快気夕町の廃墟ガール

四季の二乗

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朱色を視しては一人待つ

朱色を視しては一人待つ2

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 通りを歩いていけば、表立った建築物が細々と消えていく。
 賑わいを見せていた観光資源から離れた為だろうか、喧騒も比例して大人しくなる。それに習う訳も無いだろうけど、後輩は忙しなく口を動かし話題作りに励んでいた。周囲から人々が家々へと急いでいるからか、十一月という事もあり、火が沈むのが早いせいか。人通りを無くした歩道を照らす街灯だけでは妙に寂しい。

「タブレットが普及すれば、図書館は無くなるのか?」

 何て、対立を煽るような話題から何気ない日常の会話まで。
 その種類はめまぐるしく、会話は途切れることを知らない。

「コレクター性を含めれば数百年は生き残るんじゃないか?」
「ふむふむ。先輩の言いたい事は分かりますよ。あれですね。人間は効率では生きていけないって奴です」

 デジタルとアナログの抗争は、古き良き時代から続く題材だろう。大概は、アナログが趣として時代に居座り、文化として続いていく事で決着が着く。これから先、その数が希薄化しようとその存在が無くなる事は無い。

「私も読書家として紙媒体の書籍を愛しておりますが、スマホの方がかさばらないんですよね。それに色々見れるし」

 生き残るかどうかの問題ではなく、どう生き残るか。
 この問題の終着点は、これに尽きる。

「それは場所にもよるだろ?君は図書館の中でスマホでも返すの?」
「つまり、”本は本棚に返すためにある”のだと?」

 図書館という場所は、大量のデータベースを補完する場所でありその全てを殆ど無料で閲覧できる唯一の場所だ。ネットの海は広大だとしても、その全てが無料で閲覧できる訳ではない。書籍は本屋と図書館の機能を含めて判断するべきだ。あの独特の紙片の香りが好きだと答える後輩は、物静かな物量で囲まれた書籍の雰囲気も愛していると聞いている。
 データを保存する箱にさえ価値があるのは、きっと書籍の価値に含まれるだろう。
 其れこそ、本棚へと返す行為は紙媒体しか持ち得ない。

「その行為自体に価値を持っている人間もいるんじゃない?私は知らないけど」
「先輩は他人行儀ですねぇ」
「別に読書家じゃないからね。私」

 此処まで行っては何だけど、私の趣味は。

「私は音楽鑑賞が趣味だけど、スマホ以外にCDとかは集めているし、律儀に確認をしながら元の場所に戻している人間だから。収集するのが趣味って程じゃないけど、重ね並べるだけで満たされる人間はいるでしょ?」

 故に、少しは分かるという話だ。
 コレクターの様に大々的に並べる訳ではないが、揃われたCDにもレコード盤にも部屋の雰囲気を作る価値がある。それ自体がインテリアになり、端末では無しえない雰囲気作りに貢献する。その為には毎日の清掃は欠かせないし、保つための労力を惜しまない。

「成程。それは思いませんでしたね。そうか、”本棚に返す”趣味ってのもあるのか」

 その行動と意味を簡潔にまとめるとするなら、こうだ。

「”繰り返し洗練された行動は、趣味と同義である”」
「先輩の名言ですか?」

 何処か迷言となった言葉に、後輩は答えた。
 その表情と言葉に、いくらかの揶揄いはあっただろう。

「いいえ。シャルルコフ・アウトロ・ビッチさんの名言です」
「何ですか?その微妙にロシアに居そうなフランス人は」
「フランス人要素シャルルしかないじゃん」

 と、くだらない話を続けていればお目当ての建物が見えてくる。
 四階建ての校舎は、傍目から見れば今でも威厳を保っている様で比較的新しい外観をしていた。それを取り囲む外壁は校舎を隠すように聳えているが、外観の一部は破損部分から覗き見れる。
 やはり、見る限り校庭の荒れ具合は散々たるものだが、後者の状態は悪くはない。群生した葦に囲まれてはいるが、外壁に傷は見られないし劣化した様子も無い。
 二十年の月日が経ったのだから保存状態は最悪だと思ったけれど、遠目から見る感じではそうでもない様だ。

「今回訪れる学園には、それはそれは立派な図書館があると聞いています」

 足を止めた私に気が付いてか゚、後輩もその先を見る。
 引っかかりを覚えた言葉に上げ足を取るつもりはないが確認の為に言葉を補足した。

「室と言えないくらい?」
「それは見てからのお楽しみとしましょう。その上で、図書館か図書室かを決めようではないですか」

「とはいっても、残っているのは本棚位でしょ?」
「いえいえ。実はこの学園。当時の備品がそのまま残っているんですよ」

 どれくらいの蔵書量を持っているかは知らないが、当時の図書室がそのまま残っているとしたら相当な蔵書量だろう。なのに、民間や図書館への寄付ではなくそのまま残しているのなら、その幽霊スポットとしての噂に起因する可能性が高い。
 幽霊屋敷は、下手に弄らない方がいいのだから。

「まるで、幽霊屋敷を保存しているかのようだ。__って顔ですね、先輩」
「呪いかな?」

 建物に対して危害を与えようとしたりして、工事の人間が逃げ返った等はこの業界ではよく聞く話だ。

「半分似たようなものですがね。実は、図書館には番人がいるんです」
「番人?」
「女学生の霊が出るそうです」

 図書館に幽霊、か。
 余程思い入れのある場所なのだろうか?

「図書館の幽霊ね」
「七不思議としては、少し凡庸ですかね」

 七不思議としては、幽霊は含まれないのでは?

「あまり聞かないけどね」
「それもそうです」

 七不思議の話題で花を咲かせていると、如何やら目的地に着いたようだ。
 表玄関には小屋の様なものがあり、一人の男性がこちらを見ていた。七井後輩を見れば会釈をし、私を見れば興味なさげに新聞へと目線を戻す。典型的な七井家の息がかかった者だろう。その程度では漣すら立たない丈夫な腹を持っている。
 余りにも顔に出ていたのかは知らないが、何時も通りの揶揄い癖を表情に張り付けた七井後輩が此方を覗き見る様に聞いてくる。

「意外ですね、先輩」
「何が?」
「ああいう反応されると、無視すると思ってました」

 まあ、彼女に事情がある事は少しばかり知っている。

「無視はしていますとも」

 それもそうですねと言いたげな怪しい視線が気になったが、言いかけた言葉を飲み込んで前へと進む。
 眼前には、手入れのされていない鉄格子の扉。
 後輩は手提げカバンからカギを取り出し、躊躇なくそれを開ける。

 重々しい扉の先には荒廃しきった学園の姿があった。
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