機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

022 アルテミスと温かいスープ

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 気が付けばいつの間にか夕方になっていた

「っと、もう夕方か。レイザーさん? 今日はこの辺で失礼します」
「おう。今日もご苦労さん。おかげで今日は大分色々とわかった気がするぜ」
「そうですね。セレスティアについてですが、何かわかったら連絡もらってもいいですか?」
「おう。もちろんだ。お前も何かわかったら連絡してくれ」
「わかりました。それじゃ失礼します」
 ≪お疲れさまでした。レイザーさん≫
「おう、嬢ちゃんもご苦労さん」
 ≪はい≫

 警備隊の外へ出て、アルテミスを檻に入れ。マキナが翼形態になり部屋へ向かう

「おい、救世主」

 城に入る前に檻を解除し部屋に入る
 マキナに次元の狭間にアルテミスを入れてもらおうと思った矢先、アルテミスから話しかけられる

「なんだ? アルテミス」
「……お前のさっきの話…………それがもし真実なら…………私…………は……」
「まだわからねえが、可能性はゼロじゃないと思うぜ? 一応筋が通っていただろ」
「……ああ。納得できる部分がいくつもあった…………」

 マキナ? アルテミスを椅子に座らせてくれ、遮音化頼む
 ≪はいっ≫

 マキナがアルテミスを浮かし椅子に座らせる
 とすっ

「お前自身、おかしいと思った事があったんだな?」
「……ああ」
「それ聞かせてくれるか? 俺の仮定が正しいか間違っているのか証明するヒントになるかもしれない」
「……っ。ああ」

 昔の仲間を売るような気がして気が咎めたのだろう、一瞬アルテミスが躊躇する表情を見せた後頷く

「おかしい……とまでは思わなかったが、違和感を感じた事がある」
「違和感?」
「そうだ。私がセレスティアに召喚された日の事だ。
 召喚されてすぐわけもわからぬ内にあなたは「救世主」だとシスター達に称えられおだてられ城に連れていかれた」
「……」

 俺は無言で頷く

「それで、城に着いたら今度は王や貴族がまた私をおだてだした。
 ……まだ何もしていないのだぞ? 神器の存在すら知らぬ時だ」

 俺みたいに訓練場で神器の力見せたのならまだ理解できるけど、
 何もしてないうちから持ち上げられたらそりゃ戸惑うよな

「うん……、わかるよ」
「その後、城の闘技場で神器の出し方を教えられ、神器を出した……。
 その時の神官や貴族、王達の反応も妙だった……私の神器を見てため息をついていたんだ」
「その後、王宮に私の部屋が割り当てられた。ちょうどお前のこの部屋ようにな」
「異世界来てすぐだし、その時宿賃すらないだろうしなぁ、衣食住を提供するって言われたんだろ? 俺もそれは乗っかったし」
「その後だ。状況を理解するために私は「救世主」というものを調べようとした」
「ああ、なるほど」
「救世主に関する書物を読めば「救世主」とは何かがわかると思った私は国の図書館で「救世主」というものを調べようとした」
「……どうだった? 何かわかったか」

 アルテミスは顔を振る

「救世主に関する本が一切ないんだ。……なぜないのかと聞くと全員「救世主様に関する書物は存在しません」と口を揃えて言うんだ」
「そりゃあ、確かに違和感を感じるな」
「だろう?」
「これだけ「救世主」って存在が信じられてるこの世界なら、救世主や英雄の本は世の中に腐るほどあるはずだ。
 最低でも自伝なりあるはずだ」
「ああ。この世界では「救世主」とはなにかこう……英雄のような扱いだろう?」
「まぁ、そうだな。このエルトでは一部を除いて絶対ないけどな。それ」

