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第二章 始まりとやり直し
025 さやかと召喚の議
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振り向くと、大聖堂の入り口に立っていたのは、あの映像で見た事があるランデル王子の傍仕えだった……
コツッコツッ……
足音を立てながら歩いてくるランデル王子の傍仕えが俺を見た瞬間、その顔を歪ませる
「っ……! あなたは…………」
まぁ、そうだよな。
自分が暗殺を依頼した人物が、なぜか自分のホームグラウンドにいるんだものな
顔色の一つも変えてもらわなきゃ困るぜ
ランデル王子の傍仕えの顔を見た途端、アルテミスの件が思い出され、急激に頭が冷えていき現実に引き戻される
ランデル王子の傍仕えに関しては間接的に知ってはいるが、直接面識はない。
素知らぬ顔で対応したほうがよさそうだな
「……さやか? 大丈夫か? ちょっと立つぞ」
「ぐすっ……うっ、うん…………」
さやかが俺の服を掴んだまま離さずそのまま俺達は立ち上がる
「私はエルト国で召喚された救世主で東条司と言います」
俺は立ち上がりながらさやかを立たせ、エルトの紋章を見せながら自己紹介をする。
「ほ、ほぉ……その、エルトの救世主様がどうして我がセレスティアの大聖堂に…………?」
「こちらで妹がいると情報を入手しまして迎えに来たんですよ」
「……なるほど。しかし、もうすでに国王との謁見も準備してありますので謁見に来ていただけませんか?
申し遅れました、私セレスティア王の側近を務めております。ゴルヴァ・ディランと申します。
救世主様の証である神器を召喚する「召喚の議」を私が取り仕切らせてもらっておりまして、
すでに準備を整えてありますので救世主様に来ていただけないと非常に困るのです……」
……先日の件の報復も含めて、このディランという傍仕えには痛い目を見せてやろう
こいつはあの件において殺人未遂の共同正犯だ
「なるほど、少し待ってください。本人に行きたいか聞いてみます」
「さやか? さやかの一番好きな強いものって昔と変わってないか?」
「えっ……。…………う、うん。……今も一番好きだよ?」
「そうか」
俺はその言葉を二ィっと口角を上げる
≪あっ! マスターが悪い顔してるー! と言う事はー?≫
うん、そうだよ? 捏造するつもりだよ?
≪ふふふっ! 今度は捏造ですかっ。どうするんです?≫
まぁ、見てなって
≪はいっ。楽しみに見ておきますっ! ふふふっ」
マキナ? 王城に着いたらさやかと引き離されるかもしれないから、アイちゃんで常にさやかを見ておいてくれ
≪はいっ。さやかさんはアイちゃん不可視モード十体で常時確認してますっ≫
すでに対処済みか。さすがマキナちゃん! 仕事ができるね!
≪えへへ……≫
「その強いのを呼び出す所をこの国の王様が見たいんだって。さやかは王様に見せに行きたいか?」
「う、うん。お兄ちゃんと一緒なら……」
「よし。じゃあ、兄ちゃんと一緒に王様に見せに行こうか」
「うんっ……」
「じゃあ、私も同伴させてもらってもよろしいですか?」
「えっ……? それは…………」
「妹は私と一緒でないと行きたくないと言ってましてね」
「……お兄ちゃんと一緒じゃないと行きたくないです…………」
さやかが俺の服の袖を握る手に力を入れながら言う
「……わかりました。では、表に馬車をご用意してあります。どうぞこちらへ」
「よし、じゃあ行くか。さやか」
「うんっ」
さやかが俺の服の袖を掴んだまま歩き出し、大聖堂から出て大聖堂前に停められている馬車に乗り込む
「馬車だ……! 馬車だよ! お兄ちゃん…………!」
「ああ。馬車だなぁ」
「すごいすごい! ホントに馬が馬車引いて走ってるよ! お兄ちゃん!」
「ファンタジーの映画みたいだよな」
「うん! アニメの世界に来たみたい!」
初めて乗る馬車にさやかのテンションが上がり少し元気が出た姿を見てほっとする
さやかと再会できた事で少しだけ元の世界の日常が帰って来た気がする
さやかとあれこれと色々街の風景に話しながら馬車に揺られていると
北欧風の王城が見えてくる
馬車が城の前に着くと馬車が止まる
「到着いたしました。どうぞ」
「どうも。さやか、降りるぞ」
「うん」
一足先に馬車から降り、さやかの手を取りながら降ろす
「さやか、足元に気をつけろよ」
「う、うん……」
トッ……
さやかが馬車のステップから地面に足を降ろしたのを確認し、城の門を見上げる
ほー。これがセレスティア城か。城も北欧風なんだな……
「さぁ、こちらです。救世主様」
ランデル王子の傍仕えが先導し、城の中へ入る
赤絨毯の脇をメイドや執事、騎士や兵士が立ち並び、俺たちが通り過ぎるたびに礼をしていく
赤絨毯の上を延々と歩き謁見の間に到着する
陛下の前に着き、さやかが跪こうとしたので手で制し止める
「さやか? 膝を折る必要はない。俺たちは「救世主」だからな」
「えっ……おっ、お兄ちゃん? だっ、だって王様だよっ…………?」
「もちろん年上の人に敬意を払う意味での敬語は必要だぞ。でも、膝まづくまではしなくていい」
「う、うん……」
「まぁ、今はにーちゃんの言う事信じてくれ」
「うん。もちろん信じてる。……でもいいの? ホントに…………」
「ああ、大丈夫だ。兄ちゃんの方がこの陛下より偉いからな」
「えっ……!?」
≪ふふふふっ! マスター……! 確かに私もそういいましたけど! 本人を目の前にしてソレ言いますか! あはははははっ」
「とっ……、東条! おっ。おまっ、お前って奴は…………フッハハハハハ! 気分がいいぞ私は! ハハハハハ!」
上下関係はハッキリさせておいた方がいいからな。ヤバい噂がある相手に隙を見せたくない
≪アルテミスさんの時、やっぱり跪いたんですか?≫
「ああ、跪いたさ。それが礼儀だと思っていたからな。……けれど今となってはそれを酷く後悔しているぞ」
≪でしょうねえ。ね? 前に言ったでしょ? うちのマスターはこういう事平気で言うって≫
「……本当に言うとは思わなかったぞ。あのセレスティア国王が目を丸くしているぞ! 見て見ろ! 周りの近衛たちが唖然としているぞ! ハハハハハ!≫
≪ふふふっ! 驚いたでしょうねー。人生初の出来事じゃないですかね。多分……!≫
「そりゃあ経験はないだろうな! 謁見の間で国王を前に「俺の方が偉い」なんて言う奴がいるなんてまず想像もしないだろうからな! ハハハハハ!」
≪そしてそれが事実ですからねぇ。ふふふふっ≫
年長者として敬語は使うけどそれ以上は必要ないはずだしな。まして世話になってるわけでもねーし!
エルトの陛下だったら全然跪いてもいいんだけどなぁ。俺ら世話になりまくってるし……。いかにも「王様」って感じで尊敬できるし…………
≪ダメですよ? マスター。他の国に知られたら大事になります。エルトやソフィアさんの為を思うなら絶対やっちゃダメです≫
やっぱりそうだよな。マキナ宿してる俺は絶対やっちゃダメなのは理解してるよ
≪「エルトが強い力をもつ救世主を手に入れた! いずれ世界征服を目論むかもしれない! 世界中の国と手を結びエルトを倒そう!」
なんて事を人間なら考えかねません……≫
だよなぁ、小説とかでもよくあるしな……。想像できるよ、その状況
≪本当はソフィアさんとお付き合いするのもかなりまずいんですよ?
「エルトが救世主に姫を娶らせて取り込もうとしてる」とすでに見られてるはずです≫
……うん、わかってる…………だから、さくっと世界平和にしたい所だけど難しいよなー……
≪この世界が平和になったら。今度はマスターが原因で戦争を始めそうですよ。この世界の人達は≫
だよなぁ、やっぱ世界平和にしたら元の世界にソフィア連れて戻るってのが理想だなー。ついてきてくれればだけど。
世界平和にした後は元の世界に戻らないと俺自身の為にも、ソフィアの為にも、この世界の為にもならないのは理解してるよ。
なんにせよ、全部終わってからだ。まずは破滅の王を何とかしないとな……
≪ですねぇ……≫
セレスティア陛下が引きつりながら口を開く
「これはこれは、ようこそおいでくださった。救世主様……! 私が第九三代セレスティア国王「アーベル・セレスティア」です」
「初めまして、陛下。エルトで召喚された救世主、東条 司と申します」
エルトの紋章を見せながら自己紹介する
「はっ、初めまして、東条 さやかです……」
「ええ、初めまして救世主様。して……? エルトの救世主様がどうしてこちらに…………」
陛下が俺に顔を向けながら言う
「このセレスティアに妹がいるという情報を得ましてね。妹を迎えに来たのです。陛下」
「そ、そうでしたか……」
「それで、陛下? 妹の神器の「召喚の議」を行うというお話を聞いてきたのですが……」
「ええ、ええ。召喚された救世主様に神器の出し方をお教えして、神器を出現させる儀式をご用意してあります」
「陛下。貴族の皆様がお揃いになりました」
「おぉ、では早速参りましょう」
「わかりました。行こうか。さやか」
「う、うん……」
さやかが再び俺の服の袖を掴んでくる
闘技場に向かう廊下の途中さやかに話しかける
「さやか。神器の出し方は知ってるか?」
「ううん。知らない……」
「だよな。にーちゃんが教えてやるよ。さやかが一番好きな強いって思う存在や物の名前を手を空に掲げて叫ぶんだ」
「……ほう、これは興味深い。なるほど、エルトではそういう呼び出し方なのですな」
「あれっ? セレスティアでは違うんですか?」
「そうですね。大きくは違いませんが手は掲げませんね……。心の中にある一番強いと思う存在…………強い武器をイメージして呼ぶのです」
「ああ、やっぱりそこは同じなんですね」
「ええ。神器ですからそこは同じですね」
闘技場に着くと、闘技場には二階、三階から多くの貴族らしき人達が見降ろしこちらに視線を送っていた
これから闘技場の傍の観客室で見守ろう
……ランデル王子の傍仕えは用心しておくに越したことはない。
マキナ?
≪はいっ≫
これから起こる事に誰かが腹を立てて、さやかに何かするかもしれない。
俺も助けには入るが何か飛び道具とかに対策できる事ないか
≪はいっ。……さやかさんから半径一Mを不可視の障壁で囲っておきました≫
ありがとう、マキナ
≪はいっ≫
「陛下? 妹が不安そうなので、闘技場の脇の観客席で見てもいいですか?」
「ええ、ええ。構いませんよ。行きましょうか。救世主様」
「……さあ、東条様。闘技場の中心で、ご自分が最も強いと思う存在…………武器の名前をイメージして出てくるように呼び掛けてください」
「は、はい……。あの、お兄ちゃんは…………」
「にーちゃんはあそこの端の席で見てるよ。大丈夫、なんかあったらすぐにーちゃんが絶対助けてやる」
「う、うん。わかった……行ってくる…………」
「おう。頑張れよー」
「うっ、うん……」
さやかが闘技場の中心に立ち、目を閉じる……
「んー……イメージ、イメージ…………よし!」
さやかが天に手を掲げ自分の神器の名を呼ぶ────────────
「────来てっ! お兄ちゃん!」
……シーン…………
「……あれ?」
さやかが不思議そうに手を見る
俺とさやか以外のその場の一同がポカン……と口を開けたまま茫然とする
うん! やっぱりね! やっぱり「東条司」なんて神器は存在しないよね!
さやかに神器の説明する時にあえて「好きな」という単語を入れてさりげなく誘導しておいたんだ。
これならまず不審に思う人はいないはずだ
≪あははははははっ! なるほどっ。こういう事ですか! 今度は「神器を呼び出せない」という状況を捏造しましたか! ふふふふふふっ!≫
「ふっ……くっ…………こいつは傑作だ……! く……く……っハハハハハッ! こんなの失敗するに決まってるだろ! ハハハハハッ!」
うん、そうだよ? やった事自体は「捏造」の意味の逆だけどな。実際にはある物を無いと見える状況を捏造して「神器を呼び出せない」と思わせたかったんだ。
「神器を呼び出せない」救世主なら、セレスティアにとってさやかの救世主としての利用価値はなくなるはずだからな
≪ふふふっ! なるほど! 確かに利用価値を無くしてしまえばさやかさんを殺そうとすら思いませんね!≫
だろ? あの噂が本当だとして、セレスティアが救世主を殺す意味が何かあるとしたら、ハズレ救世主達による問題行動や反乱を抑止する意味も含めてあるはずだ。
だったら、「神器を呼び出せない」救世主は殺す意味自体が無くなる。
万が一さやかを渡さないなんて言い出したとしても「神器を出せない救世主にどんな事をさせるんですか?」と聞かれたら答えようがないだろ。
俺が連れて帰るって言い出したら、セレスティアからすればむしろ「どうぞお持ち帰りください」だろ
≪ですね! 一時的にでも城に部屋を準備させて、追放する手間もコストも必要がなくなるわけですし、噂がデマだった場合なおさら必要がないですもんね!≫
それに神器を出せない救世主を殺したら公になんの「正しさ」も示せないからな。リスクとデメリットばかり抱えるような事はしないだろ
「うーん……。おかしいなぁ」
「あ、あの、救世主様? もっと真面目にやってください……」
ディランが困惑した表情でさやかに話しかける
「やってます! 真剣です!」
「えぇ……」
よし、もう少し遊んでみるか
「さやかー? もしかしたらフルネームじゃねーとダメなんじゃねーかー?」
「あっ!?そっか! きっとそうだね! もう一回やってみるー!」
再び目を閉じる……
「んー……よし!」
さやかが再び天に手を掲げ────────────
「────来てっ! 東条 司っ!」
……シーン…………
さやかが掲げた手を見上げ不思議そうな顔をする
「……あれ? …………出ないよー!?どうなってるのー!?お兄ちゃーん!」
「どうなってるんだろうなー!」
いやぁ、うちの義妹は可愛いなー!
≪あははははははっ! 最高です! マスター!≫
「どうかしてるのはお前の方だよ! 貴族達が全員唖然としてるじゃないか! ふっ、くっ……ハハハハハッ…………」
「あの、救世主様……!?神器というのは剣や弓などの武器の事です…………!」
ディランが焦りの表情を浮かべだし、額に汗をにじませながら必死な表情で話しかける
「剣……? 弓…………」
「……剣に名前なんてあるんですか? 剣は「剣」でしょ?」
「えっ!?」
「まぁ、試しにやってみろよー? できるかもよー!」
「わかったー! とにかくやってみる!」
「────来て! 剣!」
……シーン…………
「……あれ? じゃあ…………」
「────来て! 弓……!」
……シーン…………
「……お兄ちゃーん! やっぱり出ないよぉー!?」
「うーん! 出ないなー!」
「あっ、そうか!?ここ異世界だから英語かもしれないね!?」
「……あぁ~…………。そうかもなぁ。じゃあ「sword」かもしれないなー」
「やっぱそうだよね! きっとswordだね! やってみるー!」
さやかもアニメや漫画は見るけど、アニメや漫画は少女漫画の現代が舞台の恋愛物ばかりだし。
ゲームはほのぼの系ゲームの「どうぶつの国」をたまにやるくらいだし、
ゲームやアニメで出てくるような伝説の武器の名前なんて知らなくて当然なんだよなぁ
そして、ここは異世界だ。
この世界の人たちが俺らの元の世界の伝説や神話の武器の名前なんて知るわけがない。
だから神器についてのヒントをさやかに与える事も出来ない
ん? ……と言う事はアレか? 今まで召喚された救世主はみんなゲームや漫画とか小説が好きだったって事か?
