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偏見
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「…………よしっ」
ムッフー!と令嬢らしからぬ鼻息を荒く吐き、シーナは出来上がったスケッチを満足そうに眺めた。
この後に着色することを考えたざっとしたものではなく、黒の濃淡が織りなす綿密な木炭画はまるでモノクロ写真にも匹敵したが、この世界にはまだ『カメラ』が無いので、見比べることはできない。
それでも覗き込むイストフとリオネル、そしてリュシアンが目を丸くしてスケッチと実際の王太子たちを交互に眺めるその姿は、画家としてシーナの自尊心を満足させた。
「……本当……だったのか……」
「凄いものだろう?」
イストフの感嘆にまるで自分の手柄のようにアルベールが胸を張って同意したが、さらにそれを肯定する。
「ああ……我が家にはさすがに『名も無い画家』の作品はないが、父の知己の家からやはりこのような木炭画を送ってもらったことがある……伯爵令嬢の絵姿だったが、ご本人と比べても遜色なく……」
おそらくそれはイストフを入り婿として迎えたいと願う家からの釣書だと思われるが、複製技術も発展していないため、本命の家以外に送るために作られたフルカラー版から少し値が落ちるモノクロ版だったはずだ。
(侯爵家といえど辺境を治める家……もしかしてかなり貧乏とか田舎者っていう偏見?かな?)
エビフェールクス辺境侯爵家といえば貿易という観点で隣国との接点があって、拓けているところとそうでないところの落差が激しいだけで、資産的にはかなり裕福なはずだ。
だが治める領地は小国に匹敵するほどの広さを誇っても、未開の地は他の領よりも多いだろう。
きっとその情報だけが先に王都に届き、自ら赴いてその発展具合や侯爵家本邸がどれぐらいのものかというのを実際に見なければ、噂話や偏見で物事を正しく受け取ることは難しいのかもしれない。
そして『名も無い画家』──シーナ・ティア・オイン子爵令嬢の手になる絵がイストフの実家に無いのは、単純にシーナが王都から出たことがなく、エビフェールクス侯爵家から自画像を描いたり風景画を売ってほしいという依頼をもらっていないからに過ぎなかった。
「……そのうち、描いてあげるわよ」
「えっ?!」
「ちゃんと『お友達』になったら、ね」
今まで学園側側近たちの前で絵筆どころか木炭を握って落書きのようなデッサンを披露したこともなかったのだから、彼らがシーナ嬢の絵の腕前を知ることはなかった。
教えるつもりもなかったのだ。
だがここにきて、ふとシーナは考えを改めた。
『親愛の情』という名目で、互いを誤解なく理解するために、自分の絵をイストフにあげてもいいかもしれない──と。
ムッフー!と令嬢らしからぬ鼻息を荒く吐き、シーナは出来上がったスケッチを満足そうに眺めた。
この後に着色することを考えたざっとしたものではなく、黒の濃淡が織りなす綿密な木炭画はまるでモノクロ写真にも匹敵したが、この世界にはまだ『カメラ』が無いので、見比べることはできない。
それでも覗き込むイストフとリオネル、そしてリュシアンが目を丸くしてスケッチと実際の王太子たちを交互に眺めるその姿は、画家としてシーナの自尊心を満足させた。
「……本当……だったのか……」
「凄いものだろう?」
イストフの感嘆にまるで自分の手柄のようにアルベールが胸を張って同意したが、さらにそれを肯定する。
「ああ……我が家にはさすがに『名も無い画家』の作品はないが、父の知己の家からやはりこのような木炭画を送ってもらったことがある……伯爵令嬢の絵姿だったが、ご本人と比べても遜色なく……」
おそらくそれはイストフを入り婿として迎えたいと願う家からの釣書だと思われるが、複製技術も発展していないため、本命の家以外に送るために作られたフルカラー版から少し値が落ちるモノクロ版だったはずだ。
(侯爵家といえど辺境を治める家……もしかしてかなり貧乏とか田舎者っていう偏見?かな?)
エビフェールクス辺境侯爵家といえば貿易という観点で隣国との接点があって、拓けているところとそうでないところの落差が激しいだけで、資産的にはかなり裕福なはずだ。
だが治める領地は小国に匹敵するほどの広さを誇っても、未開の地は他の領よりも多いだろう。
きっとその情報だけが先に王都に届き、自ら赴いてその発展具合や侯爵家本邸がどれぐらいのものかというのを実際に見なければ、噂話や偏見で物事を正しく受け取ることは難しいのかもしれない。
そして『名も無い画家』──シーナ・ティア・オイン子爵令嬢の手になる絵がイストフの実家に無いのは、単純にシーナが王都から出たことがなく、エビフェールクス侯爵家から自画像を描いたり風景画を売ってほしいという依頼をもらっていないからに過ぎなかった。
「……そのうち、描いてあげるわよ」
「えっ?!」
「ちゃんと『お友達』になったら、ね」
今まで学園側側近たちの前で絵筆どころか木炭を握って落書きのようなデッサンを披露したこともなかったのだから、彼らがシーナ嬢の絵の腕前を知ることはなかった。
教えるつもりもなかったのだ。
だがここにきて、ふとシーナは考えを改めた。
『親愛の情』という名目で、互いを誤解なく理解するために、自分の絵をイストフにあげてもいいかもしれない──と。
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