、子供ながらに男装をした見覚えのない令嬢がいた。
マナーは完璧、立居振る舞いも綺麗で、私はその子に目が釘付けになった。
「話しかけませんの?」
「……誰にです」
「まぁ、ふふ。はたから見てたら丸分かりですよ。あの男装のご令嬢が気になるのでしょう?」
「……」
本当に目敏い。こういう所が私は嫌だ。ディーノのようにはこの女……ファリア嬢とは付き合えない。
それはファリア嬢もわかっていて、ディーノに隠している面でもあるのだろうが。
「お名前はユーリカ様ですわ。辺境伯のご令嬢で、領地から王都に初めて移ったそうです。……あの格好ですもの、かといって男の子にも混ざれないし、女の子にも混ざれない。心細いんじゃないかしら?」
「……私は君の、そういう所がどうしても好きになれません」
心細いんじゃないかと分かっているなら、自分が声を掛ければいいだろうに。
「だって、心細い女の子に必要なのは王子様ですもの。学園に入れば女友達などすぐできます。さぁ、ほら、一人で所在なさげにしてるじゃありませんか」
言って、彼女は花壇から摘んできた花を一輪、私に押し付けた。紫の花弁の可愛らしい花だ。男装の女の子……ユーリカ嬢の瞳と同じ色の。
「何にでもきっかけは必要です。さ、いってらっしゃいませ」
それだけ言って、ファリア嬢はディーノの方へと戻っていった。
私は手の中の花を見て、少し迷い、自分には真っ直ぐにしか物が言えない事に諦めを覚えて、一人浮いているユーリカ嬢の所にむかった。
「失礼、レディ。私はバルティ、貴女のお名前を伺っても?」
「……ユーリカです、バルティ様」
「貴女の瞳はとても綺麗ですね。よければ私とお話ししませんか?」
そう言って花を差し出すと、彼女は少女らしく驚き、紫の目をやわらげて花を受け取った。
「ありがとうございます、バルティ様」
「さぁ、あちらにベンチが。何か食べますか?」
……こんな事もあったな。ユーリカ嬢は忘れている。この時は私は眼鏡はしていなかったし、今の私は女性に自ら話しかけたりしない。
それを、3人で集まった時に、あえて例え話に使うファリア嬢ときたら。それで思い出さないユーリカ嬢もユーリカ嬢だ。
見透かされている。ずっと、ユーリカ嬢に想いを寄せていることを。社交界に出たら気持ちを伝えるつもりだったのに、ディーノが暴走したせいで、取引などと言って。……私はだいぶ、捻くれてしまった。
今も、嫌い、と言って泣いてみせる。ディーノがそれがどれほどショックなのか……分かっている癖に。
ディーノはファリアを妹のように思っていたのは本当だろう。決して失われることのない、ディーノの綺麗なものと実用的なもので出来た世界のパーツ。
彼女は綺麗で実用的で、それでいてお前を想っているぞ、ディーノ。誰かに愛の告白をしても、婚約破棄とまで言われても、それでもお前がいい加減その理想の檻から出てくるのを一生懸命促している。
ファリア嬢は、お前の理想そのものです。いつまで砂糖菓子の夢を見てるつもりですか。もっと彼女を見てあげなさい。
何度も言った言葉を心の中で繰り返す。
そして、ユーリカがきっぱりと、ディーノの理想という名の愛を望まないと言った。
さぁ、ディーノ。いい加減、子供の殻から出てこい。
イライラするが、今お前が目の前で泣かせている女こそが、お前を本当に想って助けてくれる相手だ。
4
あなたにおすすめの小説
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!
麻竹
恋愛
伯爵令嬢のカレンの元に、ある日侯爵から縁談が持ち掛けられた。
今回もすぐに破談になると思っていたカレンだったが、しかし侯爵から思わぬ提案をされて驚くことに。
「単刀直入に言います、私のお飾りの妻になって頂けないでしょうか?」
これは、曰く付きで行き遅れの伯爵令嬢と何やら裏がアリそうな侯爵との、ちょっと変わった結婚バナシです。
※不定期更新、のんびり投稿になります。
【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
公爵令嬢のフィオレンサ・ブリューワーは婚約者のウェイン王太子を心から愛していた。しかしフィオレンサが献身的な愛を捧げてきたウェイン王太子は、子爵令嬢イルゼ・バトリーの口車に乗せられフィオレンサの愛を信じなくなった。ウェイン王太子はイルゼを選び、フィオレンサは婚約破棄されてしまう。
深く傷付き失意のどん底に落ちたフィオレンサだが、やがて自分を大切にしてくれる侯爵令息のジェレミー・ヒースフィールドに少しずつ心を開きはじめる。一方イルゼと結婚したウェイン王太子はその後自分の選択が間違いであったことに気付き、フィオレンサに身勝手な頼みをする────
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
この悪女に溺愛は不要です!
風見ゆうみ
恋愛
友人がハマっていたゲームの悪役令嬢、ベリアーナ・ノルンに転生してしまった私は、公式のヒーローと言われていたレオン殿下との婚約を幼い頃から阻止しようと頑張ってきた。
努力もむなしく婚約者にされてしまってからすぐ、美少女ヒロインである『愛(ラブ)』が私の通う学園に転入してくると、それからというものラブに夢中になったレオン殿下はことあるごとにラブと私を比較してくるようになる。お互いが婚約を解消したいのは山々だったが、親の反対があってできない。するといつしか、私がレオン殿下をもてあそぶ悪女だと噂されるようになる。それは私の有責で婚約を破棄しようとするレオン殿下とラブの策略だった。
私と同じく転生者のラブは、絶望する私を見たかったようだけれど、お生憎様。悪女はそんなことくらいで凹むような人間じゃないのよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる