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怒気

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ifストーリーはともかく、実在しているイストフがルエナをどう扱うのかを具体的に聞き、シーナが睨み──アルベールの大きな身体が風を伴って動いた。
「グフゥッ!」
椅子が大きな音を立てて倒れたが、それよりもイストフの身体が浮いて吹っ飛んでいったことにシーナは驚いた。
頭と肩が床に激突し、イストフはその痛みのために体を丸めたが、今度は気絶しなかったようである。
「……驚かせて、すまない」
「いいえ。アタシに力がなかったから、やってくれて感謝してる」
腰を浮かせかけたシーナはまたストンと椅子に座り直し、背中を向けたままのアルベールを肯定する。
「たとえ良い感情を持っていなかったとしても、公爵令嬢よ?あなたより身分が高いの。王家へ嫁入りした姫がいるから陞爵されたとはいえ、元はあなたの家と同格の侯爵家……礼節を持って接するのが当然。別居は大いに結構。ルエナ様があんたみたいなクソ野郎に穢されるよりずっといいわ!別邸ってどうせ辺境地のさらに辺境ってことでしょう?辺境侯爵本邸のある周り以外ではほぼ無人の野で、かなり離れたところに捨てられた僻村があったわよね?一応そこにあなたの家の別邸があるけど。そこに住まわせるつもり?だとしたら辺境兵たちを割いて警護するべきだけど、そんなことも考えていなかったんでしょう?最低限の者を適当に配備するか、村から人を雇えとでも言って放置するつもりだったのかしら?どっちにしろ仮定の話ではあるけど……」
一気に言い放ち、シーナはようやく体を起こして項垂れるイストフに向かって、さらに冷たく言い放つ。
「言っとくけど、ルエナ様はアタシに対していかなる卑劣な行為も悪口も陰口も行ったことはないわ。誰があんたたち側近たちに吹き込んだのか知らないけど、ルエナ様はアタシの目の前に現れるどころか、関わることすら嫌悪してた。しかもそれは『アタシだから』じゃない……言っては何だけど、ルエナ様は侯爵家の令嬢でも伯爵家から陞爵された家の令嬢すら、徹底して側に近付けられなかったの。そんな方がわざわざ子爵家の養女を虐めるために、伯爵家以下の令嬢を唆すの?いったいどうやって?」
そうなのだ──ルエナ嬢は学園内ではほぼ孤立していたと言っても過言ではないほど、他の貴族家の令息令嬢を近付けなかった。
それは将来の王太子妃として致命的に派閥を作れないということではあったが、逆に言えば利用しようとする輩を遠ざけるという意味でもある。
そのことに思い当たったのか、左頬を押さえたままのイストフは呆然として顔を上げ、怒りの眼差しを向けるシーナとアルベールを交互に見つめた。


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