※異世界ロブスター※

Egimon

文字の大きさ
31 / 84
第二章 アストライア大陸

第三十話 霊王の眷属

しおりを挟む
 ウチョニーに賊を押し付け、俺は再び森の中に入っていった。
 水田を荒らしている害獣は概ね正体が分かったが、畑の方はまだ分からないのだ。まだ調査する必要がある。

 しかし、目的は害獣の探索だけではなかった。
 この森には、もっと恐ろしくて強い奴がいるのだ。賊たちをあの場に放置せず、わざわざ村まで連れて行ったのもそれが原因である。

 具体的にどんな奴かは分からない。だがほぼ確実に、俺より強いことは確かだ。どこに潜んでいるかもハッキリしていないのに、その魔力だけは確かに感じるのだから。

 害獣の探索もそこそこに、今度はより魔法的な存在への目を光らせる。
 いわゆる、精霊種という奴だ。この森の魔力の異様さから見ても、彼らがいるのは間違いないだろう。それが件の強者なのかは、まだ不明だが。

 身体強化で目に魔力を込めていくと、だんだん魔力の流れも見えてくるようになる。これを用いて精霊種を捜索するのだ。彼らは魔法の性質が少々特徴的だから。

 すぐに先程賊を捕らえた場所を追い抜き、しばらく立ち止まって良く森の内部を眺めてみた。

 そして気付いた。この森の中は、儚焔と属性を持った魔力の割合が狂っている。

 確かに太陽の光は遮られているが、森の中には魔力の分解者が多く存在するのだ。木々もそうである。
 そのため本来なら、森の内部では儚焔が満ち足りていて、魔力などはほとんど存在しないはずなのだ。

 しかしこの森では、異様に風属性の魔力が高い部分がある。これはおかしい。
 単純に考えるのならば、何らかの理由で木々もその他分解者も活性が下がっているということ。だが今回の場合……。

「激烈な戦闘の跡……! まさか、もう彼らのテリトリーに入ってしまっていたのか!?」

 ふと気が付くと、俺の真上には大量のトンビが舞っていた。
 間違いなく、精霊種の魔力を有している。それも、かなり上位のものだ。数十羽のトンビが皆、メルビレイ並みの力を持っていた。

 これがこの森の主一族。ウスカリーニェと見紛うほどの速度で宙を舞う彼らは、いつこちらを襲おうかと機を見計らっている。

 こちらが戦闘態勢を整えようと腰を落とした瞬間、それまで様子見をしていた一羽が恐ろしい速度で突撃してきた。
 初速で音を超え、こちらの反応速度を大きく上回っている。

 当然ながら俺は彼の攻撃に対応することが出来ず、これをまともに喰らって大きく吹き飛ばされた。俺に攻撃を食らわせたトンビは、その後追撃する様子もなく再び群れの中に入っていった。

 幸いにも深手を負うことはなかったが、これがあと数十発放たれると思うと精神が持たない。

 それに、人間の身体では絶対的に防御力が足りていない。彼らの攻撃は、その気になれば人間程度一撃で殺せる威力を秘めているのだ。あれでもまだ、様子見のつもりだったんだろう。

「仕方ない、生態魔法解除!」

 俺は生態魔法を消し、本来のタイタンロブスターの姿に戻る。
 といっても、水中のように自在に動けるわけじゃない。むしろ人間の姿よりも機動力は低いくらいだ。

 しかしいくら機動力を求めたところで、宙を泳ぐ彼らからは逃げ切れない。もちろんのこと、俺の実力程度では彼らに追いつくことも不可能だ。

 だから今回は、完全に機動力を捨てて迎え撃つ。タイタンロブスターの姿なら身体も大きく、保存できる魔力の量も増えていた。これならば、それなりの戦いが出来るはずだ。

 幸運にも、俺は自分より機動力の高い敵を相手する方法を熟知していた。ウスカリーニェである。どうやっても追いつけない彼らを、しかし俺は十二分に相手できる。そこに機動力の差は関係ないのだ。地上では勝手も違うだろうが、やるしかない。

 まずは第一手、奴らが総攻撃をかましてくる前に罠を設置する。

 ムドラストが勝手にひっつき爆弾を改造してくれていたおかげで、これの扱いの応用性に気付いた。
 そこで開発したのが、ある程度距離の離れた場所でもこの魔法を設置できる、ひっつき爆弾改二である。

