機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

016 レイザーと囮捜査

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 昨日の夜は一応の用心として、俺の部屋でソフィアは寝る事になった

 朝、レイザーさんの所へ向かう準備をし、出かける前にマキナから話しかけられる

≪マスター。より近接戦闘を戦いやすくするために、マスター用の武具を作りました≫

≪どうぞ。マスター≫
 マキナが次元の扉を開き、左手用の漆黒の鋼鉄製籠手を手渡される

「これが……俺用の武具? これマキナが作ってくれたのか」
≪はい。私の装甲と同じ特殊装甲で作った籠手です。武器での攻撃などをはじきやすくなると思います≫
「おお、マジで!? ってそれマキナの装甲が薄くなったりするんじゃ……」
「ご心配なく。籠手用に新規に生成しましたので、私の装甲が薄くなる事はありません≫
「そうか、それなら安心だ。……ちょっとつけてみるか」

 籠手を付けると全く重みを感じず、素手と同じ感覚で腕が動かせる

「おぉ!? これすごいな!? 肘まである籠手なのに重さを全く感じないぞ! それに着けてない時と変わらず体が動かせる!」
「マスターの闘いの邪魔にならないように設計しました」
「これスゲーいいよ! ありがとう、マキナ! これなら剣の攻撃とかもガードも出来そうだ」
「この世界の武器の成分は基本鉄ですから、まず砕かれるという事はあり得ません。
 レイザーさんの大剣を受け止める事も可能です」
「マジかよ!? あの大剣の攻撃をガード出来るのか! そりゃすげえ……!」
≪私のシステムと連動して、マスターの意志で自由に装着できるようにしてあります≫
「……と言うと?」
≪「籠手を装着したい」と思うだけで籠手が出現し、瞬時にマスターの腕に装着されます。
 籠手を消すときは「籠手を消したい」と思ってください≫

「試してみるか。……」

 シュン……!

 一瞬で籠手が消える

「おお、消えた。魔法で出現させる武器みたいに消えるんだな」
≪原理としてはそう遠いものではないので、似た物になりますね。
 武器も作ろうと思ったんですけど、この世界ではマスターの魔法で出す武器が一番強いので作ってないです≫

「えっ……? でも、あれって初級魔法だよな…………? 魔法の効果とか属性が付いてるのとかのがいいんじゃ……」
≪確かに属性や効果が付いている分メリットもありますが、耐久面に難があったり、
 普通に扱うだけで莫大な精神力を消耗したりとデメリットも多いので……≫

≪武器生成魔法に限った話ではないですが、「魔法」の根源たる力「魔法力」とは魂のオーラの別称です。
 魔法の詠唱で魂のオーラのエネルギーを攻撃や補助、治癒の力に変換するんです≫
≪強い心は強い肉体に宿るものです。肉体と同時に魂も強くなっていますので、魂のエネルギーを変換して扱う魔法も強くなるんです≫
「つまり、最下級の魔法で出した短剣でも、修行頑張れば最強の武器になるって事?」
≪そうです≫
「なるほどな。また一つ修行を頑張る理由が出来たぜ! ……それにしてもすげぇな、マキナ。武器とか防具も作れるんだな」
≪ふふ、何言ってるんですか。凄いのはマスターです≫
「へ……? お、俺…………? なんで俺?」
≪修行でマスターが強くなったのでアイテム生成に必要な出力が出せるようになったんです。凄いのはマスターですよ≫
「ハハハ、最強の機神様に褒められちゃったよ」

 ……もっと修行して強くなって能力引き出してやるからな! マキナ!

「さって、警備隊行くか。レイザーさんが待ってる」
「はいっ」

 警備隊詰め所にむかった

 警備隊詰め所に着き門番に話しかける

「こんにちは、東条です。今日レイザーさんとこちらで会う約束をしてるんですが……」
「っ! これは救世主様! ようこそお越しくださいました! どうぞ! 中へ!」
「どうも。ありがとうございます」
「いっ! いえ!? とんでもありませんっ!? ささ! どうぞどうぞ!」

 ど、どうしたんだ……?
 この間レイザーさんと勝負した時ヤジ飛ばしてた人の一人だったはずだけど、この兵士さん……
 急に態度が変わったな……

≪あれだけの戦いを見せたんです。当然の反応だと思います。
 あの戦いを見て「神器を使ってズルをした」なんて思う愚かな人は極めて少ないかと≫
 つまりあの副隊長はその少ない中の一人だったのか
≪はい。私のCPUの処理演算能力を超える愚かさです≫
 あの人の行動は……マキナでも予測不可能だったのか
≪無理です≫

 などと世間話をしながら応接室の前に着く
 コンコン!

 門番さんが応接室のドアをノックし開ける

「おう、入れ」
「失礼します! 隊長! 救世主様がお見えになりました!」
「おぅ! 来たか来たか! ようやく来たかぁ! 待ってたぜぇ!」
「おはようございます。レイザーさん」
≪おはようございます≫

 応接室のソファに寝そべっていたレイザーさんが体を起こしながら顔をこちらに向ける

 マキナ? この部屋の遮音化頼む
≪はいっ。遮音完了しました≫
 ありがとう、マキナ

「いやぁ、今か今かと今朝からソワソワしっぱなしだったぜ」
「ハハハ……。そんな、遠足に行く子供じゃないんですから…………」
「俺にとっちゃガキの頃の遠足よりもウキウキワクワクしてたっての。
 ようやく「あの方」の野郎にたどり着けるかもしれないんだ……」
「ええ、そうですね。……じゃあ、とりあえず、その「あの方」ではなく「あの人」という人物の画像をご覧になられますか?」
「おう! 見せてくれ」
「マキナ?」
「はい、マスター……、どうぞ」

 マキナが次元の扉を出現させ画像を取り出す

「はい。マキナの魔法です……とりあえず、こちらの絵をどうぞ」
「……これが「あの人」って野郎か…………確かに女のようだな、だいぶ体が小せえし……」
「はい」
「……忌々しい見た目だぜ。女でも憎たらしさは変わらねえな」

 憎々しいと言った表情にレイザーさんの顔が歪む
「それと、昨日新しくわかった情報があるんですが、直接は関係がないかもしれませんが、一応お伝えしておきます」
「おう、何でも話してくれ。その情報が繋がっていくかもしれねえからな」

 昨日の夜ソフィアやマキナから聞いたランデル王子の素行や、ソフィアに起こった出来事を簡潔に説明する

「なるほど、そりゃあくせぇなぁ。……姫さんも災難だな、そりゃあ…………」
「ええ、全くです」

「それで、レイザーさんが私と一緒に行動するのに、いい考えがあると昨日言いましたよね」
「おう。俺がお前と一緒にいてもいいような考えがあるんだろ?」
「ええ。マキナのとっておきの魔法……不可視化と遮音の魔法で姿を隠していていただこうかと」
「姿を不可視化して隠す……!? そんな事できんのか!? 嬢ちゃんは!?」
≪はい≫
「すげぇ魔法使いだったんだなぁ、嬢ちゃんは……」
「遮音化と不可視化使えば他の人からは俺とマキナと二人でいるって風に見えるんで、敵が襲って着やすいと思うんです。
 で、敵が現れたらマキナに解除してもらうと。そういう仕掛けで行こうと思ってるんですが……どうでしょう?」
「なるほど……。確かにお前はともかく嬢ちゃんの見た目で頭数に入れる奴はいないだろうな…………」
「よし、乗ったぜ。……じゃあ、いつから動く?」
「昼間は襲って来るかわかりませんが、
 出来るだけ人通りの少ない所へ情報収集する振りをしながらうろつこうかと考えてます」
「よし、じゃあ、さっそく動くか! 嬢ちゃん頼むぜ!」
「わかりました。じゃあ、マキナ? レイザーさんに不可視化と遮音化かけてくれ」
≪はいっ≫

 ブォン……!

