調律協定~王女、司書になる~

四季の二乗

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戦闘は理不尽に

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 後頭部を吹き飛ばし、前へと進む。
 有象無象に襲い掛かる理性無きゾンビが一人、また一人と徐々に徐々に減っていく。全身に植物が巻き付いたボスに対して、A1が飛び込んだ。
 小さく膂力が漲る身体は敵の手を容易にかいくぐり、屈む姿勢の敵に対して有効的だ。ハンドガンで蹴散らすのも良し、ライフルでハチの巣にするのも良し。だけど自由に駆け巡る事を許可されたというのなら、日々の鬱憤を晴らすという意味でも”あっち”の方がいいだろう。

 リーチの長さは向こうが上だとは言え、懐に入れば図体だけの彼らは何もできずに終わる。
 強運樹アベリア・ダフニー
 槍の命を取らないこの槍は、先端に金属を内蔵している訳ではない木製の棒切れだ。しかし、その打撃力は純鉄の武器と同等以上であり、鈍重な打撃武器としてもかなりの威力を誇る。硬度と柔軟性を併せ持ち、折れる心配も無い。
 そしてこの槍の真価は、植物に対して現れる。
 この槍は植物を有した武具、又は植物自身に対して特攻を持つ。触れた植物に対してアベリアの花を咲かせ、植物を枯れさせる。

 その為普段は腕に刻まれた保管庫で保管し、使用が許可された場合取り出す。
 その際は防護服さえも寄生されかねない為、上半身を脱がなければならない。

 故に、サポートに回る人間が必要になる。

「23!!」

 押し寄せる植物人間はその数を半分に減らされていた。マガジンは自由落下により渇いた音を立て落ちる。新しいマガジン装填、その間に襲い掛かる敵の猛攻をよけ、左手でハンドガンを取り出す。
 改造ガバメントがはち切れんばかりの音を立てて二人を吹き飛ばし、それに怯んだ敵がハチの巣にされる。ボスに対して果敢に打撃武器を振るうA1が、先程殺したゾンビの死体の上に着地した。その表情は実に煌々と輝いている。滴る樹液を払いながら、此方の状況を確認する。

「あとどれくらい?」
「半分以下だ!」

 言い終わらないうちにA1の元へと手を伸ばす彼ら。咆哮を上げるガバメントがそれを制し、ついでに敵を吹き飛ばす。デザートイーグル並みのストッピングパワーを誇る愛銃が、熱々の薬莢を吐き出し地面に落とす間もなく、次々にお客様は殺到する。
 踏み潰そうとした足を避け、壁を伝い掃射。見上げる事しか能の無い彼らの顔が潰される。最後の二体を狩り終える前に、吹き飛ばされる巨漢が目の端に見えた。

「……おいおい。ここ崩れないか?」
「大丈夫だと思うよ。多分」

 飄々と槍を構えながら、A1が力強く地面を蹴る。
 それを合図にしたかのように、巨大が宙に舞った。
 
「来るぞ!」
「知ってる!」

 その巨大な鉄拳を難なく躱す。
 群がるゾンビの大半が巨体の一撃によって薙ぎ払われ、その肢体が壁に打ちつけられていく。それでも食欲は王政の様で、折れた腕さえも気にせずこちらに向かってくる。大型が振り払う手に注意しながら、相棒の方へと向かう邪魔者どもを一人残らず撃ち殺す。

 防弾ベストに備えられていたマガジンが殆ど尽きかけ、腰に備えたサバイバルナイフに切り替え肉弾戦に持ち込む。腕を切り落とし、頭を裂き、その膂力有り余るけりで胴体を潰しながらひたすらに暴れまわる。

 死屍累々の山を作っても尚、集中力が途切れることは無い。
 残り少数。群がる犠牲者が俺に注目し襲い掛かる。二手に分かれるのは分が悪いと踏んだのか。そんな知能も無いだろうに、律儀に襲い掛かる物共を両断する。