 俺はひっつき爆弾を枝葉に設置し、奴らの突撃を迎え撃つ。

 狙い通り群れの中の一匹が超高速に至り、木々を無視してこちらに攻撃を仕掛けてきた。
 しかしひっつき爆弾改二の反応速度は凄まじく、奴の動きを正確に感知して爆破して見せた。

 惜しいことに致命傷を負わせられていないが、飛行能力は劇的に下げられている。これで奴はもう追撃できない。
 あとは落ちてきた奴の命を刈り取るだけだ。これが、海でウスカリーニェ相手に立ち回り続けていた男の実力よ。

「単純な魔力や身体能力なら俺より遥かに強いが、知恵比べでは俺の圧勝みたいだな。といっても、ひっつき爆弾はまだ、アストライア大陸に上陸して日が浅い最新の魔法だが。これを知らなくて当然かな」

 勝利の気配を漂わせつつ、落下してきたトンビにトドメを刺そうと近づくと、その瞬間に強烈な魔法の気配を感じた。
 俺は大慌てで後方に下がりこれを回避しようと試みる。

 しかし地上で低下した俺の機動力ではやはり避けきれず、何発かは受けてしまう。
 背中側のメイン装甲にあたった魔法は弾き返せているが、節足の部分は切断されてしまった。

 鳥系の魔獣が持つ、強力な風系魔法。水中では全くと言っていいほど実用性のない魔法だったが、ここでは違う。

 だが、俺の節足を切断できるほどの圧力を持った気体とは。奴ら、俺が想像していた以上の魔力を持っているらしい。

 簡単な話だが、空気の刃よりも水の刃の方が遥かに効率がいい。風系魔法で物体を切断しようとしたら、かなりの量の魔力をつぎ込まなければならないのだ。
 そんなことをするよりも、身体強化や龍断刃を用いて対象を攻撃する方がずっといい。それだけ奴らの接近を抑制できているということでもある。

 しかし何より、奴らにとってはそれでも構わないという意図があるのだろう。
 本来なら身体強化を使って速度を上昇させつつ、ひっつき爆弾のない場所を探って接近するのが最良である。

 だがそれを面倒だと思って、奴らは風系魔法を使ってきた。それだけ、奴らには魔力の余裕があるのだ。俺を相手に、まだまだ余力を残している。

 奴らは未だに風系魔法を放ってきていた。俺を狙っているものもあるが、多くは枝葉を落とすのに使っている。ひっつき爆弾は彼らの魔法に触れ、次々に爆発し解除されていた。

「マズいな、罠の密度が下がってる。このままだと、数十秒もしないうちに突破されるぞ」

 ウチョニーを連れて来れば良かった。彼女のパワーと耐久度があれば、例え奴らが突撃してきたとてなんということはない。恐らく、彼女の動体視力ならば、飛来するトンビを手づかみすることも可能だろう。

 しかし俺にはそんな芸当不可能だ。頭で考えること以外に、俺に出来ることはない。今はまだ、彼らと正面から戦えるほど強くはないのだ。

 頭を使え。何か策があるはずだ。この世に、俺が解決できない問題なんて存在しない。
 別に勝てなくたっていい。今までだってそうだった。一度目で勝てたことは少ない。だから今は、生きる方法を考えるんだ。

「少々リスキーだが、思いついちまったぞ。うまく騙されてくれよな」

 撃ちだすのはごく小さな水球。特に攻撃力があるわけでもない、魔法を手に入れたばかりのタイタンロブスターが修行用に習得する魔法だ。
 あまりに弱々しい魔法に、トンビたちもこれを無視して魔法を放ち続けている。いやむしろ、この程度の魔法は視界にも入っていない。そう、視界にも入っていないのだ。

 そして次の瞬間……。

 大爆発。十数羽のトンビを巻き込み、超広範囲の炎が吹き荒れた。凄まじい音を撒き散らしながら。
 ぼとぼとと、宙からトンビが落ちてくる。頭を打った衝撃に、気を失ってしまったのだ。

「さあ、反撃開始だぜ、害鳥ども!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...