 マキナがレイザーさんに遮音化と不可視化をかける

「よし、じゃあ行くか! 囮作戦だ。……朝だから上手くいくかはわからないけどな…………」
≪はいっ≫
 マキナ、これから裏路地に入る。周囲の警戒頼めるか?
≪わかりました≫

 俺たちは警備隊詰め所から街の裏通り等人通りの少ない道を探し歩き始める

 まだ日が高い朝だというのに、日の当たらぬ薄暗い裏路地は人気が少ないのもあり異様な雰囲気を醸し出していた

「よぅ、兄ちゃん? 可愛い彼女連れてお散歩かい? ここは通るのに通行料が必要なんだ。払ってくれねえか」
「通行料? そんなものが必要な道があるなんて聞いた事ないですけど」
「今聞いただろ? なぁ? わかんだろ……」
「知りませんよ。ここ通りますね」
「おい!? 舐めてんじゃねえぞ!?」

 通り過ぎようとした俺の肩を後ろからガっと掴んでくる
 ちょっと痛い

 やっぱ見逃してくれないかぁ
 仕方ない

「はぁ……」

 魔法で短剣を出現させ、

 シュッ……

 首元に短剣を添えてやる

「……もう一度聞きます。ここを通るのに通行料なんていりませんよね?」

 静かに話しかけると男の顔色が変わる

「ひ……!? な…………なん……」
「あの……聞いてるんですけど?」

 ピト……ッ

 冷たい鉄の感触を首元に感じたのか、男の顔が青くなり、首を左右に振り始める

 オッサン? あんまり動くと動いた時に首切れるよ?

「よかった、私の聞き間違いですか。じゃあここ通りますね?」

「ひぃっ!? あっ……、頭おかしいだろ! お前ぇっ!?」
 いいながら短剣をひっこめると男が転がるように逃げていく

 道塞いで金巻き上げようとするあんたはどうなんだよ

 その様子を見ていた路上で座り込んでいた男たちがそそくさとどこかへ行ってしまう
 警備隊か何かと勘違いしたのだろうか。だがそのほうがこちらとしては都合はいい
 仮にここで戦闘になった場合一般人を巻き込みかねない

 路地を進んでいき曲がり角を曲がるとさらに薄暗い裏路地に入る。
 路地の影から男が三人立ちはだかり、その後すぐ後ろを男二人に囲まれる

 ホント、どれだけ物騒なんだよ……

「何か?」

 男がマキナに視線を送り、視線を下げ胸に目をやった後……

「……いや。何でもねえ…………。道塞いで悪かった」
「……はぁ~…………。……悪かったな? 兄ちゃん。行ってくれ……」

≪マスター? この人達殺していいですよね? ねっ!?≫
 ダーメ。あの人達悪い事何もしてないんだから……
≪えっ!? しましたよね!? 今この人私の胸見てちょっと悲しい目になったんですよ!?≫
 気にしすぎだって、マキナ……
≪だって! 今明らかに私の胸見てから因縁つけるのやめましたよ!? この人達!≫

 男たちが俺たちを通り過ぎ少し離れたところで話はじめ、こちらに話声が聞こえてくる

「おい、ガキじゃねえか!? お前目ぇ悪いんじゃねえのか! 胸なんて貧乳どころか無乳だったろ!」
「しょーがねえだろ? あんなガキだなんて思わなかったんだよ! 次だ次!」
「やっぱ胸の大きさが女の価値だよなぁ……」
「だよなぁ! 揉もうとしたらスカるんじゃねえのアレだと。もみっじゃなくてスカっとかな! ハハハハハ!
「馬鹿やめてやれよ。あの子が可哀想だろ?」
「ま、確かに可哀想になる乳だったな」

 馬っ鹿!? 馬鹿なのあいつら!? マキナに聞こえるだろ!?
 死にたいの!? ねえ!? 死にたいの!? 自殺志願者なの!?