「あと一匹ぃ!!」

 鬼神迫る勢いで向かえば、先程の少年が此方に手を伸ばしていた。その手を無慈悲に切り裂き、首を蹴る。鈍い音と共に吹き飛ばされた少年が動く事は無かった。
 アドレナリンが出まくっている俺はそれ以上の興味を見いだせず、A1に声を上げる。

「終わったぜ!」
「了!解!!」

 叩きつけた巨体にとどめを刺し、A1が武器を仕舞う。
 全身緑の巨体はその体をアベリアの花々に変えていた。恐らく侵食性は無くなっている筈だが、それを確認する手段はない。その背に腰を下ろしたA1にアサルトライフルを投げて寄越す。防護服を着直し、防刃ジョッキに身を包んだ相棒は、その代わりの様にマガジンを投げた。

「大丈夫か?液体浴びてないか?」
「バーカ。そんなヘマする訳ないだろ?」

  快く受け取り、装填。
 
「よくよく考えてみればよ。やっぱこれ使わなくってもイケたくね?」
「それで行けなかった場合考えてみなよ。多少の危険よりも実効性でしょ?」
「それもそうだな。何より、やっぱこっちの方が性に合うわ」
「やっぱ多少は肉弾戦しなきゃね」

 反省を程々に、死屍累々へと体を向ければ先程の少女が壁を背に震えていた。
 無理も無い。この惨事をまじかに見て平気な人間の様には見えないし、連中の様に何かに支配されている様子も無い。つまるところ、先程の連中は紙片を奪った人間に対しての防衛装置の様なものだろう。何故、そうなったかを理解するには情報が足りないが。

 アベリアの花壇となった死体の上を降り、A1の視線の先にある幼気な子供を見る。

「で、問題は……だ」

 彼女から目を逸らし、天井を仰ぐ。

「彼女、どうするかだね」
「……どう思う?」
「感染はしているだろうね。__でも、他の個体とは違う。こちらに襲ってくる様子は無かった。あの檻の影響は理性を保たせる効果があるんだろうけど、ね……」

 少なくとも植物人間は、あの時点では理性を失っていなかった。 
 彼女はこの哀れな被害者達と同様に

「__推測でも構わないぜ?」
「おそらく彼女は、この実験における成功例だろう」

 この場所で何が起きたのかは知る由も無いが、彼らが実験にさらされている事だけは確かだ。それはあの魔術書に関連する者である事は推測が出来るが、具体的な実験は資料を読み取らなければ分からない。

「どんな実験をしていたんだよ。こんな所で」
「植物主義者の本を、何故彼らが所持していたのか。主力隊が回収した本は、魔術刻印が図書館所有の物と一致した。だから盗まれた本の一つだという事は変わらない。だけどね、A2.魔術本ってのは複製に時間がかかる物なんだ。物理的にも魔術的にもね」

 しかし、魔術書は量産されている。
 少なくとも、無関係というには混ざりすぎているだろう。

「ただの元遊牧民族が、紙片の一片とは言え複製出来るものではない………と」
「この国が魔術に対して高度に発展しているとは聞いたことが無い。__だけども、ね。国の信仰が植物に近しい物だって事も事実なんだ。それに此処は魔術道具の元になる材料を生産する上でも重要な場所だし。魔術全般には疎くても、そういったモノを作る技術はある」
「__お前の考えている事、当てていいか?」
「どうぞ?」
「この国が、植物主義者だと?」
「少なくとも関係者には、その技術を持っている人間がいるって事だよ。君はロクに見ても無いだろうけど、此処に来るまでの内装は全て植物に関した装飾品だ。その中にはあの魔術書に記載されたものと類似するものが数種類存在していた。
 ”そっち”の造詣が深い人間が書いたんだろうね」

 造詣が深い人間が植物人間だろうとも、この悲劇を国単位で行っている事は確かな事だ。
 余りにも長い静寂が充ち、それに耐えかねた様にA1が言葉を口にする。












「彼女は多分、その信仰的意志が形になった存在って訳だ」

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