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趣味

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何と言って誤魔化そうか──そう思いながら、いや、そう思っていたからこそか、シーナの口の中は収納過多となり、茹で野菜で頬がパンパンに膨れてしまった。
まさか吐き出すわけにもいかず、かなり長い間顎を動かし、少しずつ咀嚼し、四人分の視線を一身に集めたままようやくグラスに注がれた水を飲むまでに至る。
「…………プッ」
「…………クッ」
誰が一番に噴き出したのか──犯人探しをしようとする前に、部屋中が爆笑に満たされる。
もっとも大笑いしているのは主に男爵家の兄弟で、イストフは大声よりも控えめに、そしてアルベールに関しては何とか声を上げないように我慢しつつも漏れているという具合で、けっきょくシーナのリスの頬袋状態が笑われていることに変わりはない。

残念ながら弁当というものは永遠にある物ではなく、スープの最後の一滴まで飲まれ尽くしておしまいになる。
そうすればやることはひとつ。
「……よし!リオンたちの邪魔をしに行くかっ!」
「エッ?!」
つい前世の時と同じ動作で両手をパンパンッと叩きながらシーナが宣言すると、サッと顔を青褪めたのはクールファニー男爵家のふたりで、王宮と学園内の側近であるアルベールとイストフは心得たとばかりに頷いて当然のように立ち上がった。
だいたい長兄であるリオネルは王太子と面識がありそうなものなのに──そう思ってイストフを見ると、シーナが見たのは否定の首振りだった。
「確かに優秀な者ならば、低位貴族でも特級クラスに入らないこともないとは言えないが……申し訳ないが、クールファニー男爵令息殿はその……普通クラスだ」
しかも普通クラスの中でも真ん中中の真ん中だという──
「え?三クラスの真ん中の、さらに真ん中……?」」
「ウッ……そ、その……書物の内容を覚えるのは得意なんだけど、それらを使って何かをしようとか思いつけなくて……覚えるだけ……なら……」
「覚える?だけ?」

なんじゃそりゃ。

そう思ったのはシーナだけではないだろう。
アルベールもイストフもキョトンとし、逆に弟のリュシアンはそれを不思議には思っていないらしい。
「兄上は学園在庫の図書をすべて覚えることが趣味なんです!」
「しゅ、趣味?」
「はい!我が家の蔵書はそんなになくて……かといって書籍屋を呼びつけて、すべて読ませてもらうわけにはいかず」
「うん?だが王都内の王立図書館にだって本は……」
「ああ、あれはすべて覚えてしまって。なかなか蔵書が増えないので、かなり古い書蔵書も見せてもらったのですが、訳語のための辞書は王宮と学園にしかない……とか……」
「よしっ!ではすぐ殿下の元に行くぞ!」
あはは…と頭を掻くリオネルの方をガシッと掴み、目の色を変えたのはアルベールだった。


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