調律協定~王女、司書になる~

四季の二乗

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結露との闘い

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「彼女は連行しよう。少なくとも、此処に置いていけば面倒事に巻き込まれる筈だ」
「目の前で同じ境遇の奴ら皆殺しにしちまったけどよ」
「それでも来てもらうしかないさ。何せ、人を植物に変えようとする人間がまともな訳がない。そんな人間に任せるよりはいいんじゃないか?」

 彼女は被害者だ。
 そう付け加えたA1の聲に頭を掻きながら肯定し、俺は彼女へと手を伸ばした。

「あー。大丈夫かい?お嬢さん」
「__っ!伏せろ馬鹿!!」

 直後、牢の中から巨大な幹が手を伸ばす。
 すんでの所でAIが庇い、その横を巨大な質量が通り過ぎた。

 転がる体をどうにか止め、顔を上げれば無事な相棒の姿が見える。

「おい、女性難がひどいのはこっちだろ?」
「どうやら彼女は君に惚れているみたいだけど?」
「そうらしいな」

 その眼は、此方を向いていた。
 先程の牢から溢れるように幹が広がる。それら少女を囲むように展開し、植物は彼女の意思に従う様に佇んでいる。

「即死攻撃に気を付けなよ。援護は?」
「流石にくれ」
「了解。プラン”蜜”で行くよ!!」

 落とされた魔術書を彼女が拾うと、その恨みを籠った鋭い殺意を此方に向けその小さな手を伸ばす。幹の一つから小枝が伸び、それが新たな幹となって此方へと手を伸ばした。

「やっぱりか!魔法使い!!」

 瞬時の判断で右へと飛べば、先程いた場所を通過する緑葉が見えた。生い茂った巨大質量は触っただけでも無事では済まない事を安易に分からせる。
 と、お楽しみ中に割り込む声が聞こえる。

『繋がったか。地下の状況は?』

 それは、先程通信が途絶えたRM1だ。

「RM1へ。少女一名を救出。__するつもりだったけど、魔法使い化した。題名は”緑の売人”。目標を奪われ使用中。能力は未明。植物人間とは少し違う。職種の様に幹を操る能力の様だ」
『バックアップをすぐに送る。現状の維持は困難か?』
「いらない。僕らを誰だと思ってるの?」

 これは実力の誇張ではなく、現場の判断だ。
 植物を振りかざす相手は、多人数であればあるほど不利な可能性がある。何せ範囲攻撃に事欠かさない。振り払うだけで被害が出るのは目に見えている。
 火力よりも近接戦闘で分からせる。それは誰でもない俺達の得意分野だ。

「無敵の第四小隊だぜ?なめんな」
「此方も切り札を使うよ。許可を」
『承認する。貪り食え』

 ビュッフェタイムが、解禁された。

「「了解」」

 上半身の防護服を脱ぎ、切り札である短編集を取り出す。
 この世界の名作短編集の一つ。しかして、それは魔術書でもある。

 それは部隊名にも関係が深い名前の花。

「短編集”The Missing Four”一作目”スイカズラ”」
「行くぜ!!」

 取り出した手帳を固定し、魔法として定着させる。
 書跡自体が魔力となり、媒体となり。切り札となる。それこそが魔術書の力であり、俺達の最大の切り札だ。
 スイカズラは全四作の短編小説。
 四人の主人公の人生になぞらえた能力を発揮し、持ち主に力を与える。第一作である”スイカズラ”は触れた相手の水分を奪い、発散させる能力を持つ。

 取り出した強運樹で襲い掛かる幹を弾く。
 勢い余った植物の暴力が壁に激突し、地下室を揺らす。それを土台に、本体である少女へと切っ先が迫る。幹がそれを防ぎ、新たな幹が生成され此方へと向かう。

 二度目の攻撃が足横を掠める。
 靴底でそれを防げば、波打つ鞭の如く2撃目が襲う。このままではサンドイッチになるが、忘れてもらっては困る。こちらは1vs1ではなく、1vs2だ。
 根元からそれは断絶された。__巨大な一本の幹が崩れて生気を失う。
 少女へと近づいたA1は、伸び切った幹の水分を蒸発させながら渾身の一撃を叩きこむ。しかし、待機していた幹がそれを拒み、アベリアの花を咲かせるだけだ。
 舌打ちと共に近距離戦へと移行した相棒だが、それを拒むように今度はそちらへと幹を伸ばす。投擲した強運樹アベリア・ダフニーの先端が、今にも襲い掛かろうとした幹を破砕し、その断面を花で覆った。

 減らない脅威へこちらも舌打ちをしたくなるが、相棒は思案を続ける。

「流石に鬱陶しいな、タイマン装備だと分が悪いぜ?」
「枯れさせても意味がないようだ。彼女から本を奪うってのも、現実味は無いね」

 いくら蒸発させても尽きる事がない植物共に嫌気をさす。
 この密閉空間の中、ある程度蒸発させたとしても飽和して水に戻ることは承知の上だが、それでも尽きる事の無い植物んぼ軍勢はどうしようもない。こちらの手数よりも相手の手数の方が上だろう…。いや、何かがおかしい?

「地面枯れるまで殴り合う?」
「ってか、さっきから水分奪っているのに枯れないぞ?」

 こいつは植物を急成長させている。
 しかし、エネルギー源が本であるとして、莫大な水分は何処から出る?あの植物自体に水はある。それを補給する何かが必要だ。
 __此処は最初から、蒸し暑かった。
 
「__地下水か」
「無限に殴り合う事になるって?」

 おそらく尽きる事は無い水分と、莫大なエネルギーで急成長させ植物を操っている。
 このまま水分を搾り取っても埒が明かないのはその為だ。

「__こいつ、地下水を摂取できる範囲は限られている」
「不意打ちは無い?」
「多分ね。さっきの牢のあたりからしか植物が沸いてこない。つまり、奴らの動ける範囲は限定的だ」
「んじゃ、二作目で終わらせる」

 固定した魔術書のページを進ませ、二人目の詩を固定。

「短編集二作目”金銀花きんぎんか”」
「おらっ!!」

 二作目”金銀花”。
 捕縛にもってこいのこの能力は、硬質化した金属に似た植物が対象を捕縛しその自由を奪う。対象を変化させる能力で無い以上、拘束されればその幹が使えなくなる。
 
「流石に、拘束されればどうにも出来ないでしょ」
「自力で触手を自切出来ない。そして!!」

 襲い掛かる幹を弾き、躱す。
 それが黄金の花を壊そうと標的を向けたとしても、肉薄した俺をどうしようもない。

 触手を増やす事は出来ても、操っている物が健全である場合新しい触手を操る事は出来ない。片方に気を取られている隙に別な幹で襲わなかったのがその証拠だ。触手は、切りおとされたり、他の物に変えられたりされた場合のみ新たに操る事が出来る。
 だから、現状の触手のまま結晶に拘束されれば彼女が操れるものは一つに絞られる。

「パターンが単純すぎて不意打ちが無い」

 だから、こうして拘束される。
 彼女はその触手を両手の延長だと思って使っている。蚊を叩くのと同じ扱いで触手を使っているに過ぎない。だからこそ、懐に入ってしまえば、彼女は叩く事が難しくなる。
 そして、間に合わないからこその防御も、固められ動けなくなった腕が担当するはずだったそれが為に遅れる。

「ついでに、操れる触手の量は多くて2本程度。手の感覚に頼っているからかな?それ以上の触手を動かす事は出来ない」

 そんな付け焼刃では。

「最期に、だ」

 魔法だろうが、奇跡だろうが。
 俺達には勝てない。






「プロとアマチュアじゃあ、プロが勝つ」










 幹の下敷きとなった少女を掘り起こし、その小さな体を背負った。
 何も価値が無いとA1は言うが、分かっていてもやるせない思いはある。此奴が何を重いあの場所にいたのか、どんな心境で魔術本を使ったのか。俺には他人の気持ちなど理解できないが。

「少女を確保した。これから護送する」

 そんな取って付けた理由に、相棒は仕方がないと呆れる。
 
「任務完了。これより、両名帰還する。外の様子はどうだ?」
「A3が交戦中。撤退まで援護している」
「了解、撤退行動に入る」


 蒸し暑い防護服に嫌気をさしながら、地上へと足を運んだ。


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