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第一章 アーウェン幼少期
少年執事は問題未遂を退ける ③
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カラが照れながら幼い頃に妹に強請られ、『誰が大木の枝の高い所まで登れるか』という競争で、実は高所恐怖症だったとその時に知り、自分より小さい子に譲った形で恐々降りてきたこと。
母親はとても手先が器用で、貧民院の繕い物の手伝いをし、妹を含めた女の子たちに簡単な刺繍を教えていたこと。
表向きの食堂の厨房で働くまでは、なかなか悪くない『家』だと思っており、希望すれば男の子には読み書きと計算が教えられ、どこかの商会の下男となって出ていく者が多かったこと。
やはり母親の話になると表情が暗くなり、施設を飛び出す原因になったことについてはまだ口に出せないようであることをロフェナは汲み取り、敢えてその話題には触れないでいる。
それよりももっとちゃんと勉強がしたいという希望を聞き、それについてもラウドから許可が出ていることを伝えると、目を輝かせて生気を取り戻していくことに微笑んだ。
「……あの……」
「うん?何だい?」
カラがチラチラとロフェナの後ろを窺っているのは知っていた。
ウロウロと小柄な影がロフェナたちの間に割り込もうとするかのように、手に盆を持っているのが気配でわかる。
「いい…んですか……?」
「ああ、お腹が空いた?」
「あ、の…はい……少し……」
おそらくは緊張して話し続けていることで、カラが精神的に疲れてしまったのかもしれない。
そこに何やらいい匂いのする皿を持ってこられたら、さほど腹が減っていなくても思わず頷いてしまうだろう。
しかし──この娘はロフェナが出した『他の者は近付けるな』という命令を、どう解釈したのだろうか?
その疑問が持ち上がったが、強張った笑顔を貼り付けたシェイラは意を決したのか、ロフェナに話しかけられる前にサッと回り込んでテーブルにお茶やカブス料理の載った盆を置いて話しかけてきた。
「おっ、お話し中!すいませんがっ!おおおおお茶など、いか、いかがっでしょっ……」
カラがギョッとして固まる。
安い食堂ならば客が話していようと構わずに料理を出すが、今この場所は正式ではないとはいえ、宿屋ごとターランド伯爵家がほぼ貸し切り状態である。
だからこそロフェナとカラがいるテーブルを給仕するのはターランド伯爵家の者であり、『客人』であり『他人』であるシェイラやその両親を近付けないようにという指示を出したのだ。
もっとも例外はシェイラの兄であるクレファーで、彼はもうすでにアーウェンの家庭教師として授業を教えているので、伯爵家の者として数えられているのだが。
「ありがとう。今後は近付かないでいただきたい」
「はっ、はひっ!しっ、失礼いたしました!あの!で、で、で、ではっ!あのっ後でお時間をっ、いたいただけない…ませんかっ?!」
「無理です」
「へっ……は…い……?」
礼を言われ、しかし追い払われようとしたのに食らいついたのは、ひょっとしたら本能的な反射だったのかもしれないが、それを上回る素早さでロフェナはシェイラの誘いを断る。
「どっ……して……」
「私の恋人に対して、不誠実な行動を行いたくないからですよ、お嬢さん」
「こい、びと」
「ええ。彼女に対して私は誠実でありたい。ですので、今でも後でも、あなたと会うための時間は作りません」
「そ、そんな……」
「誠に申し訳ないが、私たちのテーブルにも近付かないでいただきたい。私とカラはとても重要な話をしている。あなたのような『客人』に聞かせられるものではないため、ご了承いただきたい」
遮音魔法で話の内容は聞かれてはいないとはいえ、ロフェナはサラリとシェイラを拒絶した。
母親はとても手先が器用で、貧民院の繕い物の手伝いをし、妹を含めた女の子たちに簡単な刺繍を教えていたこと。
表向きの食堂の厨房で働くまでは、なかなか悪くない『家』だと思っており、希望すれば男の子には読み書きと計算が教えられ、どこかの商会の下男となって出ていく者が多かったこと。
やはり母親の話になると表情が暗くなり、施設を飛び出す原因になったことについてはまだ口に出せないようであることをロフェナは汲み取り、敢えてその話題には触れないでいる。
それよりももっとちゃんと勉強がしたいという希望を聞き、それについてもラウドから許可が出ていることを伝えると、目を輝かせて生気を取り戻していくことに微笑んだ。
「……あの……」
「うん?何だい?」
カラがチラチラとロフェナの後ろを窺っているのは知っていた。
ウロウロと小柄な影がロフェナたちの間に割り込もうとするかのように、手に盆を持っているのが気配でわかる。
「いい…んですか……?」
「ああ、お腹が空いた?」
「あ、の…はい……少し……」
おそらくは緊張して話し続けていることで、カラが精神的に疲れてしまったのかもしれない。
そこに何やらいい匂いのする皿を持ってこられたら、さほど腹が減っていなくても思わず頷いてしまうだろう。
しかし──この娘はロフェナが出した『他の者は近付けるな』という命令を、どう解釈したのだろうか?
その疑問が持ち上がったが、強張った笑顔を貼り付けたシェイラは意を決したのか、ロフェナに話しかけられる前にサッと回り込んでテーブルにお茶やカブス料理の載った盆を置いて話しかけてきた。
「おっ、お話し中!すいませんがっ!おおおおお茶など、いか、いかがっでしょっ……」
カラがギョッとして固まる。
安い食堂ならば客が話していようと構わずに料理を出すが、今この場所は正式ではないとはいえ、宿屋ごとターランド伯爵家がほぼ貸し切り状態である。
だからこそロフェナとカラがいるテーブルを給仕するのはターランド伯爵家の者であり、『客人』であり『他人』であるシェイラやその両親を近付けないようにという指示を出したのだ。
もっとも例外はシェイラの兄であるクレファーで、彼はもうすでにアーウェンの家庭教師として授業を教えているので、伯爵家の者として数えられているのだが。
「ありがとう。今後は近付かないでいただきたい」
「はっ、はひっ!しっ、失礼いたしました!あの!で、で、で、ではっ!あのっ後でお時間をっ、いたいただけない…ませんかっ?!」
「無理です」
「へっ……は…い……?」
礼を言われ、しかし追い払われようとしたのに食らいついたのは、ひょっとしたら本能的な反射だったのかもしれないが、それを上回る素早さでロフェナはシェイラの誘いを断る。
「どっ……して……」
「私の恋人に対して、不誠実な行動を行いたくないからですよ、お嬢さん」
「こい、びと」
「ええ。彼女に対して私は誠実でありたい。ですので、今でも後でも、あなたと会うための時間は作りません」
「そ、そんな……」
「誠に申し訳ないが、私たちのテーブルにも近付かないでいただきたい。私とカラはとても重要な話をしている。あなたのような『客人』に聞かせられるものではないため、ご了承いただきたい」
遮音魔法で話の内容は聞かれてはいないとはいえ、ロフェナはサラリとシェイラを拒絶した。
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