106 / 437
第一章 アーウェン幼少期
少年は悪夢を忘れる ③
しおりを挟む
あまり質の良くない睡眠でラウドは身体が重いまま、朝食を食べようと階下へ降りたが、その場はまるで昨日とは違い、キラキラと輝くような爽やかさに目がくらみそうだった。
「おはようございます!」
「おあよーじゃます!」
しばらく呆然としていたが、宿屋の質が上がったのではなく、アーウェン自身がとても澄んだ気配に変わっていることに気がつき、ラウドは自分の妻へと視線を向ける。
「おはよう。良い朝だが……特に良いことがあったのかな?」
「ええ、おはよう、あなた。良くはわからないのだけれど……アーウェンの具合はすっかり良くなったみたいですわ。ジェナリー様のおかげでもありますけども」
「ジェナリー嬢……いや、ルアン夫人の?」
女同士で話したいこともあるだろうと思って、ラウドはルアン伯爵夫妻が訪ねてきた時には挨拶のみで、さっさとログナスと共に別室に入ってしまったから、アーウェンのために安眠用のブレンド茶や匂い袋などを用意してくれたことは知らない。
その相乗効果もあり、カラとエレノアのスープが覿面に効果があり、悪夢から解放されたということも、まだ知らなかった。
「ふふ……そういえば、ルアン伯爵ご夫妻とはご同輩でいらっしゃるのでしたわね?」
「ああ……聡明な女生徒であったが、今もその知性が曇らずにいて何よりだ。一体何があったのか、教えてもらってもいいかね?」
「ええ、もちろんですわ、あなた」
そう言ってヴィーシャムが話したのは、まだ字の読めないエレノアが、ルアン伯爵家管理の下で育てられている植物園の薬草エリアにある『アフェニミアス』という安眠をもたらす薬草を指し示し、アーウェンのために加工したものを持ってきたこと、なぜか昨夜はエレノアがアーウェンから離れず同じベッドで寝、起きた時にはアーウェンの纏う空気が清浄されていたこと、そして──
「アーウェンによると、『夢の中で大きくなったエレノアが、黒くて気持ち悪い木の枝みたいで虫のような変な物を自分の頭の中から引っ張り出して、やっつけてくれた』のだそうですわ」
「大きくなった?エレノアが?やっつける?……黒い……虫……」
ヴィーシャムの言う『黒くて気持ち悪い木の枝みたいな虫』という物は、アーウェンの中から出てきた物と同一の物ではないかと洞察されるが、エレノアが大きくなったとは?
「ふふ……おそらく、カラとエレノアの解呪の力だと思うのだけれど……私も『アーウェンのために作ったスープ』を少しだけいただいたら、やっぱり大きくなったエレノアに会えたの。ああ……そういえば、アーウェンにも、リグレにも。三人とも可愛くて素敵な紳士とレディに育っていてよ?あなた」
夢の中であった面々を思い出したのか、頬を紅く染めながら嬉しそうに笑うヴィーシャムは、一転微かに眉を顰めた。
「……そして思い出したの。私がどうして幼い頃からターランド伯爵邸の別邸にいたのか、妹や兄たちのことを忘れてしまっていたのか」
「…‥それは……辛いことを、思い出させた」
「いいえ。思い出せてよかったの。あの頃、私が疎まれていたからこそ、私はあなたと結ばれ、リグレとエレノアの母となり、アーウェンという可愛らしい義息子まで得ることができたのですもの」
そう言ってヴィーシャムはラウドの頬に軽くキスをして、ニコニコと笑いながら食後のデザートを食べるふたりの子供を幸せそうに見つめた。
「おはようございます!」
「おあよーじゃます!」
しばらく呆然としていたが、宿屋の質が上がったのではなく、アーウェン自身がとても澄んだ気配に変わっていることに気がつき、ラウドは自分の妻へと視線を向ける。
「おはよう。良い朝だが……特に良いことがあったのかな?」
「ええ、おはよう、あなた。良くはわからないのだけれど……アーウェンの具合はすっかり良くなったみたいですわ。ジェナリー様のおかげでもありますけども」
「ジェナリー嬢……いや、ルアン夫人の?」
女同士で話したいこともあるだろうと思って、ラウドはルアン伯爵夫妻が訪ねてきた時には挨拶のみで、さっさとログナスと共に別室に入ってしまったから、アーウェンのために安眠用のブレンド茶や匂い袋などを用意してくれたことは知らない。
その相乗効果もあり、カラとエレノアのスープが覿面に効果があり、悪夢から解放されたということも、まだ知らなかった。
「ふふ……そういえば、ルアン伯爵ご夫妻とはご同輩でいらっしゃるのでしたわね?」
「ああ……聡明な女生徒であったが、今もその知性が曇らずにいて何よりだ。一体何があったのか、教えてもらってもいいかね?」
「ええ、もちろんですわ、あなた」
そう言ってヴィーシャムが話したのは、まだ字の読めないエレノアが、ルアン伯爵家管理の下で育てられている植物園の薬草エリアにある『アフェニミアス』という安眠をもたらす薬草を指し示し、アーウェンのために加工したものを持ってきたこと、なぜか昨夜はエレノアがアーウェンから離れず同じベッドで寝、起きた時にはアーウェンの纏う空気が清浄されていたこと、そして──
「アーウェンによると、『夢の中で大きくなったエレノアが、黒くて気持ち悪い木の枝みたいで虫のような変な物を自分の頭の中から引っ張り出して、やっつけてくれた』のだそうですわ」
「大きくなった?エレノアが?やっつける?……黒い……虫……」
ヴィーシャムの言う『黒くて気持ち悪い木の枝みたいな虫』という物は、アーウェンの中から出てきた物と同一の物ではないかと洞察されるが、エレノアが大きくなったとは?
「ふふ……おそらく、カラとエレノアの解呪の力だと思うのだけれど……私も『アーウェンのために作ったスープ』を少しだけいただいたら、やっぱり大きくなったエレノアに会えたの。ああ……そういえば、アーウェンにも、リグレにも。三人とも可愛くて素敵な紳士とレディに育っていてよ?あなた」
夢の中であった面々を思い出したのか、頬を紅く染めながら嬉しそうに笑うヴィーシャムは、一転微かに眉を顰めた。
「……そして思い出したの。私がどうして幼い頃からターランド伯爵邸の別邸にいたのか、妹や兄たちのことを忘れてしまっていたのか」
「…‥それは……辛いことを、思い出させた」
「いいえ。思い出せてよかったの。あの頃、私が疎まれていたからこそ、私はあなたと結ばれ、リグレとエレノアの母となり、アーウェンという可愛らしい義息子まで得ることができたのですもの」
そう言ってヴィーシャムはラウドの頬に軽くキスをして、ニコニコと笑いながら食後のデザートを食べるふたりの子供を幸せそうに見つめた。
29
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる