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追跡
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シーナは今日も目の前で繰り広げられる光景に、すっかり砂を吐きそうになっている。
とてもとても甘い砂を。
「……よく飽きないわねぇ」
「そもそも俺の目の前で、ということの方が信じられん」
というセリフを隣で呟くのは、酸っぱいものと苦いものを同時に口に含んだような渋い顔をしているディーファン公爵家嫡男のアルベール・ラダ・ディーファン。
バカでかいガーデンテーブルを挟んだ向こう側では、顔を赤く染めつつもこの状況に馴染み始めているルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢と、その婚約者で王太子であるはずのリオン・シュタイン・ダンガフ王子が、ひと口大にカットしフォークに刺したケーキをサクランボ色のつやつやとした唇の中に押し込もうとしている光景が繰り広げられている。
そしてもう一辺には慎ましく正しく席ひとつ分開けて並んで座る婚約者が一組──エビフェールクス辺境侯爵家次男のイストフ・シュラー・エビフェールクスと同郷のイェン伯爵家令嬢のエルネスティーヌ・フェリース・イェンがいるが、目線をどこにやったらいいかと目線が落ち着かない。
本来ならばひとり掛けのガーデンチェアに座ってお上品に語るのが常識であり、間違ってもベンチシートに座る王子様が目尻を下げまくりながら、同じベンチに座る婚約者にゼロ距離まで近づいて「あーん」と言いながら口を開けさせようなどとしてはいけないのだ。
いけないのに──いったい自分たちは何を見せられているのか。
「……で?けっきょく薬の出所の繋がりは証明できるの?」
「それがなんだよねぇ……」
さすがに人前で餌付け、もといケーキの食べさせ合いは無理だと絶対に口を開けないというボディランゲージにようやく諦めをつけ、リオンはシーナの問いに溜め息で答えた。
「茶葉自体は隣国で高級品のひとつとされているもので間違いはなかった」
「つまり……『お目の高い貴族様』なら、手を伸ばしてもおかしくない代物だったってこと?」
「そうそう……ま、我ら子供世代が好んで飲むようなフルーティーな物ではないんだけど」
「どゆこと?」
キョトンとシーナが問い返すと、声には出さずとも同じ疑問を顔に浮かべる子息令嬢を順番に見ながら、リオンは説明を続けた。
そのお茶自体は味わいが独特で、一般的な紅茶よりも薄い赤──どちらかというと橙色に近い。
香りもいいのだが、淹れ方が特殊でかなり苦味も出るらしい。
「つまり砂糖でも入れないと、子供にはすこぶる評判が悪い。色が変化するのが面白いと蜂蜜を入れるのが一般的らしいんだけど」
「え……?でも……」
サッと顔色を悪くしたルエナは、チラリとシーナへ視線を向ける。
シーナはそれを聞いて、何か考え込むように少し黄色に染まった指先を顎に当てた。
「ぎゅうにゅう」
「えっ?」
声は複数上がった。
「子供に変な味……特に苦い物を飲ませるなら、少しでも風味を良くした方が違和感なく飲める。未熟な子供の舌に馴染ませるように……徐々に入れる量を減らして、ストレートに慣れさせて……」
ところがルエナはシーナの推理に首を振る。
「あのお茶は……その……余計な物のせいで味が変わっていたのか、最初から苦味はありませんでしたわ。むしろ甘くて……それも、蜂蜜とは違う甘さで……どんな物とも違う甘さで……」
だんだんとルエナの声が小さくなりうっとりと目の色が変わるのを見て、リオンとシーナ、そしてアルベールは思わず身構えた。
とてもとても甘い砂を。
「……よく飽きないわねぇ」
「そもそも俺の目の前で、ということの方が信じられん」
というセリフを隣で呟くのは、酸っぱいものと苦いものを同時に口に含んだような渋い顔をしているディーファン公爵家嫡男のアルベール・ラダ・ディーファン。
バカでかいガーデンテーブルを挟んだ向こう側では、顔を赤く染めつつもこの状況に馴染み始めているルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢と、その婚約者で王太子であるはずのリオン・シュタイン・ダンガフ王子が、ひと口大にカットしフォークに刺したケーキをサクランボ色のつやつやとした唇の中に押し込もうとしている光景が繰り広げられている。
そしてもう一辺には慎ましく正しく席ひとつ分開けて並んで座る婚約者が一組──エビフェールクス辺境侯爵家次男のイストフ・シュラー・エビフェールクスと同郷のイェン伯爵家令嬢のエルネスティーヌ・フェリース・イェンがいるが、目線をどこにやったらいいかと目線が落ち着かない。
本来ならばひとり掛けのガーデンチェアに座ってお上品に語るのが常識であり、間違ってもベンチシートに座る王子様が目尻を下げまくりながら、同じベンチに座る婚約者にゼロ距離まで近づいて「あーん」と言いながら口を開けさせようなどとしてはいけないのだ。
いけないのに──いったい自分たちは何を見せられているのか。
「……で?けっきょく薬の出所の繋がりは証明できるの?」
「それがなんだよねぇ……」
さすがに人前で餌付け、もといケーキの食べさせ合いは無理だと絶対に口を開けないというボディランゲージにようやく諦めをつけ、リオンはシーナの問いに溜め息で答えた。
「茶葉自体は隣国で高級品のひとつとされているもので間違いはなかった」
「つまり……『お目の高い貴族様』なら、手を伸ばしてもおかしくない代物だったってこと?」
「そうそう……ま、我ら子供世代が好んで飲むようなフルーティーな物ではないんだけど」
「どゆこと?」
キョトンとシーナが問い返すと、声には出さずとも同じ疑問を顔に浮かべる子息令嬢を順番に見ながら、リオンは説明を続けた。
そのお茶自体は味わいが独特で、一般的な紅茶よりも薄い赤──どちらかというと橙色に近い。
香りもいいのだが、淹れ方が特殊でかなり苦味も出るらしい。
「つまり砂糖でも入れないと、子供にはすこぶる評判が悪い。色が変化するのが面白いと蜂蜜を入れるのが一般的らしいんだけど」
「え……?でも……」
サッと顔色を悪くしたルエナは、チラリとシーナへ視線を向ける。
シーナはそれを聞いて、何か考え込むように少し黄色に染まった指先を顎に当てた。
「ぎゅうにゅう」
「えっ?」
声は複数上がった。
「子供に変な味……特に苦い物を飲ませるなら、少しでも風味を良くした方が違和感なく飲める。未熟な子供の舌に馴染ませるように……徐々に入れる量を減らして、ストレートに慣れさせて……」
ところがルエナはシーナの推理に首を振る。
「あのお茶は……その……余計な物のせいで味が変わっていたのか、最初から苦味はありませんでしたわ。むしろ甘くて……それも、蜂蜜とは違う甘さで……どんな物とも違う甘さで……」
だんだんとルエナの声が小さくなりうっとりと目の色が変わるのを見て、リオンとシーナ、そしてアルベールは思わず身構えた。
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