105 / 436
第一章 アーウェン幼少期
少年は悪夢を忘れる ②
しおりを挟む
アーウェンが受けた心の傷はどんなに深いだろう──ラウドはロフェナから渡された報告書をおもわず捻じり切ってしまった。
「……旦那様」
「す、すまん……つい……」
後方支援部隊として魔術を駆使できるターランド伯爵家は同位の中でもかなり裕福であるが、どんな性質の紙でも手に入れるにはそれなりの苦労がある。
「いえ…おそらくこうなるのではないかと思い、あと数部は書き写しを作っております。おかげさまで複写術を訓練させるのに役に立ちました」
「すごいな!」
取り調べた人数は自衛団の幹部クラスの者が五名、話を聞かされてなぜか暴力行為に到った者十八名、下っ端で同じように幼児たちを甚振った者が三名の二十一名分だが、訓練と称してずいぶんと作成したらしく、積んである紙束は十山を超える。
「魔術師長殿にご同行いただき、様々に使える魔術をご指導いただけるので、領地でも便利に使えそうです。旦那様が落ち着いて読めるようになるまで破っていただいても大丈夫でございます。このように王都に近い町であるのに、特産物として売り出してもいいくらいの紙産業の技術があるので、こうやって多少質の落ちた物がかなり安く手に入るんです」
「ほう……そんな物があったのか……おかしいな?王宮ではデビニアン町産の紙など見たことが無いが?」
「詳しくは聞いておりませんが、どうやらかなり質の良い物は隣国への輸出物として徴収されているようです。逆に安価となってしまうほど質が落ちるものは王都内でも平民街の末端でしか売り捌けないため、ほぼこの町限定でしか取り扱っていないと……」
「徴収…ということは、正規の収入には繋がらないではないか!それではこの町も発展のしようが……」
「確かに……発展させたくない貴族がいらっしゃると、勘繰りたくなります」
「まさか……とは言えんなぁ。ログナスは武力バカであるが、ジェナリー嬢は昔から勉学においては文官志望の者すら凌ぐほどの博識と好奇心を持たれた女性だった。彼女の才覚があれば、この町がもっと豊かになっていいはず。嫉妬する輩がいてもおかしくはない……か」
この地の発展に対して口出しをするのは血縁関係のない貴族としてはあまり褒められた行為ではないが、せめて他山であっても石をどける方法を一緒に探すのは旧友として当然だろう。
今目の前にある義息子への仕打ちに対しての処罰が済んだら、そちらを手掛けるのも悪くないと思いつつ、また新しい書類を手にした。
結果として二十一名分の供述が二回ずつ破られ、だいぶ怒りは発散された。
だが何度読んでも、幼子に対して行うような行動ではないという思い自体が目減りすることはなく、ログナスに見せていいものかと、ラウドの方が悩んでしまう。
「……このような者はこの町だけでなく、王都にも、他の町にも、そしてきっと我が領にもいることでしょう」
「そうだな……」
ラウドや王都に残してきた警護兵隊副大隊長であるルベラはすべての兵たちの経歴に目を通してはいるが、王宮へ仕官した者の訓練地まで把握していたり覚えているかは怪しい。
実際、王都のターランド邸の警護兵に採用した者の中にアーウェンを覚えていた者がいた。
これから領地までの旅程で通過する村や市などにも、やはりアーウェンを甚振った者やそれを嘲笑って見ていただけの者もいるかもしれない。
だからといって、せっかく王都を出たアーウェンを馬車の中に閉じ込めておくなど、赤の他人のために行動を制限するつもりはラウドにはなかった。
「……旦那様」
「す、すまん……つい……」
後方支援部隊として魔術を駆使できるターランド伯爵家は同位の中でもかなり裕福であるが、どんな性質の紙でも手に入れるにはそれなりの苦労がある。
「いえ…おそらくこうなるのではないかと思い、あと数部は書き写しを作っております。おかげさまで複写術を訓練させるのに役に立ちました」
「すごいな!」
取り調べた人数は自衛団の幹部クラスの者が五名、話を聞かされてなぜか暴力行為に到った者十八名、下っ端で同じように幼児たちを甚振った者が三名の二十一名分だが、訓練と称してずいぶんと作成したらしく、積んである紙束は十山を超える。
「魔術師長殿にご同行いただき、様々に使える魔術をご指導いただけるので、領地でも便利に使えそうです。旦那様が落ち着いて読めるようになるまで破っていただいても大丈夫でございます。このように王都に近い町であるのに、特産物として売り出してもいいくらいの紙産業の技術があるので、こうやって多少質の落ちた物がかなり安く手に入るんです」
「ほう……そんな物があったのか……おかしいな?王宮ではデビニアン町産の紙など見たことが無いが?」
「詳しくは聞いておりませんが、どうやらかなり質の良い物は隣国への輸出物として徴収されているようです。逆に安価となってしまうほど質が落ちるものは王都内でも平民街の末端でしか売り捌けないため、ほぼこの町限定でしか取り扱っていないと……」
「徴収…ということは、正規の収入には繋がらないではないか!それではこの町も発展のしようが……」
「確かに……発展させたくない貴族がいらっしゃると、勘繰りたくなります」
「まさか……とは言えんなぁ。ログナスは武力バカであるが、ジェナリー嬢は昔から勉学においては文官志望の者すら凌ぐほどの博識と好奇心を持たれた女性だった。彼女の才覚があれば、この町がもっと豊かになっていいはず。嫉妬する輩がいてもおかしくはない……か」
この地の発展に対して口出しをするのは血縁関係のない貴族としてはあまり褒められた行為ではないが、せめて他山であっても石をどける方法を一緒に探すのは旧友として当然だろう。
今目の前にある義息子への仕打ちに対しての処罰が済んだら、そちらを手掛けるのも悪くないと思いつつ、また新しい書類を手にした。
結果として二十一名分の供述が二回ずつ破られ、だいぶ怒りは発散された。
だが何度読んでも、幼子に対して行うような行動ではないという思い自体が目減りすることはなく、ログナスに見せていいものかと、ラウドの方が悩んでしまう。
「……このような者はこの町だけでなく、王都にも、他の町にも、そしてきっと我が領にもいることでしょう」
「そうだな……」
ラウドや王都に残してきた警護兵隊副大隊長であるルベラはすべての兵たちの経歴に目を通してはいるが、王宮へ仕官した者の訓練地まで把握していたり覚えているかは怪しい。
実際、王都のターランド邸の警護兵に採用した者の中にアーウェンを覚えていた者がいた。
これから領地までの旅程で通過する村や市などにも、やはりアーウェンを甚振った者やそれを嘲笑って見ていただけの者もいるかもしれない。
だからといって、せっかく王都を出たアーウェンを馬車の中に閉じ込めておくなど、赤の他人のために行動を制限するつもりはラウドにはなかった。
27
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる