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第二章 アストライア大陸
第三十話 霊王の眷属
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ウチョニーに賊を押し付け、俺は再び森の中に入っていった。
水田を荒らしている害獣は概ね正体が分かったが、畑の方はまだ分からないのだ。まだ調査する必要がある。
しかし、目的は害獣の探索だけではなかった。
この森には、もっと恐ろしくて強い奴がいるのだ。賊たちをあの場に放置せず、わざわざ村まで連れて行ったのもそれが原因である。
具体的にどんな奴かは分からない。だがほぼ確実に、俺より強いことは確かだ。どこに潜んでいるかもハッキリしていないのに、その魔力だけは確かに感じるのだから。
害獣の探索もそこそこに、今度はより魔法的な存在への目を光らせる。
いわゆる、精霊種という奴だ。この森の魔力の異様さから見ても、彼らがいるのは間違いないだろう。それが件の強者なのかは、まだ不明だが。
身体強化で目に魔力を込めていくと、だんだん魔力の流れも見えてくるようになる。これを用いて精霊種を捜索するのだ。彼らは魔法の性質が少々特徴的だから。
すぐに先程賊を捕らえた場所を追い抜き、しばらく立ち止まって良く森の内部を眺めてみた。
そして気付いた。この森の中は、儚焔と属性を持った魔力の割合が狂っている。
確かに太陽の光は遮られているが、森の中には魔力の分解者が多く存在するのだ。木々もそうである。
そのため本来なら、森の内部では儚焔が満ち足りていて、魔力などはほとんど存在しないはずなのだ。
しかしこの森では、異様に風属性の魔力が高い部分がある。これはおかしい。
単純に考えるのならば、何らかの理由で木々もその他分解者も活性が下がっているということ。だが今回の場合……。
「激烈な戦闘の跡……! まさか、もう彼らのテリトリーに入ってしまっていたのか!?」
ふと気が付くと、俺の真上には大量のトンビが舞っていた。
間違いなく、精霊種の魔力を有している。それも、かなり上位のものだ。数十羽のトンビが皆、メルビレイ並みの力を持っていた。
これがこの森の主一族。ウスカリーニェと見紛うほどの速度で宙を舞う彼らは、いつこちらを襲おうかと機を見計らっている。
こちらが戦闘態勢を整えようと腰を落とした瞬間、それまで様子見をしていた一羽が恐ろしい速度で突撃してきた。
初速で音を超え、こちらの反応速度を大きく上回っている。
当然ながら俺は彼の攻撃に対応することが出来ず、これをまともに喰らって大きく吹き飛ばされた。俺に攻撃を食らわせたトンビは、その後追撃する様子もなく再び群れの中に入っていった。
幸いにも深手を負うことはなかったが、これがあと数十発放たれると思うと精神が持たない。
それに、人間の身体では絶対的に防御力が足りていない。彼らの攻撃は、その気になれば人間程度一撃で殺せる威力を秘めているのだ。あれでもまだ、様子見のつもりだったんだろう。
「仕方ない、生態魔法解除!」
俺は生態魔法を消し、本来のタイタンロブスターの姿に戻る。
といっても、水中のように自在に動けるわけじゃない。むしろ人間の姿よりも機動力は低いくらいだ。
しかしいくら機動力を求めたところで、宙を泳ぐ彼らからは逃げ切れない。もちろんのこと、俺の実力程度では彼らに追いつくことも不可能だ。
だから今回は、完全に機動力を捨てて迎え撃つ。タイタンロブスターの姿なら身体も大きく、保存できる魔力の量も増えていた。これならば、それなりの戦いが出来るはずだ。
幸運にも、俺は自分より機動力の高い敵を相手する方法を熟知していた。ウスカリーニェである。どうやっても追いつけない彼らを、しかし俺は十二分に相手できる。そこに機動力の差は関係ないのだ。地上では勝手も違うだろうが、やるしかない。
まずは第一手、奴らが総攻撃をかましてくる前に罠を設置する。
ムドラストが勝手にひっつき爆弾を改造してくれていたおかげで、これの扱いの応用性に気付いた。
そこで開発したのが、ある程度距離の離れた場所でもこの魔法を設置できる、ひっつき爆弾改二である。
俺はひっつき爆弾を枝葉に設置し、奴らの突撃を迎え撃つ。
狙い通り群れの中の一匹が超高速に至り、木々を無視してこちらに攻撃を仕掛けてきた。
しかしひっつき爆弾改二の反応速度は凄まじく、奴の動きを正確に感知して爆破して見せた。
惜しいことに致命傷を負わせられていないが、飛行能力は劇的に下げられている。これで奴はもう追撃できない。
あとは落ちてきた奴の命を刈り取るだけだ。これが、海でウスカリーニェ相手に立ち回り続けていた男の実力よ。
「単純な魔力や身体能力なら俺より遥かに強いが、知恵比べでは俺の圧勝みたいだな。といっても、ひっつき爆弾はまだ、アストライア大陸に上陸して日が浅い最新の魔法だが。これを知らなくて当然かな」
勝利の気配を漂わせつつ、落下してきたトンビにトドメを刺そうと近づくと、その瞬間に強烈な魔法の気配を感じた。
俺は大慌てで後方に下がりこれを回避しようと試みる。
しかし地上で低下した俺の機動力ではやはり避けきれず、何発かは受けてしまう。
背中側のメイン装甲にあたった魔法は弾き返せているが、節足の部分は切断されてしまった。
鳥系の魔獣が持つ、強力な風系魔法。水中では全くと言っていいほど実用性のない魔法だったが、ここでは違う。
だが、俺の節足を切断できるほどの圧力を持った気体とは。奴ら、俺が想像していた以上の魔力を持っているらしい。
簡単な話だが、空気の刃よりも水の刃の方が遥かに効率がいい。風系魔法で物体を切断しようとしたら、かなりの量の魔力をつぎ込まなければならないのだ。
そんなことをするよりも、身体強化や龍断刃を用いて対象を攻撃する方がずっといい。それだけ奴らの接近を抑制できているということでもある。
しかし何より、奴らにとってはそれでも構わないという意図があるのだろう。
本来なら身体強化を使って速度を上昇させつつ、ひっつき爆弾のない場所を探って接近するのが最良である。
だがそれを面倒だと思って、奴らは風系魔法を使ってきた。それだけ、奴らには魔力の余裕があるのだ。俺を相手に、まだまだ余力を残している。
奴らは未だに風系魔法を放ってきていた。俺を狙っているものもあるが、多くは枝葉を落とすのに使っている。ひっつき爆弾は彼らの魔法に触れ、次々に爆発し解除されていた。
「マズいな、罠の密度が下がってる。このままだと、数十秒もしないうちに突破されるぞ」
ウチョニーを連れて来れば良かった。彼女のパワーと耐久度があれば、例え奴らが突撃してきたとてなんということはない。恐らく、彼女の動体視力ならば、飛来するトンビを手づかみすることも可能だろう。
しかし俺にはそんな芸当不可能だ。頭で考えること以外に、俺に出来ることはない。今はまだ、彼らと正面から戦えるほど強くはないのだ。
頭を使え。何か策があるはずだ。この世に、俺が解決できない問題なんて存在しない。
別に勝てなくたっていい。今までだってそうだった。一度目で勝てたことは少ない。だから今は、生きる方法を考えるんだ。
「少々リスキーだが、思いついちまったぞ。うまく騙されてくれよな」
撃ちだすのはごく小さな水球。特に攻撃力があるわけでもない、魔法を手に入れたばかりのタイタンロブスターが修行用に習得する魔法だ。
あまりに弱々しい魔法に、トンビたちもこれを無視して魔法を放ち続けている。いやむしろ、この程度の魔法は視界にも入っていない。そう、視界にも入っていないのだ。
そして次の瞬間……。
大爆発。十数羽のトンビを巻き込み、超広範囲の炎が吹き荒れた。凄まじい音を撒き散らしながら。
ぼとぼとと、宙からトンビが落ちてくる。頭を打った衝撃に、気を失ってしまったのだ。
「さあ、反撃開始だぜ、害鳥ども!」
水田を荒らしている害獣は概ね正体が分かったが、畑の方はまだ分からないのだ。まだ調査する必要がある。
しかし、目的は害獣の探索だけではなかった。
この森には、もっと恐ろしくて強い奴がいるのだ。賊たちをあの場に放置せず、わざわざ村まで連れて行ったのもそれが原因である。
具体的にどんな奴かは分からない。だがほぼ確実に、俺より強いことは確かだ。どこに潜んでいるかもハッキリしていないのに、その魔力だけは確かに感じるのだから。
害獣の探索もそこそこに、今度はより魔法的な存在への目を光らせる。
いわゆる、精霊種という奴だ。この森の魔力の異様さから見ても、彼らがいるのは間違いないだろう。それが件の強者なのかは、まだ不明だが。
身体強化で目に魔力を込めていくと、だんだん魔力の流れも見えてくるようになる。これを用いて精霊種を捜索するのだ。彼らは魔法の性質が少々特徴的だから。
すぐに先程賊を捕らえた場所を追い抜き、しばらく立ち止まって良く森の内部を眺めてみた。
そして気付いた。この森の中は、儚焔と属性を持った魔力の割合が狂っている。
確かに太陽の光は遮られているが、森の中には魔力の分解者が多く存在するのだ。木々もそうである。
そのため本来なら、森の内部では儚焔が満ち足りていて、魔力などはほとんど存在しないはずなのだ。
しかしこの森では、異様に風属性の魔力が高い部分がある。これはおかしい。
単純に考えるのならば、何らかの理由で木々もその他分解者も活性が下がっているということ。だが今回の場合……。
「激烈な戦闘の跡……! まさか、もう彼らのテリトリーに入ってしまっていたのか!?」
ふと気が付くと、俺の真上には大量のトンビが舞っていた。
間違いなく、精霊種の魔力を有している。それも、かなり上位のものだ。数十羽のトンビが皆、メルビレイ並みの力を持っていた。
これがこの森の主一族。ウスカリーニェと見紛うほどの速度で宙を舞う彼らは、いつこちらを襲おうかと機を見計らっている。
こちらが戦闘態勢を整えようと腰を落とした瞬間、それまで様子見をしていた一羽が恐ろしい速度で突撃してきた。
初速で音を超え、こちらの反応速度を大きく上回っている。
当然ながら俺は彼の攻撃に対応することが出来ず、これをまともに喰らって大きく吹き飛ばされた。俺に攻撃を食らわせたトンビは、その後追撃する様子もなく再び群れの中に入っていった。
幸いにも深手を負うことはなかったが、これがあと数十発放たれると思うと精神が持たない。
それに、人間の身体では絶対的に防御力が足りていない。彼らの攻撃は、その気になれば人間程度一撃で殺せる威力を秘めているのだ。あれでもまだ、様子見のつもりだったんだろう。
「仕方ない、生態魔法解除!」
俺は生態魔法を消し、本来のタイタンロブスターの姿に戻る。
といっても、水中のように自在に動けるわけじゃない。むしろ人間の姿よりも機動力は低いくらいだ。
しかしいくら機動力を求めたところで、宙を泳ぐ彼らからは逃げ切れない。もちろんのこと、俺の実力程度では彼らに追いつくことも不可能だ。
だから今回は、完全に機動力を捨てて迎え撃つ。タイタンロブスターの姿なら身体も大きく、保存できる魔力の量も増えていた。これならば、それなりの戦いが出来るはずだ。
幸運にも、俺は自分より機動力の高い敵を相手する方法を熟知していた。ウスカリーニェである。どうやっても追いつけない彼らを、しかし俺は十二分に相手できる。そこに機動力の差は関係ないのだ。地上では勝手も違うだろうが、やるしかない。
まずは第一手、奴らが総攻撃をかましてくる前に罠を設置する。
