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少女

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シーナは公爵夫人の侍女から幼馴染であるイストフに手を引かれて、オドオドとしながらソファに座らされた『辺境侯爵家次期当主の婚約者』をマジマジと見つめた。
ゲームにも小説にも出てこなかったモブ中のモブである少女だが、赤みを帯びた十二歳とは思えないほど大人びているのにその態度はかなり卑屈である。
それはとても庇護欲をそそられるが、同時に加虐性も誘うかもしれない。
だがそんな少女を前にしたシーナが浮かべたのはそんな下劣な嗜好ではなく、まるで安心させるかのように隣に座ったイストフとずっと手を握っている少女の可憐さに対するスケッチ欲だけである。
「……いい……美少女と辺境侯爵令息……どうしてこのペアリング・スチールがなかったのか……ヤバす。イースター……ハロウィン……ああ、アリスでもイイ……ルエナ様とダブル……」
「オイコラ。脳内妄想ダダ洩れで何言ってんだ……てか、何お前、衣装作るの?てか、作れるの?」
うっとりとスケッチブックとデッサン用木炭を握りしめたシーナの呟きに、リオンは冷静にツッコミを入れる。
「失礼な!」
「いや、お前…家庭科オール2だったろ?」
「いつの話よ!それって中学生ぐらいじゃない!ちゃんとコスプレ衣装ぐらい作れるわよ!」
「いや、マジでコスプレさせるつもりかよ……」
だが素早く白い紙に引かれる黒い線が意味を持った絵になるにつれ、リオンの目付きが興味深そうに輝きだした。
その表情の変化に同席を許されているイストフもシーナの手元が気になるようだが、生憎とエルネスティーヌ・フェリース・イェン伯爵令嬢の手を握って気持ちを落ち着かせることに余念がないため、動くことができない。
代わりにアルベールがシーナの後ろに回ってそのスケッチブックを覗き込んだが、ルエナ嬢は少しソワソワした素振りをしながらもまだ完全には打ち解けられずに、シーナから離れたところに座ったまま身動きしなかった。

十五分後──

「さっ、動いていいわよっ!」
ふふ~んと小さく鼻歌を歌いながら、シーナが出来上がったスケッチを披露する。
「う…わぁ……」
「凄いな……」
「かわい……」
頬を染めた伯爵令嬢とイストフの呟きよりもさらに小さな声で、ぽそりとルエナが零した。
そこにあったのは執事のための燕尾服を着用したイストフと、今着ているのとはまったく違うふわふわ感が強調されたパフスリーブとバルーンタイプのレース縁取りがされたドレススカートを着ているエルネスティーヌ嬢が、ソファに寄りそって座っている。
初めて会ったというのに少女の特徴がしっかりと捉えられており、誰が見てもエルネスティーヌ・フェリース・イェン伯爵令嬢だとわかるだろう。
「うぅむ……衣装はともかく、確かにこれは可愛い……」
「だよね?!リアルアリスだよね!アリスの年齢よりちょっと大きいけど……」
「あぁそっか……え?あれって十二歳じゃなかった?」
「違うわよ!原作読んでないの?あれ『不思議』では七歳で、『鏡』では七歳半……だったはずよ、確か」
「無駄に記憶力いいよな、お前って……」
「あの…アリスって……誰…?なんですか?」
誰のことを言っているのだろう?という顔でイストフとシーナを見比べる令嬢が、これまた小動物のようで可愛い。
時間と紙さえあればあと十数枚は彼女を描き続けられるだろうが、モデルの方はそうはいかない。


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