※異世界ロブスター※

Egimon

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第二章 アストライア大陸

第五十五話 港町都市国家

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 それから俺たちは、浪費した二日を取り戻すため、かなりハイペースで森を移動した。途中所用で寄り道もしたが、かなりの短期間で随分移動したと思う。

 しかし、時間短縮という目的があっても、頑なに沿岸部は通らず、回り道をして森の中を抜けてきた。というのも、ボンスタが敵の大将を酷く警戒しているのだ。沿岸部を移動していたら確実に見つかると。

 名前はヴァダパーダ=ドゥフ。水系魔法を巧みに扱う魔術師で、人間とは思えないほど卓越した実力の持ち主らしい。ボンスタの話によると、海の魔獣をも簡単に屠るそうだ。

 そいつの持っている軍隊も随分精強なようで、多くの大型獣を従えている。これに騎乗し魔法で攻撃することで、歩兵を簡単に蹴散らして見せるのだそうだ。獣自体もかなりの戦闘力を有している。

 そんなドゥフは、賊の大将なんてやってるからロクでもないやつかと思ったら、意外とそうでもないらしく、奴の治める港町は、今までに類を見ないほどの繁栄を迎えている。何でも、それまで好き勝手にやっていた王族を打倒し、自ら指導者となったそうだ。

「ようやくそいつに会えるってわけだな。楽しみだ。……だが、殺し合いをするかは別問題。ボンスタの話を聞く限り、完全な悪というわけでもなさそうだからな。確かに海の生態系には被害を与えてるし、一般人も襲っている。だが、目的は繁栄なんだからややこしい」

「そうですね、俺もよくわからない男です。ただ、ひとつ確かに言えるのは、奴が実力至上主義だということ。そして、一定以上の実力を持たないものはすべからく排除しているということ。そのせいで多くの人が犠牲になりました。……その一端を担ったのは、俺達でもあるんですが」

 ボンスタは自分の行いを恥じるように下を向いた。改心した今でも、彼はそれまでの非道を引きずっている。そしてたまに、こうして悲観的になるのだ。
 ただまあ、自分の非を忘れるよりはずっと良い。こうして反省している内は、以前までのような行いは繰り返さないだろうと信じている。

 そもそも彼らは、旱魃で食料が激減し、山向こうからこちらに大移動してきただけの遊牧民族だ。それが、今では港にあった都市国家の王なんてやっている。だからややこしい。

 ただ侵略を仕掛けてきて人を殺したのならば、完全に悪だ。俺が戦う理由としては充分である。
 しかし、それがこの地に定着し、人の利益と幸福を思って行動しているのならば、話は変わってくる。

「ヴァダパーダ=ドゥフという男について、もっと詳しく知る必要があるな。そいつの性根が腐っているようなら、その場で殺す。しかし正義があるのなら、もっと正しい方法を教えよう。それで、俺の目的は達成できる」

 俺には知識がある。人類が数百数千の時をかけて作り上げた、形式上の平等を完成させた最新の国で生きてきた知識が。少なくとも、ドゥフが敷いている政治よりも遥かにマシだと、俺は思っている。だから、それを教えるだけでも、あの都市を救うことは可能なのだ。

 だが、向こうがそれを拒絶するようであれば、つまり、これ以上市民に負担を強いるようであれば、即刻殺すのは容易い。相手はただの人間なのだから。
 ようは、俺の気持ちがどちらに傾くか、という話なのだ。

「くれぐれも、仕掛けるまでは見つからないようにしてくださいよ。奴はどういうわけか、強い魔力に敏感なんです。きっとニーズベステニーさんを見たら、どんな手段を使ってでも従わせようとしてきますよ。場合によっては、その場で実力行使もありえます」

 なるほどなぁ。元々こいつらを従えていたような奴だ。実力至上主義を掲げるドゥフは、俺の力を知れば確実に食いついてくるだろう。ポジティブに考えるのならば、奴に接触するのは非常に簡単だということになる。

 しかし、もし奴が俺の実力を脅威だと感じたら? それこそ、俺が父に抱く恐怖と同じものを、奴が抱えるとするならば?

 俺は修行して強くなることを選択したが、ヴァダパーダ=ドゥフという男が同じとは限らない。徹底的な実力行使で俺を排除する可能性も充分あるだろう。
 その場合、俺は奴と戦わなければならない。俺の意志とは関係なく。

「めんどうだな。野生の勘が強いってことか? 魔力を察知する能力は魔獣の特権なんだがなぁ。だがまあ、目立つ行動は避けよう。まずは港町を回って、ヴァダパーダ=ドゥフがどんな人柄なのか聞き込みをするところから始めよう」

「そうですね。俺の意見からだと、どうしても奴への敵対心が先行してしまいますから。取り敢えず俺たちは顔が割れているので、この付近の森に潜伏していますよ。調査はお二人でお願いします。その方が都合が良いでしょうし」

「分かっているじゃないかボンスタ。俺はしばらく、ウチョニーと港町を観光デート……ゲフンゲフン。調査をして回るから。仕掛けるときになったら連絡する。あと、出来れば敵の戦力も改めて整理してくれると助かるかな」

「了解です。自分らはいつでも戦えるよう準備を整えておくので、好きなだけ観光……調査を楽しんできてください」

 そう言って、ボンスタら14名は森に消えていく。
 流石は、暗殺者を育てる教育機関の出身だ。数メートル離れたころには、もう一人も姿が見えなくなっていた。

 彼らも上手くやってくれるだろう。恐らく、裏切る心配もない。
 彼らが裏切るとしたら、よほどドゥフという男に忠誠を誓っているか、俺に相当な恨みがあるかのどちらかのはずだ。

 ドゥフへの忠誠は、これからの聞き込み調査とボンスタがもたらした情報をすり合わせて確認する。ボンスタの情報にウソが無ければ、彼らは白だ。

 そして俺への恨みだが、この旅の最中何度も共に戦い、共に食事をし、共に夜を明かしてきた。その数日間、一度も俺の命を狙おうという雰囲気はなかった。敢えてウチョニーとは別々に寝てみたこともあるが、それでも彼らは襲ってこなかった。だから、こちらに関しても白だと言えるだろう。

「ってことになったから、ウチョニーは俺と一緒に港町を見て回ろう。旅人を装って町を歩いていれば、王のことを聞き込みしていても不思議じゃないだろ?」

「装ってって、アタシたちガッツリ旅人じゃん。大丈夫だよ。直接そのドゥフって人に出くわさなければ良いんだから。あの港町結構広いし、心配ないと思う。それより、久し振りの海鮮料理が食べたいかな~」

 サラッと特大のフラグを立てたなウチョニー……。まあ大丈夫か、あんまり気にしなくても。
 それより、今は調査のことだけを考えよう。今後の方針を左右する大事な仕事なんだから。

 俺たちは森を抜け、堂々と真正面から港町に侵入していく。
 この港町は、国民でなくとも誰でも入ることができる。入るだけなら。そこからの身の安全は、自分で守らなければならないが。

 鼻孔をくすぐる海のにおい。森からも風に乗って届いてはいたが、やはりここまで近づくと、その威力は抜群だ。今すぐにでも海に帰りたくなる。

 そして耳を叩き肌を突くのは、この町の喧騒。村よりも遥かににぎわっている町は、およそ支配されている町のものとは思えない。この都市国家にはいったい、何が隠されているというのか。
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