機械の神と救世主

ローランシア

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第一章 異世界と救世主

006 東条司とデウス・エクス・マキナ

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 謁見が終わり、俺たちは城の一室を与えられるようになった

 与えられた部屋は無茶苦茶豪華な部屋だ
 超高級ホテルのスイートルームも真っ青の豪華さだ

 広いベッドに傍仕えのメイドさんまで常に隣の部屋に常駐してくれている

 さすがに24時間以上起きてると体が怠かった為、部屋に入るなり、
 部屋に供えつけの風呂に入りベッドに横になった

 ベッドに横になりながら昨日からあった事を思い出す

 まったく、怒涛の二日間だよなぁ
 告白されると思って待ち合わせにいったらドッキリだと言われ
 学校の帰りに神社で愚痴ったら異世界飛ばされるわ。
 外に出たら出たで、暴行現場を発見するわ
 暴漢を警備隊連れて行けば信用してもらえず、変なのに絡まれるわ……
 まぁ……、そのおかげで……マキナとソフィアさんに出会えたわけだし……それらの厄日っぷりもそれでチャラだな……

 などと、この二日であった出来事に少々愚痴をこぼしながら眠りに落ちて行った

 十分な睡眠をとった後、寝汗をかいていた為風呂に入り用意されていた着替えを済ませる
 こっちの世界にも歯磨きという習慣があるようで、洗面所に歯磨き用に塩が置かれていたので歯を磨く。
 流石に異世界には歯ブラシはないようだ
 傍仕えの人に食事を用意してもらって食事を済ませる

「マキナ?いるか?」
≪はい。マスター≫
「おはよう。昨日言ってた修行。早速今日から頼む」
≪はい。おはようございます、マスター。……では次元の扉を出しますのでゲートが開いたら中へ入ってください≫
「次元の扉……?」

 ブォン……!

 空間が歪み漆黒の穴があく、穴の中で薄い紫の波紋が広がっている

≪どうぞ、マスター≫
「……こ、これに入るの?」
≪ご心配なく。この中は私が支配する空間です≫
「……そうか、じゃあ修行頼むよ。マキナ!」
≪はいっ≫
「ゲートに入り、景色が変わる」

 サァ……!
 さわやかな風の吹く草原だった
 草原を見渡すとマキナが待っていてくれていた

≪ようこそ、次元の狭間へ。ここは時間と空間が交差する世界です。このスペースはマスターの精神世界をイメージした空間です≫
「俺こんなさわやかなイメージしてるか……?自分で言うのもなんだがもっと汚いと思ってたぜ」
≪ふふっ。マスターは心綺麗だと思いますよ?≫
「そうかぁ?だいぶ面倒な性格してると思うぜ?」
≪私は過去様々な人間たちを見てきましたから……わかります。
 自らの快楽のために人を貶め傷つける人を何人も見てきましたから……≫
「……マキナも色々見て来てんだなぁ」
≪私デウス・エクス・マキナですから。
 ではマスター。早速ですがこの修行場の説明をさせてもらってよろしいでしょうか≫
「ああ、頼む」
≪まず、この修行場では外の時間の一時間が3年になります≫
「すごいなそれ!って、それ、寿命尽きてあっという間に死にそうだけど、大丈夫か」
≪寿命は外の時間で一時間しか減りませんから問題ありません。肉体年齢も一時間しか経過しませんのでご心配なく≫
「おぉ。それなら安心だ」
≪ちなみにこの年数は私の能力が解放されればされるほど長くなります≫
「へえ、じゃあ一時間を50年とかにできたり?」
≪最長で10年ですね≫
「よし。まずはそこを目指すかな」
≪それから、この空間にいる間は食欲と睡眠欲は感じませんので、修行場内の時間で24時間365日フルで修行できます。
 怪我に関してですが、私が治癒できますのでご安心を≫
「ああ、頼りにしてるぜ!マキナ先生!」
≪ふふっ。「家電製品」から随分出世しましたね?≫
「ハハハ……。軽い冗談だから気にするな」
≪ふふ、わかってますとも……≫
「あ……マキナ?ないって思いたいけど、敵の襲撃に備えて街の様子を監視しながら修行ってできるか?」
≪わかりました。街の様子を監視をしながら行います。異常事態が発生したらすぐにお知らせします≫

「……そうだ。飯の時間になったらそこで休憩にしよう。せっかく作ってもらってる食事を無駄にしたら悪いからな」
≪わかりました。食事の時間になる少し前に修行をいったん切り上げられるようにします≫
「ああ、頼む。じゃあ、修行頼めるか?」
≪はいっ≫

≪わかりました、それでは修行を始めましょう……。まず2倍の重力から始めましょうか≫
 重力?なんだかわからないが頼む!

「……くっ!?体が……重てぇ……!?」

≪マスターはただの人間ですし、2倍でも相当な負荷だと思います≫

「な……んのこれくらい……っ!」

≪ではゴールを設定します≫

 ピッ……!
 マキナが指を指すと遥か遠くにゴールの旗が設置され。俺の隣にも同じ旗が設置される

≪マスター、この旗からあそこの旗までが10キロです。とりあえず基礎体力をつけるために千往復しましょうか。
 休憩はゴール事に5分休憩にしましょう≫
 わかった……!千往復で、二万キロだな?よし……!

 俺は走り始める

≪……ホントにやる気なんですね……≫

「当然!ソフィアさんと約束したからな!」

 ……それに、な……

 こうして俺、東条司の修行が始まった


 何時間、何日……どれだけかかったのかわからない
 疲労で時間の感覚がわからなくなっていた
 途中で足がもつれ転げ、顔を強打し、足を擦りむき泥まみれになりながら走り続けた

 俺とマキナの修行が始まってから、修行場内の時間で30年以上が過ぎた

≪次いきますっ。ゴブリン2500、オーク1500、オーガ1000!ドラゴン300!重力負荷100倍!≫
「おう!」

 瞬時に魔法で短剣を作り出し構える

 バシュバシュバシュバシュッ!

 気の立った魔物達が俺を取り囲むように出現する

「「「「「「「ギャギャッ!?ギャギャギャギャギャギャギャ!」」」」

 ゴブリンは体が小さく身のこなしも早い、
 おまけに身長差がある分小回りの利く短剣の方が戦いやすい


 短剣を構え一番近くのゴブリンの目に短剣を突き刺し、ゴブリンの首を持ち胸を刺しトドメを刺した後放り投げる

「ギャゴッ!?……ガッ……!」


 多対一の場合中途半端に生かしておくのが最も危険だ
 一匹ずつ確実に仕留めなければ、手負いのゴブリンたちが怪我たから立ち上がり戦線に復帰する

「グギャッ!?」
 後ろからナイフで飛び掛かってくるゴブリンに蹴りを入れ回避する

 一匹ずつ自分を囲む包囲網を崩して行き、包囲網を突破した後は後ろを取られないように周りを見ながら戦い続ける

 初めての実戦は……「生き物を殺す」という事に戸惑ってしまい、俺が狼狽えている隙に腹をナイフを刺された
 それでようやく命を奪う踏ん切りがつけられた
「俺は殺し合いをしてるんだ」という実感がそこでようやく持てるようになった

 俺は体術を組み合わせた短剣術を主に学んでいるため、武器生成魔法以外の魔法が使えない
 近接戦闘だけでなく、遠距離攻撃……、魔法や弓、銃や大砲などの遠距離での攻撃方法もいずれは学びたい
 仮に遠距離攻撃の方法を一つでも習得できていれば、戦い方の幅はずっと広くなる

 マキナの修行を受けていて一つわかった事がある

 実際の戦闘というのは、強い魔物……オーガやサイクロプス、ドラゴン等大型の魔物一匹と対峙するよりも、
 ゴブリンのような雑魚が群れを成して襲ってくることの方が恐ろしい。
 大型の魔物一匹の場合は攻撃に集中すればいいが、ゴブリンが集団で襲ってくるような状況では囲まれて隙を突かれる事が多くなる
 単純に敵の数×攻撃回数になってくるからだ。また大型が多数いる状況と言うのはまた話が変わってくる
 大型の特徴である広範囲の攻撃リーチ、そして巨体であるが故の遅い攻撃……
 これらの条件が揃うと敵同士の攻撃が敵に当たり、同士討ちを始めることがある。
 そういう状況を作り上げられれば非常に戦闘時のアドバンテージを取りやすくなる