……あれ、急に先輩救世主達に親しみを感じてきたわ
おい、見て見ろよ! ディランの顔が青くなったり赤くなったりまるで信号機だ! ハハハハハッ!
≪あははははっマスターっ! 遊び過ぎですっ!≫
「いい気味だ! ハハハハハ! ……東条? ネタ合わせ無しだろ? コレ…………」
もちろんネタ合わせなんてしてないぞ。完全に天然のアドリブだぞ
ガヤガヤ……ガヤガヤ…………
「おい。これはどういう事だ……? ふざけてるのか?」
「ふざけてるようには……見えませんがね…………」
「そうですな……、あんなに必死に汗を流しながら叫んでますもんね…………」
「あれは、嘘や冗談でやってるようには見えませんねえ……」
「……これはもしかして…………、ハズレどころか論外という事では……」
「し、しかし! 救世主として召喚されたのですよ……!?」
「何かの間違いではないのですか? ディランさん……」
「まっ、間違い……!?いえ! そんな事は決して…………!」
「陛下……? どういう事ですかな? これは…………。我々にこんな茶番を見せるために召集したのですか」
「この忙しい時期に……どうなってるんだ…………」
「くだらん茶番だ。なんだったんだこの無駄な時間は……」
「非常に無駄な時間を過ごした気がしますな」
「これなら領地の問題を話し合う会議に参加していたかったですよ」
「全くだ。我々にも仕事があるというのに……」
「陛下。ディランさん? 今日はどういう意図で我々は呼ばれたのですか? 返答次第ではこちらにも考えがありますぞ」
「神器がハズレならまだ仕方ないとも思えるが……、これでは我々をからかっているようにしか思えませんな」
「陛下。流石にこれはお戯れが過ぎますぞ……? ディランさん…………あとで説明をお願いできますかな?」
「そうだ! どういう事か説明しろ!」
「いっ! いえ……あの…………!?」
おっ、ついに始まったか! 不満が漏れ始めたな。
忙しい中わざわざ呼ばれてこんな茶番を見せられたらそりゃ怒るよな……
こうして貴族たちが不満を漏らし、陛下やランデル王子の傍仕えを非難し始めるのを待ってたぜ
さあて……ここからが楽しい時間だ
ニイッっと口角を上げる
≪あっ!?マスターがまた悪い顔してるー! と言う事はー? まさかまだ何かあるんですか≫
あるよ? この「召喚の議」にさやかを連れてきたのには二つの意味があるんだ
≪二つの意味……?≫
一つはさっき話してた「神器を呼び出せない」という状況を創り出し、セレスティアにとってのさやかの利用価値を無くして脅威から遠ざける事。
もう一つはこの神器召喚の議をぶち壊す事だ。この「召喚の議」を取り仕切るのはディランだ。
つまりディランが部下たちに命じて書簡を送って今日の日時を指定して貴族達をここに呼び集めたってことだろ?
これだけ多くの貴族をこの真っ昼間に集めさせたんだ。わざわざ遠くの街や辺境からこの日の為にセレスティアに前もって来た貴族もいるだろう。
そんな人達を集めて「召喚の議」なんて大層なお披露目会やって「神器を呼び出せない」ハズレですならない救世主を見せられた貴族達はどう思うかな……?
≪……この場を取り仕切るディランとセレスティア王に不満が行きますね!≫
ピンポーン! まさに今貴族達が見せてる反応だ。「忙しい中わざわざ遠方から呼ばれて来てみれば、ハズレですらない救世主を見せられた」
ってこの不満はディランの信用を失墜させるに十分だ。ついでに不満は主である陛下にも当然向かうはずだ。
恥をかかされたセレスティア王はディランにブチ切れるだろうし、当然貴族たちもディランにブチ切れるはずだ
この間の仕返しにたっぷり怒られてもらうさ
≪あはははははっ! なるほどっ一石二鳥って奴ですねっ!≫
そういうことー
≪……あぁ。なるほど、確かにこれは怒る人が出てきそうですね。マスターが開始前に対策を私に指示した意味が解りました≫
だろ? この世界の物騒さ考えると酒のビンやらゴミやらをさやかに投げつけそうじゃん?
それにディランが神器を出せないさやかに腹を立てて何かするかもしれないしな。念には念を入れて対策しておきたかったんだ
「ディラン……! !?どういうことだ!?貴様…………!」
「ヒィッ……!」
よし、ここだ。ここで陛下の背中を押して終了だ!
「陛下……? もしかしたら…………、妹は神器を持っていないんじゃないかと私は思うんですが……陛下はどう思われますか」
陛下にボソッと言う
「な、何……? じ、神器を持っていない救世主様…………ですと……?」
「妹は例外……、と言うやつじゃないですかね…………」
「れ、例外……、ですか?」
「ええ、例外です。何事にも例外は存在するものでしょう?」
「ううむ……確かに…………、そうですな……」
「陛下もご覧になられましたよね? 出ないのを。……ほら? 懲りずに今も色々と何回もやってますけど出ないですよ…………」
「で、ですね……はい」
「妹にとって一番強い存在を呼ぼうとしてるのは、あの真剣な表情からご理解いただけると思います」
「確かに……真剣にやってますね…………汗までかいて叫んでますし……」
「……はい。ですよね。それで私思うんですが、妹は神器を出す才能がないんじゃないかと…………」
「うむ……。どうやら…………そのようですな……」
「やはり、陛下もそう思われますか」
「ええ……。きっと救世主様にもお一人くらいは例外の方がいらっしゃるという事でしょう…………」
「ええ、私もそう思います。では……、私が妹を責任もってエルトに連れて帰りますので。後はよろしくおねがいします」
「……ええ。お手間をおかけしてしまって申し訳ありません。救世主様…………」
「いえ。では失礼します」
陛下がディランを威圧する
「……ディラン!?儂に恥をかかせてどういうつもりだ…………! 後で話がある!」
「ヒイィッ!?」
赤い顔の陛下に睨まれディランが震えながらさやかをせかす。
ハハハハハ! ざまぁ! 俺らが帰った後たっぷり絞られやがれ!
「……あ! あの!?救世主様!?そろそろ神器を出してください! 今までのは冗談ですよね!?ねっ!?」
「失礼ですね! 私は真面目にやってますよ! ていうか! 神器ってなんですか!?そんなの本当にあるんですか!」
「あります! あるんです! 絶対にありますからお願いですから神器を出してください!」
「じゃあ、あなたが神器を出してあるという事を証明してくださいよ!」
「えっ!?そっ、それは私はできません……! 救世主じゃないんで…………!」
「ええっ!?自分に出来ない事を私にさせようとしてたんですか!?それってどうなんですか!」
「いっ、いやっ! そうじゃないんです! そういうものなんですっ!」
「全っ然! 意味がわからないんですけどっ!?」
「そんな!?そういうものなんだとしか言えないんです!」
「ふざけないでください!」
「ふざけてないですよ!?」
さやかがキレたぞ! ディランの奴マジで困ってやがるぞ! ハハハハハ!
やれやれー! 頑張れさやかー! 兄ちゃんは応援してるぞ! えいえいおー! えいえいおー!
≪ふふふっ! ざまぁですね! さやかさんがんばってください! えいえいおー! えいえいおー!≫
「フハハハハハ! 何か胸のつかえが少し取れた気分だ……!」
「それでは私達は失礼します」
さやかの所へ向かおうと下に降りようと体の向き変えた時陛下が話しかけてくる
「……救世主様? 今日お会いできたのも何かの縁です。よろしければ救世主様の神器を見せていただきたいのですが…………」
「私の神器、ですか」
……マキナ? あのサイズってこの距離でもできるか
≪可能です≫
アレはマキナの本体をそっちに置いたままでできるか?
≪はい。パワーは下がりますが可能です≫
おぉ、できるんだ?
