捨てられた天才魔術師、魔術学院で暗躍する 〜恩人の少女を最強の天才魔術師のままにしておくために、実力を隠して陰から彼女を守ります〜

五月 蒼

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イレギュラー

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 全身に傷を受け至る所から血を流したヴィクティムが、恐ろしい形相で叫ぶ。

 ラピたちは何が起こっているか理解できないまま、唖然としている。

「に、逃げろっつっても、何が――」
「邪魔だ! 私は――っ!? ちっ……! ”閃――」

 瞬間、後方から飛び出してくる赤い目の魔物が、ヴィクティムに突進する。

 ヴィクティムの魔術の発動は間に合わず、そのまま赤目の魔物の斧がヴィクティムに直撃する。

「ぐっ――!!」

 何とかヴィクティムは魔法障壁を貼ってガードするが、そのガードの上から弾き飛ばされる。

 まずい、さすがにあの勢いは……!

 俺は魔力を練り、一気に放出する。
 ヴィクティムの着地地点である木に魔力の膜を展開する。

「ぐはっ……!」

 ヴィクティムはそのまま物凄い勢いで木に激突する。
 しかし、俺の魔力のクッションで衝撃はある程度緩和されたようで、そのまま地面にズザザと滑り落ちる。

「な……だよこれ……!」
「ひっ……!」

 急な展開に、全員が動揺していた。
 さっきまであんなに元気だったヴィクティムが、一瞬にしてこの状態だ。

 不意をつかれたのか、あるいは下手を打ったのかはわからないが、事実ヴィクティムはもう戦うことはできなそうだった。
 
 状況は混沌としていた。
 誰も現状を理解できていなかった。

 そして、目の前にはヴィクティムをここまでにした、元凶魔物。

「ガルルルル……」

 それは、巨大な斧を持ち、牛の頭をした人型の魔物だった。

「ミ、ミノタウロス……!?」
「何でこの森に!? 学院の管轄じゃないの!? ねえ!」

 サシャは監督官に詰め寄る。

「どうなってるのよ!?」

 至って冷静に、これも試験の内だ……そう言うと思った。
 しかし、予想に反して監督官の顔は青ざめていた。

 口元に手をやり、目を見開く。

「おかしい……これは試験用に調整された個体ではない……!?」
「はあ!?」

 ミノタウロスは冒険者でもそれなりに手こずる魔物だ。
 強敵と言うほどではないが、初心者や戦い慣れていないと全く歯が立たない。

 だが、魔術を使える受験生ならそれなりに戦えるはずではあるレベルなのだ。

 だから恐らく、五人で森を徘徊するミノタウロスへの迎撃や警戒を行い、その妨害の中でも魔力を上手く操作し妖精を捕獲するというのが狙いだったのだろう。

 その際にアタッカー気質の魔術師以外も、サポートやその他の行動が各人の評価項目となる想定だったに違いない。

 だが、確かにこのミノタウロスは監督生の言うように何かおかしかった。
 本来ミノタウロスは警戒心が強く、ここまで無防備に特攻したりしないのが特徴だ。それに本来目は黄色だったはずだが、この個体は赤く血走っている。一種の興奮状態だ。

 だとすると、何か魔術が掛けられている可能性が高い。
 普通弱体化させて試験の駒として使うならわかるが、さっきのヴィクティムへの攻撃や、俺の索敵に引っかかってからの速度も普通じゃなかった。

 だとすると、この状態を示せる異常は――。

「……このミノタウロス、狂化されてるな」
「狂化!? なんだよそれ、レクスは何か知ってるのか!?」
「見境ないってことだ。それに、恐らく力もタガが外れてる」
「!」

 全員の表情が強張る。
 目の前ではミノタウロスが興奮し、ドンドンと地面を踏みしめ音を鳴らしている。

「――君たちは逃げなさい」

 監督官は一歩前に出ると、俺達に向けてそう言う。

「いや、けどよ……」
「いいから! この個体、何かおかしい……! 私の魔術だけでは――」

「グガアアアアア!!!」

 瞬間。
 ミノタウロスの斧は、監督官目掛けて振り下ろされる。

「――ッ!?」

 監督官は咄嗟に後方に飛びのくが、ミノタウロスの振る斧の初速はその速度を上回る。

「ば……かな……!? 私でも間に合わないか――」
「お、おい!! 大丈夫か!?」

 もろに斧を食らった監督官は、そのまま後方に吹き飛ばされる。

 俺はまたしても咄嗟に魔力のクッションで監督官の身を守る。
 しかし、その衝撃は想像以上の強く監督官はばたりと気を失てしまった。

 残されたのは、魔物と戦ったことのない受験生四人だけ。

「グルウウウウ……」

 まるでお腹を空かせているかのように、ミノタウロスは涎を垂らし、喉の奥を鳴らす。

 明らかに様子がおかしい。
 もしかすると、リーゼを狙った犯行かもしれない。

 誰かが試験用のミノタウロスに細工をし、リーゼの参加する試験で事故に見せかけて殺そうとしたのだ。

 でなければ、監督官さえ知らない状態のミノタウロス、しかも監督官を上回る狂暴性を持った個体が現れる訳がない。

 まあ、リーゼが早々に一抜けしたのは想定外だっただろうけど。

「どどどど、どうするよレクス!?」
「怖いよ、私……!」
「落ち着け。……エステルとサシャは監督官とヴィクティムを頼む」

 二人は焦りながらも頷き、二人の重傷者を介抱を始める。
 ヴィクティムはまだ意識があり、俺を睨みつける。

「余計な……お世話だ……! 平民なんぞに……!」
「今は関係ないだろ。それに、俺はお前に死なれたら困る。もしこれで死者が出て試験のやり直しになったら、折角受かったのにリーゼはもう一度受けなきゃいけなくなるかもしれない」
「! 貴様……!」

 ヴィクティムは苦しそうに呻きながら、それでも俺を睨みつける。

「リーゼのためにも、ここは何事もなく試験を終わらせたい。だから……」

 俺は右手を掲げる。
 その右手に、全員がつられて視線を動かす。

「――眠っててくれ」
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