調律協定~王女、司書になる~

四季の二乗

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緑との戦闘

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 その頃。
 先行隊であるアベリアは、鍵付き扉を発見し開け地下室へ向かおうとしていた。
 騒がしくなる前に扉を閉める。客人はこの国の外交官であるらしく、薬の影響で夢の中だ。
 
「鍵を使用した。問題なく開いたよ」
「で?一つ質問なんだけどよ」

 使い終わったカギは捨てる様に、無造作に男の体を引きずるA1。
 その場での放置が正しいだろと眉を顰める相方に、何時もの調子で彼は答える

「何?A2」
「これって、閉めたら出られない扉じゃないよな」
「その点は安心しなよ。鍵があるなら出入り自由」
「__カギはこのおっさんだろ?」
「なので、此処に放置って事。1時間ぐらいは夢の中だから、このままにしとくよ?」

 足でつつくように男を指したA1に、異論はないと相方は答えた。

「起きるかもしれんぞ?」
「縄在ります?」
「ワイヤーならあるが?」
「何でそんな物持ってきてるんですかねぇ」
「俺の趣味」

 そんなジョークを飛ばしつつ、一行は先へと進む。
 目論見通り地下には光源の類が一切ない。あるのは階段横に設置されているロウ程度で、付近を照らすには十分であるだろうが、隠密任務には適さないだろう。素直にヘルメットに備え付けてあるナイトビジョンを装備し、光源無き暗闇の世界で先を見据える。
 下る度に埃は舞わない為、手入れは欠かして居ないようだ。それは頻繁にこの場所が使われている事であり、どの様な用途で使われているのは想像に難くない。

『A1,2。状況を』
「扉内へ潜入。報告の通り、地下に繋がっているようです。石段が続いているので、そのまま降りてみます」
「A2だ。湿度は地上より高いくらい、温度も少し高いな。姫様の言っていた腐臭もする。連中、ため込んだ化け物は教会だけじゃなかったようだぞ。人型の可能性ありだ。この奥にも居そうだ」

 異様な瘴気が漂う地下。
 その先に居る存在に、少し期待をしながらも慎重に降りていく。降りる度に臭気は酷くなるが、フィルター越しのガスマスクは怪訝な臭い程度に空気を洗浄してくれる。しかしどうにも暑苦しい熱気だけは遮断しない。防護服越しに汗が滴る。

『光源は大丈夫か?』
「手元の装備で十分ですが、如何せん奥まで続いていますね。通信にも少しノイズが走ってます」
「どうやら頻繁に訪れているらしい。ロウは新しいものがいくつか見える」

 周囲の状況をできるだけ情報化し、先へと足を進む。先程の男を置いていったせいか、身軽に階段を下りる事が出きる。一段、二段飛ばしをこの小さな体でやれば丸毛転げ落ちるかのような速度になる。しかし彼らの標準はブレず、唯前を見据えていた。

『了解。有事の際は専用装備の使用を許可する』
「言質取ったよ」
「暴れていいって事だよな?」

 少し溜息の後に、RM1があきれたように答えた。
 それは事実上。駄犬のリードを外す様な言葉だ。

『ビュッフェに遠慮も形式もいらん。好きなだけ獲れ』

 その言葉に口笛を吹くA1。
 感嘆の声を呟くA2。

「だ、そうだけど?」
「んじゃ、これからは暴れていいって事だろ?」

 無線を切ればおしゃべりが止まらない。
 これから先見つけた脅威に対して、出来る限り全てを攻撃できる権利を彼らは得た。水を得た魚の様に、彼らは意気揚々と階段を爆走する。出来るだけ静かに、されど緩やかではなく。波のような動きで全て知覚しながら。

「A3の分も残しとかなきゃかな。ストレス発散させたいよね?」
「いや、どう見たって勝手にやるだろ。あいつ」

 脱兎の勢いで階段を下り切った彼らは、その光景に目を奪われた。
 先程までの威勢は何処やら、階段を下り切りSRを構えたものの、その動きは突如として固まる。それは敵の攻撃でも何かしらのトラップでもなく、ただ単純に其処に広がる光景のせいだった。

「えっと……」
『どうした?』

 何段か数えるのも億劫な階段を下り切ると、見えてきたのは講堂のような場所だった。
 しかし、異様さはあった。

 其処には大小揃えられた檻があった。その中にはどこか交戦した事がある植物人間と、それによく似た怪物が大人しく檻に入っていた。彼らはこちらを見ると牢を叩き、助けてくれと懇願する。意思疎通はあるようだ。敵対的には見えない。
 その内男児や女児も幾人か含まれており、部屋の様相から実験用施設として運用されていたのだろう。誰もが化け物共と似ている緑色の肌を有している。
 近づくのは得策ではないと嫌でも分かるだろう。

「檻、ですね。半円形に檻があります。中には、人型が数体とボスキャラです。人型は知性がある模様。どうしますか?」
『意識がある個体で敵意が無ければ攻撃するな。__それと、ボスキャラ?』
「十メートルくらいはあるんじゃないですかね?手持ちの火器では、対応出来ないかもしれません。爆弾で吹き飛ばせばどうにかなるとは思いますけど、多分地下崩しちゃいます。生き埋めですね」

