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第一章 アーウェン幼少期
少年は成長を希望する ②
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逆にカラはその言葉を聞いて眉を顰める。
「え?嫌ですよ。なんでわざわざ……俺は、アーウェン様専属の従者になるんですから!」
「え?」
「あ、決めたのか?」
「はいっ!」
キョトンとするアーウェンとは対照的に、カラとリグレ、そしてロフェナは満面の笑顔で頷きあった。
「よかったです。本来ならばカラは従者に就ける身分ではありませんが、アーウェン様の魔力回路の回復に貢献したという功績がありますから」
ロフェナはしみじみと安心したような溜め息をつく。
「それにリグレ様がお戻りになられますと、どうしても私ひとりではおふたりを同時にお世話することはできません。次の休暇でお戻りになる頃までにはカラに基礎的なことは教えられますから、アーウェン様もご不自由させません」
「オ、オレは不自由なんて……」
キョドキョドと不安げに視線を動かすアーウェンの髪についた草をひとつずつ取りながら、リグレはその言葉を悲しそうに噛みしめる。
アーウェンは三番目の兄に少しは世話をされていたが、二歳か三歳になる頃にはもう家から出てしまい、自分のことは自分でやる──どころか、すぐ上の兄のために従者のようなことをさせられていたのだ。
それだけでなく、下働きや下男のようなこともこなしていたというのは、本来あり得ないこと。
たとえ親のいない子供でも六歳以下であれば、どんな身分であろうとも労働力とすることは、王陛下の名の元に禁じられている。
『六歳』という区切りがあるのは、貴族であれば王都貴族学院への入学を許可される年齢であるため、庶民でも裕福であれば私塾的な学校へ入学でき、またそれぐらいの年齢であれば最低限の挨拶などの礼儀も仕込まれているのが『普通』であるからだ。
そのため年齢にさえ達すれば、個人商店でドアを開けたり商品を持ってくるボーイや大きな商会での丁稚奉公が認められている。
「うん……アーウェンが自分で自分のことをやれるのは知ってるよ?でも、やっぱり伯爵家の人間として、正式な場では自分の従者を連れて行く必要があるんだ」
「正式な……?」
そう言われてもアーウェンにはピンとこない。
実家には従者どころか執事すらおらず、父や母が出かけてしまう場合もそんなふうに付き添う者はいなかったし、アーウェンが父に連れられて伯爵家に来た時も町の中を巡回している乗合馬車に揺られ、近くで降りてからは自分のスピードで歩く父の後に追いつこうと必死だったのだ。
そんなふうに付いていく自分の方が従者のように見えていたとは、きっとアーウェンは気づかないだろう。
「今はまだそういう場に出ることはないけれど、いずれ父上がアーウェンを連れてお披露目になるはずだ。その時にちゃんとアーウェンが『ターランド伯爵令息である』と示さないといけないと思う。だから、ちゃんと従者をつけることには納得しておくれ」
「は…い……」
納得がいこうがいくまいが、この件に関してはアーウェンに拒否権はない。
「え?嫌ですよ。なんでわざわざ……俺は、アーウェン様専属の従者になるんですから!」
「え?」
「あ、決めたのか?」
「はいっ!」
キョトンとするアーウェンとは対照的に、カラとリグレ、そしてロフェナは満面の笑顔で頷きあった。
「よかったです。本来ならばカラは従者に就ける身分ではありませんが、アーウェン様の魔力回路の回復に貢献したという功績がありますから」
ロフェナはしみじみと安心したような溜め息をつく。
「それにリグレ様がお戻りになられますと、どうしても私ひとりではおふたりを同時にお世話することはできません。次の休暇でお戻りになる頃までにはカラに基礎的なことは教えられますから、アーウェン様もご不自由させません」
「オ、オレは不自由なんて……」
キョドキョドと不安げに視線を動かすアーウェンの髪についた草をひとつずつ取りながら、リグレはその言葉を悲しそうに噛みしめる。
アーウェンは三番目の兄に少しは世話をされていたが、二歳か三歳になる頃にはもう家から出てしまい、自分のことは自分でやる──どころか、すぐ上の兄のために従者のようなことをさせられていたのだ。
それだけでなく、下働きや下男のようなこともこなしていたというのは、本来あり得ないこと。
たとえ親のいない子供でも六歳以下であれば、どんな身分であろうとも労働力とすることは、王陛下の名の元に禁じられている。
『六歳』という区切りがあるのは、貴族であれば王都貴族学院への入学を許可される年齢であるため、庶民でも裕福であれば私塾的な学校へ入学でき、またそれぐらいの年齢であれば最低限の挨拶などの礼儀も仕込まれているのが『普通』であるからだ。
そのため年齢にさえ達すれば、個人商店でドアを開けたり商品を持ってくるボーイや大きな商会での丁稚奉公が認められている。
「うん……アーウェンが自分で自分のことをやれるのは知ってるよ?でも、やっぱり伯爵家の人間として、正式な場では自分の従者を連れて行く必要があるんだ」
「正式な……?」
そう言われてもアーウェンにはピンとこない。
実家には従者どころか執事すらおらず、父や母が出かけてしまう場合もそんなふうに付き添う者はいなかったし、アーウェンが父に連れられて伯爵家に来た時も町の中を巡回している乗合馬車に揺られ、近くで降りてからは自分のスピードで歩く父の後に追いつこうと必死だったのだ。
そんなふうに付いていく自分の方が従者のように見えていたとは、きっとアーウェンは気づかないだろう。
「今はまだそういう場に出ることはないけれど、いずれ父上がアーウェンを連れてお披露目になるはずだ。その時にちゃんとアーウェンが『ターランド伯爵令息である』と示さないといけないと思う。だから、ちゃんと従者をつけることには納得しておくれ」
「は…い……」
納得がいこうがいくまいが、この件に関してはアーウェンに拒否権はない。
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