 そ~っ……とマキナの方を見ると、マキナが漆黒のロケットランチャーを構え狙いをつけていた

 ピピピピ……!
≪ターゲット・ロック……≫

 マキナー!? ダメだって! ここ街中! それにあの人達は善良な一般人!
≪……善良な? …………ふっ。ご冗談を≫
 よ、よーし。マキナっ? この件が落ち着いたら街へ遊びに行こうか!?
≪っ! それは、本当ですかっ?≫
 マキナがロケットランチャーを構えたままパアっと顔を明るくさせこっちを向く

 うん! マキナいつも頑張ってくれてるから、たまには一緒に遊ぼうか!
≪そっ! それはデートと受け取っていいんですよねっ!?≫
 そう! デート! 一日ゆっくり街で遊ぼう! なっ? だからそんな物騒なものしまって!
≪はいっ! ふっ……! ふふふふっ…………! マスターとデートっ……デートっ! ふふふふっ!≫

 そうして路地裏をうろついていると次第に日は暮れていき人通りも少なくなった夕方……

 突然、俺達の頭上に屋根の上から人が跳び下りてくる

 ヒュッ……

 ザッ……! ザッ…………!

 黒いマントを着こみフードをかぶっている男と思われる二人組が、俺たちの前後に着地し向かい合う

 ……来たか

 顔がフードから男の顔が若干見える、
 黒マント仮面ではなかった事に少しがっかりしてしまう


「なんだ? お前ら」
「我々と来てもらおう……」
「……断る。残念ながら今はデート中でね」
「……そうか。邪魔をしたな。ではな」

 男が踵を返し立ち去ろうとする

 え……?

「いやっ!? ちょっ、ちょ待てよ!? そこは無理矢理にでも連れて行こうとするとか襲い掛かってくる所だろ!? 普通!」

 思わずツッコミを入れてしまった

「……しかし、デート中なのだろう?」
 男が少しこちらに振り返りながら不思議そうに返事をする

「あのさ? ホント……ホンット…………真面目にやってくれないかな!?」
「……どうしたいのだ? お前は…………」
 男が困った顔で振り向きながら答える

「「……面倒くさい奴だなあ」みたいな顔するのやめて!? マジでやめて!?」
「ふっ……面白い男だ…………」
「あんたにだけは言われたくねーよ!」
「茶番は終わりだ。無理矢理にでも連れて行くぞ」
「あのさ? 最初からそう言ってくれないかな……」
「……無茶を言う男だ」

 無茶なの!? 俺そんなに無理な事言った!?
 駄目だ、まともに相手してたら疲れる。とっとととっ捕まえよう……

≪はいっ≫
 ……えっ?

 マキナが鋼鉄製のワイヤーを射出し男達を縛り上げる

「……なに!? これは…………」
「くっ!? 動けん!」

≪マスター! 捕縛完了しましたっ≫

 あっ……

 そ、そうかぁ、ありがとう……マキナ…………
≪はいっ。……なにか、がっかりしてません?≫
 いや……、別に…………

 とりあえず、ここじゃなんだから……

≪っ! マスター! 避けてくださいっ」

「っ!」


 マキナに言われ飛びのくと、マキナが捕らえた男達の首に矢が刺さる

 ビンッ……!
「ぐっ!?」
「あがっ……!?」

 矢が飛んできた方向を見ると黒マントに仮面をつけた人物が弓を携え夕日を背負いながら立っていた

 ランデル王子が「あの人」と呼んでいた女だ! 間違いない!

 来たぜ! 本命様の登場だ! レイザーさんの遮音化と不可視化を解除してくれ!
 それからくーちゃんで黒マント仮面の追跡を頼む!

≪はいっ≫

 籠手を出現させ、魔法で短剣を作り出し構える

≪レイザーさん、お待たせしました≫
「……もう喋れるのか? 何喋ろうが聞こえねえって案外辛ぇな。
 無視されてるみたいでちょっと傷ついたじゃねーか……」

「黒マント野郎……ようやく出やがったな!?」

「弓で攻撃してきます! 気を付けてください!」
 俺は屋根に跳びながらレイザーさんに注意を促す

「チッ……! 弓か! 面倒な相手だな!」

 マキナ? 黒マントに隙があれば捕縛頼む
≪わかりました!≫

 俺が屋根に上がり接近してきているのに気が付いたのか黒マントが踵を返して走り出す

「逃がすか!」

 俺の後ろにレイザーさんとマキナが追いついてくる

 屋根を飛び越え屋根伝いに街の外へ逃げようとする黒マント

「東条!」
≪マスター!≫
「マキナ! 絶対にあいつを見失わないでくれ!」
≪はいっ!≫
≪おい、東条! なんで襲われた側が追いかけてんだ!?」
「わかりません! けど! あいつを絶対逃がすわけにはいかないです!」
「そりゃそうだ! 絶対に逃がしてたまるかよ!」

 夕方の日の落ちかけた街の屋根の上を俺たちは疾走する

 黒マントが街の塀を飛び越え街の外へ出る

 っ! あの跳躍力! やっぱ並の暗殺者じゃねえな!

 俺とマキナも飛び越え追いかける、

「おいおいおいおい!? お前らこの外壁飛び越えられるのかよ!? やっぱただもんじゃねえな!?」

 レイザーさんが門の方へ迂回するため屋根を飛び降り進路を変える

 跳躍し塀を超えながらレイザーさんに声をかける

「見失うわけにいかないんで先に行きます!」
「おう! 俺もすぐ追いつく!」
「わかりました! アイツが立ち止まったら、場所を連絡します!
「ああ! 頼む!」

 マキナっ!
≪はいっ! マスター!≫

 マキナが飛行形態になり漆黒の一二枚の翼が出現する

 街のすぐ近くの森へ入り、木々の枝に飛び映りながら移動する黒マント

 森が開けて来て、少し広めの広場に出ると黒マントがこちらを向き佇んでいた
 広場の空中で翼が解除され広場に飛び降りる

 ダッ……!

「っ!? マキナ!?」
≪……っ!? これは…………!≫
 ……どうした?
≪兵器妨害がこの一帯の広場に施されています! 翼も強制解除されました!≫
 今度は情報だけじゃなく、マキナの兵器も封じてきたか!
≪っ! 動作に関しても強力な妨害効果が……! 体がまともに動かない…………!≫

 マキナの体の周りに電気が迸りマキナが膝をつき耐えていた

 っ!? マキナの動きを止めて兵器関連の使用を封じるトラップ!?

 広場の中央で黒マントと向かい合う、周囲の草むらや木陰から魔物の群れがゾロゾロと姿を現す

 ……けど! ここで逃がすわけには行かない…………!
≪マスター! レイザーさんに連絡しておきますね!≫
 ああ、頼む! 俺は時間稼いでおくよ

 俺たちの周りを取り囲んでいた魔物がにじり寄ってくる。少しずつだが確実にその包囲網を狭めてくる

「おい! 襲うなら逃げずにちゃんと向かってきやがれっ! お前一体何者なんだよっ!?」
「お前が知る必要はない」

 低い女の声だ、やっぱり女だ

≪……レイザーさんに連絡終わりました≫
 ありがとう、マキナ
≪はいっ≫

「あっそう……? じゃあ喋りたくなるようにしてやるよ!」
「っ!?」

 周辺の敵を瞬時に細切れにし全滅させる

「お前もこうなりたいか……?」
「……早いな。お前何者だ」
「この世界で救世主って呼ばれてる男だよ」
「救世主……? 救世主だと…………!? ……これはいい!! ハハハハハ!!!」
「……何がおかしい…………!?」

 急に笑い出した隙を見つけ走り込もうとした次の瞬間

「うるさいっ!!? 私の怨みを思い知れっ!!」

 黒マントが後ろに跳びながら手を振ると、俺の周囲に一Mほどの間隔の三角形の高く燃え上がる炎の壁が出現する

「っ!?」

 寸前で立ち止まり直撃は避けたが、燃え上がる炎に皮膚が焼かれる

「あっつっ!?」
≪マスターっ!≫

 高い炎の壁に阻まれ黒マントの姿をほとんど視認できない

 マキナ!? 黒マント見失わないでくれ!
≪は、はいっ!≫

「死ねっ! 救世主!」
「くっ!」

 っ! 炎の壁で視界と退路を塞いで弓で狙撃か。いい趣味してやがるなおい!?

 瞬時に短剣を振り切り斬撃を起こして炎を消そうとするが、
 地面に油でも撒いていたのかすぐに高い炎の壁が立ちふさがる

「くっ……!?」

 周りを炎で囲まれているため酸素が薄い……!
 煙と少なくなった酸素で息が続かず上手く体が動かない……!

「はぁっ……はぁっ…………! げほっ……!? げほっうぇ……っ……! …………ぺっ……!」

 くっ! 助走をつける距離が無ければこの高さは跳べない……!
 マキナっ? 翼になる事もやっぱり無理かっ?
≪……っ! 翼のカテゴリが「兵器」に分類されているため封じられてますっ…………!≫
 無理か!

 ザクッ……!
 俺の太ももを弓が貫通する

「がっ……!?」
 足がガクッと下がり前のめりになる

「ククク、この矢には神経毒を塗っている。じきに身動き一つとれなくなるさ……!」

≪マスターっ!?≫

「ハハハハハ! どうした? 何もできないのか!? そこでこの男が死ぬのを見ているがいい!」

 っ!?
 やっぱりこいつはマキナの事を知っている! わかっていて罠を張ってここにおびき寄せたのか!
 どういうことだよ!? マキナは俺がやっていたゲームのボスキャラクターを具現化した存在だぞ!?
 なんでこいつらが「デウス・エクス・マキナ」を知ってやがるんだ!?

「ほうら? おまけしてやる!」

 黒マントから弓が放たれ俺の左肩を貫通する

「ぐっ……!?」

「っ!? げほっげほっ…………げほっうぇっ!」
 くっ……! 矢を食らった瞬間に燃え盛る煙が肺にはいっちまった! 頭がクラクラしやがる…………!
 酷い頭痛の上に体が言う事を効かねえ……!


「ほら? ほら? ほら? ほらぁ……!? どうした!? 救世主!」
 黒マントが俺へ次々と弓を放つ

 右足、左足、腹、腕、肩……様々な場所に矢が刺さり数を増やしていく
 狙ってくる位置からして、即死するような急所や胸や頭を狙わず、いたぶり殺すつもりだという事がわかる

「カハッ……!?」
 喉元から血の塊が逆流し、血反吐を吐き出す
 ゲボッ……!

≪マスターっ!? マスターっ!≫
 マキナが涙を浮かべながら俺の名を呼び続ける

 体中に一〇本近い矢が突き刺さり、目の前が暗くなってくる
 ブルブルと脚が震え、強烈な寒気が全身を襲う。正直立っているのがやっとの状態だ

 体が、動かねぇ……!

 歯を食いしばり踏ん張ろうとするが意識がもうろうとしてくる

≪マスターっ!≫

「……いい加減遊びは終わりにしろ。アルテミス…………」

 森の奥からもう一人の黒マントの仮面が現れる

 クソっ!? ここでさらに新手の黒マント登場かよ!

「アーレス。貴様、私の愉しみを奪うつもりか……?」
「……下らん遊びに貴重な時間を使うなと言っている。あの方がお呼びだ」
「……っ! 私を、か?」
「そうだ。俺はお前を連れてこいと命じられた」
「……わかった。すぐ終わらせる…………」

 アルテミスと呼ばれた黒マントが俺に弓を向け狙いをつける

「……これで終わりだ。救世主…………」

 黒マントが放った矢が射出された次の瞬間────

「ぬうんっ!」

 ズドォォォォォォン……!

 俺の側面から巨大な斬撃が地面を抉りながら迫り、俺に向け放たれた矢と俺の前方の地面の土ごと炎の壁をかき消す

 バシュウウウウッ……!

 斬撃の飛んできた方向へ目を向けるとそこに立っていたのは……


「待たせたな────」


 警備隊隊長・「レイザー・バルド」
 闘技大会10連覇覇者の「強者」だった────────
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