56 / 84
第二章 アストライア大陸
第五十五話 港町都市国家
しおりを挟む
それから俺たちは、浪費した二日を取り戻すため、かなりハイペースで森を移動した。途中所用で寄り道もしたが、かなりの短期間で随分移動したと思う。
しかし、時間短縮という目的があっても、頑なに沿岸部は通らず、回り道をして森の中を抜けてきた。というのも、ボンスタが敵の大将を酷く警戒しているのだ。沿岸部を移動していたら確実に見つかると。
名前はヴァダパーダ=ドゥフ。水系魔法を巧みに扱う魔術師で、人間とは思えないほど卓越した実力の持ち主らしい。ボンスタの話によると、海の魔獣をも簡単に屠るそうだ。
そいつの持っている軍隊も随分精強なようで、多くの大型獣を従えている。これに騎乗し魔法で攻撃することで、歩兵を簡単に蹴散らして見せるのだそうだ。獣自体もかなりの戦闘力を有している。
そんなドゥフは、賊の大将なんてやってるからロクでもないやつかと思ったら、意外とそうでもないらしく、奴の治める港町は、今までに類を見ないほどの繁栄を迎えている。何でも、それまで好き勝手にやっていた王族を打倒し、自ら指導者となったそうだ。
「ようやくそいつに会えるってわけだな。楽しみだ。……だが、殺し合いをするかは別問題。ボンスタの話を聞く限り、完全な悪というわけでもなさそうだからな。確かに海の生態系には被害を与えてるし、一般人も襲っている。だが、目的は繁栄なんだからややこしい」
「そうですね、俺もよくわからない男です。ただ、ひとつ確かに言えるのは、奴が実力至上主義だということ。そして、一定以上の実力を持たないものはすべからく排除しているということ。そのせいで多くの人が犠牲になりました。……その一端を担ったのは、俺達でもあるんですが」
ボンスタは自分の行いを恥じるように下を向いた。改心した今でも、彼はそれまでの非道を引きずっている。そしてたまに、こうして悲観的になるのだ。
ただまあ、自分の非を忘れるよりはずっと良い。こうして反省している内は、以前までのような行いは繰り返さないだろうと信じている。
そもそも彼らは、旱魃で食料が激減し、山向こうからこちらに大移動してきただけの遊牧民族だ。それが、今では港にあった都市国家の王なんてやっている。だからややこしい。
ただ侵略を仕掛けてきて人を殺したのならば、完全に悪だ。俺が戦う理由としては充分である。
しかし、それがこの地に定着し、人の利益と幸福を思って行動しているのならば、話は変わってくる。
「ヴァダパーダ=ドゥフという男について、もっと詳しく知る必要があるな。そいつの性根が腐っているようなら、その場で殺す。しかし正義があるのなら、もっと正しい方法を教えよう。それで、俺の目的は達成できる」
俺には知識がある。人類が数百数千の時をかけて作り上げた、形式上の平等を完成させた最新の国で生きてきた知識が。少なくとも、ドゥフが敷いている政治よりも遥かにマシだと、俺は思っている。だから、それを教えるだけでも、あの都市を救うことは可能なのだ。
だが、向こうがそれを拒絶するようであれば、つまり、これ以上市民に負担を強いるようであれば、即刻殺すのは容易い。相手はただの人間なのだから。
ようは、俺の気持ちがどちらに傾くか、という話なのだ。
「くれぐれも、仕掛けるまでは見つからないようにしてくださいよ。奴はどういうわけか、強い魔力に敏感なんです。きっとニーズベステニーさんを見たら、どんな手段を使ってでも従わせようとしてきますよ。場合によっては、その場で実力行使もありえます」
なるほどなぁ。元々こいつらを従えていたような奴だ。実力至上主義を掲げるドゥフは、俺の力を知れば確実に食いついてくるだろう。ポジティブに考えるのならば、奴に接触するのは非常に簡単だということになる。
しかし、もし奴が俺の実力を脅威だと感じたら? それこそ、俺が父に抱く恐怖と同じものを、奴が抱えるとするならば?
俺は修行して強くなることを選択したが、ヴァダパーダ=ドゥフという男が同じとは限らない。徹底的な実力行使で俺を排除する可能性も充分あるだろう。
その場合、俺は奴と戦わなければならない。俺の意志とは関係なく。
「めんどうだな。野生の勘が強いってことか? 魔力を察知する能力は魔獣の特権なんだがなぁ。だがまあ、目立つ行動は避けよう。まずは港町を回って、ヴァダパーダ=ドゥフがどんな人柄なのか聞き込みをするところから始めよう」
「そうですね。俺の意見からだと、どうしても奴への敵対心が先行してしまいますから。取り敢えず俺たちは顔が割れているので、この付近の森に潜伏していますよ。調査はお二人でお願いします。その方が都合が良いでしょうし」
「分かっているじゃないかボンスタ。俺はしばらく、ウチョニーと港町を観光デート……ゲフンゲフン。調査をして回るから。仕掛けるときになったら連絡する。あと、出来れば敵の戦力も改めて整理してくれると助かるかな」
「了解です。自分らはいつでも戦えるよう準備を整えておくので、好きなだけ観光……調査を楽しんできてください」
そう言って、ボンスタら14名は森に消えていく。
流石は、暗殺者を育てる教育機関の出身だ。数メートル離れたころには、もう一人も姿が見えなくなっていた。
彼らも上手くやってくれるだろう。恐らく、裏切る心配もない。
彼らが裏切るとしたら、よほどドゥフという男に忠誠を誓っているか、俺に相当な恨みがあるかのどちらかのはずだ。
ドゥフへの忠誠は、これからの聞き込み調査とボンスタがもたらした情報をすり合わせて確認する。ボンスタの情報にウソが無ければ、彼らは白だ。
そして俺への恨みだが、この旅の最中何度も共に戦い、共に食事をし、共に夜を明かしてきた。その数日間、一度も俺の命を狙おうという雰囲気はなかった。敢えてウチョニーとは別々に寝てみたこともあるが、それでも彼らは襲ってこなかった。だから、こちらに関しても白だと言えるだろう。
「ってことになったから、ウチョニーは俺と一緒に港町を見て回ろう。旅人を装って町を歩いていれば、王のことを聞き込みしていても不思議じゃないだろ?」
「装ってって、アタシたちガッツリ旅人じゃん。大丈夫だよ。直接そのドゥフって人に出くわさなければ良いんだから。あの港町結構広いし、心配ないと思う。それより、久し振りの海鮮料理が食べたいかな~」
サラッと特大のフラグを立てたなウチョニー……。まあ大丈夫か、あんまり気にしなくても。
それより、今は調査のことだけを考えよう。今後の方針を左右する大事な仕事なんだから。
俺たちは森を抜け、堂々と真正面から港町に侵入していく。
この港町は、国民でなくとも誰でも入ることができる。入るだけなら。そこからの身の安全は、自分で守らなければならないが。
鼻孔をくすぐる海のにおい。森からも風に乗って届いてはいたが、やはりここまで近づくと、その威力は抜群だ。今すぐにでも海に帰りたくなる。
そして耳を叩き肌を突くのは、この町の喧騒。村よりも遥かににぎわっている町は、およそ支配されている町のものとは思えない。この都市国家にはいったい、何が隠されているというのか。
しかし、時間短縮という目的があっても、頑なに沿岸部は通らず、回り道をして森の中を抜けてきた。というのも、ボンスタが敵の大将を酷く警戒しているのだ。沿岸部を移動していたら確実に見つかると。
名前はヴァダパーダ=ドゥフ。水系魔法を巧みに扱う魔術師で、人間とは思えないほど卓越した実力の持ち主らしい。ボンスタの話によると、海の魔獣をも簡単に屠るそうだ。
そいつの持っている軍隊も随分精強なようで、多くの大型獣を従えている。これに騎乗し魔法で攻撃することで、歩兵を簡単に蹴散らして見せるのだそうだ。獣自体もかなりの戦闘力を有している。
そんなドゥフは、賊の大将なんてやってるからロクでもないやつかと思ったら、意外とそうでもないらしく、奴の治める港町は、今までに類を見ないほどの繁栄を迎えている。何でも、それまで好き勝手にやっていた王族を打倒し、自ら指導者となったそうだ。
「ようやくそいつに会えるってわけだな。楽しみだ。……だが、殺し合いをするかは別問題。ボンスタの話を聞く限り、完全な悪というわけでもなさそうだからな。確かに海の生態系には被害を与えてるし、一般人も襲っている。だが、目的は繁栄なんだからややこしい」
「そうですね、俺もよくわからない男です。ただ、ひとつ確かに言えるのは、奴が実力至上主義だということ。そして、一定以上の実力を持たないものはすべからく排除しているということ。そのせいで多くの人が犠牲になりました。……その一端を担ったのは、俺達でもあるんですが」
ボンスタは自分の行いを恥じるように下を向いた。改心した今でも、彼はそれまでの非道を引きずっている。そしてたまに、こうして悲観的になるのだ。
ただまあ、自分の非を忘れるよりはずっと良い。こうして反省している内は、以前までのような行いは繰り返さないだろうと信じている。
そもそも彼らは、旱魃で食料が激減し、山向こうからこちらに大移動してきただけの遊牧民族だ。それが、今では港にあった都市国家の王なんてやっている。だからややこしい。
