その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は義息子の安全を優先する ①

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どうやったらそんなものがアーウェンの身体の中に入るというのか──だいたい古代種などという代物がまだ現存するとしても、その貴重性から王都内ではほぼ貧しい庶民レベルで生活していた男爵家では、当主でも手に入れられまい。
「確かに、サウラス男爵が王都内で怪しい連中と付き合った……という報告はありますが、それは一獲千金を狙ったものだったようで、違法性のある物資の購入などではないと」
「一攫千金?」
「……要はギャンブルです。小銭程度ですが、懐を温めて帰っていくことが多かったという証言もあります。まぁ……裏道で狙われるほどの儲けではなかったので、今まではそう咎められることもなかったようです」
ラウドは報告書をいやいや眺めると、大きなため息をついた。
アーウェンのためにと用意した支度金がそんなことのために使われていたとは──
「あ、いえ。それはお支度金使い込みの前までです。現在は伯爵家から派遣した執事が采配を振るい、何とかたちの悪い連中とは縁を切らせることに成功したということです。そのことはサウラス男爵夫人の血縁であるキャステ家の商会方面からも調査が入り、愚かなことに彼を引き抜こうとしたらしいですが」
「……サウラスも大概だと思ったが、キャステ家も阿呆ぞろいなのか?」
「商業の発展に熱心だと言い変えればよろしいかと」
バラットが嘲笑を浮かべる。

サウラス家の没落は火を見るより明らかで、放置すれば次期当主になるはずの長男が引き継いだ途端に王都の屋敷は崩れて、名実ともに男爵家が潰れるかもしれない。
「おそらくその件の首謀者は前キャステ家当主殿か?であれば、逆にサウラス男爵が自滅するように仕向け、娘と孫を自分たちの手元に引き取り、ついでに有能な者を配下に置く……か。小賢しいにも程がある」
「すでに次男と三男は商会に取り込み済みですしね。ついでにアーウェン様を生まれてすぐに引き取って下されば、あのようにひどい生活を送られなかったはずですのに……」
「まあ……手遅れになる前に我が家に迎えられた。キャステ家に引き取られてしまっていては……」
「いえ、過ぎた話をいつまでもしていては…ふ…ふふふ……」
「ああ、そうだな……クッ…ハハ……ハハハ……」
悩ましい話をしているはずなのに、ラウドとバラットの顔はアーウェンがターランド伯爵家にいるということでニヤつき、だんだんと笑いが止まらなくなっていく。
このままでは不気味な笑いが止まらないと見て、魔術師長が咳払いをして注意を促した。
「……伯爵閣下……それよりも、古代種の話ですが……」
「あっ……あぁ、うんっ…ウゥンッ!も、申し訳ない。つい……いや、それで…古代種は本当にもう生息していないのか?」
「そう…ですね……『絶滅した』というのは、『野生種が茂っている古代森』が見つかっていないということです。『魅惑の実』の有毒性を弱毒化し、観賞用に栽培されている人工種は現存します。ただし結実しても石のように固く小さな実が生るだけで、古代種と同じ毒性を得ようとしても数百本分の実を収穫し、胡麻粒ほどの種を取り出すために地面に植え、発芽する前に掘り出して、干して、擂り潰して……とにかく時間も手間もかかります。しかも時間が経つにつれ、毒性は抜けてしまうのです」
「何ともまぁ……手をかけるだけ無駄となりそうな毒の集め方ですね……」
魔術師長の説明に、バラットが呆れた声を上げた。
「ええ。ですので、もっと手軽に毒を得るために古代種を手に入れようとすれば、王家であっても宝蔵のひとつが空になるほどの対価を払わねばならないでしょう。しかも完全に水分が抜けた状態でなければ加工しても腐ってしまうため、乾燥させて利用するためには少なく見積もっても三年はかかります。ですが……」
「ですが?」
躊躇い口籠る魔術師に、ラウドは眉を上げ、バラットが先を続ける言葉を投げかけた。
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