≪はい。以前はできませんでしたがマスターが能力を引き上げてくれたおかげで、大分色んな事が出来るようになってますので可能です≫
そうか、修行の甲斐あったなぁ……。こうして目に見えて前進したのがわかると嬉しいぜ
≪……マスターは少しはご自愛ください。ちょっと頑張り過ぎです≫
世界を平和にしたらたっぷり休ませてもらうよ。……じゃあ、セレスティアに警告の意味も込めてやっちゃうか
≪はいっ!≫
アレを見せておけば変な手出ししてこようとか思わないだろ
「わかりました。じゃあお見せします。よっ」
「えっ!?救世主様!?」
観客席の一番前の塀を飛び越える
タンッ……
タタタタ……!
走ってさやかのいる中央に向かう
「お、お兄ちゃん!?あんな高い所から落ちて大丈夫なの!?」
「へーきへーき。さやか? 今からにーちゃんが神器って奴を見せてやるよ」
「えっ。お兄ちゃんはできるの? 神器」
「ああ、できるよ。……さやか? 危ないからちょっとそこの端に行っててくれ」
「うっ。うん」
「あっ、ディランさんももっと端に行っておいてください。陛下に頼まれて今から私の神器を出してお見せするので」
「は、はい……?」
ディランは元いた場所よりさらに端に寄り。さやかが闘技場の一番端に小走りで走って行く
さやかが端に寄ったのを確認する
マキナ? 一応出現時の白雷が当たらないように障壁的な物で囲えるか。万が一に備えたい
≪はい。……できました。私の体の周りを半径五Mほどの障壁で私自身を内側から封じ込める形にしてますので、
白雷がさやかさんや観客に当たる事はありません≫
ありがとう、マキナ。……じゃあ、いいか?
≪はいっ。いつでもどうぞ!≫
「お兄ちゃーんっ! ここくらいでいいーっ?」
「おーう! 大丈夫だー! 見てろよー?」
「うんっ!」
「……じゃあ。行きますねー」
「なんだ? 何が始まるんだ?」
「もしかしてあの男も救世主なのか……?」
「……ええ? 今日召喚された救世主は一人ではなかったのですか?」
「ええ、一人のはずですが。というかいつも一人ですよね……」
「ですよね……。となると…………あの青年は?」
「さ、さぁ……? 私にはわかりません…………」
「ふうむ。では一体何が始まるのだろう……」
ガヤガヤガヤガヤ……!
貴族達が訝し気な目で俺に注目を集めていた
俺は天に手を掲げ呼ぶ────────
「────出て来いよ! 機械仕掛けの神! デウス・エクス・マキナ……!」
キィィィィィィィン……!
酷い耳鳴りのような音が響き渡り
パッシャアアアアアアアアアアアアアン……! !
巨大な白い雷が迸る。雷の中からマキナの姿が顕現する
バチバチバチバチッ……!
キュィーーーーーン……シュー…………!
白の放電が辺りをまき散らし迸る
漆黒の巨体が広い闘技場にすっぽりと収まる
「……なっ! !?」
「ヒィッ……!?」
「黒く巨大な……まるで黒い山じゃないか…………! なんだ……何が起こっているん……だ……これは……」
「悪魔……悪魔だ…………! にっ、逃げろ!?うっうあああああああっ!?」
「ひいいいいい!?なんなんだ!?なんだよあれはぁ!?」
「怖い!?怖いいいいいいっ!?」
血の引いた白い顔で茫然と立ち尽くし、青い顔で右往左往しながら逃げ惑う者達……
観客席の貴族達の反応は様々だった
「わー……これがお兄ちゃんの神器なんだー…………すっごい……」
「どうだー? さやかー。兄ちゃんの」
「うんっ! おにーちゃんの黒くて硬そうでおっきー!」
「そうだろー。兄ちゃんの大きいだろー」
「うんっ! おっきー! すごーい!」
さやかが笑顔で手を広げ振りながら答える
一同が俺の姿に震え上がり腰を抜かしていた
「陛下? これでよろしいですか?」
「……え? あ…………は、はっ! はいぃっ! !?けっ! 結構です……! !?」
陛下とランデル王子の傍仕えが腰を抜かし股を黄色に汚していた
よし、これでいい。
これでエルトやさやかに何かしようものならこれが襲ってくると思わせられただろ
≪ですね。これで何かしてきたら本当に馬鹿ですよ……≫
この世界の人達の事だからわかんねえけどな……
≪ですねー……世界には想像もつかない人がいますからねえ…………≫
よっし、帰るか。マキナ? こっちに回したパワー戻していいよ
≪はいっ≫
パシュンッ……!
マキナが解除され消える、重力を操ってゆっくり地面に降りる
スーーーーーッ……
トッ……!
地面に着地する
さやかが走ってくる
「お兄ちゃーん!」
「よーし、さやか。兄ちゃんが暮らしてる街に帰ろうか」
「えっ? お兄ちゃんはここの街に住んでないの?」
「ああ、俺は他の国に住んでるんだ。今日はお前を迎えに来たんだよ」
「じゃあ、私もお兄ちゃんと同じ街に行く!」
「よし。じゃあ、一緒に帰ろうか」
「うんっ」
俺たちは闘技場を抜け城を出る
いつの間にか夕焼けでオレンジの色に染まっていた
街で絡まれたら面倒だな……さやかもいるし…………
マキナ? 今空って飛べるのか?
≪可能です≫
よし
≪……すみません、マスター…………大聖堂に行くとき翼出せばよかったですね……。
いいさ。間に合ったんだから問題ないよ。気にするな、マキナ
≪……はいっ≫
「さやか? ちょっと空飛ぶぞ」
「えっ! 空……?」
「そうだ。兄ちゃんは空を飛べるんだ」
「空を飛ぶ!?どっ、どういうことそれっ!?」
「こういう事」
ブォンッ……!
マキナが翼形態を展開させる
「さやか? ちょっと抱っこするぞ」
いいながらさやかをお姫様だっこで抱える
「えっ!?そ、それ何……? お兄ちゃん…………ひゃっ!?おっ、お兄ちゃん!?」
「さやか? しっかりつかまっとけよ?」
「う、うんっ……?」
さやかが俺の首にがっつりしがみついてくる
マキナ? 万が一さやかが落ちた時は重力で落下防ぐの頼むな?
≪はいっ≫
しっかりしがみついたのを確認し飛ぶ
「ひゃああああっ!?とっ……飛んだぁ!?おっ、お兄ちゃん!?飛んでるよ!?私達空飛んでるよ!?なにこれぇっ!」
≪ふふふっ! マスターの妹さん可愛いですねっ≫
「だろ? 俺の自慢の義妹だからな。しっかり捕まってろよ? さやか」
「うっ、うん! いっ! いまの可愛い声誰っ!?お兄ちゃん!?お兄ちゃんがしゃべったの!?」
「違う違う。俺じゃない。この翼がしゃべったんだ」
「翼が!?どういう事なのっ!?」
「これがさっきの俺の神器の違う姿なんだ」
「え!?この翼があのおっきいの!?……ていうかお兄ちゃんっ!?パンツ! 下の人にパンツ見えちゃう!?うちの学校スカート短いんだから気を付けてねっ?」
「わかってるわかってる」
「ホントに!?もし知らない人に見られたらお嫁に行けなくなるんだから! そうなったらお兄ちゃん責任取ってよね!?」
「わーった! わかったから! あんまり動かないでくれ! 危ないから! 落ちるから!」
「絶対だよ!?約束だよ!?」
「ああ! 約束する! だから頼むからおとなしくしてくれ! にーちゃんからのお願いだ!」
……さやかがお嫁かぁ。
いつかはさやかにも彼氏が出来て、いつかは結婚して……うちとは違う場所で幸せを見つける時が来るんだよな…………
きっとその時はすげぇ寂しいんだろうなぁ……。…………その時はちゃんと「おめでとう」って言ってやりたいなぁ……
そんな事を考えながら兄妹二人で騒ぎながら夕焼けに染まる空を飛んでいった────────
コツッコツッ……
足音を立てながら歩いてくるランデル王子の傍仕えが俺を見た瞬間、その顔を歪ませる
「っ……! あなたは…………」
まぁ、そうだよな。
自分が暗殺を依頼した人物が、なぜか自分のホームグラウンドにいるんだものな
顔色の一つも変えてもらわなきゃ困るぜ
ランデル王子の傍仕えの顔を見た途端、アルテミスの件が思い出され、急激に頭が冷えていき現実に引き戻される
ランデル王子の傍仕えに関しては間接的に知ってはいるが、直接面識はない。
素知らぬ顔で対応したほうがよさそうだな
「……さやか? 大丈夫か? ちょっと立つぞ」
「ぐすっ……うっ、うん…………」
さやかが俺の服を掴んだまま離さずそのまま俺達は立ち上がる
「私はエルト国で召喚された救世主で東条司と言います」
俺は立ち上がりながらさやかを立たせ、エルトの紋章を見せながら自己紹介をする。
「ほ、ほぉ……その、エルトの救世主様がどうして我がセレスティアの大聖堂に…………?」
「こちらで妹がいると情報を入手しまして迎えに来たんですよ」
「……なるほど。しかし、もうすでに国王との謁見も準備してありますので謁見に来ていただけませんか?
申し遅れました、私セレスティア王の側近を務めております。ゴルヴァ・ディランと申します。
救世主様の証である神器を召喚する「召喚の議」を私が取り仕切らせてもらっておりまして、
すでに準備を整えてありますので救世主様に来ていただけないと非常に困るのです……」
……先日の件の報復も含めて、このディランという傍仕えには痛い目を見せてやろう
こいつはあの件において殺人未遂の共同正犯だ
「なるほど、少し待ってください。本人に行きたいか聞いてみます」
「さやか? さやかの一番好きな強いものって昔と変わってないか?」
「えっ……。…………う、うん。……今も一番好きだよ?」
「そうか」
俺はその言葉を二ィっと口角を上げる
≪あっ! マスターが悪い顔してるー! と言う事はー?≫
うん、そうだよ? 捏造するつもりだよ?
≪ふふふっ! 今度は捏造ですかっ。どうするんです?≫
まぁ、見てなって
≪はいっ。楽しみに見ておきますっ! ふふふっ」
マキナ? 王城に着いたらさやかと引き離されるかもしれないから、アイちゃんで常にさやかを見ておいてくれ
≪はいっ。さやかさんはアイちゃん不可視モード十体で常時確認してますっ≫
すでに対処済みか。さすがマキナちゃん! 仕事ができるね!
≪えへへ……≫
「その強いのを呼び出す所をこの国の王様が見たいんだって。さやかは王様に見せに行きたいか?」
「う、うん。お兄ちゃんと一緒なら……」
「よし。じゃあ、兄ちゃんと一緒に王様に見せに行こうか」
「うんっ……」
「じゃあ、私も同伴させてもらってもよろしいですか?」
「えっ……? それは…………」
「妹は私と一緒でないと行きたくないと言ってましてね」
「……お兄ちゃんと一緒じゃないと行きたくないです…………」
さやかが俺の服の袖を握る手に力を入れながら言う
「……わかりました。では、表に馬車をご用意してあります。どうぞこちらへ」
「よし、じゃあ行くか。さやか」
「うんっ」
さやかが俺の服の袖を掴んだまま歩き出し、大聖堂から出て大聖堂前に停められている馬車に乗り込む
「馬車だ……! 馬車だよ! お兄ちゃん…………!」
「ああ。馬車だなぁ」
「すごいすごい! ホントに馬が馬車引いて走ってるよ! お兄ちゃん!」
「ファンタジーの映画みたいだよな」
「うん! アニメの世界に来たみたい!」
初めて乗る馬車にさやかのテンションが上がり少し元気が出た姿を見てほっとする
さやかと再会できた事で少しだけ元の世界の日常が帰って来た気がする
さやかとあれこれと色々街の風景に話しながら馬車に揺られていると
北欧風の王城が見えてくる
馬車が城の前に着くと馬車が止まる
「到着いたしました。どうぞ」
「どうも。さやか、降りるぞ」
「うん」
一足先に馬車から降り、さやかの手を取りながら降ろす
「さやか、足元に気をつけろよ」
「う、うん……」
トッ……
さやかが馬車のステップから地面に足を降ろしたのを確認し、城の門を見上げる
ほー。これがセレスティア城か。城も北欧風なんだな……
「さぁ、こちらです。救世主様」
ランデル王子の傍仕えが先導し、城の中へ入る
赤絨毯の脇をメイドや執事、騎士や兵士が立ち並び、俺たちが通り過ぎるたびに礼をしていく
赤絨毯の上を延々と歩き謁見の間に到着する
陛下の前に着き、さやかが跪こうとしたので手で制し止める
「さやか? 膝を折る必要はない。俺たちは「救世主」だからな」
「えっ……おっ、お兄ちゃん? だっ、だって王様だよっ…………?」
「もちろん年上の人に敬意を払う意味での敬語は必要だぞ。でも、膝まづくまではしなくていい」
「う、うん……」
「まぁ、今はにーちゃんの言う事信じてくれ」
「うん。もちろん信じてる。……でもいいの? ホントに…………」
「ああ、大丈夫だ。兄ちゃんの方がこの陛下より偉いからな」
「えっ……!?」
≪ふふふふっ! マスター……! 確かに私もそういいましたけど! 本人を目の前にしてソレ言いますか! あはははははっ」
「とっ……、東条! おっ。おまっ、お前って奴は…………フッハハハハハ! 気分がいいぞ私は! ハハハハハ!」
上下関係はハッキリさせておいた方がいいからな。ヤバい噂がある相手に隙を見せたくない
≪アルテミスさんの時、やっぱり跪いたんですか?≫
「ああ、跪いたさ。それが礼儀だと思っていたからな。……けれど今となってはそれを酷く後悔しているぞ」
≪でしょうねえ。ね? 前に言ったでしょ? うちのマスターはこういう事平気で言うって≫
「……本当に言うとは思わなかったぞ。あのセレスティア国王が目を丸くしているぞ! 見て見ろ! 周りの近衛たちが唖然としているぞ! ハハハハハ!≫
≪ふふふっ! 驚いたでしょうねー。人生初の出来事じゃないですかね。多分……!≫
「そりゃあ経験はないだろうな! 謁見の間で国王を前に「俺の方が偉い」なんて言う奴がいるなんてまず想像もしないだろうからな! ハハハハハ!」
≪そしてそれが事実ですからねぇ。ふふふふっ≫
年長者として敬語は使うけどそれ以上は必要ないはずだしな。まして世話になってるわけでもねーし!
エルトの陛下だったら全然跪いてもいいんだけどなぁ。俺ら世話になりまくってるし……。いかにも「王様」って感じで尊敬できるし…………
≪ダメですよ? マスター。他の国に知られたら大事になります。エルトやソフィアさんの為を思うなら絶対やっちゃダメです≫
やっぱりそうだよな。マキナ宿してる俺は絶対やっちゃダメなのは理解してるよ
≪「エルトが強い力をもつ救世主を手に入れた! いずれ世界征服を目論むかもしれない! 世界中の国と手を結びエルトを倒そう!」
なんて事を人間なら考えかねません……≫
だよなぁ、小説とかでもよくあるしな……。想像できるよ、その状況
≪本当はソフィアさんとお付き合いするのもかなりまずいんですよ?
「エルトが救世主に姫を娶らせて取り込もうとしてる」とすでに見られてるはずです≫
……うん、わかってる…………だから、さくっと世界平和にしたい所だけど難しいよなー……
≪この世界が平和になったら。今度はマスターが原因で戦争を始めそうですよ。この世界の人達は≫
だよなぁ、やっぱ世界平和にしたら元の世界にソフィア連れて戻るってのが理想だなー。ついてきてくれればだけど。
世界平和にした後は元の世界に戻らないと俺自身の為にも、ソフィアの為にも、この世界の為にもならないのは理解してるよ。
なんにせよ、全部終わってからだ。まずは破滅の王を何とかしないとな……
≪ですねぇ……≫
セレスティア陛下が引きつりながら口を開く
「これはこれは、ようこそおいでくださった。救世主様……! 私が第九三代セレスティア国王「アーベル・セレスティア」です」
「初めまして、陛下。エルトで召喚された救世主、東条 司と申します」
エルトの紋章を見せながら自己紹介する
「はっ、初めまして、東条 さやかです……」
「ええ、初めまして救世主様。して……? エルトの救世主様がどうしてこちらに…………」
陛下が俺に顔を向けながら言う
「このセレスティアに妹がいるという情報を得ましてね。妹を迎えに来たのです。陛下」
「そ、そうでしたか……」
「それで、陛下? 妹の神器の「召喚の議」を行うというお話を聞いてきたのですが……」
「ええ、ええ。召喚された救世主様に神器の出し方をお教えして、神器を出現させる儀式をご用意してあります」
「陛下。貴族の皆様がお揃いになりました」
「おぉ、では早速参りましょう」
「わかりました。行こうか。さやか」
「う、うん……」
さやかが再び俺の服の袖を掴んでくる
闘技場に向かう廊下の途中さやかに話しかける
「さやか。神器の出し方は知ってるか?」
「ううん。知らない……」
「だよな。にーちゃんが教えてやるよ。さやかが一番好きな強いって思う存在や物の名前を手を空に掲げて叫ぶんだ」
「……ほう、これは興味深い。なるほど、エルトではそういう呼び出し方なのですな」
「あれっ? セレスティアでは違うんですか?」
「そうですね。大きくは違いませんが手は掲げませんね……。心の中にある一番強いと思う存在…………強い武器をイメージして呼ぶのです」
「ああ、やっぱりそこは同じなんですね」
「ええ。神器ですからそこは同じですね」
闘技場に着くと、闘技場には二階、三階から多くの貴族らしき人達が見降ろしこちらに視線を送っていた
これから闘技場の傍の観客室で見守ろう
……ランデル王子の傍仕えは用心しておくに越したことはない。
マキナ?
≪はいっ≫
これから起こる事に誰かが腹を立てて、さやかに何かするかもしれない。
俺も助けには入るが何か飛び道具とかに対策できる事ないか
≪はいっ。……さやかさんから半径一Mを不可視の障壁で囲っておきました≫
ありがとう、マキナ
≪はいっ≫
「陛下? 妹が不安そうなので、闘技場の脇の観客席で見てもいいですか?」
「ええ、ええ。構いませんよ。行きましょうか。救世主様」
「……さあ、東条様。闘技場の中心で、ご自分が最も強いと思う存在…………武器の名前をイメージして出てくるように呼び掛けてください」
「は、はい……。あの、お兄ちゃんは…………」
「にーちゃんはあそこの端の席で見てるよ。大丈夫、なんかあったらすぐにーちゃんが絶対助けてやる」
「う、うん。わかった……行ってくる…………」
「おう。頑張れよー」
「うっ、うん……」
さやかが闘技場の中心に立ち、目を閉じる……
「んー……イメージ、イメージ…………よし!」
さやかが天に手を掲げ自分の神器の名を呼ぶ────────────
「────来てっ! お兄ちゃん!」
……シーン…………
「……あれ?」
さやかが不思議そうに手を見る
俺とさやか以外のその場の一同がポカン……と口を開けたまま茫然とする
うん! やっぱりね! やっぱり「東条司」なんて神器は存在しないよね!
さやかに神器の説明する時にあえて「好きな」という単語を入れてさりげなく誘導しておいたんだ。
これならまず不審に思う人はいないはずだ
≪あははははははっ! なるほどっ。こういう事ですか! 今度は「神器を呼び出せない」という状況を捏造しましたか! ふふふふふふっ!≫
「ふっ……くっ…………こいつは傑作だ……! く……く……っハハハハハッ! こんなの失敗するに決まってるだろ! ハハハハハッ!」
うん、そうだよ? やった事自体は「捏造」の意味の逆だけどな。実際にはある物を無いと見える状況を捏造して「神器を呼び出せない」と思わせたかったんだ。
「神器を呼び出せない」救世主なら、セレスティアにとってさやかの救世主としての利用価値はなくなるはずだからな
≪ふふふっ! なるほど! 確かに利用価値を無くしてしまえばさやかさんを殺そうとすら思いませんね!≫
だろ? あの噂が本当だとして、セレスティアが救世主を殺す意味が何かあるとしたら、ハズレ救世主達による問題行動や反乱を抑止する意味も含めてあるはずだ。
だったら、「神器を呼び出せない」救世主は殺す意味自体が無くなる。
万が一さやかを渡さないなんて言い出したとしても「神器を出せない救世主にどんな事をさせるんですか?」と聞かれたら答えようがないだろ。
俺が連れて帰るって言い出したら、セレスティアからすればむしろ「どうぞお持ち帰りください」だろ
≪ですね! 一時的にでも城に部屋を準備させて、追放する手間もコストも必要がなくなるわけですし、噂がデマだった場合なおさら必要がないですもんね!≫
それに神器を出せない救世主を殺したら公になんの「正しさ」も示せないからな。リスクとデメリットばかり抱えるような事はしないだろ
「うーん……。おかしいなぁ」
「あ、あの、救世主様? もっと真面目にやってください……」
ディランが困惑した表情でさやかに話しかける
「やってます! 真剣です!」
「えぇ……」
よし、もう少し遊んでみるか
「さやかー? もしかしたらフルネームじゃねーとダメなんじゃねーかー?」
「あっ!?そっか! きっとそうだね! もう一回やってみるー!」
再び目を閉じる……
「んー……よし!」
さやかが再び天に手を掲げ────────────
「────来てっ! 東条 司っ!」
……シーン…………
さやかが掲げた手を見上げ不思議そうな顔をする
「……あれ? …………出ないよー!?どうなってるのー!?お兄ちゃーん!」
「どうなってるんだろうなー!」
いやぁ、うちの義妹は可愛いなー!
≪あははははははっ! 最高です! マスター!≫
「どうかしてるのはお前の方だよ! 貴族達が全員唖然としてるじゃないか! ふっ、くっ……ハハハハハッ…………」
「あの、救世主様……!?神器というのは剣や弓などの武器の事です…………!」
ディランが焦りの表情を浮かべだし、額に汗をにじませながら必死な表情で話しかける
「剣……? 弓…………」
「……剣に名前なんてあるんですか? 剣は「剣」でしょ?」
「えっ!?」
「まぁ、試しにやってみろよー? できるかもよー!」
「わかったー! とにかくやってみる!」
「────来て! 剣!」
……シーン…………
「……あれ? じゃあ…………」
「────来て! 弓……!」
……シーン…………
「……お兄ちゃーん! やっぱり出ないよぉー!?」
「うーん! 出ないなー!」
「あっ、そうか!?ここ異世界だから英語かもしれないね!?」
「……あぁ~…………。そうかもなぁ。じゃあ「sword」かもしれないなー」
「やっぱそうだよね! きっとswordだね! やってみるー!」
さやかもアニメや漫画は見るけど、アニメや漫画は少女漫画の現代が舞台の恋愛物ばかりだし。
ゲームはほのぼの系ゲームの「どうぶつの国」をたまにやるくらいだし、
ゲームやアニメで出てくるような伝説の武器の名前なんて知らなくて当然なんだよなぁ
そして、ここは異世界だ。
この世界の人たちが俺らの元の世界の伝説や神話の武器の名前なんて知るわけがない。
だから神器についてのヒントをさやかに与える事も出来ない
ん? ……と言う事はアレか? 今まで召喚された救世主はみんなゲームや漫画とか小説が好きだったって事か?