ただ侵略を仕掛けてきて人を殺したのならば、完全に悪だ。俺が戦う理由としては充分である。
しかし、それがこの地に定着し、人の利益と幸福を思って行動しているのならば、話は変わってくる。
「ヴァダパーダ=ドゥフという男について、もっと詳しく知る必要があるな。そいつの性根が腐っているようなら、その場で殺す。しかし正義があるのなら、もっと正しい方法を教えよう。それで、俺の目的は達成できる」
俺には知識がある。人類が数百数千の時をかけて作り上げた、形式上の平等を完成させた最新の国で生きてきた知識が。少なくとも、ドゥフが敷いている政治よりも遥かにマシだと、俺は思っている。だから、それを教えるだけでも、あの都市を救うことは可能なのだ。
だが、向こうがそれを拒絶するようであれば、つまり、これ以上市民に負担を強いるようであれば、即刻殺すのは容易い。相手はただの人間なのだから。
ようは、俺の気持ちがどちらに傾くか、という話なのだ。
「くれぐれも、仕掛けるまでは見つからないようにしてくださいよ。奴はどういうわけか、強い魔力に敏感なんです。きっとニーズベステニーさんを見たら、どんな手段を使ってでも従わせようとしてきますよ。場合によっては、その場で実力行使もありえます」
なるほどなぁ。元々こいつらを従えていたような奴だ。実力至上主義を掲げるドゥフは、俺の力を知れば確実に食いついてくるだろう。ポジティブに考えるのならば、奴に接触するのは非常に簡単だということになる。
しかし、もし奴が俺の実力を脅威だと感じたら? それこそ、俺が父に抱く恐怖と同じものを、奴が抱えるとするならば?
俺は修行して強くなることを選択したが、ヴァダパーダ=ドゥフという男が同じとは限らない。徹底的な実力行使で俺を排除する可能性も充分あるだろう。
その場合、俺は奴と戦わなければならない。俺の意志とは関係なく。
「めんどうだな。野生の勘が強いってことか? 魔力を察知する能力は魔獣の特権なんだがなぁ。だがまあ、目立つ行動は避けよう。まずは港町を回って、ヴァダパーダ=ドゥフがどんな人柄なのか聞き込みをするところから始めよう」
「そうですね。俺の意見からだと、どうしても奴への敵対心が先行してしまいますから。取り敢えず俺たちは顔が割れているので、この付近の森に潜伏していますよ。調査はお二人でお願いします。その方が都合が良いでしょうし」
「分かっているじゃないかボンスタ。俺はしばらく、ウチョニーと港町を観光デート……ゲフンゲフン。調査をして回るから。仕掛けるときになったら連絡する。あと、出来れば敵の戦力も改めて整理してくれると助かるかな」
「了解です。自分らはいつでも戦えるよう準備を整えておくので、好きなだけ観光……調査を楽しんできてください」
そう言って、ボンスタら14名は森に消えていく。
流石は、暗殺者を育てる教育機関の出身だ。数メートル離れたころには、もう一人も姿が見えなくなっていた。
彼らも上手くやってくれるだろう。恐らく、裏切る心配もない。
彼らが裏切るとしたら、よほどドゥフという男に忠誠を誓っているか、俺に相当な恨みがあるかのどちらかのはずだ。
ドゥフへの忠誠は、これからの聞き込み調査とボンスタがもたらした情報をすり合わせて確認する。ボンスタの情報にウソが無ければ、彼らは白だ。
そして俺への恨みだが、この旅の最中何度も共に戦い、共に食事をし、共に夜を明かしてきた。その数日間、一度も俺の命を狙おうという雰囲気はなかった。敢えてウチョニーとは別々に寝てみたこともあるが、それでも彼らは襲ってこなかった。だから、こちらに関しても白だと言えるだろう。
「ってことになったから、ウチョニーは俺と一緒に港町を見て回ろう。旅人を装って町を歩いていれば、王のことを聞き込みしていても不思議じゃないだろ?」
「装ってって、アタシたちガッツリ旅人じゃん。大丈夫だよ。直接そのドゥフって人に出くわさなければ良いんだから。あの港町結構広いし、心配ないと思う。それより、久し振りの海鮮料理が食べたいかな~」
サラッと特大のフラグを立てたなウチョニー……。まあ大丈夫か、あんまり気にしなくても。
それより、今は調査のことだけを考えよう。今後の方針を左右する大事な仕事なんだから。
俺たちは森を抜け、堂々と真正面から港町に侵入していく。
この港町は、国民でなくとも誰でも入ることができる。入るだけなら。そこからの身の安全は、自分で守らなければならないが。
鼻孔をくすぐる海のにおい。森からも風に乗って届いてはいたが、やはりここまで近づくと、その威力は抜群だ。今すぐにでも海に帰りたくなる。
そして耳を叩き肌を突くのは、この町の喧騒。村よりも遥かににぎわっている町は、およそ支配されている町のものとは思えない。この都市国家にはいったい、何が隠されているというのか。
0
あなたにおすすめの小説
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
とある中年男性の転生冒険記
うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる