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第一章 アーウェン幼少期
伯爵は激しく怒る ②
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男爵の歯の根が合わずに鳴り続けているのは、先ほど伯爵が自分の能力を発揮したための異常な室温低下のせいだけではないだろう。
穏やかな笑顔を浮かべているだけのターランド伯爵から目を離せず、いつまでもガタガタと震えていたが、静かに扉が開いて伯爵の目がそちらに向くと、自分もゆっくりと首を動かした。
「……だ、誰……ですか……?」
まだ震えたままの男爵が訊ねる目線の先にいたのは、艶やかな濃い茶色の髪に可愛らしい花を一輪挿した細身の少年。
背の高い従者に手を取られ、ゆっくりと、だがしっかりとした足取りで歩み寄って、言葉を溢した。
「父様、お久しぶりです」
アーウェンがカラに連れられて、義父と実父が相対する部屋に訪れる二時間ほど前──
エレノアの今日の『お茶会』では、様々な花が使われていた。
薔薇のジャムに始まり、ジャスミンの花茶、エディブルフラワーといわれる『食べられる花』を使ったスコーンや、花びらを練り込んだバターを輪切りにして乗せたクラッカー、サーモンサンドイッチにも挟んであり、いろいろな香りが満ち溢れている。
「おにいしゃま、おいちい?」
ニコニコと笑って訊ねる可愛い義妹に何と答えていいのかわからず、アーウェンはもぐもぐと口を動かしたまま、曖昧に微笑み返した。
おそらくその一つ一つは美味しいのだろうとは思うのだが──いかんせん『花を食べる』ということに違和感がありすぎて、味を理解することができない。
これがむしろ『食べられる野草』を使った料理であれば、男爵家の敷地内にポツポツと勝手に生えていた草を家政婦さんがスープに入れてくれたから、何とか飲み込めると思うのだけれど。
「エレノア様……アーウェンお義兄様には、まだこちらのお花はお身体に合わないのだと思います。薔薇のジャムを紅茶に溶かした物であれば、アーウェン様のお身体もお喜びになるかと」
「むぅ………」
小さい身体のどこに入るのかエレノアはもう三つ目になるスコーンに、黄色く香り高いジャムを塗ってかぶりついたが、ピンクの唇はとんがったままである。
「あ、お、おいしい、よ?もちろん……」
何とか義妹に機嫌を直してもらおうとアーウェンは心にも無いことを言って取り繕おうとしたが、その態度をカラが諫めた。
「いけません。アーウェン様はお義兄様でお義妹様をお慰めしたり可愛がったりするのは当然ですが、嘘はダメです。きちんと苦手な物は苦手、嫌いな物は嫌い、そして自分はどんな物が好きなのかを伝えなければいけません」
「い、いけない…って……」
アーウェンはなぜか胸を抑え、汗を流しながら顔を青褪めさせた。
それは──それは、いけないこと、なのに。
「アーウェン様?」
「おにいしゃま?」
ブルブルと激しく身体を震わせ、アーウェンは目に零れそうなほどの涙を溜めてカラを見上げたが、その顔色は血の気が引いて色が抜けたように白い。
穏やかな笑顔を浮かべているだけのターランド伯爵から目を離せず、いつまでもガタガタと震えていたが、静かに扉が開いて伯爵の目がそちらに向くと、自分もゆっくりと首を動かした。
「……だ、誰……ですか……?」
まだ震えたままの男爵が訊ねる目線の先にいたのは、艶やかな濃い茶色の髪に可愛らしい花を一輪挿した細身の少年。
背の高い従者に手を取られ、ゆっくりと、だがしっかりとした足取りで歩み寄って、言葉を溢した。
「父様、お久しぶりです」
アーウェンがカラに連れられて、義父と実父が相対する部屋に訪れる二時間ほど前──
エレノアの今日の『お茶会』では、様々な花が使われていた。
薔薇のジャムに始まり、ジャスミンの花茶、エディブルフラワーといわれる『食べられる花』を使ったスコーンや、花びらを練り込んだバターを輪切りにして乗せたクラッカー、サーモンサンドイッチにも挟んであり、いろいろな香りが満ち溢れている。
「おにいしゃま、おいちい?」
ニコニコと笑って訊ねる可愛い義妹に何と答えていいのかわからず、アーウェンはもぐもぐと口を動かしたまま、曖昧に微笑み返した。
おそらくその一つ一つは美味しいのだろうとは思うのだが──いかんせん『花を食べる』ということに違和感がありすぎて、味を理解することができない。
これがむしろ『食べられる野草』を使った料理であれば、男爵家の敷地内にポツポツと勝手に生えていた草を家政婦さんがスープに入れてくれたから、何とか飲み込めると思うのだけれど。
「エレノア様……アーウェンお義兄様には、まだこちらのお花はお身体に合わないのだと思います。薔薇のジャムを紅茶に溶かした物であれば、アーウェン様のお身体もお喜びになるかと」
「むぅ………」
小さい身体のどこに入るのかエレノアはもう三つ目になるスコーンに、黄色く香り高いジャムを塗ってかぶりついたが、ピンクの唇はとんがったままである。
「あ、お、おいしい、よ?もちろん……」
何とか義妹に機嫌を直してもらおうとアーウェンは心にも無いことを言って取り繕おうとしたが、その態度をカラが諫めた。
「いけません。アーウェン様はお義兄様でお義妹様をお慰めしたり可愛がったりするのは当然ですが、嘘はダメです。きちんと苦手な物は苦手、嫌いな物は嫌い、そして自分はどんな物が好きなのかを伝えなければいけません」
「い、いけない…って……」
アーウェンはなぜか胸を抑え、汗を流しながら顔を青褪めさせた。
それは──それは、いけないこと、なのに。
「アーウェン様?」
「おにいしゃま?」
ブルブルと激しく身体を震わせ、アーウェンは目に零れそうなほどの涙を溜めてカラを見上げたが、その顔色は血の気が引いて色が抜けたように白い。
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