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不適

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シーナのそばにはアルベール、エルネスティーヌ嬢の横にはイストフ──そしてルエナ嬢を抱き寄せたのはリオンだった。
その三組がすんなりと収まる姿をそれぞれ確かめ、令嬢たちの表情がスッと固くなる。
「……で、どういう理由で君たちはシーナ嬢が何をしているか咎めたのかな?」」
「えっ………」
王太子に直接そう訊ねられ、そういう場合でもあるまいに、令嬢たちはそれぞれ頬を染めた。
それはどちらかというとアイドルを見て憧れる表情に似ているが、何故か彼女らが慕うはずのルエナ嬢には一瞥もくれない。
シーナはリオンに注目が集まったのをいいことに敵対する令嬢たちを観察したが、どう見ても王太子と未来の王太子妃が立ち並ぶのに対して好印象という感じも受けず、敢えて無視している気がする。
「ど、どういうっていうか……あの……」
「そっ……そのっ……」
オドオドとする令嬢たちは、ここでようやくルエナの方へ目線を投げかけながら言い淀んだ。
ルエナがもしここにおらず、シーナと王太子、イストフが連れ立っているところを見つけて詰め寄ったとしたのならば、おそらく彼女たちはルエナに命じられたと、いかにもルエナの味方のようなフリをしたのかもしれない。
ルエナがいない場所ならば、彼女がいかに愚かで独占欲が強く、爵位が下の者を馬鹿にするような『王太子の婚約者』としてふさわしくないかということを、王太子に吹き込むはずだったのかもしれない。
「………なるほど。イベント補正だけど、ルエナ様…ルエナを排除することだけはできなかった……ストーリーにはイストフの幼馴染みなんて出てこないしね」
イレギュラーがイレギュラーを呼び、妥協点はこんなところだったのだろうが、シーナはニヤリと唇を歪めた。


とりあえず令嬢たちには二度とルエナ嬢にもシーナ嬢にも近付かないことを誓約させ、今回のことは注意のみで放免にした。
「いいのか?」
「いいんじゃない?どうせ自力で立つ力もない令嬢たちよ?アタシみたいに手に職をつけるつもりもなく、どこかのお屋敷でご夫人の専属侍女になるとか、王宮の上級職についていい婚姻相手を見つけるか……あ、そっか……リオンの側近たちか」
「え?」
リオンもだったが、イストフもアルベールも嫌そうな顔をする。
ルエナが王太子婚約者の座を追われれば、ディーファン公爵家として没落するとまではいかなくとも、素晴らしい王都の大邸宅を維持するためには同じような資産持ちの貴族家と婚姻するしかない。



──わけではない。


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