ムドラストが勝手にひっつき爆弾を改造してくれていたおかげで、これの扱いの応用性に気付いた。
そこで開発したのが、ある程度距離の離れた場所でもこの魔法を設置できる、ひっつき爆弾改二である。
俺はひっつき爆弾を枝葉に設置し、奴らの突撃を迎え撃つ。
狙い通り群れの中の一匹が超高速に至り、木々を無視してこちらに攻撃を仕掛けてきた。
しかしひっつき爆弾改二の反応速度は凄まじく、奴の動きを正確に感知して爆破して見せた。
惜しいことに致命傷を負わせられていないが、飛行能力は劇的に下げられている。これで奴はもう追撃できない。
あとは落ちてきた奴の命を刈り取るだけだ。これが、海でウスカリーニェ相手に立ち回り続けていた男の実力よ。
「単純な魔力や身体能力なら俺より遥かに強いが、知恵比べでは俺の圧勝みたいだな。といっても、ひっつき爆弾はまだ、アストライア大陸に上陸して日が浅い最新の魔法だが。これを知らなくて当然かな」
勝利の気配を漂わせつつ、落下してきたトンビにトドメを刺そうと近づくと、その瞬間に強烈な魔法の気配を感じた。
俺は大慌てで後方に下がりこれを回避しようと試みる。
しかし地上で低下した俺の機動力ではやはり避けきれず、何発かは受けてしまう。
背中側のメイン装甲にあたった魔法は弾き返せているが、節足の部分は切断されてしまった。
鳥系の魔獣が持つ、強力な風系魔法。水中では全くと言っていいほど実用性のない魔法だったが、ここでは違う。
だが、俺の節足を切断できるほどの圧力を持った気体とは。奴ら、俺が想像していた以上の魔力を持っているらしい。
簡単な話だが、空気の刃よりも水の刃の方が遥かに効率がいい。風系魔法で物体を切断しようとしたら、かなりの量の魔力をつぎ込まなければならないのだ。
そんなことをするよりも、身体強化や龍断刃を用いて対象を攻撃する方がずっといい。それだけ奴らの接近を抑制できているということでもある。
しかし何より、奴らにとってはそれでも構わないという意図があるのだろう。
本来なら身体強化を使って速度を上昇させつつ、ひっつき爆弾のない場所を探って接近するのが最良である。
だがそれを面倒だと思って、奴らは風系魔法を使ってきた。それだけ、奴らには魔力の余裕があるのだ。俺を相手に、まだまだ余力を残している。
奴らは未だに風系魔法を放ってきていた。俺を狙っているものもあるが、多くは枝葉を落とすのに使っている。ひっつき爆弾は彼らの魔法に触れ、次々に爆発し解除されていた。
「マズいな、罠の密度が下がってる。このままだと、数十秒もしないうちに突破されるぞ」
ウチョニーを連れて来れば良かった。彼女のパワーと耐久度があれば、例え奴らが突撃してきたとてなんということはない。恐らく、彼女の動体視力ならば、飛来するトンビを手づかみすることも可能だろう。
しかし俺にはそんな芸当不可能だ。頭で考えること以外に、俺に出来ることはない。今はまだ、彼らと正面から戦えるほど強くはないのだ。
頭を使え。何か策があるはずだ。この世に、俺が解決できない問題なんて存在しない。
別に勝てなくたっていい。今までだってそうだった。一度目で勝てたことは少ない。だから今は、生きる方法を考えるんだ。
「少々リスキーだが、思いついちまったぞ。うまく騙されてくれよな」
撃ちだすのはごく小さな水球。特に攻撃力があるわけでもない、魔法を手に入れたばかりのタイタンロブスターが修行用に習得する魔法だ。
あまりに弱々しい魔法に、トンビたちもこれを無視して魔法を放ち続けている。いやむしろ、この程度の魔法は視界にも入っていない。そう、視界にも入っていないのだ。
そして次の瞬間……。
大爆発。十数羽のトンビを巻き込み、超広範囲の炎が吹き荒れた。凄まじい音を撒き散らしながら。
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