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コーヒー -side- ロンド
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しくじった。
本当にフューネを怒らせちまったらしい。
一応あの後何度か忍び込もうとしたが、森に近づいただけで野生動物や虫が付きまとうざまだ。
嫌な鳥肌が止まらないので、森から離れ、あいつに言われた通りにした。
吸血鬼ハンターってのに活動場所を制限されるとは情けない。
そして今日。
十年ぶりに、俺はあの屋敷に行った。
本当は二度と来なくていいはずなのに──俺はレブ君が気になっていた。
相変わらずフューネに関するニュースは俺の所に入ってこない。
もしまだ若いΩが、辛い思いをしているんじゃないかと、どこか思っていた。
……
「うへぇ、変わらないな」
まず森に入れたことに安堵しつつ、準備万端で道を進み懐かしい玄関扉を開ける。
久しぶりの屋敷は相変わらず薄暗く、しかし所々にロウソクが灯っているのを見るとまだ住んでいる気配がして、安心と緊張が入り混じった。
「じゃまするよ……」
広いエントランスで声を出してみる。
確認しながら足を進めていると、そのうち二階からドアの音が聞こえた。
「……君は」
顔を上げると、二階の手すり越しにこちらを見ている人物がいた。ロウソクに照らされる姿は大人の体格だが、ほほ笑んだ唇はふっくらと赤くて若々しい。
腰まで伸びた美しい髪が金色をしているのに気づき、もしやと声が出た。
「れ、レブ君か?」
少し間をおいて二階の人物がこくりと頷く。
「ロンド……さん?」
闇に慣れてきた目で声の方を凝視する。
「その──随分と変わったな」
レブ君は記憶の中にある小さく細い姿から、妖艶な雰囲気を漂わせる大人になっている。長く伸びた髪だけでなく、着ている服もだ。首には綺麗なチョーカーと、白いレースのような服が透けて、ロウソク越しに身体のラインを露にしている。
「……人と会うの久しぶりすぎて」
足から頭までじっくり見たせいか、途端に慌てたレブ君は腕で胸を隠しながら身を縮めた。
「……ところであいつは?」
「こないんですか? フューネ」
レブ君が振り返ると、その後ろから気配もなく奴が顔をのぞかせた。
「また来るとは、根性がありますね」
こちらに向けられた深紅の瞳は殺気を纏っている。まだ許されていないらしい。
「その、ま。気がかりだったんでな……」
正直目を合わせるのが嫌だったが、光に照らされてはっきりしたフューネの姿を見て、見ずにはいられなかった。
「どういうことだ? 俺と初めて会った頃みたいじゃないか」
フューネはレブ君の腰に手をまわし、俺を二階から優雅に眺めた。
二人が並ぶと、同じ年頃のように見える。
沈黙していると、レブ君がフューネの腕に手を添え、控えめに左手を前にかざした。
「ロンドさん、俺たち番になって……結婚したんです」
「あ?」
横に居るフューネも頷いて同じように手をかざすと、二人の薬指にそれぞれ同じ指輪がはめられていた。
「……そう、か」
俺に構わずフューネが続ける。
「二年前に二人で式を挙げまして──呼べなくてすみませんね」
まったく悪いと思ってねーだろ、まあそれは置いておいて、ようやく俺も口が動いた。
「気にしないさ。結婚祝いを持ってってやれなくてすまんな」
微かにフューネの顔が笑った気がした。
「どうやら俺の思い違いだったみたいだ。レブ君、幸せなようで安心したよ。服も似合ってるぞ」
「これは私からのプレゼントです」
「まったくいい趣味だよ」
「あの、フューネ。そろそろ……」
「そうでしたね」
フューネは小さな声のレブを腕の中に隠すと、思い出したように頷く。
「ロンド、私たちは一旦失礼します。適当にくつろいでいってください」
「あ、っと……?」
するとフューネはレブの胸に手を当てた。
「レブが妊娠したんです。今は定期的に母乳マッサージをしていまして」
「そりゃめでたいが、聞いてねぇよ……」
それに続いてレブ君も声を出した。
「ちょっとフューネ! 結構恥ずかしいです」
「すみません。すこぶる調子がいいせいか、お喋りになったみたいで」
「はあ……俺は帰る」
二人の熱い口づけが始まった辺りで辛抱できなくなった俺は、後ずさりする。
「あら、そうですか? 折角ですしワインでもいかがです?」
レブを抱えながら二階の手すりに肘をかけるフューネが悪戯に笑っている。俺は玄関に向きを変えて、最後に薄闇の中に呟いた。
「もうワインは飲まないだろ」
おわり
本当にフューネを怒らせちまったらしい。
一応あの後何度か忍び込もうとしたが、森に近づいただけで野生動物や虫が付きまとうざまだ。
嫌な鳥肌が止まらないので、森から離れ、あいつに言われた通りにした。
吸血鬼ハンターってのに活動場所を制限されるとは情けない。
そして今日。
十年ぶりに、俺はあの屋敷に行った。
本当は二度と来なくていいはずなのに──俺はレブ君が気になっていた。
相変わらずフューネに関するニュースは俺の所に入ってこない。
もしまだ若いΩが、辛い思いをしているんじゃないかと、どこか思っていた。
……
「うへぇ、変わらないな」
まず森に入れたことに安堵しつつ、準備万端で道を進み懐かしい玄関扉を開ける。
久しぶりの屋敷は相変わらず薄暗く、しかし所々にロウソクが灯っているのを見るとまだ住んでいる気配がして、安心と緊張が入り混じった。
「じゃまするよ……」
広いエントランスで声を出してみる。
確認しながら足を進めていると、そのうち二階からドアの音が聞こえた。
「……君は」
顔を上げると、二階の手すり越しにこちらを見ている人物がいた。ロウソクに照らされる姿は大人の体格だが、ほほ笑んだ唇はふっくらと赤くて若々しい。
腰まで伸びた美しい髪が金色をしているのに気づき、もしやと声が出た。
「れ、レブ君か?」
少し間をおいて二階の人物がこくりと頷く。
「ロンド……さん?」
闇に慣れてきた目で声の方を凝視する。
「その──随分と変わったな」
レブ君は記憶の中にある小さく細い姿から、妖艶な雰囲気を漂わせる大人になっている。長く伸びた髪だけでなく、着ている服もだ。首には綺麗なチョーカーと、白いレースのような服が透けて、ロウソク越しに身体のラインを露にしている。
「……人と会うの久しぶりすぎて」
足から頭までじっくり見たせいか、途端に慌てたレブ君は腕で胸を隠しながら身を縮めた。
「……ところであいつは?」
「こないんですか? フューネ」
レブ君が振り返ると、その後ろから気配もなく奴が顔をのぞかせた。
「また来るとは、根性がありますね」
こちらに向けられた深紅の瞳は殺気を纏っている。まだ許されていないらしい。
「その、ま。気がかりだったんでな……」
正直目を合わせるのが嫌だったが、光に照らされてはっきりしたフューネの姿を見て、見ずにはいられなかった。
「どういうことだ? 俺と初めて会った頃みたいじゃないか」
フューネはレブ君の腰に手をまわし、俺を二階から優雅に眺めた。
二人が並ぶと、同じ年頃のように見える。
沈黙していると、レブ君がフューネの腕に手を添え、控えめに左手を前にかざした。
「ロンドさん、俺たち番になって……結婚したんです」
「あ?」
横に居るフューネも頷いて同じように手をかざすと、二人の薬指にそれぞれ同じ指輪がはめられていた。
「……そう、か」
俺に構わずフューネが続ける。
「二年前に二人で式を挙げまして──呼べなくてすみませんね」
まったく悪いと思ってねーだろ、まあそれは置いておいて、ようやく俺も口が動いた。
「気にしないさ。結婚祝いを持ってってやれなくてすまんな」
微かにフューネの顔が笑った気がした。
「どうやら俺の思い違いだったみたいだ。レブ君、幸せなようで安心したよ。服も似合ってるぞ」
「これは私からのプレゼントです」
「まったくいい趣味だよ」
「あの、フューネ。そろそろ……」
「そうでしたね」
フューネは小さな声のレブを腕の中に隠すと、思い出したように頷く。
「ロンド、私たちは一旦失礼します。適当にくつろいでいってください」
「あ、っと……?」
するとフューネはレブの胸に手を当てた。
「レブが妊娠したんです。今は定期的に母乳マッサージをしていまして」
「そりゃめでたいが、聞いてねぇよ……」
それに続いてレブ君も声を出した。
「ちょっとフューネ! 結構恥ずかしいです」
「すみません。すこぶる調子がいいせいか、お喋りになったみたいで」
「はあ……俺は帰る」
二人の熱い口づけが始まった辺りで辛抱できなくなった俺は、後ずさりする。
「あら、そうですか? 折角ですしワインでもいかがです?」
レブを抱えながら二階の手すりに肘をかけるフューネが悪戯に笑っている。俺は玄関に向きを変えて、最後に薄闇の中に呟いた。
「もうワインは飲まないだろ」
おわり
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