……あれ、急に先輩救世主達に親しみを感じてきたわ
おい、見て見ろよ! ディランの顔が青くなったり赤くなったりまるで信号機だ! ハハハハハッ!
≪あははははっマスターっ! 遊び過ぎですっ!≫
「いい気味だ! ハハハハハ! ……東条? ネタ合わせ無しだろ? コレ…………」
もちろんネタ合わせなんてしてないぞ。完全に天然のアドリブだぞ
ガヤガヤ……ガヤガヤ…………
「おい。これはどういう事だ……? ふざけてるのか?」
「ふざけてるようには……見えませんがね…………」
「そうですな……、あんなに必死に汗を流しながら叫んでますもんね…………」
「あれは、嘘や冗談でやってるようには見えませんねえ……」
「……これはもしかして…………、ハズレどころか論外という事では……」
「し、しかし! 救世主として召喚されたのですよ……!?」
「何かの間違いではないのですか? ディランさん……」
「まっ、間違い……!?いえ! そんな事は決して…………!」
「陛下……? どういう事ですかな? これは…………。我々にこんな茶番を見せるために召集したのですか」
「この忙しい時期に……どうなってるんだ…………」
「くだらん茶番だ。なんだったんだこの無駄な時間は……」
「非常に無駄な時間を過ごした気がしますな」
「これなら領地の問題を話し合う会議に参加していたかったですよ」
「全くだ。我々にも仕事があるというのに……」
「陛下。ディランさん? 今日はどういう意図で我々は呼ばれたのですか? 返答次第ではこちらにも考えがありますぞ」
「神器がハズレならまだ仕方ないとも思えるが……、これでは我々をからかっているようにしか思えませんな」
「陛下。流石にこれはお戯れが過ぎますぞ……? ディランさん…………あとで説明をお願いできますかな?」
「そうだ! どういう事か説明しろ!」
「いっ! いえ……あの…………!?」
おっ、ついに始まったか! 不満が漏れ始めたな。
忙しい中わざわざ呼ばれてこんな茶番を見せられたらそりゃ怒るよな……
こうして貴族たちが不満を漏らし、陛下やランデル王子の傍仕えを非難し始めるのを待ってたぜ
さあて……ここからが楽しい時間だ
ニイッっと口角を上げる
≪あっ!?マスターがまた悪い顔してるー! と言う事はー? まさかまだ何かあるんですか≫
あるよ? この「召喚の議」にさやかを連れてきたのには二つの意味があるんだ
≪二つの意味……?≫
一つはさっき話してた「神器を呼び出せない」という状況を創り出し、セレスティアにとってのさやかの利用価値を無くして脅威から遠ざける事。
もう一つはこの神器召喚の議をぶち壊す事だ。この「召喚の議」を取り仕切るのはディランだ。
つまりディランが部下たちに命じて書簡を送って今日の日時を指定して貴族達をここに呼び集めたってことだろ?
これだけ多くの貴族をこの真っ昼間に集めさせたんだ。わざわざ遠くの街や辺境からこの日の為にセレスティアに前もって来た貴族もいるだろう。
そんな人達を集めて「召喚の議」なんて大層なお披露目会やって「神器を呼び出せない」ハズレですならない救世主を見せられた貴族達はどう思うかな……?
≪……この場を取り仕切るディランとセレスティア王に不満が行きますね!≫
ピンポーン! まさに今貴族達が見せてる反応だ。「忙しい中わざわざ遠方から呼ばれて来てみれば、ハズレですらない救世主を見せられた」
ってこの不満はディランの信用を失墜させるに十分だ。ついでに不満は主である陛下にも当然向かうはずだ。
恥をかかされたセレスティア王はディランにブチ切れるだろうし、当然貴族たちもディランにブチ切れるはずだ
この間の仕返しにたっぷり怒られてもらうさ
≪あはははははっ! なるほどっ一石二鳥って奴ですねっ!≫
そういうことー
≪……あぁ。なるほど、確かにこれは怒る人が出てきそうですね。マスターが開始前に対策を私に指示した意味が解りました≫
だろ? この世界の物騒さ考えると酒のビンやらゴミやらをさやかに投げつけそうじゃん?
それにディランが神器を出せないさやかに腹を立てて何かするかもしれないしな。念には念を入れて対策しておきたかったんだ
「ディラン……! !?どういうことだ!?貴様…………!」
「ヒィッ……!」
よし、ここだ。ここで陛下の背中を押して終了だ!
「陛下……? もしかしたら…………、妹は神器を持っていないんじゃないかと私は思うんですが……陛下はどう思われますか」
陛下にボソッと言う
「な、何……? じ、神器を持っていない救世主様…………ですと……?」
「妹は例外……、と言うやつじゃないですかね…………」
「れ、例外……、ですか?」
「ええ、例外です。何事にも例外は存在するものでしょう?」
「ううむ……確かに…………、そうですな……」
「陛下もご覧になられましたよね? 出ないのを。……ほら? 懲りずに今も色々と何回もやってますけど出ないですよ…………」
「で、ですね……はい」
「妹にとって一番強い存在を呼ぼうとしてるのは、あの真剣な表情からご理解いただけると思います」
「確かに……真剣にやってますね…………汗までかいて叫んでますし……」
「……はい。ですよね。それで私思うんですが、妹は神器を出す才能がないんじゃないかと…………」
「うむ……。どうやら…………そのようですな……」
「やはり、陛下もそう思われますか」
「ええ……。きっと救世主様にもお一人くらいは例外の方がいらっしゃるという事でしょう…………」
「ええ、私もそう思います。では……、私が妹を責任もってエルトに連れて帰りますので。後はよろしくおねがいします」
「……ええ。お手間をおかけしてしまって申し訳ありません。救世主様…………」
「いえ。では失礼します」
陛下がディランを威圧する
「……ディラン!?儂に恥をかかせてどういうつもりだ…………! 後で話がある!」
「ヒイィッ!?」
赤い顔の陛下に睨まれディランが震えながらさやかをせかす。
ハハハハハ! ざまぁ! 俺らが帰った後たっぷり絞られやがれ!
「……あ! あの!?救世主様!?そろそろ神器を出してください! 今までのは冗談ですよね!?ねっ!?」
「失礼ですね! 私は真面目にやってますよ! ていうか! 神器ってなんですか!?そんなの本当にあるんですか!」
「あります! あるんです! 絶対にありますからお願いですから神器を出してください!」
「じゃあ、あなたが神器を出してあるという事を証明してくださいよ!」
「えっ!?そっ、それは私はできません……! 救世主じゃないんで…………!」
「ええっ!?自分に出来ない事を私にさせようとしてたんですか!?それってどうなんですか!」
「いっ、いやっ! そうじゃないんです! そういうものなんですっ!」
「全っ然! 意味がわからないんですけどっ!?」
「そんな!?そういうものなんだとしか言えないんです!」
「ふざけないでください!」
「ふざけてないですよ!?」
さやかがキレたぞ! ディランの奴マジで困ってやがるぞ! ハハハハハ!
やれやれー! 頑張れさやかー! 兄ちゃんは応援してるぞ! えいえいおー! えいえいおー!
≪ふふふっ! ざまぁですね! さやかさんがんばってください! えいえいおー! えいえいおー!≫
「フハハハハハ! 何か胸のつかえが少し取れた気分だ……!」
「それでは私達は失礼します」
さやかの所へ向かおうと下に降りようと体の向き変えた時陛下が話しかけてくる
「……救世主様? 今日お会いできたのも何かの縁です。よろしければ救世主様の神器を見せていただきたいのですが…………」
「私の神器、ですか」
……マキナ? あのサイズってこの距離でもできるか
≪可能です≫
アレはマキナの本体をそっちに置いたままでできるか?
≪はい。パワーは下がりますが可能です≫
おぉ、できるんだ?