「はぁっ……はぁっ……!終わりだ……」

 仲間の魔物たちが皆殺しにされ
 尻もちをつき怯えながら後ずさりするゴブリンの胸に短剣を突き立てる

「……っ!はぁっ!はぁっ……!はぁ…………終わった……。──マキナ?」
≪マスターおつかれさまですっ。怪我治しますねっ≫
「ああ、頼む……」

 その場に座り込むと温まった体の熱が汗で急激に冷えていくのを感じ、どっと疲れが押し寄せてくる

 マキナが手のひらから緑の光をだし、傷を治してくれる

「……げほっげほっ……ゲボッ……おえっ……!?」

 バシャっ……!

 緊張が解け気が緩んだのか、胃の内容物が逆流してくる。赤く染まった血の塊を吐き出す

 ……ああ、体が怠い……。まだまだ、足りねえな……もっと、走り込みして基礎体力をつけねえと……
 この程度でフラフラになってんじゃねえよ……どんだけ体力ねえんだよ、俺は……

「ハーッ……はぁはぁっ…………はぁ……ハー……」
≪マスターは変わってます……≫
「はぁ……よく、言われるよ……」
≪……全部私に任せておけばこんな苦しい思いをしなくて済むじゃないですか……。なのに、どうして……。
 やっぱり、ソフィアさんの為、ですか?≫
「……正直、それもあるよ。でも、あの訓練場で……思ったんだ」
≪……?何をですか≫
「警備隊の訓練所に向かう通路でさ……剣や盾が壁にかけてあっただろ?」
≪……はい≫
「血と鉄の匂い……あれをかいだ時、まぎれもなくこれは現実で、俺は異世界に来たんだって実感したんだよ」
≪……≫
「……剣って物を初めて見たよ。ゲームやアニメ……漫画だとよく出てくるけど、実物は初めて見た……。
 剣は生き物を殺す道具だ。実際の剣を見て「死」というものが身近にあるんだって……、それで初めて意識した。これは現実なんだって理解できた……。
 あの時思ったんだ……今俺が剣で斬られて致命傷を負ったら何を思うだろうって……。
 俺ならきっとスゲー見苦しくもがいてあがいてのたうち回って、少しでも、一秒でも生きようとするって思うんだ。
 きっと「死にたくない、死にたくない」って泣きながら鼻水たらして……、無様な醜態晒してでも生き延びようとすると思うんだ……」

「訓練場で兵士たちが訓練してたの見た時さ、
 隊長は「訓練に身が入ってないのばかりだ」なんて言ってたけど……、
 少なくとも、俺にはみんな懸命に訓練してたように見えた……みんなスゲー頑張ってるって思ったよ……
 そうしたらさ……、俺はこの場の誰よりも無力だって思った」

 俺はマキナがいなきゃ何にもできねえって……そう思った……

≪そんな事は……っ≫
「そんな事、あるさ。あの金髪イケメン兵士に絡まれた時だって、マキナがいたから「二体二でやりましょう」なんてほざけたんだよ。
 じゃあ俺がマキナ無しであの隊長や金髪イケメン兵士と戦って勝てるか?っていうとさ……、絶対無理だ」

 ホント、自分じゃ何もできねえ癖に、偉そうな言葉だけはポンポンと出やがるんだこの口は……

 ギリッ……!
 自分の不甲斐なさを歯ぎしりで押し殺す

≪マスター……≫

 確かにマキナの言うように、マキナに任せておけば全部やってくれるのかもしれない……。
 でも、それは自分に出来る事を放棄していい理由にはならない

「よっ……と……」
 ふらつきながら立ち上がる

 だからさ、俺考えたんだ

≪マスターは……やっぱり、変わってます≫
「……よく言われるよ」
「よっし、傷治ったな?治療ありがとう。……修行の続き頼むぜ!マキナ!」
≪……はいっ!≫

 俺がマキナの「マスター」としてどう在るべきか、どう在りたいか

 ────────俺はマキナに見合う俺になりたい

 マキナが誰かに俺を紹介する時、「この人が私のマスターです」って胸張って言えるようになりたい
 それがマキナの「マスター」としての俺の在り方だ────────
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