 ある程度整理されているとはいえ、この辺りの地盤も加味して言えば刺激を与えたくないのが本音だ。
 小火器による攻撃ならともかく、爆発物系では天井を潰し生き埋めになる可能性もある。それだけは何としても避けたい話だ。

 命令の通りなら、意思疎通できる個体とは接触を避け非検体として本部へと持ち帰るのがベストなのだろうが。この際言う。アベリア小隊は、殲滅力と囮を使用した機密書類の回収を得意とした部隊だ。敵兵の一人や二人を拘束するのと、化け物となった人間を運搬する能力は無い。

 解放された場合、この数十のゾンビに囲まれる可能性が高く。そんなリスクを冒す事は出来ない。

『出来る限り、爆発物は使うなよ。回収品はあったか?』
「机の上に。……なんかこれ、トラップの匂いがプンプンするんですけど」
『回収しろ。妨害が出てきた場合は、それを撃退せよ』

 A1が机の上に置かれた資料を読み進め、A2がそれを支援する。
 フラスコやあらゆる実験器具が置かれた状況の中で、如何やら紙片を使った実験をしている事が分かった頃。廊下に近い紙片を調べていたA1の声が上がる。

 その紙片は壁にめり込むように張られており、剥がすだけでも労力のいる作業になりそうだった。主に精神面的に。出来る限り傷つけないように扱うのは、何かを壊すよりも難しい。

「ちなみにどんな?」
「回収したら、檻が上がるタイプ」
「成程」

 剥がした瞬間、化け物が出てきて大惨事。
 此処で俺達が抑えなければ、この国が亡びるかもしれない。まあ、コントロール権は向こうが抑えているから最悪の事態にならないとは思うが。

 __ならないよな?

 何て考えながら、ボスキャラ。もとい、巨大化異形体”の元へと足を運ぶ。
 近くで見た異常にその姿は強大で、空を仰ぎ見る程の巨体は憧れすら抱く程だった。まあ、その姿になったと事で何をする訳でも無いし、小さいなりの利点を知っている身としては数日程度で飽きる事は分かるが。それでも壮観な姿は男心をくすぐらせる。

「__わぉ」
「__思った以上にでかくね?」

 隣の相棒もそう思ったのか、仰ぎ見るその眼は少年の様なものだった。

「通常体が数十体、ボスキャラ1。専用装備を使用する」

 しばらくして仕事を思い出した俺達は、自身の状況と今まで集めた情報を言伝しようと通信を試みる。
 しかし、地下という事もあり繋がりそうにない。通信は諦め、独自の判断で動く事にする。

「……繋がらないね」
「って事は、現地の判断でいいだろ?」
「そう言う事になるかな?」

 この巨体をどう倒すか?
 幸い、巨体は此方を眺めるだけで動く気配はない。この紙片で扉を押さえている限り無害ならば、少ない時間ながらも考えを巡らす事は出来る。

「燃やしたら?」
「酸欠になって、死ぬ可能性がある。俺らが」
「縮める?」
「触ったら、俺達がアウトだな」

 そして、結論は一つしかない。
 余りにも俺たち好みの方法だ。

「なら、使いますか」
「どっちが使う?」
「どっちでもいいけどよ。今日の気分は銃かな?」

 その時、その意味を知ったのか子供の目がこちらを見ていたような気がした。
 余りにもやりずらい。こういうのは苦手だ。

「目には目にを。植物には植物を、ってね」

 それは気のせいだと目を伏せ、目の前の大敵だけに目線を上げる。上半身の防護服を大雑把に脱いだ相棒が、湿気に対して文句を垂れる。

 そして、大雑把にその紙を剥がした。
 開け放たれた扉。先程までの理性を感じない植物人間の波が襲い掛かるようにうねる。対峙する隣人が実に嬉しそうに笑い、やる気の失せた俺は照準を向ける。

「んじゃあ、まあ。やらしてもらいますと」
「がんばれ、ファイトー」
「もっと、やる気ある応援ってないですか?」
「がんばれ、ダーリン♡」
「後で殴る!」

 前方。2体の植物人間が、A1に襲い掛かる。
 ライフルを捨てた狩人は、少しだけ言葉を紡ぐ。

 その瞬間。
 掌を起点として出現した木製の棒が、俊敏な小さな体の弾頭となる。

強運樹アベリア・ダフニー

 身の丈以上に不釣り合いな”槍に近しい武具”は、その破壊力を示し頭に詰まった内容物を地面に撒き散らした。
 そして、それを糧とするかのようにアベリアの草木が生やす。
 砕かれた植物共も比例し、頭部さえも非異常性のアベリアに彼らは置き換わっていく。まるで己が自生する場所だとでも誇示するかのように植物が植物を殺して行く。

 知識があるのか、身動きを止めた彼らにA1は伝えた。



「じゃ、撲殺を始めようか」



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