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般若

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「え……で、も……そんな……ル、ルエナ……嬢、は……確かに……いや……でも……」
どんな絵図を描いていたのか知らないが、だいたいシーナに本気で選ばれると思っていたのだろうか?
可能性だけかもしれないが、打診もされていないルエナ嬢の輿入れの後など、本気で考えていたのだろうか?
「ち、父上……が……本当に、王太子殿下がシーナ嬢を選ばれて、ルエナ嬢と婚約破棄をされた場合は誰よりも先に傷物を引き取ると……」
「あぁん?!」
「ヒッ……ひっ、ひやっ!お、おお俺はっ……そんな、そんな不遜なこと……ぎゃ、逆、に……シーナ、嬢の方が泣く…と思って……いて……」
常識的に考えれば確かに元貧民で父の繋がりで子爵家に引き取られて令嬢とはなったが、出自だけでなく貴族位も下位であれば、どう頑張っても公娼にすらなれない日陰者として後宮どころか、地方にある王家の別荘地に閉じ込められて社交界にすら顔を出すことを禁じられるかもしれない。
シーナ嬢をそんな目に合わせるくらいなら、王太子に頼み込んで自分が貰い受けようと思っていた──しどろもどろにイストフは告白したが、ルエナの身柄にしてもシーナのことにしても、男たちが言葉だけだとしてもまるで物のように勝手にやり取りされるのを聞いて、シーナの顔はさらに怒りに満ちる。
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁ────っ!!!」
「ヒィッ!」
「傷物だの日陰者だの……勝手に決めつけないでよ!リオンはルエナ様を手放すつもりなんて欠片もないし、アタシだってあいつの嫁だろうが愛人だろうが心からご免こうむるわ!アタシもルエナ様もあんたの領地に行かないし、行かせない!!だいたいあいつに振られても泣かないわ!てか、逆にそんな気持ち持ってたら気持ち悪すぎて再起不能になるまでボコってやるわ!!」
「ヒィィィ……」
ダンダンッと地団太を踏み激怒するシーナに対して、側近の中でも硬派で剣の実力があるはずのイストフがビビりまくっている姿に、アルベールはデカい犬に向かって威嚇する子犬を見ているようで微笑ましく思う。
そかしそれを見れば怒りがこちらに向くと知っているので、口元を拳で隠してそっと顔を背けたが、すかさずそれを見咎めて、アルベールに向かってシーナはやはり子犬のようにキャンキャンと吠え掛かった。
だがそれはある意味幼い頃から繰り返されてきたやり取りのひとつで──すっかり怯えながらイストフはどう見ても『仲の良い』ふたりのその姿を黙って見ているしかなかった。


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