ウリッジ

愛摘姫

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第九章 成人の儀

山の神の神殿

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大きな岩壁が目の前に広がり、手前にある水面の光が映し出されて、煌いている。そこは、紫色のアメジストを散らばせたような色をしていた。
その岩肌の方をむいて、使者が座り、皆に頭をたれるようにと合図した。

ルウアたちが、下を向いていると、

水が、ばしゃっと飛沫ををあげるおげて、誰かが水中からでてきたような音が聞こえた。
下を向いているものたちは、それが山の神だと信じた。

すると、驚いたことに、美しい弦楽器のような音色がなった。
山の神が、音を超えて、頭に直接吹き込んできた声のようだった。


「美しい皆のものよ。こうして我が神殿へと来たもうて、なによりぞ。おのがたの力をこの山のために、使いたもうぞ」

声の主は、大きく発光しだした。
あたり一面、岩肌も、大きな力の波が押し寄せたかのように、圧力を感じた。

それは、ただの光ではなかった。
光という言葉を借りた、力の大波だった。
その大波が全身をかけぬけていくとき、力に耐え切れずに、
頭を垂れながらも、ひれ伏してしまうもの。
ぎゅっと目を瞑り、おののいてしまうもの。
歯をくいしばり怖れぬように、ひたすら精神を統一させるものもいた。

ルウアは、そのどれにもはまらず、ただじっと事の成り行きをただ感じていた。大波は、ルウアの全身を貫いたが、心までは貫けなかった。
眉間がうずいているのがわかる。
力の波が終わり、光が消えると、


すると、またバシャンと水の音がして、あたりが静まり返った。
使者は、なおも、静かに頭をたれており、誰一人口を利く者はいなかった。


ルウアは、眉間がかすかに痛んだ。
まるで火傷のようにヒリヒリした。

頭をあげると、使者が、それぞれに向かって、外へ出て行くよう促した。もとの広間に戻ると、皆一様に、一息ついた。

明かりがともされていることに、どこかほっとしていた。

キレアが、聞いた。

「あれ、ルウアのおでこ、どうしたんだよ?」

ルウアが触ると、アザのようなものができている。

「ああ、さっきな」

と言ったきり、詳しいことは言わなかった。その額を、じっとみているものがいた。

「成人の儀が終わりました。これから、皆さんは山の宿営地へ向かいます。洞窟を抜けた外には、案内の人がおりますから、そこへむかってください」

使者がそういうと、一人ずつ部屋から出て行った。

ルウアが部屋を出ようとしたとき、使者が話しかけた。


「あなたは、刻印を押されましたね。その額のアザは、山ノ神に選ばれたものが押される印です」

と言った。

「どういう意味なのですか?」

ルウアが聞くと、使者は微笑んだ。

「あなたの力が見初められたのでしょう」

そういって、おじぎをした。

暗い洞窟から外に出て行くと、朝日が山々を染めていた。
金色に光る太陽が、眩しく、新しい門出にふさわしい朝を告げていた。






第十章につづく
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