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集団

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ズラリと並んだのは、爵位のない普通の市民が行き来する往来にはどう見ても不似合いな、あり得んばかりに着飾った令嬢たち。

うん。ナシだな。

声に出さず、リオンとシーナの思考が同じ言葉を脳内に紡ぐ。
前世で同じ時の記憶がある二人にとって、もうコスプレとしか思えない『映画の世界で見るようなテンプレ令嬢スタイル』の女の子は、どちらかというと趣味ではない。
どうせならホワイトロリータかゴシックロリータがいいのだが、それはこの世界では道化と間違われかねないだろう。
虹の如く様々な色合いのドレスに、それぞれがガッツリと纏った宝石類──強盗に襲われないのが不思議なぐらいだが、彼女らの背後にこれまたガッツリと武装した男たちが控えているところから、その対策だけはできているらしい。
「……うわぁ。場違い……」
「『場違い』って何ですの?こちらのお姉様方は、ルエナねえさまとシーナねえさまのお友達ですの?」
つい口から零れてしまったシーナの呟きをエリー嬢は繊細な耳で聞き取り、さらに目の前の令嬢を眺めてからニッコリとこちらを振り返る。
「えっ……」
「いやいやいや!どう見ても……」
戸惑うルエナと否定しようとしたシーナ。
だがふたりともエリー嬢の作った笑いに気が付き、片方は戸惑い、片方は悪ノリしようと言葉を変える。
「そう!そうなの!あったま悪そーなお嬢様方でしょう~?でもルエナのお友達ではないのよ?だって……ねぇ?」
「えっ?」
話を振られて驚いたのはルエナだけでなく、完全なフォーメンションを組んだと思っているらしい令嬢たちもだった。
「えっ……」
「嘘っ……」
「な、何で……」
ざわざわと狼狽えを含んだざわめきが上がり、いつも隙の無いきつく締めあげたドレスときついメイクを施した公爵令嬢ではなく、やつれた頬や目の下をうまく隠しつつ薄化粧のようにしか見えない素朴なメイクとシーナが厳選した可愛らしい庶民の年頃の少女が着るようなふくらはぎ丈のデイリードレス姿のルエナをようやく認め、それがシーナの『単なるお友達』ではないことに気が付いて青褪める。
「ヒッ……」
「そ、そんな」
「あ…あのっ…ル、ルエナ様っ……」
「……いったいどうして、シーナ嬢が咎められるんだ?」
さっきの威勢はどこに行ったのかと笑いだしたくなるシーナの目の前に、ズッと黒い影が落ちた。
ふわりと品の良い男性用香水の匂いに誰が自分の視界を塞いだのかと考える必要はなく、その持ち主に声を掛けようとする前に、別の声が重なる。
「確かにねぇ……今回のこの散策はシーナ嬢が言い出しっぺだろうけど、ルエナ嬢もエリー嬢も楽しそうに計画していたみたいだしね?ねえイストフ?」
「ええ。彼女の王都滞在時の身元引受人として、私も同行することが条件でしたが……まだ幼い令嬢で、失礼があってはなりませんから」
「まぁ!わたくしだってすぐに成人しますわ!それに失礼なんて……女性に向かって『幼い』なんて、イストフお兄様の方が失礼ですわ!」
「ごめんごめん、エリー。そうだったね」
学園ではめったに笑顔を浮かべないイストフが苦笑いしながら、小さな想い人を守るようにその横に進み出ると、きゃあっと場所を考えない色めいた声が上がった。
シーナのことに対しては快く思わなくても、イストフが『妹のように』そばに寄りそう少女に対しては不審に思いはしても、悪印象は持たなかったらしい。

それはそうだろう──リオン王太子はともかく、学園内側近として優し気なベレフォンとルイフォンのダンビューラ兄弟、豪快なディディエ・ファーケン・ムスタフと同じようにイストフの女生徒人気は高かった。
領地に帰らねばならない辺境侯爵家嫡男ではなく、おそらく王都に残って王宮に勤めるはずのイストフはまだ婚約者も決まっていないということもあり、何故か彼らの中心に収まったシーナ・ティア・オイン子爵令嬢という素性卑しい元庶民の女さえ消えてくれればかなりの優良物件なのだから。


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