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書簡
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エビフェークルス辺境侯爵領の中心からやや離れた小高い丘を占有地としている領主本邸フェルン城では、領主であるミェシン・ガーダ・イストフが執務室で暗い表情をして、手にした紙の上に何度も視線を落とし左右に動かしていた。
溜息をつくと窓から見える西の翼に顔を向け、また先ほどと同じ動作を繰り返す。
「……旦那様」
「まだ、続いているのか?」
「はい」
この城の男たちをまとめている家令もまた、表情が優れない。
その者たちがやってきたのは、二十日ほど前だったか──
イェン伯爵が引き攣った笑顔で紹介してきたのが、何とも肉感的な女たちばかりの旅団だった。
年齢も様々で、妻と同年代らしい見目の旅団長という女はまだ瑞々しさに溢れ、さらに三人ほど体つきも性格も年齢も夜技も違う者を差し出し、この城にある林で野宿をする許可を取るほどの手練れだった。
反応の薄い妻とは次男が無事に七歳の誕生日を迎えた頃から夫婦生活を過ごすことはなく、後腐れのない娼婦を領都内の別邸に呼んで自分の欲を解消していたが、たまたま現在はその暇が取れなかったということもある。
嬉々として差し出された手を取ったのが運の尽き──散々女の肌を愉しんだ後に差し出されたのは、王太子から息子の不祥事を許す条件を記した密書だった。
エルネスティーヌ・フェリース・イェン伯爵令嬢と嫡男テフラヌ・ビュラーとの婚約解消
この旅団の領地受け入れ
幼女の代わりに、女たちをそれぞれテフラヌに面通しさせて好きに宛がうこと
幼いイェン伯爵令嬢をエビフェークルス侯爵家に迎え入れることで取り込めるはずだったイェン伯爵家の財産を諦めるのは惜しかったが、学園内で息子が学内側近たちと徒党を組んでディーファン公爵家令息に手向かい、さらには子爵令嬢を監禁する手はずになっていたらしい。
女を手に入れる手段はともかくとして、『ディーファン公爵』という名前がまずかった。
次男が絡んだのは王家の血が入っていない、だがれっきとした王家と繋がりのある貴族家。
翻ってこちらは功績によって名を上げたが、今は亡き祖国の慣習を守り続けて王室をないがしろにする傾向にある貴族──取り潰すのにいい口実となりかねない。
だがそれを全部飲み込んでやるから、身元の知れない女どもを引き取れと言われたのである。
どうやら奇術大道芸を生業としている者たちばかりで、引き締まってイイ身体をした者たちばかり──しかも器量も悪くない、どころかはっと目を瞠るほどの美貌。
自分の立場さえ考えなければ、好きに食い散らかしたいぐらい──だが、今まさにその享楽を味わっているのは我が息子である。
いったい王家は、いや王太子は何を考えているのか。
考えてもわからないが、イェン伯爵家には長男との婚約解消を承諾するように申しつける書状をしたためた。
溜息をつくと窓から見える西の翼に顔を向け、また先ほどと同じ動作を繰り返す。
「……旦那様」
「まだ、続いているのか?」
「はい」
この城の男たちをまとめている家令もまた、表情が優れない。
その者たちがやってきたのは、二十日ほど前だったか──
イェン伯爵が引き攣った笑顔で紹介してきたのが、何とも肉感的な女たちばかりの旅団だった。
年齢も様々で、妻と同年代らしい見目の旅団長という女はまだ瑞々しさに溢れ、さらに三人ほど体つきも性格も年齢も夜技も違う者を差し出し、この城にある林で野宿をする許可を取るほどの手練れだった。
反応の薄い妻とは次男が無事に七歳の誕生日を迎えた頃から夫婦生活を過ごすことはなく、後腐れのない娼婦を領都内の別邸に呼んで自分の欲を解消していたが、たまたま現在はその暇が取れなかったということもある。
嬉々として差し出された手を取ったのが運の尽き──散々女の肌を愉しんだ後に差し出されたのは、王太子から息子の不祥事を許す条件を記した密書だった。
エルネスティーヌ・フェリース・イェン伯爵令嬢と嫡男テフラヌ・ビュラーとの婚約解消
この旅団の領地受け入れ
幼女の代わりに、女たちをそれぞれテフラヌに面通しさせて好きに宛がうこと
幼いイェン伯爵令嬢をエビフェークルス侯爵家に迎え入れることで取り込めるはずだったイェン伯爵家の財産を諦めるのは惜しかったが、学園内で息子が学内側近たちと徒党を組んでディーファン公爵家令息に手向かい、さらには子爵令嬢を監禁する手はずになっていたらしい。
女を手に入れる手段はともかくとして、『ディーファン公爵』という名前がまずかった。
次男が絡んだのは王家の血が入っていない、だがれっきとした王家と繋がりのある貴族家。
翻ってこちらは功績によって名を上げたが、今は亡き祖国の慣習を守り続けて王室をないがしろにする傾向にある貴族──取り潰すのにいい口実となりかねない。
だがそれを全部飲み込んでやるから、身元の知れない女どもを引き取れと言われたのである。
どうやら奇術大道芸を生業としている者たちばかりで、引き締まってイイ身体をした者たちばかり──しかも器量も悪くない、どころかはっと目を瞠るほどの美貌。
自分の立場さえ考えなければ、好きに食い散らかしたいぐらい──だが、今まさにその享楽を味わっているのは我が息子である。
いったい王家は、いや王太子は何を考えているのか。
考えてもわからないが、イェン伯爵家には長男との婚約解消を承諾するように申しつける書状をしたためた。
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