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再発

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そのボンヤリとした表情は、アルベールには見慣れたものだった。
ボンヤリとして、恍惚として──たらり、と口の端から涎が垂れる。
およそその貴族令嬢らしくない表情を見てしまったエリー嬢が「ヒッ…」と小さく悲鳴を上げ、隣に座っていたイストフがサッと警戒するように彼女を庇った。
ふらり、ふらりと身体を揺らして白目を剥くルエナにマントを被せ、ディーファン公爵家の者たちから隠すようにリオンが抱き締める。
「……揺り返し?きっかけ……まだ暗示か、後遺症か、中毒性が残っていた……?」
「シーナ……?大丈夫か?」
青褪めながらも真剣な表情で妹を見つめながらブツブツと呟く少女をアルベールは気遣うように支えようとしたが、女性の身体に触るのを躊躇い、背中に回そうとしていた手をぎゅっと握る。
幼い頃は男の子だと思っていたのだ──今さらそんな遠慮するような仲ではない。
だというのに、アルベールは何が変わったのか自分の手を見下ろす。
「アル!」
「っ!……なっ、何だっ?」
突然体を動かされたために、触れる寸前で留まっていた拳が、意図せずシーナの身体を包むドレスの背中に軽く触れ、とんと柔らかい衝撃に頭に血がのぼ──
「発動条件はわからない……けど!何か、ヤバい。ルエナ様、またあのお茶を欲しがるかもしれない!」
「な…に……?」
克服した、はずだった。
大量の水、シーナの転生前の知識を総動員して徹底した食事管理と監視、中毒性のあるあの茶に似た物も与えた者と容姿が似ている侍女や下働きも他家へ斡旋し人員の入れ替えも行った。
乳母だけが今もまだルエナの専属侍女として側にいるが、赤ん坊の頃から信頼していた者の顔を見ることで安定してきたのか、完全に健康体に戻ったとまでは言えずとも普通の貴族令嬢と同じように馬車に乗り、学園まで通うことだって再開できたのに──
「……せっかく……ルエナ様がリオンにとっての唯一だと、『政略結婚のための名ばかり婚約者』ではないと印象付け始めたのに……」
今まではルエナのほうが王太子と共にいることを避けていたため、王太子婚約者として失態があれば引きずり降ろせると思われてきたが、リオンが拘束する勢いでルエナを隣に学園内のあちこちで姿を見せれば、そんな愚かな企みも潰えるはず。
しかも王太子自身が見せつけるように親し気にしていたぽっと出の子爵令嬢ですら公爵令嬢に礼節を尽くし、身分の垣根を越えた親友というポジションに落ちつけば、両手に花状態の王太子に近付く者などいない──その予定だった。
だがこれでまたルエナが心神喪失状態になったために学園を休んだということが知れれば、まだつけこむ隙があると、揚げ足を取られかねない。

とりあえずはルエナが落ち着くのを待つしかなかった。


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