※異世界ロブスター※

Egimon

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第二章 アストライア大陸

第四十三話 協力者

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「ニーズベステニーさん! 今日はこの辺で野営しましょうや。この先は魔獣が多い。お二人は大丈夫でしょうが、俺たちは弱い。これ以上先に進むべきじゃないと思いやす」

 彼は俺を襲撃してきた賊の一人、ボンスタ。当時集団の指揮を執っていた男だ。現在は俺たちの協力者兼、案内役として共に行動している。彼の他、襲撃者14名全て、件の賊を裏切って俺たちの側に付いている。

 と言っても、彼らはウチョニーのことは信用していない。いわゆる、良い警官悪い警官作戦だ。
 見るからに化け物なウチョニーが軽い拷問を担当し、夜の間に俺が差し入れをする。差し入れは食べ物の他に娯楽や酒も提供した。外の景色が一切見えないあの牢では、娯楽が無ければ気が狂う。

 彼らを最初にボコったのは俺だというのに、連中はこの一ヶ月で俺への信頼を募らせていた。ウチョニーには悪いが、この状況は都合が良い。何より、彼らの扱いが楽なのだ。要らなくなったらすぐに捨てられる。

 そんなことも知らず、彼らはせっせと野営の準備を始めていた。
 流石は山賊、随分出際が良い。こういうのには慣れているのだろう。薪を集めかまどを作り、すぐに夕食の準備を始めている。

 14人分の食料を現地調達というのも厳しいから、そこは俺の空間収納の出番だ。まだ内容量は少ないが、最低五日分の食料を収納している。五日もあれば、隣も町まで行ける算段が立っているのだ。

 俺は彼らが集めてきた薪に火をともし、塩漬けにした魚類を焼いていく。
 辺りには魚の焼ける香ばしいにおいが立ち、全員の食欲を誘い始めた。

 ちなみに俺の空間収納だが、異世界物の定番アイテムボックスのように、時間経過まで止めることは不可能だった。というか、空間系魔法というのはそこまで非現実的な魔法でもないんだ。

 イメージが付きにくいが、魔力で自分しか触れない収納スペースを作り出している感覚。誰にも視えはしないし干渉もできないが、実際に作り出すのは木箱と変わらないほどに現実的なもの。俺はそういう風に捉えている。

 食料の保存という観点から言うと、かなり優秀な魔法である。
 空間収納は外界と完全に遮断されていて、虫の類が寄り付くことはないし、その食材がもとから持っていた菌以外が入ってくる心配もないんだ。だからまあ、ある程度の期間は保存できる。

 精霊の長ロンジェグイダと霊王ウチェリトが言うには、空間系魔法というのは異世界の大魔王パラレルと深い関係のあるものらしい。それこそ、彼の世界渡りだって、空間系魔法の一種だという話だ。

 パラレルの力はもっと非現実的なものだと俺は思っているが、彼らほど長い時間研究していた訳ではない。俺の感覚の話をするのは簡単だが、それで彼らの研究を否定するのもおかしな話だ。

「魔法って、本当に便利なもんですよね、ニーズベステニーさん。俺らには炎系魔法は使えないけど、それが使えれば、わざわざ木をこすって火をつけることもない。逆に俺たちのように水系魔法が使えれば、旅の飲み物に困ることはない」

 彼らの言うとおりだ。本当に、魔法というのは便利なものである。
 この国の文明レベルはまだ低くて、火打石というものすらまだ登場していない。未だに弓の弦で木を擦り火をつけているのだ。

 それが、炎系魔法の適性があれば指先でポン。これだけで着火できる。俺やあの村の村人たちは、これが可能という訳だ。暗がりでの明かりにもなるし、炎系魔法というのは戦闘だけでなく、日常世活でも大いに役立つ。

 対して彼らが扱う水系魔法は、旅人なら絶対に持っておきたい魔法ランキング堂々の一位だ。旅の最中一番困るのは水と食料の確保である。その点水系魔法の適性を持つものは、水分補給の心配をする必要がない。これだけでも大きな利点だ。

 これまた余談だが、魔法で作り出した水は当然、自然界に存在する水とは異なる。
 魔法の水とは要するに、水に限りなく近い性質を持った魔力の塊。水という属性を与えられた魔力そのもののことだ。

 そもそも、魔力の元となる儚焔は多くの場合液体で存在する。これを摂取し、魂臓という臓器で属性を与え、魔法を行使できるようになるのだ。
 水系魔法で水を作り出す際は、これを数十倍の体積に変換して放出しているだけ。自然界の水とは違う。

 しかし人体にさした影響はない。これは前述のとおり、水に限りなく近い性質を持った物体で、摂取すると問題なく体内の循環として活用できるのだ。

 幸いなことに、人間の常在菌に魔力を儚焔へ分解できるような者はおらず、体内で魔法の水が消えてしまうこともまずありえない。だから旅人たちは喜んで、魔法で水を作り出しこれを飲んでいるのだ。

「お前たちにはもう一つあるだろう? 音系魔法。最初に俺と出会った時、見事に気配を消していた。それこそ、接近されるまで俺の聴覚に引っかからないほど完璧に音を殺していただろう。あれには俺も驚いたぞ」

「え? 音系魔法? ああ、あれは魔法なんかじゃありませんよ。ただの体術です。この霊峰ブルターニャを跨いで反対側にある国。そこでは、音を完全に殺す技術を研究し、敵を暗殺する専門家を育てているんです。俺たちも元は、そこの門下生でした。今ではこうして、人を襲う蛮族をやっている訳ですが」

 彼はそれまでの行いを恥じるように下を見る。この一か月間、あの何もない牢で自分たちのことについてじっくりと考えたのだろう。そして俺と話をするうちに、反省してくれた。彼らの行いは到底許されるものではないが、そこに反省の色が見えるのなら、第三者である俺が手を下すことはない。被害者が殺せと訴えたら、流石に問答無用だが。

 それにしても、彼らの故郷は山向だったか。確かにこっちとは完全に交流が断たれているから、村人と適正魔法が異なっているのも納得だ。
 しかしそんな彼らが、どうやってこっちまで来たのだろう。流石に人間が数十人程度で山越えできるほど、霊峰ブルターニャは甘くない。

「海岸線に沿ってずっと行くと、東の方に大きな湾が見えたでしょう。ちょうどそのあたりに、大きな谷もあるんですよ。霊峰ブルターニャは一つの山ではなくて、こっちの本山と向こうの分山の二つがあるんです。俺たちはそこを通って、こっち側まで来たんですよ」

 なるほど、そこだけは山向こうと交流があるわけだな。そしてだからこそ、あの港町を賊が占領し、根城としてのさばっているのだ。
 しかしあの村からは遠くて、適正魔法に影響を与えるほどの付き合いはなかったと。

「本当は海岸を進んだ方が早いんですけど、敵の本部に海から近づくのは流石に危険です。俺たちは水属性、海では存分に暴れられる。そして向こうもそれは同じ。数で囲まれたら、恐らく俺たちは成すすべなく敗北するでしょう」

 正直、俺とウチョニーが人間程度に後れをとることは、絶対にないと確信している。これまで人間相手の戦闘経験も積んできたし、魔法の鍛錬も怠らなかった。特にウチョニーなどは、人間の攻撃力では到底及ばない硬度を持っている。負ける要因が見当たらない。

 しかしだからと言って、安全策をとらないのは愚か者のすることだ。そんなもの、アストライア族の大賢者ムドラストの一番弟子として、許せるはずがない。極力血を流さないよう最低限の戦闘、そして最大限の効果を狙うべきだ。

 それがなければ、今頃俺とウチョニー二人で敵の大本まで突撃して、とっくに壊滅させている。しかしそれではダメだと分かっているから、わざわざ盗賊の協力を得て、時間をかけてゆっくりと行動しているのだ。

 この旅の本来の目的、父を超える力を得ようというのなら、賊なんか相手せず素直にロンジェグイダさんとウチェリトを頼るのが最適解なのだ。彼らはこの世界でも屈指の実力者なのだから。

 けれど今の俺たちは、民のため、平和のため、賊を含む全ての人間のために行動している。善の心を学び、正しい心で正しく力を振るうために。

 力は付けるだけでは不十分だ。それを扱う者の心こそが、最も重要になる。俺がそれを身に着けられないようでは、強大な力を得る資格などないのだ。
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