 この国で俺を英雄だーとか救世主様! なんて言ってくれるの陛下とソフィアとレティシアと貴族の皆さんと隊長さんだけだ

「そんな英雄の本が存在しない。そして誰もそれに対して疑問を抱かない事に酷く違和感を感じてな」
「確かに、おかしいなそりゃ」
「それなのに、なぜか何もしていない内からちやほやと持ち上げる……どう考えてもおかしいだろ」
「なぁ、アルテミスはセレスティア以外の国には行った事はあるのか」
「いや、召喚されて少し経った頃フィーネの村へ派遣されたからないな」
「そう、かぁ……。…………エルトはどうなんだろうな。俺も調べてみるか。何かわかるかもしれない」
「セレスティアだけがそうなのか、全世界でそうなのかわかるかもしれんな……」
「……なぁ? もし、俺の仮説が正しくてセレスティア王国と破滅の王が組んでてさ、破滅の王がお前を貶めて仲間に引き入れたとしたら…………お前どうする?」
「っ……! 絶対に許さん…………! 殺してやる! 破滅の王も、セレスティアの国王も…………!」
「まぁ、やっぱそうなるよなぁ。うん、わかるよ」
「っ……!」

 俺のその言葉にアルテミスが俺の顔を見る

「なぁ、アルテミス……? お前、本当の事を知りたくないか?」
「……っ! 知りたいさ…………! 決まっているだろう!」
「ああ、俺もだ。俺も本当の事を知りたい。だから、俺に協力してくれよ。お前の知ってる事を教えてくれ。
 思い出せる範囲だけでもいい。どんな些細な事でもいいから教えてくれ。俺はお前の話を何時間でも聞く」

 アルテミスをまっすぐ見据えて言う

「……わかった。その前にお前の名前を教えてくれるか?」
「俺は東条 司だ。元の世界では学生してた」
「東条 司か。良い名だな。妹の好きな男と同じ苗字だ」
「へぇ、妹さんいるんだ?」
「ああ、久しく会っていないがな。ちょうどお前と同じくらいの年だ」
「アルテミス? お前の本名もできたら教えてほしいんだが?」
「……ああ。すまない。先に名乗るべきだった…………。私の本名は白石 希望(のぞみ)と言う。元の世界では学生をしていた」
「へぇ、白石希望か。日本人なんだな。いい名前じゃんっ……んっ!?」

 その苗字には聞き覚えがある……白石…………白石っておい…………
 いや、まっさっかねー……
 ハハハ……ほらよくあるじゃん? 同姓同名って! 苗字が同じくらいよくある事だって!
 世の中に佐藤や鈴木って苗字のお家がどんだけあるんだって話だよ。ハハハ!

 ……でも、このネーミングセンス…………

 希望……叶…………
 繋げると「希望を叶える」……

 ハハハ……ジョーダンきついって!
 でも、一応! 一応の確認をしておこう

「な、なぁ……? その妹さんが通ってる学校って…………なんて名前だ?」
「どうしてそんな事を聞くんだ? ……まさか私の妹を誑かそうとしているのか!?」
「いや、俺も違うとは思うんだけどさ。……一応確認をね…………」
「確認……? なんの確認だ」
「……光ヶ丘高等学校…………」

 ボソっと高校名だけ言うと……白石の顔が驚愕に染まる

「……っ!? お前っ!? どうして…………!? …………そっ、そう…………か……。お前が「東条君」…………なん……だな…………? ……あっ!?」

 アルテミスが「あっちゃーしまった!? 私叶の気持ちバラしちゃった!?」みたいな顔をして俺を見る

 ……マジかよ
 え、じゃあ何? 俺同じ学校のそれも俺に告白ドッキリ仕掛けた
 親族とっ捕まえて首掴んで威圧しながら脅しまがいの警告したの!?

 ハッハー!
 超えちゃいけないラインを一歩踏み込えるどころか、助走つけて思いっきり飛び越したぜ! フーーーーーー!
 まっ、仕方ない。白石の家族って事知らなかったし! 知ってたとしてもやってたけどな!
 それ以前に「破滅の王の軍勢」に与していた「アルテミス」だからな!