≪はい。以前はできませんでしたがマスターが能力を引き上げてくれたおかげで、大分色んな事が出来るようになってますので可能です≫
そうか、修行の甲斐あったなぁ……。こうして目に見えて前進したのがわかると嬉しいぜ
≪……マスターは少しはご自愛ください。ちょっと頑張り過ぎです≫
世界を平和にしたらたっぷり休ませてもらうよ。……じゃあ、セレスティアに警告の意味も込めてやっちゃうか
≪はいっ!≫
アレを見せておけば変な手出ししてこようとか思わないだろ
「わかりました。じゃあお見せします。よっ」
「えっ!?救世主様!?」
観客席の一番前の塀を飛び越える
タンッ……
タタタタ……!
走ってさやかのいる中央に向かう
「お、お兄ちゃん!?あんな高い所から落ちて大丈夫なの!?」
「へーきへーき。さやか? 今からにーちゃんが神器って奴を見せてやるよ」
「えっ。お兄ちゃんはできるの? 神器」
「ああ、できるよ。……さやか? 危ないからちょっとそこの端に行っててくれ」
「うっ。うん」
「あっ、ディランさんももっと端に行っておいてください。陛下に頼まれて今から私の神器を出してお見せするので」
「は、はい……?」
ディランは元いた場所よりさらに端に寄り。さやかが闘技場の一番端に小走りで走って行く
さやかが端に寄ったのを確認する
マキナ? 一応出現時の白雷が当たらないように障壁的な物で囲えるか。万が一に備えたい
≪はい。……できました。私の体の周りを半径五Mほどの障壁で私自身を内側から封じ込める形にしてますので、
白雷がさやかさんや観客に当たる事はありません≫
ありがとう、マキナ。……じゃあ、いいか?
≪はいっ。いつでもどうぞ!≫
「お兄ちゃーんっ! ここくらいでいいーっ?」
「おーう! 大丈夫だー! 見てろよー?」
「うんっ!」
「……じゃあ。行きますねー」
「なんだ? 何が始まるんだ?」
「もしかしてあの男も救世主なのか……?」
「……ええ? 今日召喚された救世主は一人ではなかったのですか?」
「ええ、一人のはずですが。というかいつも一人ですよね……」
「ですよね……。となると…………あの青年は?」
「さ、さぁ……? 私にはわかりません…………」
「ふうむ。では一体何が始まるのだろう……」
ガヤガヤガヤガヤ……!
貴族達が訝し気な目で俺に注目を集めていた
俺は天に手を掲げ呼ぶ────────
「────出て来いよ! 機械仕掛けの神! デウス・エクス・マキナ……!」
キィィィィィィィン……!
酷い耳鳴りのような音が響き渡り
パッシャアアアアアアアアアアアアアン……! !
巨大な白い雷が迸る。雷の中からマキナの姿が顕現する
バチバチバチバチッ……!
キュィーーーーーン……シュー…………!
白の放電が辺りをまき散らし迸る
漆黒の巨体が広い闘技場にすっぽりと収まる
「……なっ! !?」
「ヒィッ……!?」
「黒く巨大な……まるで黒い山じゃないか…………! なんだ……何が起こっているん……だ……これは……」
「悪魔……悪魔だ…………! にっ、逃げろ!?うっうあああああああっ!?」
「ひいいいいい!?なんなんだ!?なんだよあれはぁ!?」
「怖い!?怖いいいいいいっ!?」
血の引いた白い顔で茫然と立ち尽くし、青い顔で右往左往しながら逃げ惑う者達……
観客席の貴族達の反応は様々だった
「わー……これがお兄ちゃんの神器なんだー…………すっごい……」
「どうだー? さやかー。兄ちゃんの」
「うんっ! おにーちゃんの黒くて硬そうでおっきー!」
「そうだろー。兄ちゃんの大きいだろー」
「うんっ! おっきー! すごーい!」
さやかが笑顔で手を広げ振りながら答える
一同が俺の姿に震え上がり腰を抜かしていた
「陛下? これでよろしいですか?」
「……え? あ…………は、はっ! はいぃっ! !?けっ! 結構です……! !?」
陛下とランデル王子の傍仕えが腰を抜かし股を黄色に汚していた
よし、これでいい。
これでエルトやさやかに何かしようものならこれが襲ってくると思わせられただろ
≪ですね。これで何かしてきたら本当に馬鹿ですよ……≫
この世界の人達の事だからわかんねえけどな……
≪ですねー……世界には想像もつかない人がいますからねえ…………≫
よっし、帰るか。マキナ? こっちに回したパワー戻していいよ
≪はいっ≫
パシュンッ……!
マキナが解除され消える、重力を操ってゆっくり地面に降りる
スーーーーーッ……
トッ……!
地面に着地する
さやかが走ってくる
「お兄ちゃーん!」
「よーし、さやか。兄ちゃんが暮らしてる街に帰ろうか」
「えっ? お兄ちゃんはここの街に住んでないの?」
「ああ、俺は他の国に住んでるんだ。今日はお前を迎えに来たんだよ」
「じゃあ、私もお兄ちゃんと同じ街に行く!」
「よし。じゃあ、一緒に帰ろうか」
「うんっ」
俺たちは闘技場を抜け城を出る
いつの間にか夕焼けでオレンジの色に染まっていた
街で絡まれたら面倒だな……さやかもいるし…………
マキナ? 今空って飛べるのか?
≪可能です≫
よし
≪……すみません、マスター…………大聖堂に行くとき翼出せばよかったですね……。
いいさ。間に合ったんだから問題ないよ。気にするな、マキナ
≪……はいっ≫
「さやか? ちょっと空飛ぶぞ」
「えっ! 空……?」
「そうだ。兄ちゃんは空を飛べるんだ」
「空を飛ぶ!?どっ、どういうことそれっ!?」
「こういう事」
ブォンッ……!
マキナが翼形態を展開させる
「さやか? ちょっと抱っこするぞ」
いいながらさやかをお姫様だっこで抱える
「えっ!?そ、それ何……? お兄ちゃん…………ひゃっ!?おっ、お兄ちゃん!?」
「さやか? しっかりつかまっとけよ?」
「う、うんっ……?」
さやかが俺の首にがっつりしがみついてくる
マキナ? 万が一さやかが落ちた時は重力で落下防ぐの頼むな?
≪はいっ≫
しっかりしがみついたのを確認し飛ぶ
「ひゃああああっ!?とっ……飛んだぁ!?おっ、お兄ちゃん!?飛んでるよ!?私達空飛んでるよ!?なにこれぇっ!」
≪ふふふっ! マスターの妹さん可愛いですねっ≫
「だろ? 俺の自慢の義妹だからな。しっかり捕まってろよ? さやか」
「うっ、うん! いっ! いまの可愛い声誰っ!?お兄ちゃん!?お兄ちゃんがしゃべったの!?」
「違う違う。俺じゃない。この翼がしゃべったんだ」
「翼が!?どういう事なのっ!?」
「これがさっきの俺の神器の違う姿なんだ」
「え!?この翼があのおっきいの!?……ていうかお兄ちゃんっ!?パンツ! 下の人にパンツ見えちゃう!?うちの学校スカート短いんだから気を付けてねっ?」
「わかってるわかってる」
「ホントに!?もし知らない人に見られたらお嫁に行けなくなるんだから! そうなったらお兄ちゃん責任取ってよね!?」
「わーった! わかったから! あんまり動かないでくれ! 危ないから! 落ちるから!」
「絶対だよ!?約束だよ!?」
「ああ! 約束する! だから頼むからおとなしくしてくれ! にーちゃんからのお願いだ!」
……さやかがお嫁かぁ。
いつかはさやかにも彼氏が出来て、いつかは結婚して……うちとは違う場所で幸せを見つける時が来るんだよな…………
きっとその時はすげぇ寂しいんだろうなぁ……。…………その時はちゃんと「おめでとう」って言ってやりたいなぁ……
そんな事を考えながら兄妹二人で騒ぎながら夕焼けに染まる空を飛んでいった────────
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