※異世界ロブスター※

Egimon

文字の大きさ
37 / 84
第二章 アストライア大陸

第三十六話 実録! 異世界の怪物

しおりを挟む
 あれから俺たちは17匹のプロツィリャントを捕獲し、それぞれ実験することに成功した。どうにもロンジェグイダさんの研究者魂に火をつけてしまったらしく、とんでもない勢いで見つけ出していたのだ。

 プロツィリャントは夜行性で、本来なら日中は木の高いところに隠れている。上手いこと葉の多い場所を探し、気配を完全に消すのだ。魔力も一切外に漏らさない。俺の索敵能力では、17匹も見つけるのは到底不可能である。やはりロンジェグイダさんは人並外れた力を持っているらしいな。

 実験の結果は予想通りで、17匹中14匹が迷いなく人参に食いついた。
 ロンジェグイダさんの話によると、彼らはかなり警戒心が強いはずだが、人の手で育てられた人参を迷いなく食らったということは、それまでに人参を食べたことがあるということ。ならば、村に侵入して人参を掘り返している犯人である可能性は高い。

 というわけで、ロンジェグイダさんの指導の下プロツィリャントを捕獲、または追い返すための罠を製作することにした。
 しかし二人だけでは手が足りないため、まずは村に戻ってからということになった。

「にしても、こいつらを罠に嵌めるにはどうしたら良いんでしょうかね。飛行能力はあるし、この足の構造からして、地上を走る速度もかなりのものでしょう。牙も鋭いですし、翼を使わずとも垂直な木を登ることができます。こんな完璧な生態を持つ生物は見たことがない」

 俺は個人的な研究目的で捕獲した一匹のプロツィリャントを撫でながら、ロンジェグイダさんに質問する。
 こいつらの身体の構造は完璧の一言。どうしてこんな風に進化できたのか、今すぐにでも調べたい。

 捕獲してみると、プロツィリャントという生物の構造が良くわかった。不可解なように見えて、その実、彼らの身体は哺乳類からそう離れていなかったのだ。

 まず、一番目に付くこの骨格。足が二本で翼が一対。これの正体がようやく分かった。
 翼のように見えたこの部位は、その実右前足と左後ろ足が変形したものだったのだ。付け根の部分の位置が若干不均一である。親指と思われる部位も、前と後ろの足で逆を向いているのだ。

 鳥類は前足の二つを翼に変形させた。しかしそれでは後ろ足の歩幅が狭く、地上でのスピードはとても遅くなってしまう。やはり生物というのは、前足と後ろ足を交互に動かすことでスピードを上げるのだ。霊長類は例外的だが。

 その点、このプロツィリャントは理想的な体形をしている。前足と後ろ足が存在し、歩幅も大きい。地上で走るのに最適な形だ。そのうえ翼も付いている。長い尻尾と翼でバランスをとり、樹上でも問題なく生活できるように進化したのだ。

 さらに、彼らには鳥類のような嘴はなく、代わりに狼を彷彿とさせる立派な牙が生えていた。このことからも分かる通り、彼らは鳥類からではなく、哺乳類から進化しているのだ。雌個体には乳首も付いていた。

 内臓を調べてみないと分からないが、恐らくは体内に子宮が存在するはず。

 しかしその内臓がこれまた不思議で、翼を収納するためか、あばら骨の部分が内側にへこんでいるのだ。これでは消化器官や心臓などに悪影響が出る。子宮があるのなら、胎児の生育にも絶対に良くないはず。

 そう思っていたら、彼が羽を広げて落ち着いた瞬間、あばら骨が膨らんだのだ。まるで内側の内臓が活力を取り戻したかのように。
 詳しくはわからないが、地上で走るときはあばら骨を凹ませ、休む時はこれを元に戻す。そうやって内臓の活動をコントロールしているんだろう。

 なんとも完璧な生物だ。こんなもの、自然の進化の中で生まれたとはとても思えない。まさに、誰かが意図的に作り出したかのような生物である。ゆえに、どんな罠が通用するのか、皆目見当もつかない。

「それなんだがなぁ、吾輩も具体的にどんな罠が通用するのかは分からん。だからこそ、吾輩もウチェリトも今まで手を焼いていたのだ。だが、だからといって何もしないわけにもいかん。プロツィリャントは森の生態系を乱す常習犯なのだ」

 彼らは繁殖能力こそ低いが、生存能力は異様に高い。以前に起きた旱魃の際も、多くの生物が打撃を受けその数を減らした中、彼等だけはケロッとした表情でいつも通りの生活を送っていたそうだ。

 プロツィリャントは旱魃で数を減らすことはなかったが、他の植物、動物は数を減らしている。雑食性の強い彼らは手当たり次第に魔獣を襲い始め、結果この森の生態系のバランスは崩れてしまったのだ。村の作物に手を出し始めたのも、もとを正せばそこが原因である。

 旱魃の以前からも、彼らはこの森で好き放題やっている。大型の肉食獣ですら、彼らを捕獲対象にできないのだ。強力な雑食性の魔獣が如何に危険か良くわかる。

 しかしやはり、俺にもどうすれば彼らの行動を抑制できるのか分からない。
 例えば村により大きな壁を作ったとしても、彼らには飛行能力と垂直の木をも登る登攀能力がある。意味はないだろう。

 地上に仕掛け、そこを踏み抜いた瞬間縄が縛られ捕獲する罠。
 あれを用いるのも不可能だろう。数匹は捕らえられるだろうが、学習されれば今度は空中から襲ってくるはずだ。

「もういっそのこと、そっちもウチェリトさんに頼めないんですかね。トンビの群れが制空権を握ってくれれば、プロツィリャントも下手に動けないはずですし」

「それは無理だろうな。この森に住むトンビは、多くが昼行性だ。プロツィリャントとは活動時間が異なる。それに、いくら精霊種のトンビであっても、森の地と天を自在に移動できる奴らを捕らえるのは至難の業。何より、プロツィリャントにも若干ながら、精霊の血が混じっているのだ。舐めてかかると手痛い反撃を喰らう」

 なるほど。俺の感覚が麻痺していたが、本気で隠れている彼らをこうも簡単に見つけられたのは、ロンジェグイダさんがいたからだ。逆を言えば、彼の協力なくしてプロツィリャントを捕獲するのは難しい。

 であればやはり、罠を考え出して村だけでも守る方針の方が現実的か。この森に住むプロツィリャント全てを相手するのは不可能だ。数を減らす、という作戦は使えそうもない。

「じゃあ、村に着いてから改めて考えますか。三人寄れば文殊の知恵、って奴ですよ。二人じゃ思いつかないことも、村人たちと協力すれば意外にあっさり解決するかもしれません。ここを抜けたら、もうすぐ村につくはずですよ」

 深い森の中だが、かすかに潮のにおいが漂ってきた。俺の強化された嗅覚ならば、このごくわずかなにおいすら感知できる。そして、これが帰るべき村のにおいであることも、手に取るようにわかった。

 歩いて森を抜けると、視界は一気に広がる。森と海辺の境界線がハッキリしているのだ。
 見えてくるのは村の畑。それも、恐らくこのプロツィリャントに荒らされたもの。それから、夜盗蛾に食われた水田も見えてきた。俺たちの村だ。

 村の外壁付近まで行くと、昨日と同じくウチョニーが出迎えてくれる。隣には賊を閉じ込めた石の牢も見える。

「お帰り、ニー。頼まれてたこと終わらせておいたよ。賊から引き出した情報は……あとにしよっか。その人をお出迎えする方が先かな? あと、その可愛い子も」

「そうしてくれ。この方は精霊種の長、ロンジェグイダさんだ。森の調査を手伝ってくれている。今日は、このプロツィリャントが恐らく畑荒らしの犯人ではないか、というところまで分かったんだ」

 俺は個人的な研究用に捕まえてきたプロツィリャントを大いに撫でまわしつつ、ウチョニーにロンジェグイダさんを紹介する。しかし、俺の言葉に真っ先に反応したのは彼女ではなく……。

「な、なんと! 森の大賢者ロンジェグイダ様! 何故貴方のようなお方が、こんな辺鄙な場所に!?」

 村長を始めとした村の連中が、地面にキスでもするのではないかというくらい頭を下げ、彼を歓迎したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

処理中です...