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朱色を視しては一人待つ
朱色を視しては一人待つ
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祝日になれば、温泉街から迷い込んだ観光客等で雑多な足音を賑わせる商店街の通りを歩いていると、知り合いと目が合った。
七井欠如。自称僕っ子の現役高校生で、名護猫雪探偵が経営する老猫探偵事務所においてのアルバイトだ。そして、遺憾ながら私の後輩でもある。
”猫のたまり場”と別称が付けられたその場所は、魑魅魍魎、曰く付きの物共を専門とした探偵事務所だ。
現在、自由奔放な探偵が家主を務める探偵事務所は、家主の不在を理由にその暖簾を下ろしている。それ故、普段探偵の代わりに書類仕事に追われる私にも休暇が生まれた。
物理的にも交通網的にも、利便性という言葉が壊死した片田舎住まいの私は、仕事以外でも買い物の為にこの街へ足を運ぶ必要がある。
日に十本あるかどうかも分からない路線バスに揺られながら着いたこの街では、田舎特有の閑散とした寂しさとは裏腹に、人の喧騒が楽しめる。
__如何せん私の趣味ではないにしろ、ね。
さて、そんな折。
買い物を済ませた私の眼前には七井後輩の姿。
七井後輩はコーヒーを入れるのを得意としておりその知識は深く思慮深い性格だ。私の書類仕事に対してもどこかの大猫とは違い積極的に手を入れてくれる優秀な後輩である。
その実力は信頼に値するだろう。
しかして、名護探偵と同様に好奇心が強い。面倒事に対して”待て”が苦手だ。
「__あっ」
その言葉は、私の言葉になるべきだ。
冬場の寒さの片鱗が見える只今の気温は十度を下回る。そんな中でも活発で元気で此方の心情を読もうとしない後輩はその爛々とした瞳を近づけた。少しあどけなさを残した少女の顔立ちは、何処か知り合いを連想出せる。
「先輩、どうしちゃったんですか?今日は休みでは?」
「買い物だよ。日用品」
「__ほう、ほうほうほう。その様子だと、この後は暇の様ですね」
わざとらしく目を細める。
冬も近づいた故に、少し厚めのコートとマフラーと言った冬装備の私。買い物袋をぶら下げていれば、買い出しの帰り道である事は明白だろう。
その癖、面倒事に対しての拒否感からくる私の表情を読まない当たり、かの探偵同様重症の様だ。
「ところで。先輩は、この後暇でしょうか?」
予想通りのその言葉だ。
明白に、巻き込まれると理解出来る。
「少し、肝試しに行きませんか?」
快気夕町
温泉街と、多少の文化的建築物が印象的な街。
江戸、大正から続く蔵や木造建築物の中に、現代建築が細々とながら侵食していく通りを進めば、一つの学校が存在する。
数十年前は著名な女子高として名高い四宮高校。住宅地の一角を借りたその高校は、前述の通り今は機能しない元女学校だ。
廃校に至った理由は様々だが、廃校以前から自殺や校内暴力が絶えなかったらしい。それ故、心霊スポットとしてその手のマニアの間では有名だという。
「実は、先生からとある物を回収してくれと頼まれまして」
こんな場所ではあれだから。
そう言って連れられた先は、猫のたまり場。絶賛休暇中だというのに仕事場に連れられた私の気持ちは言われるまでも無い。
自慢の一品である角砂糖五個入の”七井スペシャル”に口を付け、外の肌寒さとか屑消された室内にありがたみを感じながら、これまでの事を踏まえ思慮に入った。
「とある物?」
後輩曰く、かの家主である名護(なご)猫雪(ねこゆき)探偵直々の依頼であるらしい。
七井家は曰くつきの物品を管理する役どころを国から委託される専門家だ。長女である彼女自身もその役割に準じており、名護探偵が解決した事件に関する遺品等も時折取り扱っている。
助手として一度や二度関わった事があるが、贔屓にしている業者とは違う業者な為、私が彼女の事情を知ったのはごく最近だ。
私の役割が殆どがデスクワークという事もあり、私が異質に関わるのは己自身の不幸で巻き込まれる形が多い。無論探偵の助手として関わる事も無い訳ではないが、彼女らの仕事に関わる機会が無いのは事実だ。
ともかく、名護探偵事務所としての七井後輩は私と同じ休みであるのだが、七井家の長女として名護探偵に頼まれた仕事がある模様。
高校二年生となる七井後輩としては、受験勉強やらに精を出す季節だろうに……。面倒事を重ねて大丈夫なのだろうか?と他人事を溢してしまう。
「あ。大丈夫ですよ?私此処に就職予定なので」
さいですか。
一つ咳を置いて、話を戻す。
「物、というか。……先輩、幽霊って信じますか?」
幽霊。所謂、ゴーストの類か。
日本と諸外国ではその印象が違うだろうが、大抵の場合死んだ人間の成れの果てというのは共通点だろう。
足が無いやら。透けているやら。違いを含めれば議論になる為此処は割愛。
大概はこの世の恨みつらみを残した物が、この世の未練の為に現世へ留まるのが通説である。
紛い物、異品、淀んだ品。
そんな異常な事件や物品に関わる物としては、その存在を否定する事は出来ない。何せ魑魅魍魎をこの目で見たのだ。現実の中に科学で証明できないモノがある事を自分自身が肯定している。
だけど、私は生憎。
「いるんじゃないかな?」
「確信は出来ませんか?」
「幽霊は見た事が無いからね」
幽霊を肯定する事も出来ない。
それ以外なら、嫌と言う程見てきた身としても。
「先輩も知っているとは思いますが、四宮高校は二十年前に廃校になった元女子高です。特徴としましては当時県内一を誇った校庭と、比較的新しい校舎ですね。建てられたのは三十二年前。著名な人も卒業したみたいですよ?」
「あまり詳しくは無いよ」
「要するに、ブランド学校って奴ですね」
そんな場所で、何故自殺やら暴力事件が多発したのかは理解できない。
……まあ、どんな場所にも事情はあるだろう。それも二十年以上前の話だ。どんな思いと情勢が含まれていようと過去に過ぎない。
「自殺事件が取り上げられたのは、廃校になる三年前でした」
とある一生徒が、屋上から身を投げた。
それを皮切りに、計六回の事件が立て続けに起た。それを理由に、周囲の反対の声に押される形でその学校は閉校したそうだ。
現在は完全な形で封鎖され、七井家と同じく専門家である四ツ木家により土地自体の封鎖を決行。侵入者を防ぐための管理に勤しんでいるとの事だ。
「という訳で」
「どういう訳で? というか、其れって私は行ってはいけないのでは?」
「先輩も専門家ですから、一人で突っ込むより二人で玉砕しましょうよー」
専門家とは言っても、デスクワークを中心としたほぼ一般人だ。
舐めるな後輩。か弱い女子高生以上にこちらはか弱い。
話によれば中の様子は分からない上に、目的の異品は屋上にあるとの事。これを肝試しというのだから、後輩の方はさぞかしそういった類になれているだろう。
「……先輩は可愛い後輩が死んでもいいんですか?」
__寂しそうにこっちを見るな。
……長い、長い溜息を吐きたくなる。
仕事だというのは嘘ではない。そして、こうして先輩を頼ろうとする心情にも、嘘は見られない。
こんな事で後輩を失った私は私を許す事は無いだろう。あくまでも数週間を共にした他人だとしても、後輩である事には変わりはない。私が言うのも何だが、他人に無関心な冷徹な人間ではないから。
「__帰りのバスまでには間に合わせるよ」
結局、折れるのは私の役割だ。
それは誰に対してもそうだった。だからこれ以上の会話よりも、早く終わらせてしまおうと考えた。
生憎足が速い物は事務所の冷蔵庫に保管できた。時刻を確認すれば、午後の一時を指ししめていた。
私の一言を聞いた後輩が花のような笑顔を向ける反面、私はこれでよかったと言い聞かせながら支度を始める。
私は今日も心臓を握りしめ、小さく諦めるのだ。
七井欠如。自称僕っ子の現役高校生で、名護猫雪探偵が経営する老猫探偵事務所においてのアルバイトだ。そして、遺憾ながら私の後輩でもある。
”猫のたまり場”と別称が付けられたその場所は、魑魅魍魎、曰く付きの物共を専門とした探偵事務所だ。
現在、自由奔放な探偵が家主を務める探偵事務所は、家主の不在を理由にその暖簾を下ろしている。それ故、普段探偵の代わりに書類仕事に追われる私にも休暇が生まれた。
物理的にも交通網的にも、利便性という言葉が壊死した片田舎住まいの私は、仕事以外でも買い物の為にこの街へ足を運ぶ必要がある。
日に十本あるかどうかも分からない路線バスに揺られながら着いたこの街では、田舎特有の閑散とした寂しさとは裏腹に、人の喧騒が楽しめる。
__如何せん私の趣味ではないにしろ、ね。
さて、そんな折。
買い物を済ませた私の眼前には七井後輩の姿。
七井後輩はコーヒーを入れるのを得意としておりその知識は深く思慮深い性格だ。私の書類仕事に対してもどこかの大猫とは違い積極的に手を入れてくれる優秀な後輩である。
その実力は信頼に値するだろう。
しかして、名護探偵と同様に好奇心が強い。面倒事に対して”待て”が苦手だ。
「__あっ」
その言葉は、私の言葉になるべきだ。
冬場の寒さの片鱗が見える只今の気温は十度を下回る。そんな中でも活発で元気で此方の心情を読もうとしない後輩はその爛々とした瞳を近づけた。少しあどけなさを残した少女の顔立ちは、何処か知り合いを連想出せる。
「先輩、どうしちゃったんですか?今日は休みでは?」
「買い物だよ。日用品」
「__ほう、ほうほうほう。その様子だと、この後は暇の様ですね」
わざとらしく目を細める。
冬も近づいた故に、少し厚めのコートとマフラーと言った冬装備の私。買い物袋をぶら下げていれば、買い出しの帰り道である事は明白だろう。
その癖、面倒事に対しての拒否感からくる私の表情を読まない当たり、かの探偵同様重症の様だ。
「ところで。先輩は、この後暇でしょうか?」
予想通りのその言葉だ。
明白に、巻き込まれると理解出来る。
「少し、肝試しに行きませんか?」
快気夕町
温泉街と、多少の文化的建築物が印象的な街。
江戸、大正から続く蔵や木造建築物の中に、現代建築が細々とながら侵食していく通りを進めば、一つの学校が存在する。
数十年前は著名な女子高として名高い四宮高校。住宅地の一角を借りたその高校は、前述の通り今は機能しない元女学校だ。
廃校に至った理由は様々だが、廃校以前から自殺や校内暴力が絶えなかったらしい。それ故、心霊スポットとしてその手のマニアの間では有名だという。
「実は、先生からとある物を回収してくれと頼まれまして」
こんな場所ではあれだから。
そう言って連れられた先は、猫のたまり場。絶賛休暇中だというのに仕事場に連れられた私の気持ちは言われるまでも無い。
自慢の一品である角砂糖五個入の”七井スペシャル”に口を付け、外の肌寒さとか屑消された室内にありがたみを感じながら、これまでの事を踏まえ思慮に入った。
「とある物?」
後輩曰く、かの家主である名護(なご)猫雪(ねこゆき)探偵直々の依頼であるらしい。
七井家は曰くつきの物品を管理する役どころを国から委託される専門家だ。長女である彼女自身もその役割に準じており、名護探偵が解決した事件に関する遺品等も時折取り扱っている。
助手として一度や二度関わった事があるが、贔屓にしている業者とは違う業者な為、私が彼女の事情を知ったのはごく最近だ。
私の役割が殆どがデスクワークという事もあり、私が異質に関わるのは己自身の不幸で巻き込まれる形が多い。無論探偵の助手として関わる事も無い訳ではないが、彼女らの仕事に関わる機会が無いのは事実だ。
ともかく、名護探偵事務所としての七井後輩は私と同じ休みであるのだが、七井家の長女として名護探偵に頼まれた仕事がある模様。
高校二年生となる七井後輩としては、受験勉強やらに精を出す季節だろうに……。面倒事を重ねて大丈夫なのだろうか?と他人事を溢してしまう。
「あ。大丈夫ですよ?私此処に就職予定なので」
さいですか。
一つ咳を置いて、話を戻す。
「物、というか。……先輩、幽霊って信じますか?」
幽霊。所謂、ゴーストの類か。
日本と諸外国ではその印象が違うだろうが、大抵の場合死んだ人間の成れの果てというのは共通点だろう。
足が無いやら。透けているやら。違いを含めれば議論になる為此処は割愛。
大概はこの世の恨みつらみを残した物が、この世の未練の為に現世へ留まるのが通説である。
紛い物、異品、淀んだ品。
そんな異常な事件や物品に関わる物としては、その存在を否定する事は出来ない。何せ魑魅魍魎をこの目で見たのだ。現実の中に科学で証明できないモノがある事を自分自身が肯定している。
だけど、私は生憎。
「いるんじゃないかな?」
「確信は出来ませんか?」
「幽霊は見た事が無いからね」
幽霊を肯定する事も出来ない。
それ以外なら、嫌と言う程見てきた身としても。
「先輩も知っているとは思いますが、四宮高校は二十年前に廃校になった元女子高です。特徴としましては当時県内一を誇った校庭と、比較的新しい校舎ですね。建てられたのは三十二年前。著名な人も卒業したみたいですよ?」
「あまり詳しくは無いよ」
「要するに、ブランド学校って奴ですね」
そんな場所で、何故自殺やら暴力事件が多発したのかは理解できない。
……まあ、どんな場所にも事情はあるだろう。それも二十年以上前の話だ。どんな思いと情勢が含まれていようと過去に過ぎない。
「自殺事件が取り上げられたのは、廃校になる三年前でした」
とある一生徒が、屋上から身を投げた。
それを皮切りに、計六回の事件が立て続けに起た。それを理由に、周囲の反対の声に押される形でその学校は閉校したそうだ。
現在は完全な形で封鎖され、七井家と同じく専門家である四ツ木家により土地自体の封鎖を決行。侵入者を防ぐための管理に勤しんでいるとの事だ。
「という訳で」
「どういう訳で? というか、其れって私は行ってはいけないのでは?」
「先輩も専門家ですから、一人で突っ込むより二人で玉砕しましょうよー」
専門家とは言っても、デスクワークを中心としたほぼ一般人だ。
舐めるな後輩。か弱い女子高生以上にこちらはか弱い。
話によれば中の様子は分からない上に、目的の異品は屋上にあるとの事。これを肝試しというのだから、後輩の方はさぞかしそういった類になれているだろう。
「……先輩は可愛い後輩が死んでもいいんですか?」
__寂しそうにこっちを見るな。
……長い、長い溜息を吐きたくなる。
仕事だというのは嘘ではない。そして、こうして先輩を頼ろうとする心情にも、嘘は見られない。
こんな事で後輩を失った私は私を許す事は無いだろう。あくまでも数週間を共にした他人だとしても、後輩である事には変わりはない。私が言うのも何だが、他人に無関心な冷徹な人間ではないから。
「__帰りのバスまでには間に合わせるよ」
結局、折れるのは私の役割だ。
それは誰に対してもそうだった。だからこれ以上の会話よりも、早く終わらせてしまおうと考えた。
生憎足が速い物は事務所の冷蔵庫に保管できた。時刻を確認すれば、午後の一時を指ししめていた。
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