 グッバイ! 俺の片思い! 俺はソフィアと幸せになるからどっか行ってくれ!
 ≪一秒で諦めましたか! 思いの他外道ですね!?≫
 当然! そもそも始まってもいねー恋だもん! それに告白ドッキリ仕掛けられた被害者だし
 どっちにしろあの告白ドッキリで相当愛想尽きてたし! 区切りが着けられてちょうどよかったくらいだぜ?

 ……あれ? さっきアルテミスが言ったあれ何? 俺の事を白石が好きだって?
 じゃあ、あの告白ドッキリはなんだったんだよ!?

 ≪私思うんですが、おそらくアレは仕込みじゃないかと≫
 仕込み……? 何それ? どういう事…………
 ≪はい。いい返事がもらえそうになかったら、
 友達に出てきてもらってドッキリという事にしてごまかそうっていう感じじゃないかと……≫

 えっ!? だって! 俺あの時返事しようとしたんだぜ!? オッケーしようとしたぜ!?
 ≪あの時の記憶今見てますけど、マスターが返事するのが遅かったんじゃないですかねぇ。
 ほら? この人、後ろで何か手を動かしてますよ? コレは友達に出てくるように合図を送ってるんじゃないかと≫
 マジで!? 俺があの時色々しょーもない事考えてのがいけなかったの!?
 ≪まぁ……、そうなりますね…………はい…………≫
 わかるかよ!? そんな壮大なツンデレ! それ察する事が出来る奴ってエスパーだろ! なんでそんな面倒な事する必要が!?
 ≪もしダメだった時冗談って事に出来ますし……後の事考えた末の策でしょうねー≫
 マキナちゃん!? なんで君そんなにスラスラわかるの!?
 ≪一応私も女ですからねー……。白石さんの気持ちもわかるような気がしますよ。ええ≫

 え、じゃあ、何? あの時「私本当に東条君の事が好きなの!」とか言ってたのってマジか……!?

 うわああ!? ごめん! 白石! 元の世界もどったらやり直しさせて!
 ≪たまーに、マスターって頭いいのか馬鹿なのかわからなくなりますよね……≫
 何言ってるのマキナちゃん! 俺は大馬鹿野郎だよ!? 俺を馬鹿にして!? 馬鹿にして罵って!?
 ≪そこは「俺を馬鹿にするな!」じゃないんですね!?≫
 だって馬鹿だもん! 超ド級の馬鹿じゃん俺! ! ホント馬鹿じゃねーの俺えええええええええ! !
 ≪あの、マスター……? お疲れのようですね…………。ちょっと休みましょう…………≫

 マキナが優しく背中をさすってくれながら慰めてくれる

 今の俺に優しくしないで!?
 さっき心の中で「グッバイ! 俺の片思い!」とか言っちゃった俺に優しくしないで!?
 ≪大丈夫。大丈夫ですから、マスター……。私はマスターの味方ですから…………ね…………? ≫

「ど、どうしたんだ? 驚いた顔したり泣きそうな顔になったり……大丈夫か? お前」
「……はい、大丈夫です…………」
「なぜ突然敬語になる!?」
「……ハハハ。やだなぁ、白石さん。僕は最初からこういう話方じゃないですかぁ」
 ≪「僕!?」≫
「気持ち悪い! 頼むから普段通り話してくれ……。お前はそのほうが話しやすい…………」
「……はいよ。はぁ~。…………しっかし、こんな偶然ってあるんだなぁ…………」
「本当だな。さすがに私も驚いたぞ」

 ぐぅ~~~~~~~っ

「…………っ」

 アルテミスが顔を真っ赤にしながらプルプルと震えながらこっちを睨む

「……そういえば腹減ったなぁ。飯できてるだろうから、持って来てもらってとりあえず食べようぜ」
「……聴いたな?」
「聴いてない」
「聴こえたって事だろうがその返事は!」
「大丈夫。俺は何も聴こえてない」
「くっ……! 忘れろ!」
「本当に聴こえてないから」
「~~~~~~~っ」
 アルテミスが真っ赤な顔で俺を睨む

 傍仕えさんに頼んで夕食を持ってきてもらい食べ始める

「いただきます」
「……いただきます」

 いつものようにマキナがアルテミスに食事介助をしながら食べ始める

「……なぁ? ところでさ? 俺はアルテミスをどっちの名前で呼べばいいんだ? アルテミス? 白石希望?」
「どっちでも構わん」
「んじゃ、アルテミスでいいか。わかりやすいし」
「そうか。私は東条と呼ぼう」
「救世主だと他にもいるから紛らわしいよな」
「そうだな……」
「……おい。東条…………、お前に聞きたい事がある」
「ん? 何だ」
「お前はなぜ救世主をやっている? 聞く限り特に優遇されてるわけでもなかろう?
 本当に好きな女の為だけで世界を救うつもりでもあるまい? まさか、この世界の為か……?」
「……うーん。まぁ…………細かい事言っちゃえば女の為だけってわけじゃねえな。
 確かに世界救う理由として好きな女と約束したってのはあるけどな」

 コッ……

 スープの具の芋をスプーンでサクっと切りながら答える

「やはり他にも何かあるんだな?」
「まぁな。例えばこの部屋だ」
「……この部屋がどうかしたのか?」
「俺らってさ? 異世界に来たはいいけど、無一文だっただろ?」
「ああ。当然だろ。飛ばされたすぐならこの世界の金なんてもっているわけがないからな」
「……もし部屋をあてがわれてなかったら、どうなってたと思う?」
「それは……。おそらく冒険者になって金を稼いでいたかもしれんな」
「だろ? けど、冒険者だって今決めてすぐなれるってわけじゃないだろ。
 そもそもそれまで戦いなんてしたことがないのなら、なおさら金を稼げるようになるまで時間はかかるはずだ。
 それこそ「金を集める神器」でも持っていない限り神器があってもそれは変わらないはずだ。
 生活に最低限度必要な衣食住を用意するのすら困難だと少し考えただけで想像はつくよな」
「……そうだな」
「もし部屋あてがわれてなかったらホームレスしながら世界を救わなきゃいけないところだ」
「……あまり、想像はしたくないがその状況は容易く想像できるな…………」
「だろ?」
「……ああ」

 俺は顔を上げアルテミスの顔を見ながら話始める

「アルテミス。俺に「この世界の為に」なんて大層な志はないよ」

「……俺が頑張らなくて街や城が攻められて落とされたら…………、
 俺らに衣食住を用意してくれた優しい陛下も、俺の世話してくれてる親切な傍仕えさんも、
 いつも部屋の掃除や服の洗濯をしてくれるメイドさん達も、
 毎日うまい飯を作ってくれる料理長も、俺の話をちゃんと聞いてくれる隊長も、
 俺に協力してくれるレイザーさんも、俺を好きだと言ってくれた女の子達も……みんな殺されちまうんだ」
「……」

「それは……お前が「救世主」だから大事にされてるんじゃないか?」
「……そうかもな」

 確かにアルテミスの言うように俺が救世主だから、みんな親切にしてくれるのかもしれない。
 でも、そうじゃないかもしれないって、さっき言った人達はそう思えるんだ
 俺はこの人達を守りたいから俺は救世主やってんだよ、アルテミス

「……とりあえず食べちまおうぜ。せっかくの暖かいスープが冷めちまうよ」
「ああ……」
「……料理長の作る食事はいつも美味いよなぁ」
「……ああ、美味い」
「俺はさ、こういう何でもないような事を守る為に救世主やってんだ」
「……そうか…………」
「……ああ、そうだ」

 そう言いながら初めてアルテミスの口角が少し上がり微笑んだ顔になる。
 俺もその笑顔にニっと口角を上げて応え食事を続けた

 この世界に来たすぐの頃は「なんで俺が今日あったばかりの連中の為に命賭けて戦わなきゃなんねーの?」なんて思ってたよ

 でも、そういうわけにもいかなくなったよ────────
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